■日本で広がりつつある「ジャパニーズ・ファースト」
「まさか日本でもトランプ現象が?」――2025年7月の参院選で躍進した参政党に、米メディアが注目している。「ジャパニーズ・ファースト」を掲げ、移民や多様性に懐疑的な姿勢を取るこの新興政党は、アメリカを席巻したポピュリズムの“日本版”なのか? 米メディアの報道を読み解くと見えてくるのは、日本がいま直面している「分断」と「不満」だ。
アメリカを反面教師とするなら、私たちは何を学ぶべきか。
2025年7月に行われた参議院選挙は、これまでになく多くのアメリカメディアの注目を集めた。その背景にはいくつかの理由がある。
まず、日本がアメリカとの関税交渉の真っ只中にあったこと。そして、与党・自民党の歴史的な大敗が予想されていたことだ。
これは、戦後70年以上にわたり続いてきた日本の政治的安定が、大きく揺らぐ可能性を意味していた。その結果、アメリカを含む世界経済にも影響が及ぶのではないかと懸念されていたのだ。
■トランプのMAGAムーブメントと驚くほど似ている
そしてもう一つ、米メディアが大きく取り上げたのが「参政党」という新しい勢力の台頭だった。短期間で急成長したこの政党の存在感は、アメリカでトランプが率いた「MAGA(Make America Great Again、アメリカを再びグレイトな国に)ムーブメント」や、ヨーロッパで広がる右派ポピュリズムの動きと驚くほど似ている。
この世界的な潮流がついに日本にも押し寄せてきた。それに対するアメリカの驚きや警戒感は、報道の中からもはっきりと読み取れる。
では、いまの日本をアメリカはどう見ているのか? そして、私たち日本人がそこから学ぶべきこととは? アメリカの報道を手がかりに掘り下げたい。

■「ソーヘイ・カミヤはミニトランプ」
なぜ”ミニトランプ”が日本でブレークしたのか(7月26日付)」というタイトルで報道したのはNBCニュースだ。
記事では、これまではわずか1議席しか持たなかった参政党が、新たに13議席を獲得したという驚異的な躍進について、次のように分析している。
「トランプ大統領による関税政策が日本に不確実性をもたらす中、より多くの有権者が、長年の同盟国アメリカに触発された“ある考え方”を受け入れ始めている――それが“ジャパニーズ・ファースト”だ」
さらにタイム誌(8月1日付)も「トランプに触発された極右政党が、日本を“再びグレイトな国に”したがっている~ミニ・トランプ・ムーブメントで知るべきこと」という見出しで参政党を特集。トランプのMAGAになぞらえながら、“ジャパニーズ・ファースト”を掲げる神谷宗幣と参政党の動きを紹介している。
ニューヨークタイムズ(7月19日付)も「ソーへイ・カミヤが“トランプスタイル”のポピュリズムで脚光を浴びた」と報じた。またフォックスニュース(7月27日付)は「トランプに触発された“ジャパニーズ・ファースト“の政治家が既成の国家勢力を揺るがす」という見出しで、参政党の急成長を伝えている。
■「最後の例外」がポピュリズムの手に落ちたことへの驚き
これら米メディアが神谷代表を「ミニトランプ」と呼ぶのはごく自然なことだ。そもそも神谷自身が「トランプから影響を受けた」と公言しており、その発言はアメリカでも報道されている。それ以前に、参政党が掲げる「ジャパニーズ・ファースト」というスローガンを聞いた瞬間、トランプの「アメリカ・ファースト」を思い浮かべないアメリカ人はまずいないだろう。
しかしそれでもこうした記事からは、ある種の驚きがにじみ出ている。アメリカやヨーロッパ、ラテンアメリカなどで右派ポピュリズムが広がる中、「最後の例外」とも思われていた日本に、同じような現象が起きた。この事実に多くのアメリカ人が衝撃を受けたのだ。

