テレビに取り上げられる企業にはどんな特徴があるのか。元テレビ東京ディレクターの下矢一良さんは「『速さ』と『付き合いやすさ』がポイントだ。
『日本で最もテレビに出ているスーパー』として知られるアキダイの事例が参考になる」という――。(第2回)
※本稿は、下矢一良『ずるいPR術』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
■「テレビで紹介される会社」の裏側とは
ずるいPR術』(すばる舎)では、「天の時」のところで、「令和」初日のタイミングに乗じてPRを成功させた酒蔵の例を紹介しました。たしかにそのときにリリースした新酒は爆発的なヒットとなったのですが、これだけだと一時的なPR効果に過ぎません。
しかし、この酒蔵は改元以降もずっとPRで成果を上げ続けています。それはなぜだと思いますか?
その理由は、この会社が商品だけではなく経営者、あるいは会社そのものについてもPRしたからです。『ずるいPR術』第4章の「事業とセットで社長を売る」テクニックと似ていますが、最大の違いは、実績が必要だという点です
「このような実績を生み出せた秘訣は、社長(あるいは会社)が、こんな取り組みをしたからだ」とPRするのです。実績は全社の売上、特定の商品の売上や販売個数、低い離職率など、何でもかまいません。老舗であれば「100年、潰れずに続いた理由」でもいいでしょう。とにかく、社内にある成果を洗い出し、「それができた秘訣」を語るのです。
日本のビジネスパーソンのほとんど全員が「もっと事業を成長させたい」と悩んでいます。そうした悩めるビジネスパーソンのヒントになるような情報を提供するわけです。
これは経済報道番組が中小企業を大きく取り上げる際の王道パターンでもあります。
他のビジネスパーソンのヒントにならなくてはいけないので、「社長である自分が、気合いと根性で頑張ったから」「家庭の事情でUターン就職せざるを得なかった優秀な人材が幸運にも入社してくれたから」ではいけません。「たまたまその状況・その人だったからできたのだろう」と思われたのでは、PRで使える「成功の秘訣」にはなりません。
■地方の酒蔵に取材が殺到したワケ
再び、株式会社九州焼酎蔵(仮名)のプレスリリースの2ページめを見直してみてください。これはプレリリースで用いている会社紹介を抜き出したものです。社長と私で軽く10時間以上、ときに酒を飲みながら語り合い、ようやく言語化できました。
成長の理由1:地域と一体のイベント運営

