※本稿は、森谷敏夫『京大式 脂肪燃焼メソッド』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■痩せたい人にとって、ありがたい栄養素はこれ
炭水化物とともに食事の中で減らしてほしくないのが、タンパク質です。ダイエットをするのであれば、むしろ、タンパク質は多めにとることが大切です。
タンパク質は筋肉をつくる原料。不足すれば筋肉は痩せ細ってきて、リバウンドしやすくなったり、一見ほっそりしているけれど実は体脂肪率の高い「隠れ肥満」の状態に陥りやすくもなります。
タンパク質は食事誘発性の熱産生がもっとも多い栄養素でもあります。
たくさんのエネルギーを熱に変えることで、脂肪の燃焼を高めてくれますし、しかも、タンパク質を含んだ食品をとると、腸管から「GLP-1」という食欲抑制ホルモンが分泌されて、早く満腹感が得られます。
痩せたい人にとって、タンパク質はとてもありがたい栄養素なのです。
では、ダイエット期間中には、この大切なタンパク質をどのくらいとったらよいのでしょう。
成人のタンパク質の1日の必要量は、体重1キログラムあたり1.2グラムです。
この必要量の1.5倍、つまり体重1キログラムあたり、1.8グラムを目安にとれば、筋肉量を減らさなくて済むとされています。
■肉ばかりでは、摂取できるアミノ酸に片寄りが出る
参考までにあげておくと、卵1個、牛乳180ミリリットルの中にタンパク質は約10グラム含まれています。100グラム中のタンパク質含有量は、生のアジが約20グラム、マグロの赤身が25グラム前後、豚肉が20グラム前後、納豆が16グラムほど。
このように見ていくと、かなりの量を食べなくてはならないことに驚かれる方も多いことでしょう。
タンパク質にも動物性、植物性、乳製品などいろいろ種類があります。筋肉をつくるには肉がいちばんすぐれてはいますが、肉ばかりでは、摂取できるアミノ酸に片寄りが出ますので、魚や納豆、チーズや牛乳、あるいは卵など、さまざまな食品をまんべんなくとることが大切です。
タンパク質の重要性が強調されるようになった昨今でも、まだ、「炭水化物:タンパク質:脂肪」の摂取量の割合を「6:1.5:2.5」にするように推奨している方が多くいます。
けれど、タンパク質が担う大切な役割を考えれば、ダイエット中は脂肪の摂取量を抑えて、かわりにタンパク質を増やし「6:2:2」にすべきでしょう。
■ご飯をきちんと食べるほうが、痩せられる
ダイエット中でも、食事制限をするにしても、白米はしっかり食べてください。
「ご飯を食べたりしたら、余ったぶんが脂肪になってたくわえられる」などという心配は一切不要。余った糖質をすべて体脂肪に変えてたくわえるのは、ラットです。
ですから恐がらず、ダイエット中も白米をしっかり食べましょう。少なくとも、炭水化物を6割はとること。体重は増えるかもしれません。でも、それは体脂肪が増えたのではなくて、グリコーゲンが増えて、そこに結合した水分の重さにすぎません。炭水化物もタンパク質同様、満腹感が得やすい栄養素です。
食欲促進のホルモン、グレリンは食べものが入ってくると、その分泌量が徐々に減ってきます。炭水化物もタンパク質も、グレリンの分泌量の減少が、脂肪を食べたときよりもはるかに早く訪れるのです。
減量で多くの人が苦労するのは、食欲のコントロール。その意味でも炭水化物やタンパク質を許される範囲内で多くとることは、おすすめです。
■「脂肪分は極力減らす」がやっぱり正解
脂肪も大切な栄養素の1つです。コレステロール値を下げたり、動脈硬化を防いだりする種類の油脂もあります。
しかし、タンパク質と炭水化物の1グラムあたりのエネルギー量が4キロカロリーなのに対して、脂肪は9キロカロリーもあります。また、脂肪の場合、余ったぶんはすべて体脂肪としてたくわえられてしまうのです。
もし、痩せたいのなら、脂肪をできるだけカットするのがいちばんの近道でしょう。脂肪をカットしてもタンパク質を多くとっていれば、肉や魚などに含まれている脂肪が不足を補ってくれるので、脂肪不足で困ることはないはずです。
揚げものはなるべく控え、ドレッシングはノンオイルのものを使い、また、炒めものをするときには、油をひかなくてもいいように、フッ素樹脂加工のフライパンを使用するなどして、脂肪の摂取量を抑えましょう。
タンパク質と糖質を多めにとって、脂肪を極力減らす。
