■住宅ローンは退職金で一括返済すべきか?
定年後も住宅ローンが残っている場合、収入が減るにもかかわらず毎月のローンの返済が続くことになります。一般的には「定年前までに住宅ローンを完済したほうがいい」とされていますので、退職金で一括返済すべきと考える人もいることでしょう。
確かに、住宅ローン返済額は毎月の支出全体の3割前後などと、大きな割合を占めているでしょう。住宅ローンの返済を終わらせてしまえば、以後はその支出分が浮きますし、支払う利息もなくなります。また、変動金利で住宅ローンを借りている人が一括返済したら、今後金利が上昇したとしても、利息が増える心配がなくなります。
一方で、退職金を使って一括返済すると、手元の資金が減ってしまいます。住宅ローンは完済したものの、資金が少なくなってしまうようでは、老後の生活や万が一の際に問題が生じる可能性もあるのです。そもそも、住宅ローンは他のローンに比べてずっと低い金利で借りられるローンです。その返済をしてお金が少なくなったがために、他の金利の高いカードローンやキャッシングなど借金するようでは本末転倒です。
このように考えると、みなさんが借りている住宅ローンの金利が高い場合や、手元の資金が潤沢な場合は、一括返済をしてもいいかもしれません。また、変動金利で借りている場合、今後金利が上昇する局面を迎えたら返済するというのもひとつの考え方でしょう。
■低金利なら退職金は投資に回したほうがベター
借りている住宅ローンの金利が低い場合、手元の資金が潤沢でない場合などは、むしろ一括返済をせずに退職金は生活費や投資に回すほうが断然いいでしょう。
住宅ローンの金利は、以前よりも上昇してきてはいますが、本稿執筆時点では、変動金利が年0.6%前後、固定金利が年1.2%前後と低水準です。仮に金利1%の住宅ローンを一括返済しても、得られる利息の圧縮効果は1%です。しかし、そのお金で投資信託へ投資を行い、年4%で増やすことができたら、住宅ローンで利息を年1%支払ったとしても、差し引き3%ずつお金を増やすことができます。
もちろん、資産運用に元本保証はありません。しかし、世界の経済成長率はおおよそ平均3~4%で推移していることを考えると、世界経済の成長に合わせて成長する投資信託に投資をすれば、決して無理な数字ではないと考えます。
なお、自宅のバリアフリー・省エネ・耐震性能などをアップさせる「特定の改修工事」を自己資金で行った場合にも10%の控除を受けられます(2025年末までに入居)。
耐震リフォーム・省エネリフォームは費用の上限250万円、バリアフリーリフォームは費用の上限200万円などとなっています。よって、特定の改修工事であれば、一部の退職金を使うのは問題ないでしょう。
介護保険の「高齢者住宅改修費用助成制度」では、介護が必要となった場合(「要支援」または「要介護」と認定された場合)に、手すりの取り付け、段差の解消、扉の取り替えといったバリアフリー改修工事にかかった費用20万円までの9割(18万円)を補助してくれます。また、これとは別に各自治体でも補助金が受け取れる場合があるので、確認してみましょう。
■退職金で家を買うのはあり?
持ち家か賃貸かは正解のない「人生の2択問題」です。どちらを選んでも経済的に損するということはありません。確かに賃貸だと毎月の家賃や2年ごとの更新料などはかかりますが、持ち家にかかる固定資産税や建物の修繕費はありません。賃貸だと、新しい物件や活気のあるエリアに住み替えやすいのもメリットです。
高齢になると部屋を借りにくくなるといわれますが、人口減少・少子高齢化が進むと、賃貸の借り手が少なくなり、物件が余る状態になると考えられます。大家さんも空室リスクを下げるために、「高齢だから」という理由で入居を断りづらくなるでしょう。
一方で家を買ってはいけないわけではありません。退職金に頼らずとも充分なお金があるなら買うのも1つの手です。でも、老後の生活費の大切な原資である退職金を使うと、お金が一気になくなってしまい、不測の事態が起きたときに対処できなくなってしまいます。
家を購入するときには、「一生そこに住み続ける」と決意して購入する方がほとんどでしょう。しかし、人生何が起こるかわかりませんので、住み続けられなくなる可能性もあります。そうした可能性を見越して、家を購入するときに自宅の出口戦略を描いておくものです。
いざというときに人に貸したり、高く売ったりできる資産価値の高い家であれば、購入してもいい、というわけです。
■マイホームの資産価値を確認する
資産価値の高さを見定めるために、物件価格や賃貸価格の相場を調べてみましょう。現在の価格はもちろん、築年数が増えるにつれて価格の推移がどうなっているかをチェックします。当然、価格の下がりにくい物件・エリアのほうがいいでしょう。また、物件のあるエリアの人口推移、今後どうなるかの予想も確認します。
駅までの距離や交通の便も大切です。駅まで徒歩で行けるほうがいいですよね。物件の間取りは、1人用の1DK、2人や3人で住む2LDK・2DKといった無難な間取りのほうが売りやすいでしょう。マンションの場合、もっとも売れやすいのは3LDKと言われています。
■最終的に自宅をどうするか、「終の住処」を話し合おう
総務省統計局の「住宅・土地統計調査」(令和5年)によると、65歳以上の高齢者のいる世帯の持ち家の比率は81.6%にのぼります。高齢者夫婦のみの世帯では87.6%、高齢単身世帯でも67.5%となっていて、老後も持ち家に住む人が多くいます。
多くの場合、すでに数十年住んできた自宅です。
●リフォームして住み続ける
水回りを直したり、間取りを変更したり、外壁を塗装したり、バリアフリー化したりと、自宅を部分的にリフォームすれば、老後も住み続けることができます。長年住んできた愛着のある建物を壊す必要もありませんし、仮住まいや引っ越しなども必要ないケースがほとんどです。ご近所付き合いも、変わりません。
