■神奈川新聞の記者を退出させた理由
7月22日に参政党が国会内で開いた定例記者会見が話題になっている。会場にいた神奈川新聞の記者を、同党のスタッフが「事前登録」をしていないとして退出させたものの、2日後のプレスリリースでは別の理由を明らかにしたからである。

参政党は、当該の記者が、参院選期間中に「大声による誹謗中傷などの妨害行為に関与していたことが確認されています」とした上で、「今回の会見でも混乱が生じるおそれがあると判断し」たため、退出させたのだという(「神奈川新聞記者の定例会見への参加制限について」参政党ウェブサイト「お知らせ」2025年7月24日)。
毎日新聞は社説で、こうした参政党の対応を「説得力を欠く」とし、「報道機関の自律性を軽んじる参政党の姿勢がうかがえる」と批判して、次のように結論づけている。
報道の自由と知る権利の保障は、民主主義が機能するための基盤である。恣意的にメディアを選別するような振る舞いは決して許されない(毎日新聞2025年8月4日社説「参政党の記者排除 知る権利を軽んじている」)
■毎日新聞は「説得力を持つ」のか
参政党も当該の「お知らせ」で「報道の自由と国民の知る権利を尊重しつつ、健全な言論空間と秩序ある情報発信に努めてまいります」と述べているから、どちらも同じように見えるものの、毎日新聞に言わせれば、参政党は「説得力を欠く」のに比べて、自社は「説得力を持つ」のだろう。
しかし、説得力の有無は、誰が、どのように決めるのだろうか。よもや、メディアの側ではあるまいが、まさに、こうした「姿勢」こそ、参政党に勢いを与えてきたし、いまもなお与え続けているのではないか。
その背景にあるのは、少数政党をとらえきれていない「姿勢」である。毎日新聞の社説の表現を借りれば、「少数政党の自律性を軽んじるメディアの姿勢がうかがえる」のである。
今回の選挙で躍進したとはいえ、参政党は、参議院では15議席、衆議院では3議席に過ぎない。少数政党である。少ないから軽んじるべきである、と言いたわけではない。むしろ、参政党が言論弾圧しているかのように、メディアが過大視しているのではないか。

■参政党を「買いかぶっている」
毎日新聞は件の社説で、参政党の憲法構想案に「報道機関は、偏ることなく、国の政策につき、公正に報道する義務を負う」と記されている点をもって「何が『公正』かを国が決めるのであれば、報道の統制につながりかねない」と論じている。
繰り返すが、参政党は、比較第一党でもなければ、与党でもない。ましてや、その憲法構想案は、国会に提出されてもいない。夢物語、とまでは言えないけれども、実現するまでには、かなりの時間とステップが求められよう。
それなのに、あたかも既に同党が権力を握っているかのように扱っているのではないか。こうした見方は、果たして「公正」なのだろうか。「公正」ではない、と非難したいのではない。少数政党の「構想」について、実現していないどころか、あくまで「構想案」として示している段階で懸念を示す。そのスタンスは、参政党を過大評価するあまり、その自律性を、かえって軽んじているのではないか。
平たく言えば、まだまだ小さい政党なのだから、買いかぶらずに、帰趨を見守ってもいいのではないか。
■朝日新聞の認識は甘すぎる…
朝日新聞の杉山あかり記者は、参政党の支持者を60人以上取材して「見えたこと」として、「自分たちの方を向いていない既存政党への不信が、新興政党への期待をかき立てた。メディアもまた、既存政党と同じ側にいると見られているのかもしれない」と述べている(「(取材考記)口々に吐露 参政党支持、奥に社会への不安」朝日新聞デジタル2025年8月1日配信)。

認識が甘い、いや、甘すぎるのではないか。「既存政党と同じ側にいるかもしれない」ではない。「同じ側」を超え、「既存政党」よりも遥かに信頼されていない。たとえば、同党のインスタグラムのプロフィール欄には「メディアが語らない政治を参政党がわかりやすく発信中」(表記ママ)と書かれているからである。
同党の神谷宗幣代表のメディア不信は、一朝一夕ではない。筋金入りである。上智大学の奥山俊宏教授は、「新聞やテレビなどの既存のマスメディアに『騙されていた』と神谷が思うようになる原点は、21歳のときカナダに留学し、世界各国を旅した経験にあった」とした上で、自身によるインタビュー(2022年11月7日)から、神谷の次のことばを記している。
テレビや新聞が描いている世界は決して正しいものではないと思いました。(中略)わかりやすくいえば、だまされたような気持ちになった。そういうもの(テレビや新聞)を鵜呑みにしないように、もっと自分で考えよう、と思うようになりました(奥山俊宏「参政党など新興3政党とメディア:YouTubeなどSNSで支持拡大、新聞・テレビに矛先」『コミュニケーション研究』53号、2023年、96ページ)
■「メディアが語らない政治」
四半世紀以上にわたるメディア不信は、伊達ではない。新型コロナウイルスワクチンから歴史観に至るまで、神谷氏をはじめ同党の見解の多く、いや、ほとんどは「メディアが語らない政治」に当てはまる。
それらの見解をめぐって、たとえば、毎日新聞で日本近現代史を担当する専門記者の栗原俊雄氏のように「史実をきちんと認識してこそ、未来は開ける」として、逐一、「事実誤認」を指摘する姿は、メディアとしての理想なのかもしれない(〈気になる参政党の事実誤認 「信じたい歴史」の先にある闇〉毎日新聞2025年8月2日16時配信)。

