子供の勉強場所としてリビングは適しているのか。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康さんは「子供は少し人の気配や生活音を感じられる場所のほうが心が落ち着く。
見られている意識で自制心も働いて頑張りやすい。ただし注意点もある」という――。
■人の気配や生活音を感じられる場所のほうが落ち着く
子供の勉強場所にリビングが推奨されるケースが多い。この考えには私も賛成だ。まず、子供部屋は誘惑が多すぎる。多くの場合、子供部屋は子供のモノで溢れている。図鑑や参考書といった勉強に関するモノを揃えておけば、自然と勉強に向かっていくのではないかと親は期待するが、同じ空間にオモチャも漫画も置いてあれば、当然そっちに気が向いてしまう。
では、これらを排除しておけばちゃんと勉強をするかというと、それもノーだ。立派な勉強机に参考書がずらりと並んだ本棚を用意し、「さぁ、これなら集中できるでしょ!」とパタンとドアを閉められてしまうと、逆にソワソワしてしまう。なぜなら、子供は少し人の気配や生活音を感じられる場所のほうが、心が落ち着くからだ。また、「誰かに見られている」と感じるくらいのほうが、自制心が利き頑張れたりする。
■ただし「監視」になると失敗する
ただ、その目が「監視」になってしまうとうまくいかない。
すでにリビング学習を行っていて、子供が「自分の部屋で勉強をしたい」と言い出したら、親は自分の行動を振り返ってみてほしい。「何でこんな簡単な問題を間違えるのよ」「またダラダラ勉強している」など、子供のできていないところばかりに目が向いていないだろうか。
そんな状況から逃げるために、「自分の部屋で勉強をしたい」と言っている可能性が高い。しかし、よほど成熟度の高い小学生でない限り、子供部屋学習はうまくいかない。多くの場合、自分を律することができず、集中力は散漫になり、成績は下がっていく。
リビング学習のメリットはいろいろある。リビング学習は家族が食事をするダイニングテーブルで行うことが多い。ダイニングテーブルは勉強机よりもサイズが大きいので、スペースの制限なく教科書やプリント類を思いっきり広げながらできる。また、宿題の音読もお母さんに聞いてもらえるし、わからない漢字の読みが出てきたら、「この漢字は何て読むの?」とすぐ聞くこともできる。そこから、「この漢字はほかにも○○って読むことがあるよ」「△△の意味に使われる漢字だよ」など、教えてあげることもできる。
■親は家事や仕事などをしていて構わない
リビング学習は、子供がちゃんと勉強をしているか「監視」するためのものではない。理想は子供の様子を伺いながら、「見守る」ことだ。
だから、親が横にベッタリ張り付いている必要はないし、物音一つ立ててはいけないと神経質になる必要もない。
親は家事や仕事など自分のことをしていて構わない。気分が良ければ鼻歌くらい歌ってもいいし、大事な仕事のメールを書いているなら真剣な顔をしていたっていい。子供にしてみれば、不機嫌でなければなんだっていいのだ。お母さんが機嫌良く鼻歌を歌っていたら、子供の心も安心するし、親が真剣な表情で仕事をしている姿を見るのも、子供には良い刺激になる。
ただ、あまり自分のことだけに集中してしまわないこと。時折、子供の様子を伺い、頑張っている様子が見られたら「おっ、今日はやけに集中しているね。頑張っているね!」と褒め、子供が何か困っている様子が見られたら、「何か困っていることがあったら言ってね」と気にかけてあげる。このタイミング良く気づける距離感がいいのだ。特に子供の日々の小さな頑張りに気づいてあげられることが、リビング学習の最大のメリットだと言える。
また、子供にとっても、親に適度な距離で見守られているので、安心して勉強に取り組むことができる。つまり、本来はいいことだらけなのだ。