ただ、当然リフォームにはお金がかかります。ちょっとしたリフォームであれば数十万円程度で収まるかもしれませんが、構造を補強するフルリフォームの場合は、建て替えるよりも高額になることも。また、自宅の構造によっては、間取りの変更などが思うようにできない場合もあります。
●他の家に住み替える
自宅を売却できれば、一度にまとまったお金が入る可能性があります。その場合は、自己資金を用意しなくても新しい家に住むことができます。金額次第ではありますが、マンションや建売住宅に住んだり、賃貸物件を借りたりと、選択肢はさまざま。
なるべく支出を抑えたい場合は、地方への移住も選択肢のひとつでしょう。ただし、一口に地方といっても、住む場所によって交通の利便性は大きく異なります。車での移動が不可欠ないわゆる車社会の場合、高齢になって車を手放してしまうと、生活が不便になってしまいます。
また、持ち家に住むか賃貸住宅に住むかは悩みがちな点ですが、地方でも家の購入にはまとまった資金が必要なうえ、毎年、固定資産税がかかります。賃貸であれば、自由に住み替えができるため、移住の際は賃貸住宅のほうがよいでしょう。なかでも、近年普及しているシェアハウスは、手軽な家賃で住むことができます。
「高齢になっても便利な地域であるか」という点に注目しつつ移住することで、無理なくコストを下げることができます。その点で、地方まで行かずとも、「都市部の郊外」が住居費を下げつつ、交通や買い物の利便性も一定程度は保て、賃貸住宅も探しやすく、おすすめです。
■自宅に住みながら老後資金を確保する
●リバースモーゲージを利用する
リバースモーゲージとは、自宅や土地などを担保に金融機関からお金を借りる制度です。今住んでいる家に引き続き住みながらお金を借りることができます。
お金を借りると、通常は元本に利息を加えて毎月返済していくものですが、リバースモーゲージの場合は一般的に利息のみ返済を行います。ですから、普通にお金を借りるよりも毎月の返済額はずっと少なくて済みます。
収入の少ない高齢者にお金を貸してくれる金融機関は多くありません。しかしリバースモーゲージであれば、老後資金が足りない場合にもお金を借りられます。
ただし、リバースモーゲージは金利が3~6%前後とかなり割高なのが欠点。仮に2500万円を年利3%で借りたとしても、毎年支払う利息は75万円、月6万2500円です。いっそのこと自宅を手放して賃貸に住み替えたほうがいいかもしれません。
また金融機関は、担保に入れた不動産の評価額を定期的に見直します。見直しの結果、不動産の価格(主に土地)が下がった場合、借入残高よりも評価額が低くなる「担保割れ」が起き、自宅を売却しても借りたお金が返せなくなる恐れがあります。
●リースバックを利用する
リースバックも家に住みながらお金を得られるしくみです。リースバックでは、自宅を専門の不動産会社に売却し、賃貸契約を結びます。そして毎月リース料(家賃)を支払いながら、自宅に住み続けます。
自宅を売却した段階で、売却代金が一度に手に入ります。通常、売却する際には買い手を探す必要がありますが、リースバックでは専門の不動産会社が買ってくれるので、すぐに資金調達できるメリットがあります。
リバースモーゲージは利用者が亡くなった後に自宅を売却して借りたお金を返済するのに対し、リースバックでは自宅とはいえ賃貸を借りているのと同じですから、家賃にあたるリース料を支払っていく点が異なります。また、将来的に自宅を買い戻すこともできます。
しかし、リースバックは売却額が周辺地域の相場より安くなり、リース料が相場より高くなる場合が多くあります。どうしても引き続き自宅に住みたいというニーズは満たせますが、資金を確保する観点で考えれば、リバースモーゲージ同様より高く売ってより安いところに引っ越したほうが合理的です。
リバースモーゲージがおすすめの人は、自宅のリフォームや老後資金としてまとまったお金を用意したい人で、子どもなどに自宅を遺す予定がない人、といったところです。
リースバックがおすすめの人は、ローンの返済に困った人や、老後資金などまとまった資金を用意したい人。どうしても自宅に住み続けたい、仕事や学校などの都合で引っ越したくないという場合は役立つかもしれません。
しかし、積極的に使うべき制度ではないでしょう。筆者はデメリットのほうが大きい制度だと考えています。
■老人ホームに入るには、どの程度お金が必要なのか
老人ホームへの入居もひとつの手です。老人ホームには、自治体などが運営する公的施設と企業などが運営する民間施設があります。ともに、介護が必要な人向けの老人ホームと自立した生活が送れる人向けの老人ホームがあり、どの老人ホームを利用するかによってかかる費用も異なります。もっとも、公的施設は枠が埋まりやすいのが現状。民間施設への入居が現実的。
老人ホームの費用には、老人ホーム・介護施設に入居する際に施設に支払う「入居一時金」と、老人ホームに入居したあとに毎月かかる「月額利用料」があります。なお、医療費や老人ホームとは別の外部の介護サービスを受けたときの費用、日用品の費用などは月額利用料には含まれず、自己負担となります。
すでに持ち家があったとしても、老人ホームを利用することがあるでしょう。この場合、持ち家を売却するか、人に貸すかして老人ホームに入ることになります。賃貸住まいの場合は、家賃の支払先が老人ホームに変わるだけですので、さほど大きな問題はないでしょう。
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頼藤 太希(よりふじ・たいき)
マネーコンサルタント
Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用 新NISA対応改訂版』(宝島社)など書籍100冊、著書累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(@yorifujitaiki)
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(マネーコンサルタント 頼藤 太希)