2019年11月にBABYMETALのツアーにゲスト出演するために来日を果たしたブリング・ミー・ザ・ホライズン。大阪での単独公演も含めて日本のリスナーの熱狂を生み出した彼らに、この5年で飛躍的な進化を果たした要因と、ゲーム、ファッション、アニメとも接続しながらその音楽を拡張し続ける理由についてインタビューする機会に恵まれた。


ジョーダン・フィッシュが加入してソングライティングが変化し、エレクトロニックな要素とメロディを導入することで、ブルータルな要素とオリヴァー・サイクスのリリカルな歌のコントラストが異形かつドラマティックな楽曲に直結した『Sempiternal』。ヘヴィネスよりも、歌と楽曲のダイナミクスと起伏豊かな楽曲展開に重心を置き、そのサウンドの変化に伴って手に入れた伸びやかなメロディで世界のアリーナを掌握するスケール感を鳴らした『Thats The Spirit』。そしてラップミュージック隆盛以降とも言えるリズムと、ミドルレンジを丁寧にトリートメントしたサウンドデザインを消化し、あくまで「個のエモーションを解放する」というロックバンドの本質を維持しながらポップミュージックとしても隙のない刷新を果たした『amo』。ブリング・ミー・ザ・ホライズンはアルバムごとに音楽性を変化させながら、意識的に従来のロックバンドの定型を突き破ってきたバンドだ。メタルコア/デスコアの急先鋒としてシーンに登場した初期だって、たとえばそのブレイクダウンひとつとっても、タイミングや音色が一切セオリーに沿っていない曲ばかりだった。オリヴァーの歌に宿る鬱屈や痛みを解き放つためだった歌はいつしかユース世代の祈りの在処になり、そこに集う世界への絶望や苦しみを真っ向から引き受けることで、楽曲のスケールと「今ここにしかないもの」を生み出すことへの執念を増してきたのが彼らだとも言えるだろう。

そして今回ドロップされた新曲「Ludens」。ハイパーな要素とインダストリアルなサウンドが溶け合い、トラップ以降とも言える、ハーフで跳べるリズムを軸にして、初期を思わせるドラマティックなブレイクダウンがフィジカルな高揚を爆発させていく1曲だ。

これは小島秀夫監督が手掛けたゲーム『Death Stranding』のサウンドトラックに書き下ろされたものだが、『メタルギアソリッド』シリーズからの根強いファンベースがあった上で、初めて小島秀夫監督の名義でリリースされる作品として世界的に待望されていたのが同作である。

オープンワールドの形式をとり、人間が精神的にも物理的にも断絶を深めた世界を描く「ファンタジーというリアル」がそのままメッセージになっているゲーム。世界中のエクストリームなカルチャーと音楽を喰らい尽くしてきたブリング・ミー・ザ・ホライズンがこのゲームに共鳴したのはなぜなのか。そして、ロックのシーン自体が前時代的なものと捉えられる世界的な状況の中で、今彼らがロックバンドとしてこれだけの支持を得ているのはなぜなのか。
その最新形を通して、今ロックバンドがサヴァイヴしていくためのヒントと、ブリング・ミーの本質を語り尽くすテキストになった。

ー『Thats The Spirit』から『amo』の過程で、現行のポップミュージックに接近する歌とサウンドデザインを獲得して、活動も地球規模のスケールに広がりましたよね。そして今回はゲーム『Death Stranding』とのコラボレートで新曲「Ludens」がドロップされましたが、様々なカルチャーを越境していった上で小島秀夫監督の『Death Stranding』とコラボレートしたのは、ご自身のどういう部分が共鳴すると思ったからだったんですか。

マット・ニコルス(Dr):元々ゲームは好きだし、『メタルギアソリッド』をはじめとして小島秀夫さんの作品が大好きだったんだよね。日本のゲームのクオリティは昔から非常に高いけど、その中でも注目されているクリエイターだから、『Death Stranding』が待望されているのも知っていたんだ。だから、今回の話をもらったのはまたとないチャンスだったんだよね。ただ、僕らは当時ヨーロッパツアー中で、かなりタイトな状況だったんだ(笑)。その中で作ったのが「Ludens」なんだよね。

ー大規模なツアーも回っていましたし、かなり多忙だったと想像します。

マット・キーン(Ba):そうそう。たしかヨーロッパツアーでイタリアのボローニャにいた時だったかな? 5日間で曲を仕上げなければいけないスケジュールで、しかも曲の形もゼロの状態でさ。ボローニャのスタジオでドラムとベースのリズムトラックを録音して、リー(・マリア/Gt)はその場にいなかったから、そのリズムトラックを聴いてギターを録音して送ってもらったんだ。
そこから、オリヴァーとジョーダンにトラックを送って。そういう作業をしながら、ツアーの真っ最中に仕上げていったね。

