サマーソニック出演のため初来日したブロックハンプトンに、Rolling Stone Japanが本邦独占インタビューを実施。ラップシーンの最先端を切り拓く新世代クリエイティブ集団の素顔に迫った。
聞き手を務めたのは元クロスビート編集部で、現在はブロックハンプトンの情報を日々発信し続ける音楽ライターの中嶋友理。

今最も勢いに乗っていると言っても過言ではないアメリカ発のヒップホップクルー、ブロックハンプトン。彼らはステージに上がる6人だけでなく、プロデューサー陣や衣装デザイナー、カメラマンやビデオ制作メンバーまでを含めた、完全DIYの大所帯グループだ。

そんな出自でありながら、彼らは「ワン・ダイレクション以来最高のボーイ・バンド」を自称し、本格派ヒップホップクルーとして評価されることよりも、現代アメリカの多様性を体現するアイドルとして見られることを好んでいる。リーダーであるケヴィン・アブストラクトはゲイであることを公表しているし、メンバーの出身国はアメリカのみならずアイルランドやガーナ、グレナダと多岐にわたる。肌の色も違えば育ってきたバックグラウンドも違うメンバーたちが集うアート集団、それがブロックハンプトンだ。

2017年、1年間で連続リリースしたアルバム『SATURATION』『SATURATION Ⅱ』『SATURATION Ⅲ』で高評価を受けた彼らは、2018年にメジャーと契約し4作目のアルバム『iridescence』を発表。本国アメリカでチャート1位を達成したばかりか、イギリスやオーストラリアなどでもファンが爆増し、フェスに出演すればあまりの盛り上がりに安全のためライブが途中終了するなど、その人気はうなぎ登り。日本でも来日を望む声が高まっていたが、それがようやく叶ったのが2019年のサマーソニックと、それに先駆けた単独公演だ。

2019年8月15日(木)に開催された新木場スタジオコーストの単独公演は、予想に反して寂しい客入りではあった。しかし会場に集ったのは、サマソニまで待ちきれないという筋金入りのファンたちである。歌詞や合唱ポイントを予習し、絶対に今日のライブを盛り上げるんだという気迫に満ちた観客ばかりだった。


1曲目の「I Been Born Again」はこの日が世界初のライブ・パフォーマンスだったにもかかわらず、クライマックスのマット・チャンピオンのパートでは観客の熱狂が大爆発。続く定番曲「Gold」ではケヴィンのコーラスを観客が大合唱で完璧に歌い切り、メンバーたちも驚きと喜びに目を見開いていた様子だった。最前列とステージの距離が近い会場ならではのコミュニケーションもたくさん生まれ、メンバーは何度も客席に手を伸ばし、ファンのひとりひとりと視線を交わすようにパフォーマンスしてくれた。本国での人気度を考えると、こんな距離と親密な空気感で彼らのライブを味わうことができた新木場の観客は、まさに役得だったと言えよう。

対してサマーソニックのステージでは、これまで数々の大舞台を踏んできたライブアクトとしての実力を十二分に発揮したパフォーマンスを見せてくれた。日本での3公演(単独公演、サマソニ大阪、サマソニ東京)のうち一番動員も大きく盛り上がったこの日はやはりメンバーも精神的に燃えたようで、特に「Jouvert」でのジョバのソロ・パートは鬼気迫るものがあった。またドム・マクレノンは「Star」でステージを降り、客席に突入してスキルフルな高速ラップを披露。幾度となく巨大なモッシュピットも生まれ、最後は「Boogie」による熱狂で幕を下ろした。

このインタビューはサマソニ東京の出番前にプレスエリアで行なわれたものだ。常にチームで行動することを重んじている彼らは、なんとインタビューにも12人が揃って登場。筆者もこれまで数々のアーティストを取材してきたが、間違いなく史上最多人数である。ここでは本日8月23日(金)にリリースされた新作『Ginger』についてと、彼らが愛する日本のポップカルチャーについて聞いた。
本題に入る前に、取材に参加してくれたメンバーを先に紹介しておこう。

ブロックハンプトン独占取材「俺たちはブラザー、壁にぶち当たってる人々の味方」

Photo by Kazushi Toyota

●立ってるメンバー(左から)
ドム・マクレノン/パフォーマー、ケヴィン・アブストラクト/パフォーマー、ロバート・オンテニエント/webデザイナー、ジョバ/パフォーマー、ジャバリ・マンワ/プロデューサー、マット・チャンピオン/パフォーマー

●座ってるメンバー(後列左から)
キコ・マーリー/プロデューサー、ジョン・ヌネス/マネージメント、HK/クリエイティブディレクター、ベアフェイス/パフォーマー

●座ってるメンバー(前列左から)
ロミル・ヘムナニ/プロデューサー、マーリン・ウッド/パフォーマー

―新曲の「I Been Born Again」と「If You Pray Right」(共に新作『Ginger』収録)は、日本がライブでの初パフォーマンスでした。プレイしてみた手応えはどうでしたか?

