シンガー・ソングライターのReiが、前作『Rei』からおよそ1年ぶりの新作『SEVEN』をリリースした。

タイトル通り、通算7枚目7曲入りとなる本作は、「7thコード」を主役にした1枚。
SEVEN という言葉の中に「EVE = 前夜」を意味する英単語が隠れていることから、新しいことに挑戦したいと思っている人や、そう思いつつもなかなか行動に移せない人へのエールも込めたという。1曲ごとに様々なゲスト・ミュージシャンを迎えた華やかな前作から一転、SOIL&”PIMP”SESSIONSのみどりん(Dr)や真船勝博(Ba)、Schroeder-Headzの渡辺シュンスケ(Key)ら馴染みのメンバーらともに少数精鋭で作り上げた本作は、様々なタイプの楽曲が並びつつもソリッドでシャープな仕上がりだ。

あるインタビューでReiは、「人を突き動かす要素は”自己満足”と”恐怖”の2つ」と語っていた。「現状維持」という名の「衰退」を恐れ、自分をとことん信じて突き進む彼女。時に眩しすぎるほどのその強さは、一体どのようにして培われてきたのだろうか。今回のインタビューでは、自身の「居場所」を見つけるまでのプロセスや、「友だち」に対する複雑な思い、時間に対する向き合い方など、これまでになくパーソナルなことを深く語ってくれた。

─様々なゲストを迎えた万華鏡のような前作『Rei』から一転、今作『SEVEN』はソリッドでシャープなサウンドに仕上がっていますね。Reiさんの作品は常にコンセプトがしっかりありますが、今回は?

7枚目のアルバムなので『SEVEN』というタイトルにして、そこから派生し「7曲入り」だったり、「7thコード」を主役にしたり、7の意味を詰め込みました。さらに、SEVEN という言葉の中に EVE = 前夜 を意味する英単語が隠れていることから、新しいことに挑戦したいと思っている人や、そう思いながらなかなか行動に移せずにいる人の背中を押す作品になればいいなと。それこそ、パワフルで尖ったサウンドにしたいと思いましたね。

─そういえば前回のインタビューでも、新たなことに挑戦する大切さについて語ってくれましたよね。

「変化する」というのはとても体力のいることですし、それに伴う批判もあるわけで、そこに立ち向かっていくのは大変なことです。
でも、その踏み出した先の景色が自分をさらに進化させてくれるということは、このアルバムを作っているときにも感じました。ユニクロの社長さんが「現状維持は衰退だ」というようなことを、いつぞや言っていましたけど、それは私も同感で。同じことをやっていては、表現者として失格だなというふうに思います。

─人は日々、変わらないことを「決意」しながら生きているとも言われるくらい、とかく「現状維持」を選んでしまいがちだと思うのですが、現状維持という「衰退」を避けるためにReiさんが心がけていることを教えてもらえますか?

「変わる」という言葉は、人によってはすごくダイナミックな響きに聞こえるかも知れません。でも、本当に少しのことで人は変わることが出来ると思うんです。例えば、いつも使わない音でコードを奏でてみるだけでも「変化」ですし、女の子がリップの色をいつもと変えてみて、同僚に気付いてもらうことも「変化」だと思う。そういう、少しの「変化」の積み重ねが、日々を彩ってくれるんじゃないかなと。この作品では、そんなことも伝えたいなと思いました。決して「反感を買ってでも変化すべき」とかそういうことではなくて。

─そういえば、Reiさんの装いや髪型もデビュー時から随分変化しました。そのことはご自身の内面にも影響を及ぼしましたか?

カタチから入るって、とても大事なことだと思います。たとえそれは失敗に終わってもいいわけで、カタチから入ると気持ちも引き締まりますしね。
なので、例えばこれからギターを弾いてみたいと思っている人も、まずは自分がカッコいいと思う形のギターを探して、それを手に入れるというところから始めるだけで、モチベーションも全然違うんじゃないかなと思います。

『SEVEN』でテーマにしたギターとは?

─これまでReiさんは作品ごとにテーマとなるギターを決めてきました。それも今の話に通じるのではないかなと思ったのですが、今作『SEVEN』はどんなギターがテーマでしたか? 