NBCは、「コロナ禍にYouTube上の“反ワクチン団体”として始まった政党が、ここまで飛躍するとは想像もできなかった」とその急成長に驚きを隠さない。
またタイム誌は「日本の政治は多くの点でアメリカとは異なるが、今起きていることには非常に似た空気がある」と指摘する。
では米メディアはこの躍進の理由をどう説明し、どこにアメリカとの共通点を見いだしているのだろうか?
■「ジャパニーズ・ファースト」と「アメリカ・ファースト」の奇妙な共鳴
NBCニュースは、参政党のナショナリズム的スローガンが、右派ポピュリスト政党としての支持拡大を後押ししたと報じている。背景には、経済の停滞と移民への不安がある。それを参政党は巧みに取り込み、票を伸ばしたという見方だ。
タイム誌はさらに、日本での移民事情を詳しく紹介している。過去10年間で外国人居住者は220万人から380万人に増加した。これは少子化と労働力不足を受けた、いわば「静かな開国」の結果であると説明している。
それでも日本の外国人の比率はたったの3%にすぎない。だが、例えわずかな変化も人々の不安を刺激する。「仕事や住宅を奪われている」「治安が悪化している」という感覚が広がりつつある。参政党はこの空気を利用し、「移民による静かな侵略」と主張することで、有権者に強く訴えかけた。

