OL Reign forward Megan Rapinoe breaks away from Angel City FC defender Ali Riley, right, during the first half of an NWSL quarterfinal playoff soccer match Friday, Oct. 20, 2023, in Seattle. (AP Photo/Lindsey Wasson)

アメリカ女子サッカーリーグ(NWSL)が、テレビ局2社、ストリーミング2社と4年間で総額2億4000万ドル(約360億円)の放映権契約を締結した。今夏のFIFA女子ワールドカップでアメリカは過去最低のベスト16という結果に終わったにも関わらず、ビジネス面で大きな成功を収めた理由とは? 初代WEリーグチェアで、アメリカ在住の岡島喜久子氏に話を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=AP/アフロ)

ワールドカップでベスト16敗退も、国内リーグは人気上昇

アメリカで、“女子スポーツ史上最大のメディア投資”が実現した。

2024シーズン、米女子プロサッカーリーグ(NWSL)は、4年間で総額2億4000万ドル(約360億円)の放映権契約を締結したことを発表。前年比40倍という巨額の新契約が与えるインパクトは大きく、アメリカ国内では大きく報じられている。来季は、テレビ2社(CBS、ESPN)とストリーミング2社(Amazon、スクリップス・スポーツ)が全118試合を放送する。

今夏にオーストラリアとニュージーランドで開催されたFIFA女子ワールドカップが世界中で好視聴率を記録したことからも、女子サッカーの市場価値は高まっていることがわかるが、アメリカにおけるそれは群を抜いている。競技人口は160万人超でダントツの世界一。今年7月にアメリカの経済誌「フォーブス」が発表した女子サッカー長者番付では、アメリカ女子代表選手がトップ10のうち9人を占めた。

ワールドカップで、アメリカは過去最低のベスト16敗退に終わった。低調なパフォーマンスに終わったチームには批判も渦巻いたが、国内の女子サッカー人気は下向くどころか、右肩上がりのカーブを描いている。

コロナ禍での視聴率アップが呼び水に。リーグの経営も安定

なぜ、リーグの人気が上がり、巨額の放映権契約が実現したのか?

その背景をよく知るのが、なでしこジャパンの黎明期を支えた元代表選手で、日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の初代チェアを務めた岡島喜久子氏だ。

岡島氏は引退後の1991年からアメリカに拠点を移し、ファイナンシャルプランナーとして金融界で長く勤めてきた。2022年9月にWEリーグのチェアを退いた後も、女子サッカー界で築いた独自のコネクションや金融界で培った経験を生かし、WEリーグや日本の女子スポーツの発展へのヒントを探っている。

岡島氏によると、NWSLが今回の放映権契約を実現した伏線は、コロナ禍の時期にあったという。

「アメリカには日頃からスポーツを見る文化があり、多くのスポーツチャンネルがあります。観客が少ないと『つまらない』と思ってチャンネルを変えてしまう人もいますが、NWSLの前コミッショナーのリサ・バードに話を聞くと、コロナ禍の時にほとんどのスポーツが無観客試合を中継していた中で、女子サッカーは視聴率が大きく上がったそうです。NWSLのチャンピオンシップは2021年から2022年にかけて、視聴率が71%上がりました」

NWSLチャンピオンシップは、2021年まで様々なケーブルチャンネルで放送されていたため視聴者はアクセスしづらい状況だった。だが、2022年はCBSが土曜のゴールデンタイムに放送し、視聴率アップを後押しした。

CBSは2020年からNWSLを放送しており、アメフトや野球など様々な人気スポーツ中継を担ってきた。

多彩なカメラワークや選手や試合の詳細なデータなど、ファンを満足させる伝え方を徹底している。

その影響は、コロナ明け後の入場者数にも表れた。2022年のNWSLの平均観客数は7894人だったが、翌2023年は1万432人と、最多記録を大幅に更新。招待券や無料チケットはほとんど配っていなかったという。

「自分の応援するチームへの思い入れが強く、シーズンチケットを買うファンやサポーターも多いので、代表チームがワールドカップで負けても、そこまで影響がないんですよ」(岡島氏)

リーグの経営が安定したことも、NWSLの飛躍を後押しした。アメリカの女子サッカーのトップリーグは過去に2度、財務上の問題で休止に追い込まれている。

リーグのレベルは世界トップクラスながら、それが収益に結びついていなかったためだ。しかし、2013年にスタートしたNWSLは今年で11年目に突入し、リーグ収入も1億2000万ドル(約168億円)まで上がった。その経緯について、岡島氏はこう分析する。