ケヴィン:すごく楽しかった。

ドム:素晴らしい体験だったよ! グループとしてライブでパフォーマンスしたのは今回が初めてだったけど、とても激しいエナジーがあって、すごく楽しかったね。

―ライブのオープニングにもなった「I Been Born Again」ですが、曲のテーマについて教えてください。

ジョバ:例えるなら”蛇の脱皮”かな。新しく生まれ変わることについて書いた。それとミュージシャン、ライター、プロデューサーとしての直感を全面的に信じるんだってことを意識した。

ケヴィン:それから、より大きな成功を手にしても自分のすべきことを追い求めろってことを書いてる。俺にとっては『成功してもいかに自分らしくあるか』、そういうことをテーマにした曲だね。

―「If You Pray Right」については?

ジョバ:他のメンバーからは違う意見が出るかもしれないけど、俺にとっては「I Been Born Again」と似てて、自分なりの倫理を持って自分らしくあれということを表現してる。善き人としての自分を見失わず、自分の可能性を信じることが、ポジティブでいられる道だから。
時には変わっていく世界に自分が引きずられそうになっても、自分の良心を信じることがテーマだよ。

ドム:付け加えると、今回の新曲は精神的に初心に立ち返ったものでもあるね。自分たちが大好きなことをやろうとした始まりの場所に戻ってる。アルバムを聴いてもらえれば、音楽的には進化してるけど精神的には『Saturation』の3部作を作った頃のような、ピュアな気持ちに立ち返ってる俺たちを感じてもらえるんじゃないかと思うよ。

―前作『iridescence』はほぼロンドンで制作したアルバムでしたが、今回『Ginger』はロサンゼルスにあるBHハウス(メンバーが共同生活を送っている自宅兼スタジオ)で制作したそうですね。今回の作品のムードは前作と比べてどのようなものになったと考えていますか?

ジャバリ:今作はカリフォルニアで制作したということもあって、すごくリラックスしたムードがあるね。それに、その瞬間瞬間を楽しんでいる空気があると思う。

ドム:『iridescence』は内容的にもサウンド的にもすごく色々な方向性があって、やってやるぞという気合いが込められてたアルバムだった。それに対して『Ginger』はもっと自信に満ちてて、余裕を持って自分たちのやりたいことを示せたアルバムだよ。

―『Ginger』というアルバムタイトルはどこから生まれたんですか?

HK:メンバー同士の会話から生まれたタイトルで……。

ケヴィン:(HKに向かって)アンダードッグについて話してた時だろ。「特に意味はない」とか言うなよ、お前が席を立つ前に負け犬について話してたよな。


一同:(笑)。

ケヴィン:OK、みんな説明してくれるHKに拍手!

一同:イェー(拍手)!

HK:『Ginger』っていうのは負け犬を象徴した言葉で……。

ケヴィン:いいぞブラザー!

HK:もっといい人間になろうとしてるけど壁にぶち当たっていて、自分以外に誰も自分のことを信じる人がいない、そんな人たちのための言葉だ。俺たちはこのアルバムでそういう人たちとコネクトしたい。だって俺たち自身、そういう気分になる時があるから。壁にぶち当たってる人たちに、俺たちは彼らのブラザーで、そういう気持ちにコネクトできる存在なんだって知ってほしいんだ。それが『Ginger』の意味であり、タイトルの由来だよ(※「Ginger」という単語には元気、気力、精力といった意味もある)。

―ブロックハンプトンの曲ができていくプロセスについて教えてください。パフォーマンス・メンバーは6人、プロデュース・チームは3人いるわけですが、楽曲はどのような流れで作られていくのでしょうか?

ドム:まず部屋の中にマイクを立てて、それぞれに言いたいことや書きたいテーマのアイディアを好きなように出し合っていく。それでみんなが同じエナジーを感じられるもの、これはレコーディングしたいと全員が思えるものができたらプロデューサー・チームが合流し、みんなのアイディアをまとめながら曲の形に仕上げていくって感じだね。だから初期のデモは9分間なんの音もなくひたすらラップしっぱなしだったりするんだけど、それが最終的にプロデューサーチームの手によって最高の2分半の曲になっていくんだ。

マット:俺たちが共同生活してる家には1階と2階にそれぞれスタジオがあって、1階はジャバリ、2階はロミルのスタジオなんだ。
メンバーはそれぞれの場所で曲を書いたり、アイディアを出してそれを試してみたりもできるようになってるよ。

―さて、今回はブロックハンプトンにとって初の来日であり、初のアジア公演でもあります。言葉の壁がある国での滞在やショウをどのように感じていますか?