今回はTeisco(テスコ)というドメスティック・メーカーの、いわゆるヴィザール・ギター(風変わりなギター)と呼ばれるものです。「Del Rey」という輸出用のギターなのですけど、名前の中に「レイ」という私の名前が入っているし、以前からドメスティックで気を衒ったようなギターを使ってみたいという思いがあったので、今回起用させてもらいました。個性的な音がするので、バッキングというよりは「ここぞ」というポイントで演奏しています。

─ちなみに「7thコード」を主役にするというのは?

7thコードを多用するということではなく、このアルバムを象徴する響きというか。本の表紙のような役割にしたいと思いました。なので、曲の中のキーポイントになるようなところに「さし色」として配置するような感じです。

─7thコードはReiさんにとってどんな存在なのでしょうか。

私の中で7thというのは、例えばゴレンジャーの中ではキレンジャーやミドレンジャーのような、バイプレイヤー的な役割を持ちつつ、ダークホースの存在感を放っているというか。ナナメの立ち位置がすごく気に入ってます。ただのメジャー・コードやマイナー・コードと違って情緒がありますし、細かい色彩を表現できる響きの一つだと思います。


─冒頭曲「Territory Blues」は、”立ち去ってもいい 負けてもいいんだけど 逃げるつもりはない”という歌い出しから最高ですね。

ありがとうございます。「テリトリー」は「縄張り」という意味ですが、私は「居場所」という解釈でこの曲を書きました。居場所というのは自分にとって安心できる場所であり、自分を高めてくる場所だということを、今住んでいる東京という街が気付かせてくれました。

自分にとって、ただ「居心地がいい」だけの場所は自分自身を腐らせてしまうし、いろんな意見があって、それを自分なりに咀嚼して血肉にしていくというプロセスが、自分を高めると思うんです。ただ「楽しかった」という思い出よりも、仲間と現実的なディスカッションを重ねていくうちに素晴らしいものを生み出した経験の方が、ずっと自分の中に爪痕を残しているなと。そういう体験から生まれた曲です。

─落ち着ける場所であり、自分を高める場所。それを見つけるのはなかなか難しい気がします。

確かにそうですね。でも居場所というのは、そこに存在しているものでもあるし、自分で作り上げていくものでもあると思うんです。そういうメッセージも少なからず含んでいます。


─居場所は「探し求める」だけでなく、自分で「築き上げる」ものでもあると。

私の周りには「居場所がない」ということで、悩んでいる帰国子女の子がたくさんいました。アメリカにいても、日本にいても、家に帰っても学校に行っても、なんだか自分が「fit in」、「belong」していない感覚というか。ほんと、居場所についてのディスカッションは、幼い頃から何度も同世代としてきたんですよね。今、改めてそういうことについて考えるのは、非常に有意義な経験でした。

─続く「Connection」は、セルフライナーによれば「誰かと想いあって、つながっていると 何を根拠に定義しているのか?」を考えて作ったそうですね。

この曲はハイブリッドを目指して作りました。スライドギターを多用したアレンジで、伴奏もソロも、ダビングのギターもスライドを使っています。トラックはより現代的にしたかったので、打ち込みのリズムを実際に叩いたドラムとブレンドしました。シンセベースと生ベースもブレンドしています。歌詞は人間関係がテーマです。普遍的なテーマでありながら、ネット社会が普及してきたからこそ浮き彫りになってきた、「本物の人間関係とは?」、「繋がっている」、改めて問題提起したいという思いがありました。


Reiが考えるSNSとの向き合い方

─Reiさんは、SNSに対してどんな距離感で向き合っていますか?

お客さんとつながるツールではあるので、そういう意味ではリリースした時とか、声が聞けるのは嬉しいと思います。ただ、そんなに器用な方ではないので、自分の感情や日々起きたハプニングという「限られた水」を、FacebookやらTwitter、Instagramといった蛇口に、まるでビーカーで分けるように出力しなければならないのはもったいなく思える時もあって……(笑)。「これ、曲になるからツイートしたくないな」と思うこともたくさんあるし、かといって告知ばかりでもなあって思うんです。

今は、自分の見え方までもコントロールされている方が沢山いらっしゃいます。しかもプロモーションではなく「表現の一部」としてSNSをうまく使っている。きっと私のSNSをフォローしてくださっている方も、私の音楽だけでなく「こういう生き方っていいな」と、人としての魅力がなにかしら伝わればと思い、続けていますね。

─相変わらずTwitterでは、思想信条の違うもの同士の諍いや炎上が日常的に起きていますが、そのことについて思うことはありますか?