この手法はトランプの選挙戦と極めて似ている。
アメリカは人口の16%が外国生まれの移民国家だ。人口の3%を占める不法移民に対しては、労働許可を与えてアメリカ社会に取り込もうというのが、長年の方針だった。しかしトランプ政権がそれを覆したのである。
■漠然とした不安を過激な言葉で言語化する手法が似ている
「移民がペットの犬と猫を食べている」というトランプの発言を思い出してほしい。多くのアメリカ人がその差別性に嫌悪感を示したが、一方で、あまりに露骨で過激な言葉だったからこそ、熱狂的な支持層に強く響いたのである。
トランプ支持者の多くは当初、「仕事を奪われるかもしれない、文化が壊されてしまうかもしれない」という漠然とした不安を抱いていた。しかしトランプがそれをはっきりと言語化したことで、不安は“現実”となった。支持者はトランプが自分達の思いを「代弁してくれた」と快哉(かいさい)を叫んだのである。
今の日本にも、同じような現象が見られる。ロイター通信はある30代の美容師の声を紹介している。「ルールを守らない移民が増えている。
多くの人は口に出さないが、そう感じている。同時に市民への負担は増え、生活はどんどん厳しくなっている」。そんな中で「参政党は私たちを代弁してくれている」。
このコメントは、筆者がこれまで取材したトランプ支持者の発言と、驚くほど似ている。生活の不安や苛立ちが、そのまま移民への敵意として表出していることがわかる。
■「日本もアメリカと同じ道をたどるのでは」という不安
一方で多くのアメリカ人は、移民はスケープゴート(他人の罪や責任を背負わされた弱者)にされていることを理解している。不法移民の多くは農業や建設現場など、アメリカ人が敬遠する低賃金の過酷な労働に就いて経済を支えている。また移民と犯罪を結びつける主張に対しても、統計上、不法移民の犯罪率は一般市民より低いという結果が出ている。
2025年8月初旬の世論調査では、トランプ政権の支持率は37%と過去最低水準に近づいた。背景には移民政策の強権化がある。移民局は今、不法・合法を問わず移民を次々に拘束し、時には市民まで巻きこむなど、まるで秘密警察のように振る舞っている。
このようなアメリカの現状があるからこそ、米メディアは日本における参政党のような動きに敏感に反応している。
日本が、アメリカと同じ道をたどるのではないかと警戒しているのだ。
■若者や現役労働者から強い支持を得た理由
米メディアが注目するもう1つの点は、参政党が若者や働き盛りの有権者からの強い支持を集めたことだ。
NBCニュースは「多くの日本人が、現在の政治は高齢者には有利で、若者には不利だと感じている」と指摘する。そのため若い世代は、「高齢化の重い負担を自分たちが背負わされている」と感じ、強い不満を抱いていると説明している。
加えて、賃金の停滞、物価高、将来の雇用不安などが重なり有権者が困惑している中、参政党は変革を訴えることで、“政治に見捨てられた”と感じていた有権者多くの票を得たと分析している。
トランプも同様に現政権への不満を利用して、「ワシントンの泥沼を浄化する」と訴えた。特に若い白人男性が抱える将来への不安や、女性やマイノリティ、同性愛者に対する怒りを吸い上げることで、支持を拡大した。
両者に共通するのは、現体制が若い世代を犠牲にしているという構図を示し、不公平への怒りや変革への期待を、票につなげた点である。これは、世界各地で極右政党が若い男性を中心に支持を伸ばしている現象とも重なる。
NBCニュースの取材に応じたテンプル大学日本校のジェフ・キングストン教授は、神谷の若さにも注目している。47歳の神谷はSNSや社会動向に通じ、エネルギッシュなスピーチを得意とする。一方68歳の石破茂首相や立憲民主党の野田佳彦元首相は、若者から見ると「過去の政治の象徴」に見える。
神谷は、既存政治への不信が強い若年層にとって、新しい選択肢に見えているのである。
■参政党は今後さらに台頭するのか
アメリカの専門家たちは、参政党の台頭が、トランプに象徴される「世界的な右傾化」のさらなる兆候と見ている。
タイム誌は選挙後に朝日新聞が実施した調査結果を引用し、「参政党が議席を獲得したのは良いことだ」と答えた有権者が52%、「ジャパニーズ・ファースト」の政策を支持すると答えた人が48%にのぼったことを紹介している。
しかし各メディアは参政党を批判する声も紹介している。参政党は、外国人の増加を「静かな侵略」と位置づけ、移民への強い警戒心を訴えてきた。このスローガンは、移民の抑制を正当化する根拠として繰り返し使われている。
こうした主張が、外国人に対する敵意やヘイトスピーチの増加を助長しているとの懸念も根強い。NHKが6月に実施した世論調査では、3人のうち2人が「外国人が優遇されている」と感じていると回答している。参政党の主張がどれほど短期間に広く浸透したかがうかがえる。
これに対し、参政党の集会で「ヘイト反対」や「差別主義者は帰れ」と書かれたプラカードを掲げて抗議する市民の姿も紹介している。
今後の参政党の動きについては、懐疑的な見方もある。野党の中では注目を集めたものの、政権に与える影響力は限定的という指摘だ。7月に毎日新聞が実施した調査では、約半数が「参政党に政治的期待はほとんど持っていない」と答えている。参政党の躍進は「単に与党(自民党)への不満の受け皿になっただけ」という見方もされている。
しかしこれらの記事の中には、「参政党を軽視すべきではない」という警鐘も感じられる。
■アメリカメディアから日本へのメッセージ
トランプの急激な台頭は、アメリカ社会に根深い不満と分断が存在していたことに、多くの人が気づかなかった結果である。それを軽視し続けたことで、分断はさらに深まった。
今アメリカの識者たちは、「アメリカ人はトランプをみくびったように、日本人は参政党をみくびってはいけない」と伝えようとしているように見える。
参政党もトランプも、その支持の背景には社会の不満や不安がある。それを直視し早急に向き合わなければ、さらなる分断や右傾化は止められない。それこそが、いま日本が共有すべき教訓ではないだろうか。
(敬称は略しています)

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)

ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家

NY在住33年。のべ2,000人以上のアメリカの若者を取材。彼らとの対話から得たフレッシュな情報と、長年のアメリカ生活で培った深いインサイトをもとに、変貌する米国社会を伝える。専門分野はダイバーシティ&人種問題、米国政治、若者文化。ラジオのレギュラー番組やテレビ出演、紙・ネット媒体への寄稿多数。アメリカのダイバーシティ事情を伝える講演を通じ、日本における課題についても発信している。

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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)
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