ついしてしまう礼儀を欠いた行動とは何か。プロ司会者で作家の鹿島しのぶさんは「自分の行動が相手に及ぼす影響について深く考えていない人は報告を怠ったり優柔不断な態度を取ったりしがちだ。
これらを繰り返せば、やがてまともなアドバイスはもらえなくなるだろう」という――。
※本稿は、鹿島しのぶ『ワンランク上のおとなの礼儀』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■報告を怠る人が案外少なくない
「礼儀正しさ」は、周囲に信頼感を与え、仕事のチャンスを広げますが、忘れてはいけないことがあります。
それは「報告の大切さ」です。
たとえば、何か相談してアドバイスをしてもらったとき、お礼の気持ちを伝えることも大切ですが、その結果がどうなったかを報告することも欠かしてはいけません。でも、報告を怠る人が案外少なくないのです。
私の後輩の司会者のなかにも、報告をないがしろにする人がいました。何かわからないことがあったとき、聞くだけ聞いたあげく、どうなったか結果を報告してこないのです。
私のほうは「今日の本番は、ちゃんとうまくいったかな」と気にかけていても、次の日にも報告がない――。
そんなとき、私のほうから「どうだった?」「うまくいったの?」「心配していたのよ」と連絡します。
すると、「あ、すみませんでした、報告すべきでした」といって少しの間は直るのですが、すぐまた同じことを繰り返してしまいます。
私は、そのつど注意するようにしていましたが、なかなか報告することの大切さを理解してもらえず、残念に思ったものです。

ふつうの会社で、そこまでいってくれる人はなかなかいないでしょう。「どうせ、あの人からはリアクションがないのだからほっとこう」ということになり、まともなアドバイスはしてもらえなくなるでしょう。
■未解決の状態がだらだらと続く状態に
そもそも、何か聞かれたときに真剣にアドバイスすればするほど、その結果がどうなったか気になるのが人の常です。
アドバイスを受けたほうにしてみれば、問題が片づけば、一件落着といったところですが、アドバイスしたほうにしてみれば、未解決の状態がだらだらと続くことになります。
そのことに考えが及ばず、結果をまったく報告しないで放置するのは、相手の気持ちを無視した、非常に礼を失する行為といえるでしょう。
こういった「人間関係の機微」というものを理解してほしいのです。
誰かに何か相談をしてアドバイスを受けたときには必ず「結果」を報告する。うまくいったときはもちろん、うまくいかなかったときもです。
きちんと報告してはじめて決着するのだ、ということを忘れないようにしてもらいたいものです。
■優柔不断とは相手のことを考えていないことに
何事につけ優柔不断な人には、残念ながら全幅の信頼を寄せることはできないと、私は思います。
何かを依頼しても、なかなか返事がなかったり、「考えておきます」とあいまいな言葉しか返ってこなかったりすると、不安になり、イライラすることさえあります。
優柔不断な人は、慎重な人ともいえますが、厳しい見方をすれば、じつは自分の行動が相手に及ぼす影響について深く考えていない人なのだと思います。

仕事でもプライベートでも、「できるものはできる」「できないものはできない」と、できるだけ早くはっきりさせること。どうしてもすぐに結論が出せそうにないときには「いつ頃まで待ってほしい」と最初に伝えておくべきです。
それが相手に対する気遣いというものでしょう。
イエスであれ、ノーであれ、待ってほしいであれ、何事にもすばやく対応する人には礼儀正しさを感じます。それは、その人が相手のことまでしっかりと考えて行動しているとわかるからだと思います。
たとえば仕事関係で何か打診があった場合は、依頼してきた相手の立場に立って「なるべく早く返事をしないと依頼してきた人が困るだろう」とか「自分が返事をしなかったら大変なことになってしまうんだろうな」ということまで慮るべきです。
そうすればおのずと、はっきりとした返事を早めに出すことができるでしょうし、相手には礼儀正しい人と感じてもらえるでしょう。
■一人で考えていると時間だけが経過してしまう
迷ったとき、一人で考えていると時間だけが経過してしまいなかなか結論を出せないこともあります。そんなときには、しかるべき人に相談することをおすすめします。
リスクを考えたり、自信がなかったりするから迷うわけです。
誰かに相談すれば、背中を押す一言を発してくれるかもしれませんし、ときには、自分では考えつかなかったリスクを指摘されることがあるかもしれません。
いずれにしても、判断材料の一つになり得るわけで、一人で思い悩み、行ったり来たり堂々めぐりを繰り返すより効果的だと思います。

