配当を増やす方針を掲げる企業を信用していいのか。ファイナルプランナーの藤原久敏さんは「配当金の方針についてあらかじめ宣言している会社は少なくないが、それはあくまで目標や目安であって変更される可能性がある。
それよりも確実なデータが証券会社のサイトや会社四季報などでチェックできる」という――。
※本稿は、藤原久敏『安心・安全の、一生もらえる「高配当株」投資』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
■配当金の支払実績で高配当株を選ぶ方法
配当金支払実績の見るべきポイントは、過去に減配(配当金が減らされること)や無配(配当金が支払われないこと)がなく、毎年きっちり、安定して配当金が支払われているかどうかです。以下に、A社とB社について、過去5年分の1株当たりの配当金支払実績を挙げました。
A社は毎年100円と安定していますが、B社は減配や無配の年もあり、かなりブレていますよね。だからといって、A社が引き続き安定して配当金を支払ってくれるという保証はありませんが、これまでの支払実績を見れば、今後も安定して支払われる可能性は高いと言えるでしょう。
少なくとも、B社が来年から安定配当となる可能性よりは高いはずです。配当目当ての投資としては、基本的には、A社のような銘柄を優先して選びたいものですね。
■配当支払実績は会社四季報などで確認する
配当金支払実績は、会社のIR資料や証券会社等のサイトなどで確認することができますが、会社四季報の【配当】欄でも簡単に確認することができます。たとえば、東洋紡の【配当】欄は以下のとおりです。
予想値も含めて、毎年安定して40円の配当金が支払われていることが分かりますね。なお、四季報の【配当】欄では、東洋紡のように年1回支払であれば、通常、過去4~5年分の支払実績が掲載されるのですが、年2回支払の場合は、過去2年分程度しか掲載されていません。

たとえば、セリアの【配当】欄は以下のとおりです。
現実には、多くの会社は年2回支払なので、過去5年程度の支払実績を知りたいときは(実際、それくらいの期間は知りたいものです)、会社四季報の【業績】欄も確認しましょう。
こちらには年間配当金額が掲載されていて、概ね過去5年分(+予想2年分)の実績が分かります。
■20年以上、増配を続ける「連続増配銘柄」もある
ところで、毎年安定して、一定の配当金額を支払い続けてくれることはもちろん嬉しいのですが、その配当金額が増えていくのであれば(増配)、もっと嬉しいですよね。しかも、毎年連続して増えてくれれば最高ではないでしょうか。
そして、そのような毎年連続して配当金が増えていく銘柄を「連続増配銘柄」と言い、その数は決して少なくはありません。それも2年、3年どころではなく、10年、20年以上連続して増配を続ける会社もあるのです。図表4に、長年増配を続ける、主な連続増配銘柄を挙げました。
■配当金と値上がりでダブルの利益が狙える
基本的には、増配は非常にポジティブな材料なので、その発表と同時に株価は即反応し、急上昇することが多いです。また、(業績好調といったサイン等から)増配の可能性が高まるにつれて、増配期待からじわじわ上昇していくといったケースも少なくありません。
いずれにせよ、増配を続けるような銘柄は、長い目で見れば、その(年々増えていく)配当金に加えて、株価の値上がりも大いに見込め、ダブルで美味しいと言えるでしょう。
もっとも、配当目当ての投資では、基本的には売却することはありませんが、それでも、保有銘柄の含み益がドンドン膨らめば、これは嬉しいことですよね。