ドム:本当に頭が下がる思いだよ。日本に限らず英語が母国語じゃない国にツアーに行くと、みんな時間を割いて俺たちの言葉を勉強してくれててさ、信じられないよ。時には本当に小さい子供まで歌詞を覚えて歌ってて、「ワオ、音楽から英語を学んでるなんて!」って驚かされる。素晴らしいことだよ。

ジョバ:俺にとってはシュールにすら思える。「なんでこんなことが起きてるんだろう?」って、夢みたいな気持ちだよ。今こうして日本にいることだって未だに信じられないくらい。

ケヴィン:しかも日本のファンって本当に細かいところまで集中して観てるよね。だから俺たちも大人数の観客が熱狂してるような海外のステージより、もっと細部まで丁寧にパフォーマンスしなきゃって気持ちになる。そうすることでライブ自体がもっと強力なものになっていくからね。


―これまでブロックハンプトンはツアー先のオーストラリアやドイツでミュージックビデオを撮影していますが、日本でも『Ginger』に向けて何か撮影した?

ケヴィン:ミュージック・ビデオは撮ってないけど、プロモーション用のビジュアル素材は撮影したよ。

ブロックハンプトン独占取材「俺たちはブラザー、壁にぶち当たってる人々の味方」


ブロックハンプトン独占取材「俺たちはブラザー、壁にぶち当たってる人々の味方」

Photo by Kazushi Toyota

―それは楽しみですね! ベアフェイスはインスタに『AKIRA』のTシャツをアップしてたし、ドムが今敏監督の映画『パプリカ』や小島秀夫監督のゲーム作品が好きというのは知ってるんですが、他に日本のポップカルチャーで好きなものや影響を受けてるものがあったら教えてください。

ドム:俺はすごくいろんな形で日本のポップカルチャーから影響を受けてるんだけど、一番好きなTV番組は『サムライチャンプルー』(2004年放送のテレビアニメ作品)なんだ。DVDボックスを買って、ライナーノーツを部屋の壁に飾ってたくらい好きだよ。それからNujabesはお気に入りのプロデューサーの一人だし(※彼は今回の来日で渋谷のHMVに行きNujabesのアナログ盤が買えたことを大変喜んでいた)。

ベアフェイス:俺は『AKIRA』のシャツを2枚持ってるくらいの大ファンで、あと『頭文字D』も同じくらい好きだね。

ドム:イエス! 『頭文字D』は最高。

HK:カートゥーンネットワーク(アメリカのアニメ専門チャンネル)にTOONAMI(トゥナミ)っていう日本のアニメを主に放送する時間帯があって、子供の頃は学校から帰ってくるとそれを見てた。『ドラゴンボールZ』とか。

ドム:『幽遊白書』!

一同:イェー!

HK:それに『ガンダム』だ。『ドラゴンボール』はオリジナル、Z、GT、改を見て育った。

マット:俺は『キングダムハーツ』の大ファンだよ。あと大谷翔平選手のユニフォームが欲しくて探してるところ。

ロミル:『ファイナルファンタジー』も!

ドム:子供の頃は少年ジャンプをずっと読んでたな。あと『クレヨンしんちゃん』はめちゃくちゃ面白かった。日本のポップカルチャーで好きなものリストを作ろうと思ったら、終わらないくらいだよ(笑)。

インタビューは惜しくもここで時間切れとなってしまったが、最後にメンバーにちょっとしたプレゼントを贈った。筆者の友人でブロックハンプトン・ファンである漫画家、wako氏によるメンバーの描き下ろしイラストをプリントしたものである。偶然にもwako氏もドムがインタビュー中に挙げた『サムライ・チャンプルー』のファンで、それを意識しつつパフォーマンス・メンバーをサムライ風に描いた作品なのだが、これにはメンバー一同大喜び。最終的にプレゼントしたプリントはドムのものになり、彼が自宅の壁に飾るそうだ。

もう一枚のプリントには、インタビューに参加したメンバー全員にサインを寄せてもらった。12人のサインが揃う機会はなかなかないので、ここに掲載しよう。

ブロックハンプトン独占取材「俺たちはブラザー、壁にぶち当たってる人々の味方」


そして、最新作『Ginger』が遂にリリース。筆者もまだ2周しか聴けていないのだが、明らかに彼らが新しい扉を開いたことがわかる意欲作だ。叙情的で美しいトラックはこれまでと明らかに趣が異なり、ラップパートもメロディアスな展開が多い。サマソニでのパワフルでエナジェティックなパフォーマンスからブロックハンプトンにハマったという人には『Saturation』シリーズか『iridescence』からの入門をおすすめするが、過去4作を聴いているという人なら、彼らの新しい冒険にぜひ一緒に踏み出してみてほしい。ブロックハンプトンとの素晴らしい夏の思い出を反芻しながらこのアルバムが楽しめるのは、日本のファンだけの特権なのである。
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