社会問題に対して、それが炎上したとしてもバズることによって、私を含めた10代、20代の子たちが関心を持つきっかけになっているなら、それはそれですごくいいことだと思っています。みんなで話し合わないことには解決しないことや、考えずには前に進めないことも沢山ありますし。

─確かに。誹謗中傷合戦ではなく、熱く意見をぶつけ合うのは本来健全なことではありますよね。

若い世代だけでなく、例えばご年配の方々が「今はこういう考え方が主流なのか」「自分の考え方は古いのだな」と気づくきっかけになったり、逆に「これは若い子たちに教えてあげよう」と思ってくれたり、お互いの世代に対して刺激を与え合える場だったらいいなと。そこは俯瞰して感じるところではあります。


あとは、そういうディスカッションをフィジカルなものに変えていけたら一番いいのかなと思います。ネット上で行われているのは、匿名で書き込んでいらっしゃる方もいるので、本物のディスカッションのようで、そうじゃないところもあると思うんです。そこがフィジカルに転換され、ジェンダーやカルチャーなど様々なトピックについて顔を突き合わせて話せる機会が増えたらいいなとは思っています。

─もはやネットがなかった頃の記憶も薄れてきているのですが、友だち同士の繋がりって昔はどうだったかなと思う時もあります。毎日LINEで繋がっているのが友だちなのか、会うのは数年に一度では友だちと言えないのか?とか。

「友だち」という言葉には愛憎入り交じる気持ちがすごくあって。幼少の頃から音楽に生きていたので、人付き合いはある程度あきらめたり、犠牲にしてきました。自分で選んだ道とはいえ、未だに本物の信頼関係とは何か、わからずに思い悩む場面が日常的にあります。

─そうだったんですね

なので「友だち」という言葉には強いこだわりがあるんです。それも、この曲に含まれたテーマではありますね。付け加えると、社会人になって気づいたのは「真心は伝わる」ということでしょうか。矢野顕子さんの「電話線」という曲に、”細い声をのせた電話線は 夢中で空をかけていくの”という歌詞がありますけど、ツールはLINEでも手紙でも電話でもなんでも良くて。目に見えない思いを相手に届けたいという気持ちは大切にしています。

「音楽と踊りは近いものがある」

─「DANCE DANCE」はタップダンスをフィーチャーした曲で、音響もとても印象的です。

一生懸命踊っている時は「あ、さっきのところ間違えちゃった」なんて考える暇もなくて。ただただ、今その瞬間の動きに没頭するしかないじゃないですか。そうやって夢中になって踊ることを人生に重ね合わせて作った曲です。夏にスペインに行ってフラメンコを見る機会があり、「踊り」を音で表してみたくなって。聴覚と視覚をつなぎ合わせるためにもタップダンスを入れたら面白いんじゃないかなと思ってアレンジに加えました。

─タップダンサーの當間里美さんとの共演はいかがでしたか?

めっちゃカッコ良くて、超興奮しました。専用の板にボーカル用の繊細なマイクを何本か立てて録音したんですけど、踊っている姿を見ながら「これも映像に収めたいな」と思いましたね。

─たった2本の足で板を踏み鳴らしているだけなのに、様々な音色が様々な帯域から聞こえてきて。本当に豊かなサウンドだなと驚きました。

そうですよね。最近はMPCやルーパーなどを駆使したり、演奏を同期させたりすることもありますし、そういう表現も大好きですが、その一方でこういうフィジカルでプリミティブなパフォーマンスというか。その人が、そこで表現しているものだけで成立している姿にはものすごく魅力を感じます。

音響的な部分に関しては、アルバムを通して「コントラスト」ということを意識しました。よく画家が、白黒で絵を描く時、「下手な人は40パーセントから60パーセントの範囲でしか濃淡を作れないが、本当に上手い作家は白から黒の間の幅広い濃淡を駆使して絵を描く」と言いますよね。音楽でもまさにそうだなと思います。

─「今、ここ」に没頭するダンスを、人生に重ね合わせたというお話もとても印象的なのですが、Reiさんも踊るのは好きですか?