増配の発表があっても、株価がまだ増配発表前の水準であれば、その配当利回りは上昇することになります。しかし、増配の発表があれば皆飛び付くでしょうから、株価はすぐに上昇し、結果、配当利回りはすぐに下がることになります。
たとえば株価100円で、1株当たり配当金2円の銘柄が、配当金4円に増配したとします。すると増配直後は、それまで2%だった配当利回りは4%に跳ね上がります。
そして、そんなポジティブな材料に市場は即反応し、株価はすぐに上昇することでしょう。かりに、株価200円まで上昇すれば、配当利回りは2%に下落し、元の水準に落ち着くことになるわけです。
そうやって、増配に伴って株価が上がれば、それは分子(配当金額)が上がっても分母(株価)も上がることとなるので、配当利回りはさほど上がらないわけですね。なので、増配を続けても、それに伴って株価も上昇していけば、配当利回りは意外と上がらないケースも多いのです。少し極端な例ではありますが、以下に、そのようなケースを示しました。
■自分自身の配当利回りはドンドン上がっていく
ただ、図表6の配当利回り2%は、配当金とともに上昇した株価で計算した数字であって、その上昇した株価で購入する人にとっての配当利回りです。一般に表記される利回りは、この数字ですよね。
しかし、増配前から(株価上昇前から)保有していた人にとっての配当利回りは、もっと高い水準となります。
なぜなら、その人にとっての配当利回りは、(増配に伴って上昇した株価ではなく)その人が購入したときの株価で計算するのですから。
先ほどの事例だと、配当金2円のとき(株価100円のとき)に買っていた人にとっては、配当金が4円に増配されれば、その人にとっての配当利回りは4%となるわけです。増配に伴って株価が上昇しても、自身の配当利回りを計算するときの株価(自身の買値)は変わらないですからね。
さらに言えば、その後、増配が続けば、自身の配当利回りはドンドン上がっていくことになるのです。
図表7のように、増配を続ける銘柄を、増配前の(まだ値上がりしていない)安い株価で仕込むことができれば、自身にとっての配当利回りは相当高い水準となり、10%を超えるようなケースも決して珍しくはありません。そのような銘柄は、まさに「自分だけの」お宝銘柄とも言えるでしょう。
実際、連続増配銘柄としても有名なみずほリースを、10年程前に400円程度で買った人にとっては、現在の配当金額で計算すると、その配当利回りは10%を超える水準となっています。
■「累進配当」なら配当金が減らない
さて、そのような連続増配銘柄は非常に魅力的ですが、長期間にわたって「減配していない」銘柄も、大いに魅力的です。減配していないということは、配当金は維持、もしくは増配をしているわけですから、毎年連続ではないものの、その配当金は減ることなく増え続けていることになります。ですので、そのような銘柄は「隠れ連続増配銘柄」とも呼ばれます。
そして、そのような配当方針を累進配当と言います。連続増配のように、毎年増配をしなければいけないというプレッシャーがないわけで、ある意味、こちらの方が堅実な配当方針なのかもしれませんね。

実際、30年超にわたって累進配当を続けているような会社も少なからず存在しますし、また、この累進配当を公式に宣言している会社は近年増えてきています。ですので、この「増やしている」よりも「減らしていない」という視点も、配当支払実績を見るときの大切な視点の1つなのです。
■会社四季報の「増減配回数」で何が分かる?
さて、ここまで見てきた「連続増配銘柄」「累進配当」からも分かるように、配当金支払実績においては、過去にどの程度増配があったのか、また、減配や無配はなかったのか、を把握することが大きなポイントです。
そこで大いに参考になるのが、会社四季報の【増減配回数】欄です。この欄では、過去10期分もの増配・減配・据置・無配の回数が掲載されていて、一目で「どれだけの頻度で増配しているか」「減配や無配はないか」などを把握することができます。
たとえば、前出の東洋紡とセリアの【増減配回数】欄は以下のとおりです。
東洋紡の場合、据(据置)が9回と、ほぼ毎回一定の配当金額を保ちながらも、増(増配)も1回あるので嬉しいですね。そして、減(減配)と無(無配)の回数が0回というのは大きな安心材料と言えるでしょう。
セリアの場合、増8回と、かなりの頻度で増配をしていることが分かります。そして、減・無ともに0回なので、配当金は着々と増え続けていることも分かります。
■言っていることよりも、やっていることを見る
ところで、配当金の方針について、あらかじめ宣言(公表)している会社は少なくありません。その内容としては、「利益還元を重視し、安定した配当を行うことを基本とする」にように漠然としたものや、「配当性向50%を目標とする」「自己資本配当率3%を目途とする」のように明確な数値目標を掲げているものなど様々です。
もっとも最近では、後者のような数値目標が主流となっていますが。
ただ、いずれにせよ、そのような会社からの宣言は、あくまでも目標や目安であって、法的な縛りなどなく、状況が変われば変更されることも珍しくありません。もちろん、(とくに数値目標については)配当目当ての投資においては大いに参考にはなりますが、あまりにも信頼し過ぎると、痛い目に会うかもしれません。
とくに、株主優待を廃止するときの常套句でもある「今後は株主優待ではなく、配当金に力を入れる」は要注意です。これは株主優待を廃止するための、体のいい言い訳であるケースも多く、無条件に信じることは危険です。(本当は)業績悪化で株主優待を廃止する場合などは、むしろ、配当金も減らされることもありますので。
少し話は逸れるかもしれませんが、人となりを判断するときには「その人の言っていること」ではなく、「その人が実際にやっていること」を見ろ、といった言葉があります。すなわち、実際にやっていることが、その人の正体だということですね。
そしてこれは、会社を判断するときにも当てはまるのではないでしょうか? 実際にやっていること、それはまさに過去の配当金支払実績というわけです。
■配当金支払実績の確認は長期投資に欠かせない
ですので、そのような会社の宣言(公表)は決して鵜呑みにすることなく、あわせて、その配当金支払実績もしっかり確認しましょう。配当方針を公表し、そして、それに基づいた、長年の配当金支払実績があれば、それはまさに有言実行ですね。その場合、宣言と実績のダブルで信頼できる銘柄と言えるでしょう。

