■レンジ3分でできる「ラタトゥイユ」
暑くなってから毎日のように、麺ばかり食べていた。特に外に取材に出かけると、ランチにはそうめん、ざる蕎麦、冷やし中華、ざるうどんなど、冷たい麺ばかり欲してしまう。
1週間ほど1日1~2食の麺生活を続けていたら、朝起きた時に倦怠感があることに気づいた。
以前、管理栄養士の望月理恵子氏が「麺類は夏太りしやすいうえ、栄養素も不足しやすい」と話していたことを思い出す。
「ごはん1膳(160グラム)269キロカロリーに対し、そうめん1人前(乾麺100グラム)は343キロカロリーも。しかもそうめんはのど越しが良いので満腹を感じにくく、食べすぎてしまうので太りやすいのです。小麦でできているため大半が糖質で、さらにつゆで塩分を多く取りがち。サラダチキンやゆで卵、きゅうり、トマトなどトッピングでタンパク質や食物繊維を補えればいいのですが、麺類のみでは糖質ばかりでタンパク質やビタミン、ミネラルも不足します」
まさに今の自分の食生活だ。これではいけない、と思った。だが蒸し暑い日々、麺類を我慢して、ごはん、味噌汁、焼き魚、副菜といったメニューを食べる気にはとてもならない。何かいい方法はないかと考えていたところ、別媒体の取材で料理家で作家の樋口直哉氏から「ラタトゥイユ」を教えてもらった。ラタトゥイユとは野菜の煮込み料理のことだが、樋口氏が提案する作り方は、鍋を使わない。耐熱容器に好きな夏野菜を切って入れ、レンジにかけるだけなのである。
■夏バテからの「回復ポイント」
樋口氏のレシピを多少アレンジして作ってみると、おいしくて冷たい麺類によく合う。
手順は、耐熱ボウルにズッキーニ、トマト、玉ねぎ、パプリカ、オクラを適当に切って入れ、オリーブオイルと塩を加える(樋口氏は「両手いっぱい分の野菜に対して大さじ1のオリーブオイル、塩少々を目安に」と説明していたが、私は大さじ半杯のオリーブオイルで十分だった)。そしてラップをかけてレンジで3分。レンジ加熱後は、そのまま3分以上蒸らす。私はタンパク質補給のため、できあがったラタトゥイユに市販のサラダチキンをほぐして加えた。樋口氏は「夏野菜と一緒に厚揚げやベーコンを切って入れても良い」という。
望月氏に改めて取材すると、夏特有のけだるさ、いわゆる夏バテからの回復ポイントは「抗酸化物質とタンパク質」とのこと。
「強い紫外線を浴びて生じる活性酸素に対抗するため、また発汗で失われたビタミン類を補給するため、抗酸化作用の強い野菜や果物を取るといいでしょう。さまざまな種類がありますが、赤色、緑色、黄色の食品を意識して選ぶと抗酸化作用の強い食品を摂取できます。あわせて体の組織を作って修復する原料のタンパク質も重要です」
■1食につき20グラムのタンパク質摂取が目安
ラタトゥイユの写真を見せると、「バランスがいい」と褒められた。
「赤色のトマト、パプリカにはリコピンやビタミンA(βカロテン)が含まれ、抗酸化作用があります。ほかに赤色の食品というと、スイカ、鮭の身、いくらなどにも抗酸化物質が豊富です。緑色のオクラ、ピーマンにはβカロテンのほかビタミンCも含まれ、免疫力向上、ストレス緩和などの働きを持ちます。
栄養学的には玉ねぎの皮、緑黄色野菜が黄色の分類。ポリフェノールを含みますので、このラタトゥイユでバッチリでしょう」
ビタミンCやポリフェノールなどの抗酸化成分の多くは水溶性のため、短時間のレンジ調理にすれば栄養素が壊れず、また流れることもなく、効率的に摂取できるという。
「そしてサラダチキンも足しているとのことなので、一食のタンパク質量としても十分です」(望月氏)
タンパク質は1日につき体重1キロあたり1グラム必要といわれる。体重60キロの人なら1日に60グラムは取らないと、加齢に伴う筋肉量の減少に拍車がかかってしまう。3食均等に取ったほうが望ましいので、1食につき20グラムのタンパク質摂取を意識したい。私が購入した市販のサラダチキンには、100グラムあたり27グラムのタンパク質が含まれていた。最近は豆腐や納豆でも食品パッケージにタンパク質量が表記されているので、1食につき20グラムのタンパク質が取れているかを遊び感覚で数えてほしい。私は十分なタンパク質量を意識してから、冷え症が改善し、疲れにくくなったと感じている。