お風呂上りにブルーノ・マーズを聴いて踊ったりすることはありますよ(笑)。ダンスを観るのも大好きで、ピナ・バウシュや菅原小春さん、仲宗根梨乃さん、セルゲイ・ポルーニンの踊りはよく観ています。音楽と近いものがあるとも感じています。センスだけでは表現できない、日々の鍛錬に裏打ちされた圧倒的な技術力に感動するところとか。

─個人的には「Little Heart」の、ビートリーな雰囲気がとても好きです。

この曲は、先にプロットを書いたんです。「毎日泣いている女の子が、自分の涙でハートを溶かし、だんだん小さくなって最後には消えてなくなっちゃう」というお話をまず作り、それを歌詞やサウンドに投影していきました。TACOMA FUJIというブランドをご存知ですか? そこのお洋服って一つ一つに物語が付いているんです。例えば……牛がUFOにさらわれているイラストのTシャツがあったとして、そのイラストにまつわるストーリーが設定されているんです。「とある8月の夜、宇宙人がUFOに乗って埼玉の畑にやってきて」みたいな。

─あははは、面白いです(笑)。

TACOMA FUJIさんのお洋服はどれも可愛いんですよ。吉澤嘉代子さんも、物語に音楽をつけるということをやっていて。一度自分でもやってみたかったんですよね。

「灯台下暗し」にならないために

─「Tourbillon」は、どのように作りましたか?

Tourbillon(トゥールビヨン)というのは、機械式時計の一部の構造を回転させることによって、秒針を正確に動かすための機構、またはそれを採用した時計のことです。時間の移ろいや、流れていることの美しさについて考えることが最近多いので、秒針をイメージしたリズムセクションにしたり、曲の途中で時間の流れが変わるようなアレンジにしたりしています。

─時間について考えるようになったのは、何かきっかけがあったのですか?

以前から時間に対してはシビアな方で、意味のない時間を過ごしたくないというタイプだったんです。「この4時間の睡眠は、明日の仕事に必要だ」「今歩いているのは、昨日運動してなかったから」みたいに(笑)、かつてはすべてのことに意味を持たせようとしていました。でも、意味を持たない時間がどれだけ大切かということに、だんだんと気づけるようになってきたんです。「すべての瞬間が尊いな」って。何かきっかけがあったとかではなくて、物事の捉え方が徐々に変わってきたのかもしれないですね。

私の音楽も、パーソナリティーも「硬質で隙がなくて、カロリー高め」みたいな部分が長所であり弱みでもあると思っていて。よりカジュアルに聴いてもらうためにも、もうちょっとゆとりのある人になった方がいいのかな、みたいなことも考えたりして。そのためにもまずは、時間の使い方について考えようかなと。

─前回のインタビューで「自分は放っておくとすぐ怠ける」っておっしゃっていたじゃないですか。のんびりしようと思えばいつでも出来そうな気がしますけどね。

おそらく、本質的に怠け者だからこそ、その反発で「ちゃんとしなきゃ」という気持ちがあって生きてきたんですよね。それで今まで、「ボーッとする時間」というのを放ったらかしにしてきちゃったのかもしれないです。

─さて、もうすぐ2019年も終わりますが、振り返ってみてどんな年でしたか?

うーん……「反省」の年、かなあ。この作品が出来るまで、喉を痛めたり、その後のツアーでメンバーやスタッフに支えられて「歌」を克服したり、一緒に音楽を作っているチームのメンバーが変わったり。そんな紆余曲折が作品に反映されたと思えば良かったと言えますが、やっぱり悔しいことがいっぱいありました。ただ、私はそういう負の感情をモチベーションにするタイプなので、むしろ「悔しい」「情けない」という気持ちが、「もっと頑張れる」という次の燃料になったかなと思います。

─では最後に、2020年の抱負を聞かせてください。

Verveから上半期にインターナショナル・リリースされる予定ですので、アメリカに行ってプロモーションしたり、新しいミュージシャンと音楽を作ったりしたいです。もちろん「灯台下暗し」にならないよう、日本人として皆さんに応援してもらえるよう、これからも変化を恐れず音楽を作っていけたらいいなと思っています。

<INFORMATION>

『SEVEN』
Rei
ユニバーサルミュージック
発売中

初回限定盤
Reiが「友だち」という言葉に強いこだわりを持つ理由


通常盤
Reiが「友だち」という言葉に強いこだわりを持つ理由


Rei Release Tour 2020 ”7th Note”
2020年2月22日(土)仙台darwin
2020年2月24日(月)札幌cube garden
2020年3月1日(日)福岡DRUM Be-1
2020年3月13日(金)名古屋THE BOTTOM LINE
2020年3月19日(木)大阪BIGCAT
2020年3月27日(金)東京Akasaka BLITZ
Tickets ¥4,000(+1Drink/整理番号付)
チケット一般発売 12月8日
https://guitarei.com/
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