「NWSLは設立から数年間、アメリカサッカー連盟から予算を割り当てられていましたが、リーグの財政基盤が安定したことで、今はその補助金がなくなりました。2021年からは(米四大監査法人の)デロイトがスポンサー兼アドバイザーになり、経営コンサルタントのチームがプロリーグを運営するための複数年計画を分厚いレポートにまとめたそうです。それを元に方針を決めているので、経営も安定しています」

スポンサー収入、入場料収入、放映権収入がプロサッカーチームの3つの柱と言われる。

新たな放映権契約により、各クラブへの分配金が増すことは間違いないだろう。

新規参入チームが人気を牽引

コロナ禍の人気上昇と優秀な経営チームの参画によって生まれた流れを加速させたのが、華やかな新規チームの参入だ。

2022シーズンからNWSLに参入したサンディエゴ・ウェーブFCと、エンジェル・シティーFC。両チームは西海岸のカリフォルニア州を拠点としており、2023シーズンは2万人近い平均観客数を記録。いずれも、それまで圧倒的な人気を誇っていたポートランド・ソーンズFCを抜いた。

エンジェル・シティには1万6000 人以上のシーズンチケット所有者がいて、2万2000人収容のBMOスタジアムが毎回ほぼ満員になるという。本拠地はハリウッドのお膝元でもあるロサンゼルスで、100人を超えるオーナーグループの中には、女優のナタリー・ポートマンやテニスのセリーナ・ウィリアムズら、著名人やセレブも多い。

同クラブの年間収入は3100万ドル(約45億円)、クラブの資産価値は1億8000万ドル(約260億円)。そして、スポンサー契約は総額4500万ドル(約65億円)に上る。

なぜ、それほどの額を集めることができたのか? 岡島氏は投資家の一人で、同クラブの成功に大きく貢献しているキャラ・ノートマンに、その理由を聞いたという。

「彼女はベンチャーキャピタリスト(*)で、お金の集め方がすごく上手な方です。スポンサー料のうち、10%は必ずコミュニティのためや社会貢献活動に使い、イベントごとに全スポンサーの名前を出します、という約束で、スポンサーを広く集めたそうです。彼女はナタリー・ポートマンと組み、一番のスポンサーになったのはセリーナ・ウィリアムスの旦那さんであるアレクシス・オハニアン(インターネット起業家)でした。彼は『こんなに将来性があるスポーツに安く投資できるのは素晴らしい』と、喜んで投資したそうです。そのように、アメリカでは女子サッカーのファン層がセレブにも広がっています」

(*)成長が見込まれるベンチャー企業に投資を行うために資金調達をする人

すでに、2024年シーズンはユタ・ロイヤルズFCとベイエリアFCの2つのクラブが加わり、チーム総数が14になることが決定。2026年までには16チームへの拡大が予定されている。

日本と決定的に違う“投資家へのメリット”

日本がアメリカのやり方から学ぼうとしても、限界がある。スポーツが非日常ではなく「日常」になっている欧米と日本では、そもそも「スポーツに投資する」根本的な考え方の違いがあるからだ。加えて、制度面の決定的な違いがあると岡島氏は言う。

「アメリカの税制では、スポーツへの投資はオーナー個人の事業所得に対する経費として相殺することができます。好きなチームに投資しながら企業イメージを高めて、節税にもなる。スペインでも、2017年に女性スポーツへの投資に対して税制を優遇するように法律が改正されました。そうした土壌がそもそも日本とは違うので、単純に比較することは難しいのです」

スペイン女子代表は、ワールドカップに初出場した2015年以降、急速に競争力を高め、3度目の出場となった今夏のワールドカップでは世界一に上り詰めた。バルセロナやレアル・マドリードなど、男子のビッグクラブが女子チームにも投資し、環境面も良くなった。

「日本も、女子スポーツの税制を優遇するようなメリットがあれば、企業もお金を出しやすくなると思います」と岡島氏。元競泳選手の井本直歩子氏が代表を務める「一般社団法人SDGs in Sports」など、各種スポーツ団体に情報を共有し、変化の糸口を探っているという。それが実現すれば、「スポーツを文化に」する一つのきっかけになるだろう。

女子サッカー界でアメリカの一強時代は終わり、欧州各国の台頭による群雄割拠の時代に突入している。だが、プロリーグの成功やイコール・ペイの実現など、女子サッカー界のビジネスや人権問題における成功事例を作ってきたアメリカの存在感は揺るぎない。今回の放映権契約も、その新たな事例となる。

NWSLに続き、放映権ビジネスで成功を掴む国は出てくるだろうか。オリンピックイヤーとなる2024年も、激動の女子サッカー界から目が離せない。

<了>

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