けれども、こうしたメディアの振る舞いが、神谷氏の、そして、参政党支持者のメディア不信をますます強く固めているのではないか。
際たるものが、選挙期間中に放送されたTBS「報道特集」だった。
7月12日に放送した特集「外国人政策も争点に急浮上? 参院選総力取材」は、YouTubeでのタイトルを〈「選挙運動の名のもとに露骨なヘイトスピーチが」参議院選挙 急浮上の争点“外国人政策”に高まる不安の声【報道特集】〉と変更し、アップロードされている。
■TBSの「問題提起」がもたらしたもの
とりわけ注目されたのが、VTRを受けたキャスターの山本恵里伽TBSアナウンサーによる次のコメントである。
実際、外国籍の人たちとまったくかかわらずに生活をしている人って、実はほとんどいないと思うんですよ。学校の友だちだったり、職場の同僚だったり。自分の一票が、ひょっとしたらそういった身近な人たちの存在を脅かすものになるかもしれない。これまで以上に想像力をもって投票しなければいけないなと感じています。
参政党のキャッチコピー「日本人ファースト」をめぐる内容について、同党は、「著しく公平性・中立性を欠いた内容」だとし、TBSに「放送内容の可及的速やかな検証と訂正を求める申入書を提出」した(「TBS『報道特集』の偏向報道に関する申入れと今後の対応について」参政党ウェブサイト2025年7月14日)。
TBSは同党に「排外主義の高まりへの懸念が強まっていることを(中略)問題提起したもの」と答えており、参政党(が議席数を増やすこと)への懸念も示したのだろう。同社は「この報道には、有権者に判断材料を示すという高い公共性、公益性がある」と回答した。その「判断材料」をもとにした結果が、参議院選挙で参政党が獲得した議席数にほかならない。

社会学では、良かれと思った行為が逆効果を及ぼす場合を「行為の意図せざる結果」と呼ぶ。それを絵に描いた展開ではなかったか。
■「日本人ファースト」と「都民ファースト」
月刊誌『正論』の匿名コラム「折節の記」は、先に挙げた「報道特集」での山本アナウンサーのコメントが「明らかに参政党に投票しないよう公共の電波で呼びかけたも同然だった」とした上で、「皮肉なことに世間の耳目を引いたばかりか、支持者が結束する効果を生んだ」と述べている(「参政党を躍進させたのは石破茂首相とTBSでは?」『正論』9月号)。
支持者は当然として、同党支持者以外の、無党派層や、他党支持者に向けても、参政党の主張が、逆に、それほど危険ではないように見えたのではないか。山本アナウンサーの言う「身近な人たちの存在を脅かすものになるかもしれない」というよりも、「日本人ファースト」は、当たり前を言語化しただけのようにとらえられたから、多くの人が票を投じたのではないか。
神谷氏は、「素朴な疑問として、『都民ファースト』はよくて、なぜ『日本人ファースト』はダメなのでしょうか」と問いかけている(「我、かく戦えり」『月刊Hanada』2025年9月号、49ページ)。この違いについて、地域政党「都民ファースト」の顧問を務める作家の乙武洋匡氏が、インスタグラムの動画で解説しているが、これもまた、逆効果だろう。
「日本人ファースト」は差別で、「都民ファースト」とは異なる、と強調すればするほど、反対に、参政党の安全さやマイルドさが際立つだけではないのか。「差別はいけない」といった、お決まりパターンの優等生的な言い方は、有権者の共感を得るどころか、反発されたり、無視されたりして、メディアへの不信感が募ったのではないか。
その結果が、6月の東京都議会議員選挙であり、7月の参議院選挙であり、何より、全国の地方議会における参政党所属議員の増加ではないのか。
■「メディア不信」の行き着く先
私は、ここで、参政党を褒めたいわけでもないし、貶したいわけでもない。それよりもメディア不信の高まりを懸念しているのである。

今回ほど、メディアが議席予測を大きく外した選挙はなかった。その原因は、取材力や票読みの能力が衰えただけではないだろう。何より、世論調査や出口調査そのものが機能していないからではないか。
なぜ機能しないのか。自動通話(RDD)をはじめとする調査手法の限界もあろうけれども、何より、メディアが信じられていないからではないか。メディア不信が高まれば高まるほど、まともに調査に答えてくれる有権者は減るばかりだし、調査結果が外れれば外れるほど、さらにメディア不信が高まる。この悪循環は、もはや止めようがない。
参政党の躍進が教えてくれるのは、TBSが憂うる「排外主義の高まりへの懸念が強まっていること」というよりも、メディア不信の行き着く先なのである。

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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)

神戸学院大学現代社会学部 准教授

1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。
専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。

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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)
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