※本稿は、下矢一良『ずるいPR術』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
■テレビに出るのは「難しくない」
皆さんが「あの人は一流だ」と思うのはどんなときでしょうか。著書をたくさん出している、テレビに何度も出ている、学歴や経歴がすばらしい、名の知れた会社の経営者である、などでしょうか。
では、あなたは「一流になりたい」と思いますか? 「なりたいと思ってもなれるわけがない」と、最初から諦めているのではないでしょうか。
最も簡単に世間に一流と認めさせる方法は「テレビ」に出ることです。「テレビで紹介されました」。そんな張り紙を、飲食店やお店で見たことがあるはずです。
テレビに出る=「一流の証」なのですが、テレビに出ること自体は、じつはそんなに難しいことではありません。
しかも、一度ならず何度も取り上げられることも十分可能です。
テレビ東京の局員として、長年、人気報道番組の制作に携わってきた私が言うのですから、間違いありません。
たとえばテレビのコメンテーターやエッセイスト、作家として活躍中の学者……。
■プロから認められなくても、テレビ出演は可能
作家を名乗りながら、どんな作品を書いているのかほとんどの人が知らず、調べると超マイナーな著作が数点あるだけ、という方も何人かいます。
もうひとつ例を挙げるなら、コロナ禍の最中にテレビの常連となっていた「専門家」です。当時は「感染症の専門家」が何人もテレビに登場し、新型コロナウイルスについてさかんに解説していました。もちろん、多くの専門家は見識を備えた方でしたが、なかには、私の目から見ると、本当に専門家なのか疑わしい方もいました。
たとえば某大学の教授は、医師免許を持っていない方でした。確かに医師免許を持っていなくても感染症の研究をすることはできるでしょうが、医師免許を持っている研究者と比べると、同業者の間での評価は一段落ちるでしょう。しかしながら、当時の視聴者のほぼすべてが「何度もテレビに出ているのだから、この人は一流の医師なのだろう」と思っていたはずです。
つまり「プロが認める一流」でなくても、テレビに何度も出演することはできるのです。そして、テレビに何度も出ることによって、一般の人々に「あの人は一流」というイメージを植えつけることができる、というわけです。
■レストランを選ぶとき、何を判断基準にするか
たとえ同業のプロには認められていなくても、一般の人々に「一流」と認められることの効果は侮れません。なぜならビジネスにおいて顧客となるのは、ほとんどの場合は「プロ」ではなく「素人」だからです。
あなたは、おいしいレストランに行きたいと思ったらどうしますか? 検索サイトで調べて、評価の高いお店を選ぶのではないでしょうか。あるいはネットで何かを買うときも、サイトでレビューを確認してから購入するのではないでしょうか。
つまり、私たちが何かを意思決定するとき、ネットの「第三者評価」が判断基準としてかなり重要な位置を占めているのです。
そして、ここが重要なポイントなのですが、その第三者評価における「第三者」とは、学者でもその道の専門家でもなく、一般の人たちのことなのです。
専門分野のなかではいざ知らず、世間で「一流」として扱われるかどうかを決めるのは、常に専門知識のない素人です。
プロが「良い」と評価するものと、素人が「良い」と思うものが異なるのは、よくある現象です。ミシュランの三ツ星がついているにもかかわらず、ネットの口コミサイトでは評価が低いレストランなどはその好例でしょう。
■ビジネスで大切なのは「素人」の評価
一般の人たちに「一流」と認められれば、専門家なら高額の講演依頼や著書の執筆依頼が殺到することになります。中小企業であれば、値下げをしなくても商品は飛ぶように売れていきますし、入社希望の若者も押し寄せるようになります。
現実のビジネスでは、プロではなく一般の人たちに「一流」と認められることがいかに大切か、もうおわかりいただけたのではないでしょうか。
プロの世界での評価ではなく、ビジネス面での成功を狙うなら、何も「プロ」に認められるほどのレベルにまで上り詰める必要はないのです。
名のある経営者や大学教授といった“同じ業界のエライ人”に「一流」と認められるには、相応の実力をつけ、さらにライバル以上の実績を積み重ねることが必要です。当然ながら、その道筋は簡単ではありませんし、かなりの時間も要します。さらに、“業界のエライ人”に気に入られるには、高齢の先輩方への気配りといった実力以外の要素まで必要になるかもしれません。
■一流の経営者が実践する「ずるいPR術」とは
時間をかけず、そして無用な気遣いもせずに、もっと手っ取り早く「一流」への階段を駆け上がりたいと思いませんか?