■きれいすぎるリビングは子供にとって居心地が悪い
ただ、子供にとって居心地のいいリビングと、居心地の悪いリビングがある。中学受験専門のプロ家庭教師として、これまでたくさんの家庭を見てきたが、私がいいなと思うのは、子供のモノがある程度散らかっているリビングだ。例えば、リビングの本棚に大人の本と子供の本がランダムに並んでいたり、ソファー横のテーブルに子供が集めたお宝のようなモノ(瓶の蓋やキレイな石など)が無造作に置いてあったりすると、「ああ、この子はのびのびと育てられてきたんだろうな」と安心する。
逆に高価な調度品がずらりと並んでいたり、または余計なモノがまったくないスタイリッシュな大人仕様の空間になっていたり、部屋の隅々まで神経質なまでに整理整頓されているリビングの家庭の子は、あまりイキイキしていないように感じる。そして、不思議なことに、そういう子はなぜか成績が伸びにくい。おそらく子供にとって「安心できる空間」になっていないからだろう。
■机と椅子の高さ、照明が勉強に合っているかは要確認
リビング学習を行う一番の良さは、子供の「心の安定」だ。自分がいつもリラックスできる場所で、大好きなお父さん、お母さんに見守られていると感じられるからこそ、勉強も頑張れる。ただ、リビングは学習環境としては、必ずしも適しているわけではない。ダイニングテーブルはそもそも食事をするための机であって、勉強をするための机ではない。そのため、机の高さが低かったり、椅子に足がつかなくてぶらぶらしてしまったりと、姿勢を崩しやすい。高さが合わない場合には、椅子の下に何かを敷いたり、足の踏み台を置いたりするなどして調整する必要がある。

また、リビングの照明は、大人がリラックスできるように落ち着いた明るさの照明になっていることが多い。くつろぐにはいいが、勉強するには暗すぎる。勉強に適した照明は昼光色だ。リビングの照明が暗くて、手元がよく見えないという場合は、スタンドを用意してほしい。または、LED照明をうまく活用しよう。最近のLED照明は、ボタン1つで昼光色、昼白色、電球色に切り替えることができる。子供が勉強するときは昼光色に設定するなど、シーンごとに照明を使い分けるのもいいだろう。
■小さいきょうだいがいる場合の対処法
リビングは家族みんなの共有スペースだ。だから、本来であればみんながリラックスできる場所でなければならない。ところが、歳の離れたきょうだいがいると、生活のリズムがなかなか合わない。
大人であれば、子供が勉強している時間はテレビや音楽をオフにするなどの配慮ができるが、小さいきょうだいがいる場合、上の子が勉強しているときに、下の子がテレビを観たがったり、ゲームをしたがったりして、揉めるケースも多い。そういうときは、もし大人の手が余っているなら、その時間帯に下の子を散歩に連れ出したり、別の部屋で遊ばせたりして、一時期「離す」のが理想だ。
ワンオペで難しい場合は、下の子にもお絵かきやパズルなど静かに取り組めそうなものをやらせてみるものいい。
■リビングの一角に勉強コーナーを作るのもおすすめ
歳がそれほど離れていないなら、例えば中学受験の勉強をしている上の子と一緒に、下の子には学校の宿題をやらせ、夕飯前の1時間は「勉強タイム」と設定しておくのもいいだろう。ただ、同じダイニングテーブルでやらせると、「肘がぶつかった」とか「俺の陣地に教科書を置くな」とかつまらないことでいざこざが起こりやすい。
そこで、場所を離すことをすすめる。おすすめはリビングの一角に勉強コーナーを作り、壁に向かって勉強をさせることだ。子供は自分の視界に何か余計なものが入ってくると、気が散りやすくなる。でも、目の前が真っ白な壁なら視界に何も入ってこないので、集中しやすい。
ただ、リビング学習にはこれが正解というものはない。各家庭によって、家族構成、親の働き方、部屋の間取りなども変わってくるので、「わが家のベスト」を探ってみてほしい。

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西村 則康(にしむら・のりやす)

中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員

40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。


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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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