リー・マリア(Gt):小島さんのゲームに期待しているファンが世界中に多いのもわかっていたからね。タイトな中でもやりがいを感じて、楽しんでやれたと思う。世界に僕らの音楽を改めて届ける機会だと思ったんだよ。

ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『デススト』で得た「世界を変えていくためのヒント」

リー・マリア(Photo by Kana Tarumi)

ーその瞬発力で作られたとは思えない曲ですよね。インダストリアルなサウンドに、ラップミュージック隆盛以降のハーフで飛べるリズム。そこからシームレスに雪崩れ込むブレイクダウンも、感情の沸点を落とす形で表現する今のポップミュージック構造をロックバンドにしか表せない形で改めて示していると思っていて。

リー:自分たちとしても、やりたいことと、自分たちの個性をちゃんと入れられた曲だと思う。それが今のところ好評だし、とても嬉しいよ。自分たちでも最高の曲ができたと思ってる。

『Death Stranding』で描かれているものとBMTHのメッセージの共通点

ーそれに、タフな状況でもやりたいと思うくらい小島さんが作り上げるものへのリスペクトがあったし、世界に向けて自分たちの音楽を改めて届ける意志があったということですよね。
実際の『Death Stranding』で描かれているのも、人間個々の繋がりをテーマにしつつ、それが精神的にも物理的にも絶たれたリアルな世界で。こうしたディストピアの中で人間がどう生きるかを問う世界観と、自分たちのメッセージがリンクするポイントもあったんですか。

オリヴァー・サイクス(Vo):確かに言ってくれた通りで、あのゲームの目指しているところが、僕らの音楽のテーマにしていたところと重なっていると思えたんだ。ゲームのトレーラーを見て概要を調べていった時に、まさに人間の繋がりや、今の世界自体をテーマにしているゲームだとよくわかったんだよね。環境が破壊されて、人間も分断されて、世紀末以降の世界――このゲームが示唆している通り、まさにディストピアになっている今の世界の状況に対して、自分の重たい感情(注釈:オリヴァーが離婚のトラウマを乗り越えていった過程が『amo』の歌には多く込められている)を出し尽くした後に果たして何が歌えるんだろうとよく考えた。そこで、やっぱり僕自身も世界の現状に悲しい気持ちを持っていることに気づいて。これまで僕は自分の内面を歌詞にしたり、まるでセラピーのように自分の痛みを歌にしたりしてきた。気候変動、人種間の争い……それ以外にも今はたくさん問題があって、そういう世界の痛ましい状況が自分にどういう影響を与えてきたのかという観点で歌うことがほとんどだったんだけど、この痛みを綴った歌が世界にどんな影響を与えるのかという観点で歌ったことはなかったんだよね。なおかつ、いつか自分自身の感じる世界の現状をメッセージにしてみたいと思っていた。それを、今回のゲームの世界観を通してようやく形にできた気がしたんだ。

ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『デススト』で得た「世界を変えていくためのヒント」

オリヴァー・サイクス(Photo by Kana Tarumi)

ー実際、時代の新たなリーダーが必要であること、人間が人間であるための新たな文化構築の必要性がこの歌の主題になっていますよね。ハイパーな要素と生々しい叫び、ブレイクダウンが共存しているアレンジも、今おっしゃった話と世界の分岐点を明瞭に表していると感じました。


オリヴァー:このゲームもまさにそうだけど、何もない荒野を主人公が歩んでいくわけだよね。それを見て、何もかもが崩壊した世界であっても、人間がそこに立っている限り、必ず希望は生まれていくと感じたんだ。人間が動物とどう違うかって、それは「想像を形にできる」ことだよね。遡ってみてもよくわかるよね、人間は何もないところから火を発明して、目に見える世界を写真に残す方法を生み出した。想像から生まれるものが僕らの文化となって、人と人を繋いできたんだ。日々バッドニュースばかりが聞こえてくるし、社会の仕組みとしても、誰もが自分の痛みや意見を吐き出せずに心を痛めるようになっている。たとえば今は悪質なマスキュリニティについて言及されることも多くなったけど、従来の「男性らしさ」の刷り込みが残っているせいで今どうしたらいいのかわからなくなっている若い男性もたくさんいるわけだよね。僕自身も自分の痛みをどう消化したらいいのかがわからなかったし、イギリスのシェフィールドという片田舎で育って誰にも心の内を明かせない環境だったからこそ、今の若者が社会の抑圧の中で苦しんでいることもわかるんだ。そういう苦しさや圧迫感は至るところにあるし、とかく悪いニュースに耳は引っ張られる。だけど、やっぱり人間は想像力によって次にどうしたらいいのかを表現してきた生き物なんだよ。それに、見渡してみればグッドニュースだってたくさんあるじゃないか。たとえば16歳の大学生がゴミを再生させる生物有機体を作ったり、マンゴーのピールから製品のパッケージを作ったり、若い世代が世界に優しいものを開発している事実もある。
だから、痛ましい現実や絶望、政治的な問題や人間の醜悪を突き付ける以上に、希望を再生していくための行動と想像力をメッセージにしたいと思ったんだ。痛みの中でも前向きで、人間としての希望を感じられる歌――それはサウンドとしても歌詞としても表現できたと思う。とにかく自分自身が行動を起こして、世界を変えていかなくちゃいけない。そのヒントは、今回の『Death Stranding』から得られたものだね。

