2012年に“音楽とフットボール”を柱に、人と人をつなげていくという目的で立ち上げられた団体「MIFA」。一瞬、国際サッカー連盟(FIFA)も連想するこの英語の4文字は「Music Interact Football for All」の略で、「音楽とフットボールの有機的融合」との意味を持つ。

Mr.Childrenの桜井和寿とラッパー・GAKU-MCによるユニット「ウカスカジー」の音楽活動や、全国4施設でのフットボールパーク運営、そしてサッカーと音楽を絡めた社会貢献活動をメインに活動している。この団体を立ち上げた発起人であるGAKU-MCに、MIFAの生まれた理由、二つの変わらぬ軸、そして現在の活動について話を聞いた。

(インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS副編集長]、写真提供=MIFA)

夢のスタート地点。豊洲「MIFA Football Park」誕生

――MIFAの所属アーティストであり発起人のGAKUさんが、MIFAを立ち上げたきっかけについて教えてください。

GAKU:僕もそうですし、桜井(和寿)もそうですけど、音楽を生業としながら、趣味であるサッカーからいろいろいい影響をいただいています。サッカーをプレーすると仕事で煮詰まった頭を解きほぐしてくれますし、フラットな友人ができますし、健康にもなります。

これは絶対サッカーに恩返ししなきゃいけないよね、と。それならまずは「サッカーやフットサルと音楽を絡めたイベントをやってみよう!」と思い立って始めたのがMIFAのスタートです。

――最初から団体として立ち上げられたわけではなく、単発のイベントからのスタートだったのですね。

GAKU:はい。いろんなイベントを企画していく中で、「音楽とサッカーいいな」ととてもしっくりきたんです。じゃあ、組織として立ち上げようとなった時に桜井も本気で「やろうやろう!」と言ってくれて、MIFAという団体を立ち上げることになりました。

 そこからいろいろな計画を立てていた中で、ある日、「MIFAってどういうふうになると理想的なんだろう?」という会話をしていた時に、桜井が「いつかMIFAスタジアムつくりたいよね」って言い出したんです。

 「そこにはサッカーはもちろん、公園もあって、ライブハウスも併設していて、みんなが楽しめるスタジアム」

まだ何も始まっていないし、事務所すらない時に。さすが、スタジアムでライブする人の発想は違うなと尊敬しましたし、その発想はなかったので心底驚きましたね。

 「じゃあ、われわれが求めるスタジアム像にたどり着くには?」と考えたら、「まずはフットサル場の運営から学んでいこう!」と。そこからみんなで不動産屋を巡り歩いて、いろいろないい出会いも重なって、東京・豊洲の「MIFA Football Park」が誕生しました。

MIFAを通じてやろうと決めていた二つのこと

――現在のMIFAとしての活動は、ウカスカジーが音楽部門として活動して、フットボール部門では全国の4施設(豊洲、仙台、立川、福岡)でのフットボールパーク運営がメインの活動になるのですか?

GAKU:そうですね。僕と桜井とMIFA代表の小川の3人で、最初にMIFAを通じてやろうと決めていたことが二つありました。

まず、サッカー界に恩返しをする音楽活動をしようというのが一つ。もう一つは、やるからにはサッカー界だけではなく、地域も含めた社会貢献ができる団体にしようと。スタートから現在までこの二つの軸は変わっていません。

 ウカスカジーと施設運営以外では、MIFAスマイルプロジェクトという活動も立ち上げ当初から行っていて、震災で被害にあった地域や、過疎地域などを訪れて、音楽とフットボールを通して仲間を増やす活動を続けています。

――施設における社会貢献という面では、週末の朝にグラウンドを無料で開放する活動も素敵ですね。

GAKU:いいですよね。

MIFAらしい素敵な活動ですし、僕も当初は毎週子どもを連れてきていました。都心では公園とかでも「ここでボールを蹴らないでください!」と書かれた看板が立てられているところが多いですし、車の行き来も気にせず、子どもたちが思いっきりボールを蹴れる環境ってどんどん少なくなっていると思うんです。あと豊洲なんかはタワーマンション街ですから、意外と子ども同士も同じマンションに住んでいるのに顔見知りじゃなくて、MIFAのグラウンド開放で友だちになったなんてことも実際にあって。フリーパークという試みは大成功でしたね。

MIFA、そしてウカスカジー誕生秘話

――MIFAの活動につながるGAKUさんと桜井さんの関係の始まりという点では、2001年にGAKUさんが桜井さんに「サッカーを一緒にやりましょう!」と誘ったのがすべての始まりだったと聞いています。

