9月初めに北京で行われた「抗日戦争勝利80年」記念式典の軍事パレードでは中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩総書記がそろい踏み、3首脳それぞれの思惑と狙いが垣間見られる場となった。
習近平主席、求心力に衰えないとの見方も
旧ソ連時代を含め中ロ朝のトップが公式の場で一堂に会するのは1959年以来66年ぶり。習近平主席がこの歴史的舞台で国際社会における中国の存在感と影響力をアピールする狙いがあったことは確実だ。
その意味で今回の「抗日戦争勝利80年」式典は習主席が「大国中国」の力を世界に見せつける絶好の機会になったといえよう。また、習主席にとっては「抗日戦争勝利80年」式典は国内向けの大イベントという面があったことも想像に難くない。
中国国内では不動産不況を主たる要因に経済の低迷が続き、企業の倒産や若者を中心とする失業の増加が目立ち、社会不安がくすぶっているといわれる。式典開催によって国内の不満を外に向けさせようとする意図も見え隠れする。在北京外交筋は「日本との戦争での歴史的勝利を強調した演説と強大な軍事力を誇示した軍事パレードによって国民の愛国心をあおり、共産党体制への支持を確認したとして習主席は自信を持ったようだ」と語る。
昨年来、習政権内部の異変が伝えられた。習主席の側近と目される軍高官が汚職などを理由に摘発・更迭されたほか、党最高指導部でも習氏に近い人物の左遷などが相次いだ。習主席の個人的独裁志向を抑制しようとする動きも表面化し、権力の弱体化説も取りざたされていた。そうした中、軍事パレードが大々的に開催されたことから、習主席の求心力に衰えはないとみるべきとの見方も出ている。
プーチン大統領にもメリット
プーチン大統領にとっても、今回の訪中は数々メリットがあったとみられる。G7や主要欧州諸国からの参加はなかったものの、26カ国の首脳らが式典に参列し、軍事パレードの観覧にプーチン大統領と同席したことは、ウクライナ戦争でロシアが世界で孤立していないことを印象付けたと宣伝できるだろう。何より、ウクライナ戦争を巡る中国の支援を改めて確認する機会を得たことがプーチン大統領としては大きな収穫だったに違いない。
両首脳は2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、たびたび会談しており、中国は表向きは軍事支援はしないとしているものの、ロシアから原油を大量に輸入しており、経済・技術面の支援を行っているのは公然の秘密。プーチン大統領は習主席との公式の首脳会談に加え、軍事パレード出席に先立ち、天津で開催された「上海協力機構」首脳会議でも習主席と顔を合わせている。
在北京外交筋は「プーチン氏らは異例の4日間という中国滞在中、習主席を含め中国側とロシア支援について話し合う多くの機会を持った」と推測、中国から支援の継続・拡大について改めて良い返事を得た可能性を指摘する。実際、中国はロシア産天然ガスの輸入を拡大することを約束、新たなガス・パイプラインの建設計画でもロシア側と覚書を交わした。ウクライナ戦争が長引くにつれ国内経済へのマイナス影響が予想されるロシアにとってエネルギー面での中国の協力は力強い支援になるだろう。
金総書記は中ロ指導者と同格?
今回最も注目を集めたのが金正恩総書記だったことは言うまでもない。金氏が各国首脳らが集まる会合に出るのは初めて。訪中も19年以来6年ぶりとなった。軍事パレードの招待席で習主席を真ん中にプーチン大統領と並び立った金総書記は中ロと同格の指導者といったイメージを世界中に与えた感がある。それこそ、金総書記の望むところだったはずだ。金氏訪中の狙いは世界に向け自身の存在感のアピールのほか、中国との関係改善だと多くの専門家が指摘する。
ウクライナ戦争を契機に北朝鮮はロシアと事実上の軍事同盟を結ぶなど関係が極めて緊密化した半面、対中関係がギクシャクしているのは事実。
また、金総書記と習主席との会談が行われたタイミングにも注目が集まっている。8月末、トランプ米大統領はワシントンで韓国の李在明大統領と会談した際、金総書記との首脳会談の実施を提案されると、「今年中に(金総書記と)会いたい」と述べている。過去3回の米朝首脳会談を振り返ると、金総書記が事前や事後に習主席と話し合っていることから、今度の両者の会談では4回目の米朝首脳会談について相談したのでは、との憶測を呼ぶのも当然かもしれない。今回の「抗日戦争勝利80年」記念式典は今後の国際情勢の展開を予想する上で多くのヒントを提供したと言えそうだ。