成長の理由2:品質への徹底したこだわり

成長の理由3:独創的な商品開発力
という見出しで、社長や会社がどうやって事業を成長させてきたかを各150文字程度でまとめています。
成功や実績の裏づけとなる理由や背景をしっかりPRした結果、この酒蔵はテレビ、日経などの新聞、ビジネス誌、業界紙になんと100回以上も出ることができました。この会社紹介はプレスリリースでも利用しましたが、自社サイトや採用サイトなど、あらゆるPRの機会にも用いました。
「商品の特徴もないし、誇れるような実績もない」という場合は、どうしたらいいのでしょうか。答えはシンプルで、「実績ゼロ」に戻ればいいのです。
具体的には新商品や新規事業を立ち上げて、第4章で紹介した「実績がないときのPR」に取り組むのです。
実際、第4章で紹介した「かき氷店」「日用品のサブスク」の基となったサービスは、いずれも新規事業としてスタートしたものでした。
■「日本一テレビに出るスーパー」のカラクリ
では「商品の特徴もないし、誇れるような実績もない。この先、新商品や新規事業の予定もない」という会社はどうしたらいいのでしょうか。こうなると、「速さ」と「付き合いやすさ」を武器にするしかありません。
東京都練馬区に本店がある「アキダイ」というスーパーマーケットをご存じでしょうか。間違いなく「日本で最もテレビに出ているスーパー」なので、名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。天候の影響による食品価格の高騰、物価高や為替変動、消費増税などのニュースがあるたびに、テレビ局から取材を受けています。2019年の新語・流行語大賞では「軽減税率」でアキダイの社長が受賞するほど、「テレビでおなじみの存在」となっています。
もしテレビの番組制作者が食品価格などの正確な情報を紹介したいのであれば、アキダイよりもずっと多くのデータを持っているイオンなど全国チェーンのスーパーマーケットに取材するべきです。なぜ中小企業のアキダイに、テレビ取材が集中するのでしょうか。その理由は、テレビにとってありがたい存在だからです。
■なぜイオンより「アキダイ」が選ばれるのか
ニュース番組の制作は、とにかく時間との勝負です。
夕方のニュース番組であれば、放送内容が確定するのは放送当日の正午頃です。その時間から「野菜高騰の現場」を取材しようとすると、すぐに連絡がついて、即決してくれるスーパーでなければ間に合いません。
イオンのような大企業にアプローチする場合、まず広報部に取材依頼の電話をかけると、「取材依頼書」をメールで送るように要請されます。さらに広報部長の許可、取材対応を行う店の選定や店舗担当者への対応依頼といった、スーパー側での社内調整の時間が必要となって、とても間に合わないのです。
ところがアキダイは中小企業なので、大企業のような社内調整など必要ありません。社長が取材依頼の電話に出て、即決です。取材趣旨を説明して了承を得るまで、5分もかからないはずです。中小企業の強みであるスピードを最大限に活かせるのです。
もうひとつの理由は、番組制作者は「スーパーの取材で勝負しよう」とは思っていないことにあります。番組制作者にとって、勝負のポイントは「企画の切り口」や「映像構成・編集の巧みさ」です。はっきり言ってしまえば、スーパーはどこでもいいのです。だから、撮影交渉にできるだけ手間をかけたくないのです。
よって、スーパーのテレビ取材は、手間のかからないアキダイに集中するというわけです。
「商品に特徴もなく、かと言って新商品や新規事業の予定もない中小企業」がアキダイから学ぶべきなのは、業界や地域で最もメディアが付き合いやすい会社になることです。取材依頼には即、しかも極力、要望に沿う形で対応するのです。
■旅館の女将が「ドラマのモデル」になったきっかけ
最後に、私が支援したある老舗旅館の女将に教えてもらった方法を紹介しましょう。私がお伝えしたPRのやり方を、女将ならではの方法で独自に発展させて、目覚ましい成果を上げています。
その方法は、取材を受けたら必ず、取材に来た記者や番組制作者とSNSでつながるようにする、というものです。そしてSNSを使って、定期的に情報提供します。
この方法であれば、プレスリリースの書き方を学ぶ必要はありません。メディアはプレスリリースを読みたいわけではなく、自分の番組や記事の材料となる情報を探しているだけです。メディアが欲しがる情報を提供できるルートがつくれるなら、プレスリリースにこだわる必要はないのです。
この方法で、旅館の女将は訪日観光客の増加など観光業界で何かあるたびに、取材されるようになりました。さらにコロナ禍を乗り越えた女将として、テレビドラマのモデルにまでなりました。

メディアに何度も出るようになって、今では業界団体や学校からの講演依頼も殺到するようになっています。さらに以前は採用への応募者を集めるのにも四苦八苦していたのですが、今では「女将と一緒に働きたい」と、全国から就職希望者が集まるようになっています。
この方法を、ある整体院の女性院長にも教えたところ、その方も同じようにテレビ取材の獲得に成功しています。
ただし、この方法を用いるには押し売りのようにならない会話術や、相手との距離感や状況を察する感性など、高いコミュニケーション能力が欠かせません。こうした能力がないのに表面的に真似をすると、逆効果となってしまうので注意が必要です。

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下矢 一良(しもや・いちろう)

PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表

早稲田大学大学院理工学研究科(物理学専攻)修了後、テレビ東京に入社。『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』をディレクターとして制作。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業を担当。現在は独立し、中小企業やベンチャー企業を中心に広報PRを支援している。著書に『専門家のためのPR戦略』『タダで、何度でも、テレビに出る! 小さな会社のPR戦略』(同文舘出版)、『巻込み力』(Gakken)、『ずるいPR術』(すばる舎)がある。

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(PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表 下矢 一良)
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