生涯稼ぎ続けるモチベーションの源泉はどこから来るのか。医師の和田秀樹さんは「初めて47歳で撮って、9000万円ぐらい損したが、映画監督には何とも言えないモノ作りの魅力がある。
資金さえあれば100歳でもやれるだろうから、できるだけ稼いで撮って、また稼いでは撮りたいと思っている」という――。
※本稿は、和田秀樹『どうせあの世にゃ持ってけないんだから 後悔せずに死にたいならお金を使い切れ!』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■自分の力で稼ぎ続けることが老化を防ぐ
世の中とは不思議なもので、9000万円になったマンションの次に買ったマンションはまた1000万円くらい高く売れたのですが、その次のマンションは8000万円で買って、2000万円でしか売れませんでした。だから最終的に、私の不動産売買による金額はチャラです。
何が言いたいかというと、不動産でも投資でも、自分の力だけでは及ばない天の計らいで巡ってくるお金は、結局、いつかはプラスマイナスゼロになるものなんだという金銭感覚になったわけです。いまマイナスであってもいつかまたプラスになるだろうし、仮に金ができたつもりで喜んでいても、いつまたそれが消えるかわからない。
ここで、「オレって金が入ってくる人間なんだ」という思い込みから抜け出し、
「大事なのは世の浮き沈みに左右されることなく、自分の力でいくら稼げるかだ」
という価値観に変わりました。
私にとって一番大事なのは、金を貯めるとか貯めないとか、いまいくら持っているかよりも、「いま、いくら稼げるか」ということ。つまり、「いまの自分は、いくら稼げて、いくら使えるか」ということが重要なんです。だから、これからも、年齢など関係なく収入は増やしたいと思っています。
どんなに株価が上がっている時期でも、原則的に株はやりません。実は若い頃、株をやって失敗した経験があって、それ以来、自分の力でいくら稼げるかが大事だと思っています。

しかも、稼ぎ続けることが老化予防につながっていると確信しています。
「金を稼がなきゃいけない」といつも意欲的に生きていたら、年を取りにくいでしょう。
常にゼロに近い状態にしないと、人間なんて働くわけがないんだから。
いや、金があっても、もっと稼ぎたいという人はいるでしょうけれど、私は根がグータラだから金があったら働く意欲がなくなって、老け込んでしまうと思います。
■本の印税で大金をつかんだら映画を撮ってゼロに
もちろん、ミリオンセラーになるような本を書きたいと思っています。昔は、「運良く1冊ミリオンセラーが出たら1年くらい遊んで暮らせるな」、なんて思っていたのですが、いまはそういう気はあまりありません。
たぶん、本が売れれば書く仕事のオファーがドッと来るでしょうから、それをやり続ける。その中で何冊か自分の出したい本を出せるかもしれない。
たとえばいま、『相続税100パーセント論』という本を書きたいと思っていても、話に乗ってくる出版社があるかどうかわかりません。でも、著書が100万部売れるようになったら、「和田さんの本は売れるから出してあげるよ」と言ってくれる出版社が出てくるかもしれないでしょう。そういうチャンスを活かして書き続けたいと思っています。
もし本の印税で大金をつかんだら、また映画を撮ります。
で、撮ったら、またゼロになる。
実は、医者になろうと思ったのも、いつか映画を撮る予算を稼ぐためでした。
映画監督をめざしたのは、高校時代。たまたま見た藤田敏八監督の映画『赤い鳥逃げた?』に感動したのがきっかけです。
当時、何もできない自分が嫌でたまらなかった。小説が書けるわけでもなく、フォークギターが弾けるわけでもなく、演技ができるわけでもなく、人を笑わせるのがうまいわけでもない。何の才能にも恵まれていないなといじけていた私ですが、映画のエンディングロールを見ていて、「これならオレでもできるかも」と思ったのです。
■映画祭の最優秀作品賞でも9000万円の損に
というのも、芝居をやっているのは役者だし、映画を撮っているのはカメラマンだし、音楽をつくるのは音楽家だし、その映画の脚本は、藤田監督との共作で、後に人気脚本家になるジェームス三木さんでした。
そうして見ると、映画監督というのはオーケストラの指揮者みたいなもので、自分の思いを役者なりカメラマンなりに伝えて、みんなにやってもらう仕事だと思ったわけです。
私が初めて映画を撮ることができたのは、47歳のときでした。自分の経験をもとにした『受験のシンデレラ』は、モナコ国際映画祭で最優秀作品賞を取ったのに、客は入らないわ、9000万円ぐらい損するわで、監督はやめたほうがいいかなという気にもなるわけです。でも、またやりたくなる。
で、やってみるとよけいに夢中になる。
これまで5本の作品に資金を注ぎ込みましたが、映画というのは本当におもしろいもので、みんなでつくってだんだん形になっていくから、こちらの予想通りにいかないこともあれば、期待した以上のものができることもある。そこに何とも言えないモノ作りの魅力を感じて、ワクワクするのです。
■死ぬまでに大勢の人が見てくれるような映画を撮りたい
撮りたい作品はいくつかあるのですが、死ぬまでに1本くらいは大勢の人が見てくれるような映画をつくりたい。監督業は、資金さえあれば、80歳でも90歳でもやれます。100歳でもやれるだろうから、できるだけ稼いで撮って、また稼いでは撮りたいと思っています。
実は、この本を書いている2025年は、私にとって「勝負の年」。小説家に挑戦したり、ラジオパーソナリティーとして番組を持ったり、私の一番の夢である大作映画を撮るなど、クリエイティブな年になることは間違いありません。
新しいことに次々とチャレンジできることに、今からワクワクしています。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。
東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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