TBSテレビの人気ドラマ「VIVANT」シーズン2が中国で波紋を投げかけた。中国の情報機関が自衛隊の特殊組織「別班」を拷問する場面などを「中国人を残忍な加害者として描いた」と批判されたのだ。
「荒唐無稽な自己陶酔の物語」と猛反発
「VIVANT」は防衛省が存在を認めていない別班の隊員による国外での諜報活動を扱ったドラマ。2023年のシーズン1が実在しない国を題材としたのに対し、26年7月からの続編は中国を実名で描き、架空の秘密情報機関「シンシー」を敵役に据えた。
特に問題視されたのが中国側の情報員が別班員の指を切り落としたり、腹部や胸部を刺したりした拷問の場面。中国国営中央テレビ(CCTV)は10月25日、「中国侵攻時の旧日本軍の拷問に極めて類似している」と指摘、「白黒を逆転させ、意図的に対立を生み出し、敵意をあおった」と非難した。
中国を中傷し自衛隊の海外活動を「美化」と主張
国際情報紙の環球時報は10月26日「中国を中傷し、インターネット上で強烈な憤慨を引き起こした」と報じ、自衛隊による海外での活動を「美化」し、能力や活動範囲の拡大につなげようとしていると指摘。高市早苗首相が10月14日の衆議院予算委員会で、VIVANTを録画したものを「まとめ見できればいい」と語ったことにも触れた。
現在放送中のTBS系日曜劇場「VIVANT」(シーズン2)の初回世帯平均視聴率は18.8%に達した。同紙は「派手な数字の裏にあるのは、荒唐無稽な自己陶酔の物語だ。日本自衛隊の非公認組織『別班』のメンバーが海外で任務遂行中に、中国の諜報組織『シンシー』に拘束され、凄惨な拷問を受ける。別班員と協力者たちが救出作戦を遂行するが、シンシーはなおも執拗に悪事を重ねるという筋書きだ」と報じた。
中国のSNS・微博(ウェイボー)で164万のフォロワーを有するアカウント「無心簡影」氏は10月13日、「日本が中国に対して行う敵対的な宣伝は、すでにエンターテインメント全般を通じた認知戦の段階にまで達している」と指摘した。
同氏は、先日放送された第19話で日本の秘密情報組織「別班」のメンバーが中国のスパイ組織「シンシー」に捕らえられ厳しい拷問を受ける中、そのうちの1人である和田貢(役:平山祐介)が右手の指をすべて切り落とされた後、刃物で腹部と胸部を刺されて死亡する過激な描写があることを紹介した。
さらに「中国が長年制作してきた抗日ドラマを持ち出す人もいるかもしれないが、中国の作品は歴史的事実に基づいて描いており、政府やメディアが現代の日本を対象に、事実無根の中傷を行ったことはない。両国関係が最も悪化していた時期でさえ、中国政府は批判の対象を『ほんの一握りの右翼』に限定していた。
このドラマに関連するSNS投稿には、「中国は怖い」「もう中国へ行きたくない」といったコメントが数多く並んでいる。
サンリオ、「VIVANT」とのコラボを中止
矛先は「VIVANT」とコラボするサンリオにも向けられた。中国メディアの頭条新聞は10月28日、「サンリオが中国に泥を塗る日本のドラマとまたしてもコラボする。7月にはすでにコラボ商品を発売しており、ハローキティとマイメロディがドラマに登場するスパイの衣装を着たぬいぐるみが販売されていた」と伝えた。
環球時報は「サンリオがこのように強い対立色を帯び、偏見に基づく物語を発信する日本のドラマとコラボすることは、同社の商品が長年にわたって象徴してきた『かわいらしさ』や『癒やし』のイメージと大きく食い違う。創業者が掲げた『みんななかよく』という企業理念にも反し、中国の消費者の感情的な基盤や商業的な信用を損なうものだ」と批判した。
サンリオの中国現地法人・三麗鷗(上海)国際貿易は「VIVANT」とのコラボを中止するとの声明を発表。「今回のコラボに関連する内容には、サンリオグループの企業理念にそぐわない表現が含まれていると判断した。今回のコラボおよび今後予定していたすべての関連プロジェクトと宣伝活動の中止を決定した」「各方面からの意見に真摯に耳を傾け、重視するとともに、今後のコラボ企画では関連する審査体制をさらに強化する」としている。