だったら最初から、そういう“雲の上の人”からの評価は後回しにすればいいのです。そんな大変なことをしなくても、簡単に“一般の人たち”から「一流」と思われる方法があるからです。
それが、本書でお伝えする「ずるいPR術」です。
今ではそうそうたる実績を誇る「一流」の経営者たちも、まだ実績もない段階から、この「ずるいPR手法」を実践することでビジネスのロケットスタートを成功させています。
彼らの多くは、一流の実力を身につけ、圧倒的な実績を叩き出した「後」で世の中から一流と認められたのではありません。まずは素人である一般の人たちに「一流」と見なされるようになり、その名声を武器に資金や人を集めることで、実績を積み重ねられるようになり、そして最終的には「同業のプロ」でさえ認める「真の一流」へと羽ばたいていったのです。
繰り返しますが、一般の評価が先で、プロの評価は後なのです。
■本田圭佑氏が「一流」として評価されるワケ
たとえば元サッカー日本代表の本田圭佑氏は、当然ながら選手としては日本を代表するほどの一流の存在でした。
しかし、ビジネスパーソンとしての本田圭佑氏が何に取り組んでいるのか、そしてどんな実績を出しているのか、実際に知っている人はほとんどいないのではないでしょうか。
それでも、多くの人は彼がビジネスマンとしても一流なのだろうと“なんとなく”受け止めています。実績とは関係なく、以前の選手としての「一流のイメージ」を引き継ぐことで、世間の一般人の多くは、本田圭佑氏をビジネスでも「一流」と評価しているのです。
その結果、彼はビジネスの世界でも実際に一流として扱われます。資金の調達やマーケティングなどの面で、大きな恩恵を受けていることでしょう。
じつは、今でこそだれもが認める世界レベルのビジネスパーソンであるソフトバンクの孫正義社長も、経営者としてのキャリアのスタート直後の時期には、同じ戦略を採っていました。
■孫社長は「実績なし」でも「一流」だった
今や、ソフトバンクは携帯電話など通信事業の会社としてだれもが知る存在となっています。ですが、ソフトバンクという会社は通信事業を手がける前から存在していました。孫社長は、自分の会社がまだそこまで大きな実績を出していない段階から、巧みなPR戦略で「日本屈指の一流経営者」としてメディアで頻繁に取り上げられてきました。
通信事業へ参入する「前」のソフトバンクが、何をしている会社なのか、当時でも答えられる人はそれほど多くありませんでした。孫社長に対する当時の一般人のイメージは、「実際に何をしているのかはよくわからないけど、よくメディアでITの未来を語っている人」くらいのものだったでしょう。
世間がそんなふうにふわふわした「一流」のイメージを持っているうちに、実際に劇的に会社を成長させたことこそ、本当の意味で孫社長のすごいところです。
■サイバー藤田社長が知名度を上げた「きっかけ」
ネットTVの「Abema」など先鋭的なサービスを展開しているサイバーエージェントの藤田晋社長は、2005年に著書『渋谷ではたらく社長の告白』を発売し、20万部を超えるベストセラーとなりました。結果、「日本を代表する若手起業家」として世間から認知されるようになりました。
ですが、その当時のサイバーエージェントについても、本業が何かを知る一般の人たちは少数派だったはずです。当時は孫社長同様に、「何をやっているかわからないけど、ITのすごい起業家」というイメージでした。
世間の「一流」のイメージをつくるのに、実際の輝かしい業績は必ずしも必要ないのです。彼らの「一流のイメージ」をつくったのは、名のある敏腕経営者やITの専門家ではありません。あくまで一般の人たち、つまり「業界の素人」でした。
孫社長や藤田社長といった「カリスマ経営者」が、デビュー当時から「一般の人たち」からの評価を重視していたことを示す興味深いデータがあります。
■「カリスマ経営者」たちが創業3カ月以内にやったこと
ソフトバンクの創業は1981年9月。同社が最初のメディア出演を果たしたのは、早くもその翌月の10月でした。
いずれも創業から3カ月以内で、メディア掲載を獲得しているのです。
「昔の事例ばかりじゃないか」と思われるかもしれませんが、最近上場したベンチャー企業でも、創業直後からメディアに出たことをきっかけに成長していった会社は数多く存在します。
いかに「のちのカリスマ経営者」と言っても、創業直後は実績も何もない状態ですから、本来ならメディアから取材を依頼されるような立場ではありません。彼らは皆、自分からメディアに働きかけて掲載を獲得しています。
急成長企業の経営者たちは、まず「一般の人たち」からの評価を獲得することが大切だと、肌感覚で理解しているのです。そのため、創業直後の必達イベントとして、メディアへの出演獲得に取り組むのです。
一般の人たちは「メディアに出ているから、すごい人に違いない」と“勝手に”思ってくれます。
ビジネスに必要な顧客も、金融機関も、就職先を探している若者も、たいていは「業界の素人」で「一般の人」です。同業のプロや専門家に認められることなど、特にビジネスのスタート直後には、まったく必要ないのです。
----------
下矢 一良(しもや・いちろう)
PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表
早稲田大学大学院理工学研究科(物理学専攻)修了後、テレビ東京に入社。『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』をディレクターとして制作。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業を担当。現在は独立し、中小企業やベンチャー企業を中心に広報PRを支援している。著書に『専門家のためのPR戦略』『タダで、何度でも、テレビに出る! 小さな会社のPR戦略』(同文舘出版)、『巻込み力』(Gakken)、『ずるいPR術』(すばる舎)がある。
----------
(PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表 下矢 一良)