■「Aさんのチャット、読むのがしんどいです」
あなたの職場に、やたらとチャットの文章が長い人はいませんか?
今回は、あるITコンサル企業でおきたケースをご紹介いたします。
登場するのは、37歳の男性社員・Aさん(入社14年目)。新卒からずっと勤め上げてきた生え抜きで、30代前半で管理職に抜擢されました。技術力もあり、「説明が丁寧」という評価も一部では得ています。
ところが、ある日部下のBさん(20代女性、入社2年目PMアシスタント)から「Aさんのチャット、読むのがしんどいです」と人事に相談がありました。
実際のやり取りを一部抜粋すると、次のような内容でした。
■1500文字も書いて結局、何が言いたいの?
【Aさんのチャット(抜粋)】
お疲れ様です。○○についての件ですが、私なりに以下のように考えております。
まず背景としては~(500文字続く)……。また、リスクとしては○○と△△があり、それを回避するには……。ただし以前の案件においても同様の指摘がありましたので、それも加味すると……(さらに800文字続く)
とにかく長い。
しかも「結局何が言いたいのか分からない」とチームメンバーの不満は積もるばかり。
実はこのAさん、チャットだけでなく、メール・議事録・会議でも常に“情報過多”。
本人は「自分なりの丁寧さ」や「抜け漏れのない報連相」を心がけているつもりでしたが、チームの生産性は明らかに低下していました。
これこそが、“優秀そうに見えて実はそうでもない”タイプの典型例。そして、組織を静かに疲弊させる存在――つまり、「モンスター社員」の可能性があるのです。
モンスター社員とは何なのか、上司のどういった言葉遣いや行動を部下は嫌がるのか、当記事で事例とともにお伝えします。
■「モンスター社員」6つのチェックポイント
まず、モンスター社員とは、以下のように定義しています。
「表面上はまじめ・優秀に見えるが、周囲を巻き込んでパフォーマンスを低下させる社員」
必ずしも悪意はなく、むしろ“自分は正しい”という確信があるのが厄介なところです。
Aさんのような社員は、一見すると「熱心」「責任感がある」と評価されやすいです。
しかし、周囲はAさん仕様の業務スタイルに付き合わされ、徐々に疲弊し、チームとしての効率・スピード・雰囲気がすべて悪化する中、本人は「頑張ってるのに、なぜ評価されない?」と被害者意識を持ち始める――。
これが、モンスター社員化のスパイラルです。
■「全部伝えよう」という理想と現実
モンスター社員の多くは、「悪意がない」のが特徴です。
むしろ「ちゃんとやらなきゃ」という過剰な義務感や責任感が根底にあります。
「良かれと思ってやっていること」が、周囲にとっては非効率・ストレス・摩擦の原因になってしまいます。
Aさんは、若手時代に「報連相が足りない」と厳しく叱責された経験から、丁寧さを大事にしていた。誰よりも責任感が強く、抜け漏れのない資料作成には定評がありました。
なぜチャットを長くしてしまったかというと、「背景や理由を全部伝えないと、誤解されるのが怖い」という不安があったから。
一方、受け取る側は「で、何をすればいいの?」と混乱するばかり。この“伝えたつもり”と“伝わっていない現実”のギャップが、組織のパフォーマンスを阻害します。
■理想的なチャット例を職場で共有する
Aさんのようなモンスター社員にならないために、私たちは個人として、そして組織として何に気をつければいいのかをまとめました。
モンスター社員化しないための5つのポイント
① 結論を最初に書く(PREP法など)
② 1チャット=1トピックに絞る
③ 「伝わること」がゴールと心得る
④ 相手の理解度・立場を意識する
⑤ ときには「手放す」ことも選択肢に
組織としてできる5つのこと
・チーム内での「適切な情報共有の型」を定義する
・「伝えるスキル」研修の実施
例:PREP法、1メッセージ=1アクションなどの原則を共有
・フィードバック文化を根付かせ、定期的な場をつくる
(評価面談だけでなく、月1回の相互フィードバックなど小さな仕組みが重要)
・「完璧より、共有・連携が大事」と繰り返し伝える
・ロールモデルを可視化する
理想的なチャット例や、簡潔な資料の共有で文化を定着させる
■優秀さは他人に“伝わってこそ”意味がある
モンスター社員とは、他者との感覚のズレを抱えたまま仕事を進めてしまう人とも言えます。ひとりひとりが「自分の常識は、相手にとって非常識かも」と立ち止まり、“伝わる・協働できる”ことに重きをおけるかが、これからのチームにとって非常に大切です。
Aさんのように、知識も実力もあるのに、なぜか「チームとして成果が出ない」人は、意外に多く存在します。
その背景には、「伝え方」や「関わり方」への意識の低さがあります。
テレワークやハイブリッド勤務が当たり前になった今、「伝え方」そのものが成果や信頼関係に直結する時代です。もはや、対面の空気感で“なんとなく伝わる”ことに甘えることはできません。「長すぎるチャット」や「独善的な完璧主義」は、単なる個人の癖ではなく、組織としてのリスクでもあるのです。
「丁寧さ」と「冗長さ」は紙一重です。「完璧主義」と「独善的」はすぐに隣り合う。
優秀に見える人ほど、“自分の働き方が他者にどう影響しているか”を問い直す必要があるのです。
あなたの周囲にはいませんか?
あるいは――自分自身が、少しずつその傾向を持ち始めてはいませんか?
長文のチャットが相手への「配慮」から「負担」になる前に、いまこそ、相手への“伝える力”を見直すときなのかもしれません。
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清水 康一朗(しみず・こういちろう)
ラーニングエッジ代表
1974年生まれ、静岡県浜松市出身。98年慶應義塾大学理工学部卒業後、人材業界のベンチャー企業に入社。2000年、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。2003年にラーニングエッジ株式会社を設立。コンサルで学んだマーケティングや顧客管理のノウハウをベースに、業界最大のポータルサイト「セミナーズ」を立ち上げ、教育の流通に努めている。
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(ラーニングエッジ代表 清水 康一朗)