家を決める際に重視すべきポイントは何か。住まいるサポートの高橋彰社長は「ズバリ、“窓”だ。
熱が出入りしやすく、住宅の断熱性能を大きく左右する。快適な住まいの条件は“結露が起こらないこと”。そのために重要なのが、断熱性能の高さなのだ」という――。
※本稿は、高橋彰『結露ゼロの家に住む! ~健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本~』(セルバ出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■「結露が起きるのは当たり前」なのか
今の日本では、多くの人が住まいの結露に悩んだ経験があり、今も悩み続けているのではないでしょうか。そしておそらく、「結露は当たり前で仕方ないこと」と受け入れて暮らしているのだと思います。
しかし、そんなことはありません。
信じられない方もいるようですが、断熱性能を高めると、普通の暮らし方をしていれば結露は起こらなくなります。
結露の原因は、室内の湿気を含んだ温かい空気が窓や壁などで冷やされて、水蒸気ではいられなくなることです。そして窓などが冷たいのは、熱が通りやすく外気の影響で冷えるから。結露が起きるということは、まさに、「断熱性能の低さ」を象徴しています。
住宅に厳しい断熱性能が要求される欧州の国々では、結露が起きると施工業者が責任を問われてしまいます。

結露は、「起きてはいけない設計・施工ミス」という扱いになっているのです。
それだけ日本と欧州とでは、求められている断熱性能のレベルが違うということになります。
では、結露がなく健康・快適に過ごすことができる住宅の性能を考えるときに、もっとも重要な部分になるのはどこだと思いますか?
それは、「窓」です。
その理由は、家の中で一番熱を失う場所だからです。夏は窓から熱が入り込んで室内を暑くし、冬は室内の熱が窓から逃げて、寒くなってしまうのです。
窓の性能を重視することで、家全体の断熱性能をかなり高めることができるのですが、日本にはその視点が欠けていると言わざるを得ません。
実は、家の断熱性能は、住む人の健康に直結する重大な問題です。
「そんな、おおげさな」と思われるかもしれませんが、本当です。
結露がおこると、カビが発生します。カビはダニの餌になります。カビやダニがアレルゲンとなり、家の中でアレルギーや喘息を引き起こします。
また、昨今話題のヒートショックもまた、家の断熱性の低さに起因して起こる健康被害です。

ヒートショックは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳卒中、失神などを引き起こす健康被害です。冬の浴室などで、年間、1万9000人もの高齢者が亡くなっています。これは交通事故死者数の7倍以上の人数です。
断熱性が高い家ならば、浴室をふくめ、空間全体が一定の温度で保たれます。少なくとも、ショックを引き起こすほどの温度差ができるとは考えづらいです。
このように、カビ・ダニによるアレルギーや喘息で苦しんでいる子供たち、ヒートショックで亡くなる人、死には至らなくても、半身不随など後遺症で健康寿命を縮める人…。
筆者はこれまで30年間あまり、住宅業界で働いてきましたが、この間、家の性能の低さが原因で、健康を害す人たちを目の当たりにしてきました。
日本人に結露のない健康で快適な家に住んでほしい。
そんな思いから、いまは、「これから家を建てたい」という人にむけ、住まいづくりをサポートする会社を経営し、高気密・高断熱住宅の工務店を無料でご紹介するサービスを提供しています。
本稿では、その専門家の立場から、結露が生じない家にするためのポイントについて説明したいと思います。
■日本の窓の断熱基準は、中国以下
一般的には、家の中で最も結露が生じるのは、冬の窓だと思います。
結露が生じない窓かどうかを数字で示すのが、熱貫流率の「U値」です。

熱貫流率の「U値」は、値が小さければ小さいほど熱を通しにくく、結露も生じにくいということになります。単位は、[W/m2・K]で示されます。
まず、日本と他の国々の窓の「U値」の基準を比較してみましょう。
たとえば、図表1のようにドイツでは、窓の性能にU値1.3以下が求められていますし、アメリカも南部の暖かい地域以外は、2未満の基準が定められています。
さらに、中国も我が国よりも厳しい基準を定めています。
日本は、7つに分けた地区を3つの基準に振り分けています。北海道など、寒い地域と認定されている1/2/3地区でも、U値2.33。アメリカの中南部地区よりもゆるい基準です。
そして主要都市の東京・横浜・名古屋・大阪・福岡はすべて温暖地である6地区なので、そのU値は4.65。他国に比べて窓の断熱性能の基準のお粗末さが際立っています。
2024年まで、我が国の窓の断熱性能は4段階で表示され、最高等級の☆4つの基準は、U値2.33でした。
つまり、ごく最近まで、日本で最高等級の断熱性能のサッシは、海外の多くの国の最低基準すら満たしていなかったのです。

