いつまでも仲のいい夫婦でいるためにはどうしたらいいのか。夫婦関係コンサルタントの山本久美子さんは「15万人の子育て世代とのコミュニケーションでわかったのは、夫婦がワンチームであることの大切さだった」という――。
(第1回)
※本稿は、山本久美子(じママ)『人生が圧倒的にラクになる! 夫婦ONE TEAM思考』(講談社)の一部を再編集したものです。
■パートナーとの楽しい老後が想像できない
皆さんは、パートナーと二人だけで楽しく過ごしている老後を想像できますか?
例えば、子どもが巣立った後、二人だけの食卓で会話が弾んでいる姿や、散歩をしながら笑い合っている姿、定期的に旅行に行く姿をイメージできるかどうかです。
私のInstagramのフォロワーさん15万人を対象としたアンケート調査で、この質問をしたことがあります。※令和6年9月実施。
「想像できない」と回答した人の理由は以下の通りです。
〈夫との楽しい老後が想像できない理由〉

・本当に何もしない夫なので、お金すら稼がなくなった時に世話する理由がない。

・フキハラ(不機嫌ハラスメント)がひどいので、「老後」の単語を見るだけでゾッとする。

・妻に隠れてギャンブルでお金を使い込んでいたことが発覚し、信用できない。

・子どもの話題以外で話すことがない。

・何かを相談しても、相槌程度でスルーされる。

・夫はYouTubeに夢中で、夫婦間に会話がない。

・いつまでも独身気分、自分本位な夫に愛想を尽かしている。


その時のアンケートで対象となった既婚女性は、長くても結婚10年に満たない方が多いのですが、ここで疑問が一つ。この10年の間に、一体何が起こったのでしょうか?
■徐々に関係が悪くなる夫婦の共通点
結婚当初の状況を思い返してみてください。「大好きな人だから、一生一緒にいたい」そんな気持ちで、世界に38億~39億人もいる異性の中からパートナーを選んだはずなのに、それがたった10年という年月で、36%もの人が「楽しい老後を想像できない」という心境になり、その一部は敵意を向けるほどの相手に変わってしまっているのです。
年を重ねるにつれて関係がうまくいかなくなる夫婦の共通点として、「結婚当初にするべきだった物事のすり合わせがなされていなかったこと」があげられます。
なんとなくその場の流れで切り抜けたり、ちょっとした問題や不満から目をそらしていても、ある程度のところまではやっていけるでしょう。しかし、言いたいことを我慢したり、納得できなくても飲み込んでいると、積もりに積もって耐えきれなくなる時期がやってきます。特に子どもが生まれた後に、関係が悪化するケースが多いようです。
夫婦で揉めがちな金銭的なことや義実家への帰省、介護、お酒の飲み方等、踏み込んだ話題について、お互いに腹を割って話せていますか? こんな風に話題の難易度が上がるほど、「そういえばこれはできていなかったかも」とハッとする人たちが増えていくのです。
■“共通の目標がないこと”が問題の根本
新婚時代は結婚式やハネムーンなど楽しいイベントが多く、シビアなお金の使い方を話し合ったり、ましてやお財布事情を開示するような、ともすると空気が悪くなる会話を切り出すのは正直面倒。避けたくなる気持ちも理解できます。
しかし、目を逸らしたくなるような課題に対して、結婚当初にいかに感情的にならずに話し合える体制を作れるか、つまり夫婦ワンチームができる状態を作り上げられるかが、ストレスの少ない夫婦生活への重要材料だと私は考えます。「いざとなったら話せば良い」と後回しにしていると、その溝がどんどん深まっていくのです。

こうした結果が今の日本人夫婦の離婚率の高さに表れています。「こんな人だと思わなかった」「価値観が合わない」「一緒にいても話すことがない」と約3組に1組のカップルが実際に離婚を決意しているのです。また、離婚こそしないものの、結婚生活やパートナーにイライラ・モヤモヤを抱えながら過ごしていく人も少なくありません。
私はこの問題の根本がどこにあるのかを数年かけて考えてきました。そして、15万人の子育て世代とのコミュニケーションから辿り着いた答えは、「夫婦共通の目標がないこと」でした。
■夫婦は「ワンチーム」である
2017年の冬、ハワイで結婚式を挙げた私たち夫婦は、披露宴の席で「どんな夫婦になりたいか」を聞かれるシーンがありました。喧嘩なく過ごすこととか、いつまで経ってもラブラブで……といったことを想像しながら、隣にいた夫に「私たちってどんな夫婦になるのかな?」と聞いたところ、「うーん、ワンチームじゃない?」と言ったのです。私たちはそのワンチームという言葉を、フォトプロップスに書いて写真に収めました。
「ONE TEAM(ワンチーム)」という言葉はラグビーW杯で有名になり、2019年に流行語大賞を受賞しましたが、流行る前から私たち夫婦の中では当たり前の言葉となっていたのです。
それから私たちは実際にワンチームの思考に基づいて行動していった結果、夫婦関係だけでなく子育てや実父母、義父母を含む家族関係、そして仕事にも良い影響を与えていきました。
「ワンチーム思考」とは、共通の目標を持ち、お互いがその目標を心の底から納得している状態であり、その目標達成に向けて自分たちのリソースを余すところなく投入して、最短で結果を出すのに必要な思考です。
ワンチーム思考は夫婦関係に限らず、人間関係において幅広く活用できますが、本書では夫婦に焦点を当てて話をしていきます。