■夏にぴったりの「おやつ」とは?
次に「夏のおやつ」についてはどうだろうか。
というのも先日、慶應義塾大学医学部の井上浩義教授によるメディア向け勉強会に参加し、夏の間食向きといえる食品を知ったので、本連載で紹介したいと思ったのだ。ちなみに同会はおよそ10年前から3カ月に一度のペースで行われ、毎回栄養学を中心としたテーマを題材に、井上教授が科学的に解説する。それもネットで調べれば出てくるような通り一遍の食品説明ではなく、教授自らボードに化学記号を記しながら解説する貴重な講義なのである。
メディアに正しい情報を発信してほしいという思いから、これだけの時間とコストをかけているのだろうと察すると、ありがたい気持ちになる。
■200件以上の論文で健康効果が認められた
さて夏にぴったりのおやつ――それはアーモンドだ。
井上教授がこう説明する。
「アーモンドにはタンパク質、血糖値の急上昇を抑える食物繊維のほか、強力な抗酸化作用を持つビタミンE、血管が若返るオレイン酸などが豊富です。LDL(悪玉)コレステロールを低下させ、動脈硬化を予防し、心血管疾患予防に働くという報告もあります」
過去20年にわたり、アーモンドに関する栄養価と健康効果について世界では200件以上の査読付き科学論文が発表されているという。「査読付き」というのは、その分野を専門とする研究者が読んで評価したもの。当然ながら査読されていない雑誌に掲載された論文よりも、客観的な評価が高くなる。
カリフォルニア・アーモンド協会が論文から見えてくるアーモンドの健康効果を大きく5つ――▽心臓の健康▽体重管理▽健康的な血糖値▽運動後の回復▽肌の健康、に分類している。
■日本人なら「1日に約23粒」のアーモンドを
私はアーモンドが健康に良いことはわかっていたが、「運動後の回復」と「肌の健康」の報告については今回初めて知った。アーモンドを1日約57粒摂取することで、運動後の疲労感や緊張感の軽減、足や背中の筋力の回復促進作用があるという。またアーモンドの摂取が閉経後女性において顔のシワの減少や、若年のアジア人女性において紫外線B波への耐性の向上と関連していることが確認されている。タンパク質やビタミン・ミネラルを兼ね備え、まさに夏にぴったりの食品ではないか。

摂取量については、前者の研究では1日「約57粒」としているが、日本人の食生活と体格を考慮して毎日ひとつかみ(23粒)が推奨されている。良質な脂質とはいえ、食べすぎはハイカロリー摂取となり太りやすい。しかし適切な量であれば、むしろ肥満の人の体重減少に役立つという研究報告もある。
ということで勉強会後に、早速アーモンドを食べている日々だ。市販では飲むアーモンドも販売されているので利用してみたが、手軽さが魅力である半面、やはり“木の実”として味わうほうが風味を感じておいしく、満足感が高まる。
うだるような暑さが続くが、タンパク質と抗酸化物質でエネルギーをチャージしてほしい。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2025年8月15日号)の一部を再編集したものです。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)

ノンフィクション作家、ジャーナリスト

1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。

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(ノンフィクション作家、ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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