
2017年6月21日に北海道・札幌厚別公園競技場で開催された第97回天皇杯2回戦北海道コンサドーレ札幌vsいわきFC。
この試合で当時福島県1部のいわきが延長戦の末に当時J1の札幌を5-2で撃破し、日本全土に衝撃を与えた。
歴史に残る番狂わせから8年後、いわきは飛ぶ鳥を落とす勢いでJ2へ駆け上がり、昨季同カテゴリー降格が決まった札幌とリーグ戦で再戦が決まった。
当時を知る関係者、サポーターに『厚別の番狂わせ』を聞いた。
(取材・文・構成 高橋アオ)
全国に知れ渡る大きな出来事
いわきFCが現行の体制になってから3年目の出来事だった。当時天皇杯2回戦を有明放送局(YouTubeチャンネル)のライブ配信の解説も兼ねて来場していた大倉智代表はこの試合を「全国の人に知れ渡る大きな出来事だった」と振り返った。
大倉代表大雨の中で開催された試合は前半をスコアレスで終えて、後半31分にいわきがオウンゴールで先制。だがJ1の強豪は同45分に追いつき、同49分に金大生とヘイスがそれぞれゴールを決めて延長戦に突入と死闘を繰り広げた。そして延長前半に1得点、同後半に2得点で5-2でジャイアントキリングを果たした。
大倉代表は「J1だったから確か中日だったと思う。メンバーが落とされていたのかな。その中で延長までいって勝ったことは、いわきFCにとって全国の人に知れ渡る大きな出来事だったと当時思いましたね」と感慨深げに振り返った。
この勝利によりいわきの名は日本全土に広がり、当時から実施している最先端の科学的知見に基づいたフィジカルトレーニングも多くのマスコミから注目を集めた。
「いろいろ取材が来たし、全国放送でも次は清水とやるぞとね。県1部だったから天皇杯ならではの面白さがあって、取材に来ていただいた記憶がありますね。
メディアの方の取り上げ方を見ても、すごく反響があった。僕らがやろうとしていることがそれによって取材していただいて伝わったことは、まず第一としてあったと思います。クラブができて2シーズン目だったから、大きな出来事でしたね」

破竹の勢いで駆け上がってきたいわきは、ついに北の名門と対峙するまでに力をつけて、同ディヴィジョンでJ1昇格を競い合う関係となった。あの日の金星は大きな試金石となった。
歓喜に沸いたサポーターたち
『厚別の番狂わせ』はサポーター間では伝説の試合となっている。当時厚別競技場に駆けつけたいわきサポーター約20人の中にひるさん(50代男性会社員)がいた。
ひるさんは「勝てる気はまったくなかったですね。J1にいるチームと対戦するだけでうれしかった。現地で見られるチャンスがあるんだったら、『行こう』となりました」と、あの伝説の試合に訪れたという。
そして激しい攻防の末に、歴史に残るアップセットをいわきが果たし、多くのサッカーファンを驚かせた。それはいわきサポーターたちも同じだった。

「延長までいったときは、僕らは満足していました。
清水エスパルスと対戦したときよりも感慨深さがあると語ったひるさんは、この日もハワイアンズスタジアムいわきに訪れていた。あの伝説の一戦の再現を望んでいる。
「8年間で僕らはトップのところとでも戦えるというところを見せて勝ち切りたいですね」とイレブンにエールを送った。
現行のチーム体制になってからいわきを応援している中心応援団体『Lino La Iwaki』(通称リノラ)のまとめ役を務める中島さん(20代男性大学院生)は、パブリックビューイング越しにチームを応援していたという。

「これまでただJリーグを目指すチームがあるというのがあって、ただ県リーグをこなしていたのが、あそこで一気に本格的になったというか。Jリーグを目指して始動すると言って始まったチームが夢じゃなくて現実味を帯びてきたと思える試合でした」
あのときははるか上の存在だった存在が、8年後には同じリーグカテゴリーで戦う。理想通りの成長曲線を描いてたどり着いたいわきにさらなる躍進を期待している。
「本当はお互いJ1同士でやりたかったですけど、気負うことなくいいイメージを持って戦ってほしいです。8年前もフィジカルを全面に出した戦いをしていたので、きょうも全面に出していいイメージを持ったまま勝ってほしいですね」と期待を口にした。
足踏みをせずに、前を向いて
この日チームの指揮を執った田村雄三監督は8年前も同カードでいわきを指揮していた。監督記者会見で当時を振り返った指揮官は「あのときはジャイキリみたいなことは言われていましたけど、それから年月が経って同じリーグで札幌さんを迎えてホームでできることは、我々が毎年ステップアップしてきたことでできている。
ただあの伝説の番狂わせには思い出がある。現行体制になってからわずか2シーズンとチームの形ができ始めた中での金星は、より多くの注目を浴びた。現在も当時と変わらずフィジカルを押し出したサッカーを展開しており、『いわきの戦い方は間違っていない』というアイデンティティを形成する上で重要な一戦だった。

「当時戦ったときに勝利できたということも含めて、いわきの名前を全国に広めることができたという話は、(大倉代表と話した)思い出があります」と優し気な表情で当時を思い返した。
あのときから8年が経過し、チームはJ2で3シーズン目を過ごしている。当時の所属選手は在籍していないが、『日本のフィジカルスタンダードを変える』というコンセプトとプライドは現在の選手たちに継承されている。
「当時私が指揮しましたけど、あの当時の自分ともまた違うかなと思っています。前のことなので、そこは足踏みせずに、しっかりやってきたことでいまがあると思っています。これからも足踏みをせずに、前を向いて取り組んでいきたい」と前を見据えた。
監督記者会見では札幌の指揮を執った岩政大樹監督も『厚別の番狂わせ』について問われ、「(当時の)僕が知っていたころは地域リーグのチームだったので、非常に早いスピード感で(上に)来られている。(いわきは)日本サッカーの発展に貢献されていると思います」と賛辞を送った。

8年ぶりの再戦は1-1のドロー決着となったが、2度目の対決は9月13日にアウェーで開催される予定だ。あのときは番狂わせ、ジャイアントキリングといわれたが、次こそは対等な形で北の名門から勝利を挙げて新たな歴史を築きたい。