そして、配当金をしっかり支払っているという実績は、基本的には、安定した利益を上げ続けているという証でもあります。しかも増配頻度が高い、毎年増配を続けている(連続増配銘柄)、減配・無配が一切ないとなれば、かなり安定した利益体質とも言えるでしょう。
当然、そのような好業績銘柄を選ぶことは、長期投資における基本中の基本です。ですので、ここまで説明してきた配当金支払実績の確認は、高配当投資に限らず、長期投資における優良銘柄を見つけるための、ベースとなる手法でもあるのです。
■安定配当銘柄VS非安定配当銘柄
それでは最後に、配当金支払の安定した銘柄と、配当金支払のブレが大きい銘柄株について、それぞれ代表的な銘柄を1つずつ紹介しましょう。
安定配当株:三井住友フィナンシャルグループ(8316)
●株価 3461円

●配当利回り 3.93%
【増減配回数】増8 減0 据2 無0
【コメント】

◎3大メガバンクの一角。傘下に三井住友銀行、SMBC日興証券等がある。

◎配当方針である「累進配当および配当性向40%を維持する」との宣言とおり、長年減配はなく、配当性向も概ね40%で推移しており、安定して配当金は支払われている。配当利回りも高く、株価も大幅な上昇基調にある。

なお、三菱UFJやみずほも同様に、累進配当を宣言している。また、「ボトムライン収益の成長を通じて増配を実現していく」との宣言もあり、堅調な業績のもと、増配頻度も非常に高い。

◎金利上昇を追い風に、今後も堅調な業績が予想され、累進配当による安定的な配当金支払は継続すると思われる。
非安定配当株:マツダ(7261)
●株価 864.2円

●配当利回り 6.36%
【増減配回数】増6 減0 据3 無1
【コメント】

◎中堅自動車メーカーで、低燃費で動力性能高いエンジンに強み。

◎配当方針として「当期の業績等を勘案して決定し、安定的な配当の実現と着実な向上に努める」とするも、不安定な業績のもと、配当金支払も不安定(赤字の年は無配転落)。

◎そのような業績や配当金のブレに伴い、株価の変動も激しく、過去5年間で3倍程度に上昇するも、過去1年間では一気に半減。ちなみに10 年前の株価水準からは、3分の1程度の水準である。

◎無配転落からの復配、そして増配もあり、現在の配当利回りは6%超と非常に高いが、これは下落した株価による影響も大きいことに留意する必要がある。

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藤原 久敏(ふじわら・ひさとし)

ファイナンシャルプランナー

1977年大阪府大阪狭山市生まれ。大阪市立大学文学部哲学科卒業後、尼崎信用金庫を経て、2001年に藤原ファイナンシャルプランナー事務所開設。現在は、主に資産運用に関する講演・執筆等を精力的にこなす。また、大阪経済法科大学経済学部非常勤講師としてファイナンシャルプランニング講座を担当する。著書に『株、投資信託、FX、仮想通貨… ファイナンシャルプランナーが20年投資を続けてみたらこうなった』(彩図社)など。

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(ファイナンシャルプランナー 藤原 久敏)
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