GAKU:おっしゃるとおり。その時がすべてのスタートだと思います。

当時、ラジオ局のロビーで「今日ミスチル来てるらしいぞ」と聞いて、もともと桜井がサッカーやっているというのは聞いていたのであいさつに行って。いろいろサッカー話で盛り上がっていたら桜井が「公園で一人でリフティングとかプルアウェイの練習をしている」と聞いて、もう意味がわからなくて(笑)。リフティングはわかるけど、公園で一人でプルアウェイの練習って相当おかしくないですか?(笑)。「じゃあ今度一緒にやろうよ!」という話になりました。

――公園で一人でプルアウェイの練習というのは、プロ選手のエピソードでも聞いたことがないです(笑)。

GAKU:そのあとすぐに一緒にボールを蹴る機会が実現して、ミスチル全員来て。

「うわっ! Mr.Children来た!」ってみんな驚いていましたね。それがすごく楽しい時間で。

――そんなお二人が今では「ウカスカジー」として一緒に音楽活動をしていると。まさに音楽とサッカーが結びつけた素敵な出会いですね。

GAKU:ほんとにそうですね。その時に初めて一緒にボールを蹴ってからは、定期的に一緒にフットサルをするようになりました。気づいたらミスチルは桜井だけになっていましたけど(笑)。

壮大な計画と地ならしを経て生まれた日本代表公式応援ソング

――ウカスカジーといえば、2014年にリリースされた『勝利の笑みを 君と』はサッカー日本代表公式応援ソングとしてファン・サポーターの間でも定着しています。この曲に対する思いもお聞かせいただけますか?

GAKU:この曲、別に日本サッカー協会から頼まれてつくった曲ではないんですよ。ただ、どう考えてもわれわれ以上にサッカーを愛しているミュージシャンはいないという自負があったので、日本代表を後押しするような曲を俺らがつくろうと。

 せっかくつくるならゴール裏のサポーターにも浸透するような曲にしたい。そう思って、「こういう曲つくるから一緒に頼むぞ!」みたいな話をしに、日本代表戦が行われるヨルダンのゴール裏まで行ったこともありましたし、レコーディングにはゴール裏のサポーターたちにたくさん来てもらいました。

 じつは、壮大な計画と地ならしを経て生まれた曲なんですよ。それだけに思い入れも強いですね。

――膨大な時間と労力をかけられて生まれた曲なのですね。

GAKU:やっぱりサポーターって、慣れ親しんだ歌を歌いますし、新しい歌を代表戦で定着させていくのって、すごく難しいことだと思うんです。強制されて浸透するものでもないので。だから根気よくゴール裏に行って、曲ができてからはトラメガ使って実際にゴール裏で歌ってみたり。僕自身楽しみながらではありますが、いろいろ試行錯誤しながら行動してきましたね。

ゴール裏サポーターから「いまは歌わないほうがいいよ」と

――日本代表のゴール裏で、サポーターが歌うご自身の曲を聞くのはどのような気持ちですか?

GAKU:いま改めて考えたらすごいことですよね(笑)。

――最初にGAKUさんがスタジアムで『勝利の笑みを 君と』が歌われている場に居合わせたのはいつだったか覚えていますか?

GAKU:いつだろうね。何年前だったかは覚えていないですが、桜井と一緒にスタジアムで日本代表の試合を見ている時でした。2人で「これ、すごくね?」って興奮しながら言い合ったことは覚えています。

 ただ、定着という意味ではまだまだだと思っています。われわれとしてもできれば勝っている時のいいタイミングで歌ってもらえる歌になってほしいという思いもあって、いまも試行錯誤しながらの日々ですね。

 ゴール裏でいま歌いたい!と思って僕が歌い始めて、サポーターのボスたちから「いやいまは歌わないほうがいいよ」というアドバイスもいっぱいもらいましたし、何度もお互いの意見を出し合ってきました。いつかスタジアム全体のサポーターみんなが自然と同じタイミングで歌い出すような、「定着したなぁ」と思える日を迎えることが楽しみですね。

GAKU-FC発足!「一緒にサッカーやると絶対に仲良くなる」

――MIFAでの活動の一つとして、音楽とサッカーを愛する人とボールを蹴るプロジェクト「GAKU-FC」を発案したきっかけについてお聞かせください。

GAKU:きっかけはコロナ禍ですね。ライブができなくなって、何か外で体を動かしながらファンのみんなとつながれるイベントはできないかなと考えて、「GAKU-FC」という活動を始めてみたんです。これが意外とよかったぞとなって。僕がサッカー狂だというのはファンの皆さんはみんなよく知っていると思いますけど、その僕がこれだけのめり込んでいるサッカーを、みんなもやったらいいじゃん!とずっと思っていました。一緒にサッカーやると絶対仲良くなるじゃないですか。ファンの皆さんとはもちろん仲良くなりたいし、ファン同士もみんな仲良くなればいいじゃないって思って試しにやってみたら、すごく楽しい時間が過ごせたんです。

――MIFAの全国4つの施設で、これまですでに3回活動を行われています。

GAKU:おかげさまでMIFAの施設も2014年に豊洲、2018年に仙台、2020年に立川、2022年に福岡と4つになったので、どうせだったら毎回4会場すべてでやろうと。

――これまでMIFAの活動を通じて、GAKUさんとファンが実際に何か一緒に触れ合える機会はあったのですか?