■目指す方向を決めることで会話が増えていく
夫婦関係を構築する上で、「話し合いが大切」と伝えてきましたが、多くの皆さんが悩む問題点として、以下の2つがあがってきます。
・会話のトピックがない(何を話せば良いのかわからない)

・会話が成り立たない(怒る・無視する・嚙み合わない等の理由で会話が成立しない)
これらの問題の根本は、夫婦共通の目標がないからだと私は考えます。
どんな夫婦になっていきたいか、100年ライフにどのようなビジョンを持っているか。たらればの話でも良いのでディスカッションが続けられるようになると、夫婦で目指したい人生のビジョンが明確になったり、相手の意外な一面を知ることができたりします。そして、目標が定まれば、達成するための会話が自然と増えるでしょう。
「夫婦のビジョンを明確にする」と聞くとハードルが高く感じるかもしれませんが、わかりやすくたとえるなら「結婚式」です。
結婚式は「二人で一丸となり良い式にする」という共通の目標を持つイベント。結婚式までの道のりは楽しいことばかりではなく、お互いぶつかることや喧嘩になることもあったはずです。それでも、夫婦共通の目標のために一緒にやり切る考え方、そして歩みこそが「ワンチーム思考」というわけです。
■「どんな家族になりたいか」を決めよう
手の込んだ結婚式であればあるほど、相手が何に対して重きを置くタイプか、またお金の面などの考え方も見えてきます。お互いの価値観を理解し合い、歩み寄って形にするイベントとして、結婚式というものはとても有効だと思います。結婚式の話し合いで感じた不一致から、結婚をやめたという人だって世の中にはいるくらいです。

よくある子育てについてのお悩みも同様です。「将来どんな家族になりたいのか」「子どもをどのように育てていきたいのか」「どんな大人になってほしいのか」そういった話し合いや意見の積み重ねをすることで初めて、夫婦それぞれの教育に対する考え方が見えてきます。
そこで導き出した「家庭内で基盤となる軸=目標」があれば、選択肢も限られてきて、習い事をどうするか、受験に挑戦するかなど、あれもこれもと定まらない状態は回避できます。
特に子育ての中で、「義父母がそう言っている」「周りのお友達は」「先生方は」のように第三者の発言を基準に話が進んでいるケースをよく目にします。ですが、大事なのは「夫婦としてどうありたいのか」という共通の目標です。
■お互いが納得できていればうまくいく
その土台をいま一度見つめ直すことで、第三者の発言は参考意見でしかなく、また周りの意見は目的を達成するための助けになる要素の一つに過ぎないことがわかってくるでしょう。
このように、共通の目標さえ決めてしまえば、お互いに目標達成のために、ひいては理想の人生を過ごしていくために、どうするかを話し合えば良いだけ。非常にシンプルですよね。
目標を持つことに加えて、夫婦共に目標に納得していることが大切です。
仕事においてもそうですが、「会社が決めた目標だから」「上司がそう言っているから」と、他人が主語になっている間は、本人にとってはまったくの他人事。目標達成に本気で取り組むはずがありません。それは夫婦、家庭においても同様です。

そして納得する、させるためには夫婦の会話が必須です。「納得する」と聞くと、どちらかが相手に全部譲らなければいけないとか、相手を言い負かさなければならないように思うかもしれませんが、それは違います。
お互いが納得できる落とし所を会話を通じて探っていきながら、二人の方向性を決めていけば良いのです。

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山本 久美子 (やまもと・くみこ)

ジーアンドアーク代表

1985年生まれ。「夫婦ONE TEAM」を目指すオンラインサロン「G's Community」や、生涯ワンチームでいられるパートナーに出会える結婚相談所「G's Agency」を主宰し、夫婦ONE TEAM思考の普及に努め、人生100年を夫婦で乗り切るためのコンサルティングを行う。「何でも話せる赤の他人のママ友」をキャッチフレーズに、夫婦ワンチーム思考や子育て情報を発信するInstagram(アカウント名:じママ/@gmamanoikuji)はフォロワー14.8万人(2025年3月11日時点)と子育て世代の夫婦から絶大な支持を集める。夫・小1の長男の3人家族。

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(ジーアンドアーク代表 山本 久美子 )
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