聴く人のバイブル(聖書)になる音楽を提供したい

ーブリング・ミー・ザ・ホライズンの音楽自体も、自分自身の内省や孤独、終末観を叫びながら生を渇望するメタルコアから始まって。そこから立ち上がって再生していくようにして、スケール感と美しいメロディ・サウンドを増やしてきましたよね。まさに希望を見出していく過程がバンドストーリーになって、大きなコーラスになって、そしてキッズの祈りの在処にもなってきたと思うんです。

オリヴァー:そうなっていたらとても嬉しいね。祈りと言ってくれたけど、まさに聴く人のバイブル(聖書)になる音楽を提供したいと思い続けてきたから。それに僕自身がビーガンだから、今の世界で起こっていることや環境問題、気候変動のトピックを無視できないところもあってね。現実の痛ましいニュースに向き合っていくために、その痛みを昇華できる音楽を提供してきたつもりなんだ。それはこれからもずっと変わらない部分だと思う。
だから、「人間がそこにいる限り希望はある」というメッセージは、確かに僕らのやってきたこととも重なるかもしれないね。

マット・ニコルス:ゲームって、逃避させてくれるファンタジーであると同時に、現実的な問題に持ち帰れるものもたくさんある。そういう意味で、この「Ludens」ではこれまでよりも大きなメッセージを込められるところはあったよね。

ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『デススト』で得た「世界を変えていくためのヒント」

マット・ニコルス(Photo by Kana Tarumi)

ーそうして外の世界と今の自分は確かにつながっているんだという実感が、作品ごとに音楽的な要素とスケール感を増して変化してきた要因とも言えますか。

オリヴァー:そうかもしれないね。それに、単純に僕らは同じことをしたくないという部分もあるから。今はなんだってそうだよね、ゲームだって音楽だって、常に変化するスピードが速くなっていくし、そもそも変わっていくこと自体が自然なことだと思うからね。

ジョーダン:自分たちの世代は当たり前のようにゲーム機が家にあって。何年も、ゲームの進化とともに生きてきた世代でもあるんだ。だから、もしかしたらゲームは映画以上に物語を伝えられるメディアになってきているんじゃないかと感じるし、変化していくことは美しいことなんだと実感してきたんだよね。ユーザー自身が世界の中に入って、体験と経験を得ることができるからね。それもあって、より広く世界のことに目を向けさせてくれる機会だったのは間違いない。

マット・キーン:ゲームはまさに、本を読んでいるような体験とともに、自分の行動を自分で決定する経験をさせてくれるものだからね。そういう意味でも、今回の小島さんのゲームが見せてくれる世界と、そこでどう生きていくのかを考えさせてくれる機会はとても大きかったよね。

ジョーダン:映画は1900年代に発明されたものだけど、ゲームはここ20年、30年で急激な進化を遂げてきたメディアで。ここまで速いスピードで進化して我々の生活の欠かせないものになっているカルチャーは、ほかに見当たらないと思うんだよ。僕らの世代は、その進化をずっと見てきたから。とても自然に物語に触れられるメディアとして、人間、世界の媒介になっていく可能性を見出してるんだ。

ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『デススト』で得た「世界を変えていくためのヒント」

左からマット・キーン、ジョーダン・フィッシュ(Photo by Kana Tarumi)

オリヴァー:たとえば映画ももちろん想像性を掻き立てられる芸術だけど、ゲームはそれに加えて、自分の認識に伴って体を動かして、手を動かして自分自身が没入していけるよね。見たものをただ吸収するだけじゃなくて、身体的な連動も要求される。日本のゲームセンターに行ってみてもわかるけど、みんなとてもゲームが上手だよね。感じることと、それに伴って自分のリアルな行動を起こしていくこと。それを同時に促すメディアとして、さらに大きな可能性を持っているのがゲームだと思う。そこに、自分自身で立ち上がらなければいけないというメッセージや、人間に見る希望を重ねることができたんだと思う。