■「ペアガラス=高断熱」という大誤解
これでは、日本の住宅の窓で当たり前のように結露が発生するのも、仕方のないことですね。
2025年から大手サッシメーカーの表示は6段階に変更され、基準が厳しくなりましたが、日本の住宅の断熱性能向上の取り組みが、諸外国に比べて遅れていることはおわかりいただけると思います。
窓の断熱性能は、概ね枠とガラスの構成により決まります。アルミ製のサッシでペアガラスの窓が、日本の東京。大阪等の温暖な主要都市(6地域)の断熱基準であるU値4.65の性能レベルになります。
ペアガラスというだけで、断熱性が高い特別な窓だと思っていませんでしたか?
とんでもない。諸外国の窓に比べればまったく低レベルです。
それでも高品質に感じるのは、ペアガラスにもなっていないシングルガラスのほうが、日本の既存の住宅では多数を占めているから。それは、低い断熱基準すらも満たしていない住宅が、日本にはいかに多いかを示しています。
厳しい断熱基準が定められているドイツなどの国々の窓は、樹脂製もしくは木製のサッシでトリプルガラス。これが、U値1.3以下を可能にしています。
断熱性能は、ガラスの枚数も重要ですが、それ以上にサッシの素材によってまったく違ってくるのです。

■アルミサッシは熱伝導率1400倍
日本では、サッシというといまだにアルミのイメージが強いのではないでしょうか。その通りで、最近はやっと樹脂製も増えてきたものの、まだやっと新築住宅の25%程度です。中国の樹脂サッシ比率は30%なので、中国よりも遅れているのです。
熱伝導率で言えば、アルミの238[W/(m・K)]に対して樹脂は0.17。
ということは、アルミの熱伝導率は樹脂の約1400倍にもなります。つまりアルミは樹脂や木の約1400倍も熱を通してしまうのです。2倍とか10倍でも驚きですが、なんと1400倍! 図表5を見ていただくとわかるのですが、樹脂の性能がことさら素晴らしいわけではなくて、アルミがひどすぎるのです。
はっきり言って、他の先進国から見れば、日本のアルミサッシを使った住宅は「人間の住む場所ではない」でしょう。
■難民向け仮設住宅よりも性能が低い
筆者は、2016年に、ドイツ、フランスなどの高性能住宅の視察の機会に恵まれました。その際、特に驚いたことがありました。
当時は、シリア難民が欧州に大量に流入している時期で、難民向けの仮設住宅が多数建てられているところでした。その一棟を見学できたのですが、急ごしらえの、さらに自国民ではない難民向けの仮設住宅なのに、窓の断熱性能はしっかり1.3レベル。

