組織の成長には何が必要か。プロ司会者で作家の鹿島しのぶさんは「企業によっては、社員への情報共有がうまくできなくて、伸び悩んでいるところが少なくない。
しかしそれでは、社員は状況がわからないまま働かされているようなもので、やりがいも感じないし、そもそもやる気を維持することも難しい」という――。
※本稿は、鹿島しのぶ『ワンランク上のおとなの礼儀』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■社長が社員に礼を尽くす会社は必ず伸びる
会社経営者にもいろいろなタイプの人がいます。自分がトップに立って、みんなをぐいぐい引っ張っていくタイプの人もいれば、部下との意思疎通を図り、まわりを上手に使って業績を伸ばしていく人もいます。
そんななか、松下電器の創業者で、経営の神様といわれた松下幸之助は、次のような言葉を残しています。
「経営者は、社員に経営の成果を知らせる責任がある。社員の働きがあればこその成果である以上、それが社員に対する礼儀というものだ」
この言葉には、松下幸之助の、社員に礼儀をもって寄り添おうとする姿勢が明確に示されていると思います。
その礼儀の一つが、社員に経営の成果を知らせるということであり、言葉を換えれば、細かに連絡を取り合い、情報を共有することが大切だということでしょう。
そして松下幸之助の言葉が着実に実践されたからこそ、松下電器では経営者と社員、上司と部下、そして同僚同士の情報共有が実現され、いまのパナソニックにつながる歴史が創り上げられたのだと思います。
■上から下にちゃんと連絡がいかず一方通行
最近では、星野リゾート社長の星野佳路さん。倒産確率を社員に発表していることが話題になりました。社員がチームとなって自律的に動くことで高い実績を上げている星野リゾート。

星野社長は、コロナ禍において、経営の内容を社員に正確に伝え、社員一人ひとりが経営の動きを知ることが会社を強くするという考えから取った方針だと語っています。
しかし、企業によっては、こうした情報共有がうまくできなくて、伸び悩んでいるところが少なくないようです。下に対してはやたらと報告を求めるのに対し、上から下へは情報が下りてこないというケースをよく耳にします。
特に絶対的なカリスマ経営者が上に立つ新興の企業にその傾向が強いようで、上から下にちゃんと連絡がいかず、一方通行になっているといいます。
でもそれでは、社員は状況がわからないまま働かされているようなもので、たいへん失礼な話です。社員はやりがいも感じないし、そもそもやる気を維持することも難しいでしょう。
また、どんなに能力のある経営者でも、自分一人ではすぐに限界に至ります。多くの新興企業が新たなビジネススタイルでもって次々と登場してきますが、一時的には注目されるものの、そのなかで存続し続けるのはごく一部にすぎません。多くはいつの間にか消滅していきますし、他企業に吸収合併されるケースがほとんどです。
誕生した企業が成長を続けるためには常に変革していくことが必要です。そしてそのためには社内での情報共有が大切だということでしょう。
■都合が悪い情報はついつい隠そうとする
そもそも、こまめに連絡する人を評価しない人はいません。
きちんと連絡できる人はまわりの人に安心感を与えますし、多くの情報を共有する立場を与えられます。その結果、より重要な役割を任せられるようになるのです。
ただし、いうまでもありませんが、連絡を取り合ったり、情報を上げたりするときは、正しい情報を上げることが大切です。
人は往々にして、自分にとって都合のいい情報は声高に伝えますが、都合が悪い情報はついつい隠そうとしてしまうものです。そんなことを繰り返していると、その人の情報に対する評価はどんどん下がってしまうばかりですし、その人自身に対する信頼も地に落ちてしまいます。
まして部下を持つ人は、部下の功績を正当に評価して、それをきちんと報告するべきです。部下の手柄を横取りするなんてことがあってはなりません。
そういう意味では、経営者が一番、連絡の大切さ、情報共有の必要性を自覚する必要があるのかもしれせん。
■自分のことばかりではなく、チーム全員のことを
段取りが上手な人は「時間を大切にしたい」という気持ちを強く持っている人です。
同じ成果を上げるのに、わざわざよけいに時間をかけたがる人なんていないでしょう。それより上手に段取りをつけてスムーズに終わらせたほうがスマートですし、自分の時間をより多く確保できることにつながります。
一人でやらなければならない仕事の場合、段取りをつけるのは比較的簡単です。
自分の力量もわかっていますし、どうすれば最も早く作業を進められるかも経験値でわかっています。
また、自分ががんばれば、がんばるだけ早く作業を終わらすこともできるのですから、いわば自己完結できる世界です。
しかし、チームで仕事をするときはそうはいきません。自分のことばかり考えていては、うまく段取りをつけることはできないでしょう。何よりチーム全員のことを考える力が求められます。
そもそもチームを組んだ場合、それぞれの持つ経験値や能力値はさまざまです。ですから、まずそうした諸条件を把握したうえで、早めに予定を立て、「自分はいついつがOKだけど、あなたはどう?」と、各人と擦り合わせていかなければなりません。
■礼儀正しい人の「段取り力」
そのとき必要になるのが、自分のことだけではなく、相手のこともしっかり考えられる力=「調整力」です。
この調整力とは、けっして相手に押しつけるような強制力を意味するものではありません。
必要なのは「礼儀」です。みんなの要望をきちんと汲み取りつつ、うまく調整して、作業全体がスムーズに進められるように道筋を通し、段取りをつけることが求められます。これはかなり難しい仕事です。

