※本稿は、黒田真行『いつでも会社を辞められる自分になる』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■人気資格は転職の最強カードにならない
キャリア不安を持ち始めたホワイトカラーの皆さんがよく取る行動パターンの一つに「資格を取得する」という選択があります。そしてこのとき、ホワイトカラー出身者に人気の資格がだいたい共通しています。
たとえば、代表的なものが中小企業診断士。また、資格ではありませんが、ビジネススクールに通ってMBA(経営学修士)を取得するというケースも多い。いずれも、自分たちの経験してきたスキルを補強するタイプの自己研鑽だと言ってもいいと思います。だからこそ、ホワイトカラーの方々にとって親和性が高いのかもしれません。
しかし、残念ながら中小企業診断士の資格を取得したからといって、ただちに転職成功率の向上につながるわけではありません。ビジネスパーソンとしての知見を深め、付加価値の高い見識を得ることができることは間違いありませんが、それがそのまま転職可能性を高めてくれるものかというと、そういうわけではない。
この事実は、知っておいたほうがいいと思います。
■中小企業診断士、海外MBAは元が取りづらい?
またMBAは、転職活動において一定の評価につながる側面はありますが、経営コンサルティングや経営企画の実務に携わる人が、実践向けの引き出しを仕事のツールとして身につけておきたいと考えて学ばれることのほうが多いと思います。
かつては大企業で、幹部職を嘱望された選抜若手社員が、社費でMBA留学するようなケースもありましたが、修了後に外資系企業に転職してしまう現象が続発して、社費留学は減少してきています。
MBAは、同世代で似たようなバックグラウンドを持つ人とのネットワークを社外にも作るという価値も強いのですが、転職が当たり前になった今では、その人脈は個人に帰属するものだということがわかってきたとも言えます。
同じように中小企業診断士も資格取得に時間とコストがかかります。海外でのMBAも自費で行くとなると1000万円以上かかりますし、国内でもそれなりの費用がかかる。
そうすると、そのコストを取り返したい、とばかりに高報酬を求めるケースも少なくなく、これがまた転職の難易度を上げるという悪循環が起こりやすくなります。自己武装のためのコストがかえってミスマッチの原因になるという構造です。
■「定年後はコンサルで食べていける」は甘い
中小企業診断士は、その名前のイメージから、「取得するとすぐに中小企業の経営指導ができるのではないか」と思わせてしまう側面があるようです。中小企業診断士の資格が取れれば、定年後にコンサルティングの仕事で食べていける、マイクロ起業できると考えている人もおられますが、実務経験がなければコンサルティング契約につながるケースはそうそうあるわけではありません。
現実に多いのは、40代、50代のもっと早いタイミングで自分の業界スキルや職種スキルに中小企業診断士の資格の知識をプラスして、独立していくパターンです。これは、資格を持っているから、という理由よりも、もともと持っていた業界スキルや職種スキルをコンサルティング事業に昇華させることができたご自身の力量によるものと考えたほうがいいと思います。
■年収1000万円も夢ではない意外な資格とは
このように、取りたい資格を取っても必ずしも転職に成功できるわけではありませんが、実はホワイトカラーが意識もしていなかった資格に、大きなポテンシャルがあることが知られていません。たとえば、「第三種電気主任技術者」。
難易度が近いところでホワイトカラーの方々に親和性が高い資格は、不動産の「宅地建物取引士」がありますが「第三種電気主任技術者」は比較的、取りやすい資格にもかかわらずこの資格を取ると、たとえば、エアコンの取り付け工事ができるという現実の仕事に直結する効果があります。エアコンの取り付け工事業で、マイクロ起業すれば、年収1000万円は射程の範囲内と言われています。
これは実体験している人も多いかもしれませんが、エアコンの取り付け工事は今、大工や内装などと同様、需要が大きく、工事の供給がまったく間に合っていないのです。夏場や冬支度の季節ともなれば、数週間待ちは当たり前という状況。つまり、それだけ人手が足りないのです。
■なぜいま「資格系ガテン職」がいいのか
いきなりの独立は難しいかもしれませんが、資格を取得してエアコンの取り付けを事業にしている会社にまず入社することは決して難しいことではありません。そこで経験を積み、やがて独立するという選択肢もあります。
最初は現場仕事になるわけですが、ニーズの多さを考えれば、資格取得者を雇っていずれは経営者になる、ということも不可能ではありません。しかも、自分の会社ですから、定年もない。
実は、人手がまったく足りておらず、稼げる領域があるのに、対象となりえる方にほとんど知られていない情報のミスマッチがあります。
ホワイトカラーが人余りになっているニュースはよく流れますが、インフラを支える産業は人手が足りなくて困っています。大工がいないので、新築の家もなかなか建てられないし、リフォームもなかなか進められない。
とりわけ、いわゆる「手に職」系で、かつ資格が必要な「資格系ガテン職」は、需要が沸騰していて、食い扶持としての価値がどんどん上がっています。
■デスクワークよりも現場仕事で高給を狙える時代
労働マーケットに対して敏感な人は、この流れに気づいて動き、さっそく成功する事例も出てきています。しかし、市場の変化をあまり見ていないと、昔ながらのイメージが固定観念となってしまっている。それこそ「ホワイトカラー的な難易度の高い資格のほうが、マーケットでは優位性が高いのではないか」と思い込んでしまっているのです。現実に需要があり、収入的にも有利な資格が「第三種電気主任技術者」なのに、です。
他にも「ボイラー技士」の需要も旺盛です。この資格が活かされる職業は、ビルの設備管理。商業ビルにはだいたいボイラーがあり、空調などを司っています。それを管理し、点検して回るのが、ボイラー技師の資格取得者です。管理業務ですから、案外、ホワイトカラーにも近い。これまた、知られていない転職に有利な資格なのです。
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黒田 真行(くろだ・まさゆき)
転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役
1965年兵庫県生まれ、関西大学法学部卒業。1988年、リクルート入社。以降、30年以上転職サービスの企画・開発の業務に関わり、「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」HRプラットフォーム事業部部長、「リクルートメディカルキャリア」取締役などを歴任。2014年、リクルートを退職し、ミドル・シニア世代に特化した転職支援と、企業向け採用支援を手掛けるルーセントドアーズを設立。30年以上にわたって「人と仕事」が出会う転職市場に関わり続け、独立後は特に数多くのミドル世代のキャリア相談を受けている。著書に『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(クロスメディア・パブリッシング)、『35歳からの後悔しない転職ノート』(大和書房)など。
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(転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役 黒田 真行)