日本では今でも一流ハウスメーカーの多くもこのレベルのサッシは採用していません。
そして、もちろん壁の断熱性能や気密性能もとてもしっかりしていました。
欧州では、家じゅうを暖かい室温に保つことができる高断熱の住宅で暮らすことは、基本的人権であると捉えているそうです。そして、自国民ではないシリア難民の人権に対しても、そのような居住環境を整えなくてはならないという考え方なのです。
ひるがえって日本では、東日本大震災の時、仮設住宅の断熱性能が低すぎて、結露だらけ。結露が原因で、カビ・ダニが発生し、被災者の方々がアレルギーや喘息を発症するということが問題になりました。
そして現在でも、日本の高級な注文住宅の標準的な断熱性能でさえ、欧州の難民のための仮設住宅よりもずっと低いというのが現状です。
この違いを、私たちはもっとよく考えるべきではないでしょうか。
■お粗末なのは「窓」だけではない
日本の窓の断熱性能基準が、諸外国に比べて非常に緩いことはすでに説明しましたが、窓だけでなく、住宅自体の断熱性能基準も同様にとても緩くなっています。
窓の断熱性能は、U値で示されると冒頭でお話ししましたが、住宅全体の断熱性能は、UA値で示されます。
UA値のAはアベレージ(平均)を意味します。床・壁・天井・窓・玄関など各部位のU値を面積で加重平均して、算出される値がUA値です。基本的には、家一棟ごとに計算して求めます。
この値が小さいほど断熱性能が高いということになり、さらに同じような気温の地域でくくられた地域区分と組み合わせ、住宅性能評価の1つである「断熱等級」が決まります。
2025年4月から、住宅も省エネ基準への適合が義務づけられたことに伴い、確認申請時に、住戸ごとにUA値を計算することが必要になっています(仕様規定を使う場合は不要)。
■日本の“高断熱”は世界基準に達していない
住宅のUA値の基準の国際比較です。
つまり、断熱性能の優劣を比較したものです。
横軸の暖房デグリーデーというのは、ある地域の寒さを表す指標で、冬に同じくらいの暖房が必要な地域で括ったものです。だから同じ番号の地域は、冬の寒さが同じくらいだと考えることができます。
比較的温暖で人口が集中している地域の多くが、日本の省エネ地域区分の6地域に含まれます。東京の他、横浜、名古屋、大阪、福岡などが6地域になります。
日本の6地域の省エネ基準のUA値は、0.87です。そして日本では補助金がもらえる高断熱住宅として位置づけられるZEH(ゼッチ)の基準は0.6です。
それに対して、日本の6地域と同じくらいの寒さの他の国の基準は、韓国が0.54、スペインが0.51、カリフォルニア州が0.42、イタリアは0.4です。
ちなみにZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略で、家庭で使うエネルギーよりも節電や太陽光発電などの創電で生み出すエネルギーを増やし、消費エネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家のことです。
いずれも日本におけるZEHのUA値よりずっと小さな値で、高い断熱性を誇っています。我が国では「省エネ住宅」に位置づけられるZEHレベルですら、かなりお粗末なのです。
日本の住宅性能の常識が、諸外国では非常識であることが理解してもらえると思います。
■国「住宅の電気ガスを3分の1に」
日本は、2030年度までに温室効果ガスの排出量を、2013年度比で46%削減しなくてはなりません。これは国際公約です。
そして、たとえば工場・事業所などの産業部門や輸送・運輸に関わる運輸部門など、部門ごとに消費エネルギー量の削減目標が設定されているのですが、家庭部門、つまり住宅については、なんと66%削減という最も大きな削減目標が設定されています。
国は、「温室効果ガス削減の余地が大きいのは住宅だ」と考えているということです。
この削減目標を実現させるのは、なかなか大変なことだと思います。なにしろ、各家庭で消費する電気やガスによる温室効果ガスの排出量を、概ね3分の1にしなくてはならないのですから。
そして、それに伴い、住宅の省エネ性能に関わるさまざまな法制度が急速に強化されつつあります。
たとえば、2022年には住宅性能表示制度が見直され、それまで4が最高であった断熱等性能等級(断熱等級)に、新たに断熱等級5(ZEHレベル)、断熱等級6、断熱等級7が設けられました。
断熱性能をより高いレベルで求めていく方針の表れですが、上位等級が新設されたのは、なんと23年ぶりのことでした。
なお、各断熱等級で求められるUA値は、表に示すように、省エネ地域区分ごとに異なります。お住まいのエリアの省エネ地域区分は、ネットで検索すればすぐにわかると思います。
■省エネ基準適合義務化からさらなる飛躍を期待
これまで、先進国の中で唯一日本だけが、住宅に省エネ基準への適合が義務づけられていませんでしたが、建築物省エネ法が改正され、2025年4月からやっと省エネ基準への適合が義務づけられました。
つまり、2025年4月からは、国が定めた「断熱等級4以上」などの省エネ基準を満たした住宅しか新築・増築できなくなったということになります。
ただ、今回義務化された断熱等級4は、四半世紀も前の1999年に示された通称「次世代省エネ基準」という古い基準の断熱性能レベルを義務化するものです。前述したように、すでに次世代どころか旧世代になっています。
住宅業界でも、「今回の省エネ基準への適合義務化により、日本の住宅も欧米並みの高断熱住宅が当たり前になる」と思っている人が一部いるようですが、諸外国に比べると極めて低い断熱性能基準にとどまっています。
ただしその基準は、2030年までには断熱等級5のZEHレベルに引き上げられる予定です。これから家を新築・購入するのであれば、最低でも断熱等級5の家にしておかないと、建ててもすぐに最低基準を満たさない家になってしまいます。
結露のない健康・快適な家にするため、また、住宅の資産価値を落とさないためにも、断熱等級6レベルの性能を確保することをおすすめします。
3~5年ごとにどんどん基準を厳しくして、はるか先を行く諸外国。
その背中を追って、これから日本も、懸命に挽回していかなくてはなりません。

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高橋 彰(たかはし・あきら)

住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事

東京大学修士課程修了。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に高気密・高断熱住宅の工務店を無料で紹介する「高性能な住まいの相談室」を運営する住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)、『結露ゼロの家に住む! ~健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本~』などがある。

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(住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事 高橋 彰)
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