優柔不断な言動は、自分が思っている以上に人に迷惑をかけてしまう、礼儀を欠く行為です。そのことをしっかり認識して、ちょっと先を見て、行動し、気配りができれば、信頼度は断然アップすることでしょう。
■安易に言葉を崩すべからず
人によって、態度や言葉遣いが極端に変わる人がいますよね。
世の中には有形無形の上下関係が存在していますから、相手によって接し方を変える必要があるのは当然です。
でもそれも程度の問題。あまりにあからさまだと周囲を不快にさせてしまいます。
そればかりではありません。結果的に「あの人はいつも損得勘定で人と接している」とか「ずるがしこい」などと見なされ、嫌われることになりますから十分に気をつける必要があるでしょう。
とはいうものの、どんな人とも同じように接すればいいというわけではありません。やはり、その場に合わせ、相手の立場を考えた礼儀が必要です。
一方、私が仕事場としているホテル・ブライダル業界では、どんなお客様にも等しく丁寧な対応が求められます。
結婚する人たちが20歳であれ、50代であれ、医者であれ、政治家であれ、芸能人であれ、会社員であれ、同じです。

また、フリーランスであれ、学生であれ、大企業の経営者であれ、自営業の人であれ、年齢や職業・職種に関係なく、すべて同じスタンスで、丁寧に接し、敬語を使うのは当たり前のことです。
ところが最近、結婚式場によっては、フランクな雰囲気を演出しようとしてなのか、お客様に対して、あえて親しい友人同士のような「タメ口」で接するスタッフが出てきたのです。
私はどうしても違和感を覚えてしまいます。聞いていて不快だし、無礼だなと思うのです。
フランクな雰囲気をつくるにも、やはり言葉遣いは基本的に敬語です。そのうえで、時折、親しみのある言い方をするのはいいでしょうが、使い分けはきちんとしなければいけないと思います。安易に言葉遣いを崩してはいけません。
■言葉遣いはその人の姿勢を表す鏡
人によって態度を変えるのは失礼ですが、一律にタメ口というのは、きわめて無礼です。
意思疎通をスムーズにするために、たとえば社内で敬語を禁止したほうがいいという人もいるようですが、それでも最低限度の礼儀は守らなければうまくいきません。相手に敬意を払っていれば、おのずと敬語を使うことになるでしょう。
言葉遣いはその人の姿勢を表す鏡です。礼を尽くすためにも、ビジネスシーンでは、基本的には、敬語を使うべきでしょう。
人によってあからさまに態度や言動を変えるなどは、論外です。

----------

鹿島 しのぶ(かしま・しのぶ)

プロ司会者、作家

白百合女子大学文学部英語英文学科卒業後、会社員を経てプロの司会者として活動を開始。(株)総合会話術仟言流の代表を務め、ブライダルプランナーの役割も兼ね備えたプロ司会者の育成にも力を注いでいる。また、2017年まで駿台トラベル&ホテル専門学校ブライダル学科長を務め、ブライダル関連、接遇会話、ビジネスマナーの授業を担当した。『「また会いたい」と思われる人』『「品がいい」と言われる人』『99%人に好かれる「礼儀正しい人」』(以上、三笠書房)など著書多数。

----------

(プロ司会者、作家 鹿島 しのぶ)
編集部おすすめ