この原則を守って食事をとれば、筋肉を維持しながら、体脂肪だけが減っていきます。このとき、速歩や筋トレなどの運動を必ず取り入れましょう。運動によって血行もよくなり、体力がアップして、自律神経の機能を高めながら、美しく痩せることができるのです。
■500ミリリットルのペットボトル6本ぶんの脂肪が消えた
たとえば、ゆで卵とグレープフルーツしか食べないような過度な食事制限ダイエットなら、週に3キログラムくらいはすぐに痩せられます。
ただし、その3キログラムのほとんどは水分と筋肉。無理なダイエットをする人はたいてい運動をしないので、体脂肪はほとんど減っていないはずです。
わかってはいても、体重がみるみる減るときの喜びと快感が、いまだに忘れられないでいる人も多いでしょう。そのような人にとっては、「自律神経を鍛えれば、痩せられる」といわれても、どこか回り道をしているような、まどろっこしさを感じられるかもしれません。
けれど、自律神経がすっかり低下していた方たちが、3カ月間のトレーニングで、自律神経を見事に復活させ、その時点で体重を平均で3キログラムも減らすことができたというお話をしましたね。
これは2001年にアメリカスポーツ医学会の学術論文として掲載されたもので、専門家に高く評価されました。しかも、その3キログラムのほとんどが体脂肪です。つまり、500ミリリットルのペットボトル6本ぶんの脂肪が消えたことになります。それでも、あなたはまだ、まどろっこしいと感じられますか?
■たったひと月で、体も気持ちも軽くなる
自律神経の機能はすぐには上がりません。自律神経のレベルが上がるのには、それなりの時間がかかります。
こまめに動きまわり、わざわざ遠回りになる非効率な動線を選んで移動し、エレベーターは使わず階段を使うというように生活習慣を変え、ウォーキングや筋トレを毎日おこなって食生活を変えても、それですぐに自律神経の働きがアップすることはありません。
体が変化に適応していくにはそれなりの時間がかかります。時間がかかることは確かですが、自律神経が毎日少しずつ、その機能を高めていくこともまた、確かなのです。
実際、実験などで協力していただいた多くの方々のお話でも、たいていは1カ月たった頃から、自分の体や心の変化に気づくようになるそうです。
体重が減ると、体が軽く感じられます。体が軽くなると、人はよく動くようになります。外へも積極的に出たくなります。体が絞られ、すっきりしたことがうれしいからです。人に会うと、「なんか変わったね」などと声をかけてもらえるのが楽しいからです。
つまり、人生に対してポジティブになれます。
動きが活発で、活動的な人は魅力的なものですから、人間関係にも変化が訪れるかもしれません。
歯車が1つ回りだすと、全体の歯車もいい方向へ回るようになるのです。
■体が重い日こそ「思いっきり体を動かすべき」
反対に自律神経の活動レベルが下がっていると、負のスパイラルに陥ります。
自律神経が弱っているから、何をやるにもしんどくなり、体が重い。体が重いから動かない。
病気などの理由がない限り、体が重い日こそ「思いっきり体を動かすべき」だと私は思います。最初はつらいかもしれませんが、一歩踏み出すだけで、動かなかったときよりずっと体も心もラクになるからです。
自分の自律神経と向かい合って、弱いところを補強し鍛えることができれば、あなたは必ず痩せられます。
自律神経は24時間働きつづけて、あなたの食欲と脂肪燃焼を調節し、体重コントロールをしている要なのですから。
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森谷 敏夫(もりたに・としお)
京都大学名誉教授
株式会社おせっかい倶楽部代表取締役。南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、米国モンタナ大学生命科学部客員教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て、京都大学名誉教授、中京大学客員教授に。専門は応用生理学とスポーツ医学で生活習慣病における運動の重要性を説く。『結局、炭水化物を食べればしっかりやせる!』(日本文芸社)、『おサボリ筋トレ』(毎日新聞出版)など著書多数。
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(京都大学名誉教授 森谷 敏夫)