GAKU:ライブの後のサイン会は基本毎回やるようにはしているんですけど、一緒に体を動かすみたいなのはなかったですね。GAKU-FCでは、体を動かしながらや、その後のミーティングの時間などで自然体の会話が生まれますし、「あの時のライブのここが……」みたいな会話を直接ファンの方としてみたり、すごく新鮮で面白いですね。

参加者全員に楽しんでもらうために

――GAKU-FCでのこれまでの活動を通じて、どのような手応えや気づきがありましたか?

GAKU:やっぱりサッカーは人と人をつなぐなって。あと一緒に活動しているMIFAのスタッフやコーチ陣が、一緒にピッチに立ってみるといつも以上に頼もしい存在ですし、エンターテイナーだなと感じますね。参加者がうまくなるのも当然ですけど、ボールを蹴りながら参加者を盛り上げる技術から教わることもいっぱいあるし、ライブにも還元できるなと。GAKU-FCをやることによって、僕もエンターテインメントのあり方をまた改めて考えるきっかけになりました。

――参加者層はGAKUさんやウカスカジーのファンの方中心の集まりで、年齢もサッカー経験の有無もバラバラ。一つのサッカーイベントとして成立させるのがなかなか難しそうですが、イベントの回数を重ねる中で何か修正を加えたりもしているのですか?

GAKU:サッカーをやったことがない人ももちろんいるし、めちゃくちゃ経験者ですっていう人も、小学生の子どももいます。そのグラデーションを限られた時間の中でどうやって馴染ませていくかという課題はもちろんありますよね。参加者全員に楽しんでもらうためのあんばいと試行錯誤は、MIFAのスタッフたちとも常に一緒に考えているし、ブラッシュアップもしています。

 要はレッスンの内容のどこに重きを置くかだと思うんですけど、例えば、アイスブレイクではボールを使った鬼ごっこをやるんです。これはとにかく子どもが喜ぶし、大人の経験者にとっても準備運動として優れている。あとは最後にゲーム形式をやる場合でも、コーチ陣vs子どもと女性、コーチ陣vs男性陣というチーム構成にすることで、コーチ陣はそれぞれに合った強度で試合運びをしたりするわけです。その中での細部についてもトライアンドエラーを繰り返しながらやっています。

おじいちゃんになった僕が管理している最高の芝生で…

――GAKU-FCのコンセプトには「サッカー部創設への道」と掲げられています。活動の最終的なゴールはどこに置いているのですか?

GAKU:現時点で何か明確なゴールを設定しているわけではないですが、一番やりたいのは合宿ですね。自分の中では勝手にイメージも固まってきているんですけど、宿泊とフットサル、ライブもやって。あとは、持ち回りで、今年豊洲大会、来年は立川大会、その次は仙台大会、みたいな感じで各施設からチームを出し合って行う大会もやりたいと考えています。

 長く活動を続けて、チームメート同士が結婚して家族になっていったりするのもいいですね。僕がおじいちゃんになってもGAKU-FCの活動は続いていて、そこで初めてボールを蹴ったという子がプロ選手になっちゃったり、おじいちゃんになった僕が趣味を兼ねて管理している最高の芝生で大会が開かれるとかね。スタジアムつくるみたいな、あれですよね。何だろうな。フューチャー……到着点ですよね。

<了>

[PROFILE]
GAKU-MC(ガク・エムシー)
1970年10月6日生まれ、東京都出身。ラッパー、ミュージシャン。アコースティックギターを弾きながらラップする日本ヒップホップ界のリビングレジェンド。2013年、自身の音楽活動と平行し僚友である桜井和寿(Mr.Children)とウカスカジーを結成。2014年、2018年と日本サッカー協会公認 日本代表応援ソング制作。現在は年間約60本のライブに出演し、TV出演や作詞作曲など作品提供を行う傍ら、レギュラーラジオ番組(J-WAVE)にて毎週サッカーに関わるゲストの活動を紹介するコーナーを担当し、音楽とフットボールという世界二大共通言語を融合し人と人をつなげていくことを目的とした団体MIFA(Music Interact Football for All)での活動などを通してサッカー界でも貢献を続けている。

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