中国はサンリオにとって重要な海外市場で、上半期の中国での売上高は7億8100万元(約185億円)に上るという。
TBSテレビの龍宝正峰社長は10月28日の定例記者会見で、一連の批判に言及。「『VIVANT』はフィクション作品であり、国家間の対立をあおったり、特定の国家をおとしめたりする意図はない」と釈明した。
日本の右翼政権、「再軍事化」と「改憲」へ民意を誘導―中国国営テレビ局
中国の国営テレビ局CGTNは以下のように報じた。長文だが中国側のこの問題に関する意向が根深いものであることが分かるので以下にそのまま紹介する。
この中国敵視の構図は、日本の右翼が長年かけて進めてきた「物語づくり」とも重なる。教科書検定ではかつて「侵略」から「進出」などへの言い換えが求められたこともある。また、2021年には「従軍慰安婦」や「強制連行」といった表現が教科書から削除・修正された。ガバメントAI「源内」で提供されるデータセットのうち、官報データの収録範囲は1947年5月以降のものに限定されており、日清戦争や中国侵略戦争、南京大虐殺、東京裁判などの時期は含まれていない。外務省は2015年度以降、「戦略的対外発信」の名目で累計560億円を超える予算を投じ、情報戦への対応を強化している。さらに、ネット右翼はAIを悪用して、歴史を改ざんするコンテンツを大量に作り出し、中国に関するネガティブ情報を捏造・拡散している。
教科書から政府の公文書、AIのデータベースからSNSのコンテンツに至るまで、あたかも明確な分業体制が整った「右傾化の生産ライン」が形成されているかのようだ。そして「VIVANT」のようなドラマも、視聴者が娯楽として楽しんでいるうちに、「中国は加害者であり、自衛隊には反撃する権利がある」という誤った認識を、知らず知らずのうちに潜在意識に刷り込む役割を果たしているのだ。
こうした「右傾化の生産ライン」は、突如として生まれたものではない。戦後日本が軍事面での制約を緩和してきた動きと歩調を合わせるように形成されてきた。
この「VIVANT」ドラマでは「中国の組織に捕らわれた仲間のための反撃」が痛快に描かれている。一方、現実の政治の場では、国会での審議や予算案を通じて、戦争を遂行する能力とその法的根拠が着々と整えられていく。政治家は外部の脅威をあおり、ネット右翼は敵意と憎悪をかき立て、ドラマは視聴者に「毒」を盛る。こうして、右翼政権がもくろむ「再軍事化」と改憲のために、いわゆる「社会的コンセンサス」や「民意」が巧みに誘導されていくのだ。
ドラマにはフィクションが許されても、歴史に作り話は許されない。かつての加害者を被害者に仕立て上げ、その反撃を正当化する。ドラマに仕込んだ「毒」で国民の感覚を麻痺させ、「再軍事化」への心理的な抵抗を取り払い、軍国主義の復活を企てるのならば、それはもはや単なる創作の問題ではない。自己陶酔の果てに破滅へと突き進む自殺行為にほかならない。
高市首相は歴史に学び、国益追求へ日中関係改善を
戦前、日本が中国を侵略し各地で甚大な被害をもたらしたのは紛れもない事実だ。南京や重慶での殺戮や東北部に傀儡の満州国を作り植民地支配をした歴史は変えられない。今回の「VIVANT」を巡る波紋と衝撃を真摯に受け止め、日中の「平和共存」と「相互発展」に生かしたい。
首相の台湾有事発言を機に日中対立が続き、国益にも影響している。日中間の摩擦の長期化で日本経済への影響が顕在化している。今年1~9月の訪日中国人客数は333万人で、前年同期比56%も減少した。中国は日本に対してレアアース(希土類)などの輸出を規制も継続。製造業に打撃を与えている。
持論の右派路線を先導する高市首相には国益の観点からも歴史に学び、日中関係改善に動いてほしい。