でもだからこそ、段取り上手で実績を上げた人は、自然にまわりの人から頼りにされるようになります。
そして、そんな人がつくった段取りなら、自分の都合は多少融通してでも従っていこうと思ってもらえるようになるのです。
繰り返しになりますが、段取り上手の根底にあるのは、自分のことだけを考えず、まずみんなのことを公平に考えるという「礼儀正しさ」です。
それがあるからこそ、みんなの協力も得られ、いつもスムーズに仕事が進められるようになるのです。
■「根回し」も、大事な礼儀の一つ
「段取り上手」な人は、じつは「根回し」のうまい人でもあります。根回しというと、すぐに「面倒くさそう」という人や、裏工作的なイメージを思い浮かべて眉をひそめる人がいます。
根回しにはたしかにそういうネガティブなイメージもありますので、ここでは、「筋を通す」と言い換えましょう。
仕事では常にきちんと「筋を通す」。そうすることで、よりストレスなく仕事を進められるし、成功の可能性が高まります。
どんな仕事であっても他人がからんでくるものです。そのとき、相手が自分に対してどんな感情を抱くかで、その後の状況が変わってきます。
たとえば、ある仕事を誰にも内緒で進めたとします。
そのとき、上司や同僚がいい感情を抱くでしょうか。
おそらく、マイナスの印象しか抱きません。自分たちの存在が軽く見られたとか、おろそかにされたと感じてしまうからです。
たとえばあなただって、何かの会議に出たとき、他のみんなはすでに知っていて、自分だけ知らされていなかった案件が全員一致で決まったりしたら、「え、私だけ除け者なの!」と強い疎外感を覚えるでしょう。それと同じことです。
筋を通さずに仕事を進めた人に対するマイナスのイメージは、すぐに不信感へと変わります。
そして、その人についつい非協力的な姿勢を取ったり、ときにはたいした理由もなく反対意見を出したりするようになり、その後は、その人を会議に呼ばないとか、必要な情報を共有することさえ拒否する、といった行動に出る可能性がないとはいえません。
■独断専行に走ると、足元をすくわれかねない
だから、最初に“筋”を通しておかなければなりません。
まずは自分に近い上司や同僚に話してアドバイスをもらいましょう。報告や相談をするかたちで足元の地固めをして、自分に協力してもらえる体制をつくってから事を先に進めるのです。そうしておけば、さらに上のレベルでの決裁がラクになります。
イノベーションは日々の仕事のなかに』(英治出版)という著書を持つパディ・ミラー(IESEビジネススクール教授)は、「イノベーションには社内政治が不可欠である」と述べています。

社内政治というと、なんだか難しそうですが、早い話、「きちんと筋を通すのが組織のオキテであり、それが礼儀なのだ」ととらえておけばいいでしょう。
いい話が舞い降りてきたとき、自分を認めさせるビッグチャンスだとばかりに独断専行に走ると、足元をすくわれかねないのでくれぐれもご用心を。

----------

鹿島 しのぶ(かしま・しのぶ)

プロ司会者、作家

白百合女子大学文学部英語英文学科卒業後、会社員を経てプロの司会者として活動を開始。(株)総合会話術仟言流の代表を務め、ブライダルプランナーの役割も兼ね備えたプロ司会者の育成にも力を注いでいる。また、2017年まで駿台トラベル&ホテル専門学校ブライダル学科長を務め、ブライダル関連、接遇会話、ビジネスマナーの授業を担当した。『「また会いたい」と思われる人』『「品がいい」と言われる人』『99%人に好かれる「礼儀正しい人」』(以上、三笠書房)など著書多数。

----------

(プロ司会者、作家 鹿島 しのぶ)
編集部おすすめ