イマジネーションという意味において、ゲームも音楽もまだまだ新たな可能性を発信できる

ー実際、今生きている世界に対しての問題意識と改善するための行動は、想像から生まれるものですよね。気候変動に対しての危機意識を訴えて立ち上がるユース世代が増えたことも、人種間の争いことも、従来のジェンダー観がフラットなものに立ち返ろうとしている動きも、過去を見直して未来を想像することから始まったもので。そのイマジネーションが人間の希望そのものだと思うし、音楽もそこに訴えることのできる芸術だと思うんですよ。

オリヴァー:まさにそうだよね。イマジネーションという意味において、ゲームも音楽もまだまだ新たな可能性を発信できるものだと思っている。『Death Stranding』も、人との関わり合いの中で物語が進んでいくものだし、小島監督のように、想像性の中にリアルなメッセージを込められる人だからこそ作れた作品だと思う。今はVRによって、リアル以上にリアルを直視させられる芸術も進化しているから、芸術とファンタジーの境界線も、ゲームと映画という境界線も、どんどんなくなってきたと思うんだ。そこで大事なのは、確かに僕らは自分の体で体験して、実感を得られるということで。

ーあくまで身体性に伴う体験や実感が想像力を生んでいくと。

オリヴァー:そう。ファンタジーだとしても、ただ見るだけじゃない、実際に体験していくことから自分の想像性は育まれる。音楽というエンターテイメントが持っている可能性も、その圧倒的な体験ができる点なんだよね。イマジネーションを働かせて、そして人それぞれの身体的な高揚も生んでいくもの。それを僕らも追求していくべきだと思っているよ。それに今は、何をするにしても同時にiPhoneを触るのが普通になってきているじゃない? つまり何かひとつの体験をするだけでは脳が満足しなくなってきてると思うんだよね。そういう意味でも、イマジネーションを生むための体験をいくつも同時に生んでいくことが大事になってくると思ってるんだ。

ー『amo』がそうだったように、個々の想像力とエモーションを叫べる歌・音楽こそリアルだという視点が、個を証明するものとしてのラップミュージックを消化した音楽に表れていたと思うんです。そして今の時代は特に「みんな」という目に見えないものに向けてではなく、今ここに生きていると個を証明できる、あくまでひとりの想いを吐露している音楽がポップミュージックになっていく向きにあるとも思うんです。

オリヴァー:そうだね。ファンタジーと現実との境目がなくなってきていると話したけど、たとえばこの『Death Stranding』も、ファンタジーでただ楽しいだけの作品ではない。レビューを見ても、そういう感想が多いよね。映画で言えば、単館上映の作品みたいに強烈なメッセージと個の想いに溢れていて、クリスマスに家族全員で観られる映画とは全然違う。だけど人を奮い立たせるエキサイティングなものっていうのは、いつでも個々の想いとメッセージだと思っているんだ。僕自身も、『Sempiternal』以降は特に、自分の心の中にある痛みや苦しみを歌にすることで、それがセラピーになると気づいてきたんだ。クールなもの、その時代に強いメッセージを放つものっていうのは、常にそういうものだと思うんだよね。そこに生きる人の独自性、ユニークさが輝くべき時代においては、特にね。

ジョーダン:そうだ。僕も実際に『Death Stranding』を数時間プレイしてみたんだけど、まだ状況が動く前までしかやれていないんだよね(笑)。

ーああ、そうなんだ(笑)。

ジョーダン:5時間くらいやっても、まだまだ広い世界の一部をウロつくだけで終わっちゃってね(笑)。それで、よりにもよってトイレに行って「大」をしている時に「Ludens」がかかってきて笑ってしまったんだけど。

ーはははははは。先ほどは、その場所、その人にしかない独自性という話もありましたけど、世界規模の活動になっていく中で、日本という場所にしかない面白さとはどういうものだと思われてます? それこそ今回は、日本特有の音楽によってメタルの様式美を刷新したBABYMETALとの共演のために来日されたわけですけど。

ジョーダン:日本は世界一の場所だと思っているよ、本当に。クールなものを探していくと、日本に辿り着くことが多いしさ。

リー:そうだね。ここに来るたびに感動がある。世界中を回っているけど、伝統と未来がこんなに融合している文化は他に見当たらないよ。ここにしかない文化が豊かだと思う。

ー特に音楽の変容の仕方、音楽を取り巻くビジネスの仕組みに関して、日本では「ガラパゴス化」という言葉がよく使われるんですね。つまり、世界と断絶された歪な文化のまま抜本的なアップデートがされていない。でも逆に見れば、ここにしかない独自性だという言い方もできるかもしれないわけで。その点はどう見えていますか。

オリヴァー:クレイジーなファッション、アニメ、それこそゲームにしても漫画にしても、ユニークでイマジネーションを刺激してくれるカルチャーを追い求めていくと日本に辿り着くんだよね。いろんなものをミックスする自由さも存在していると思う。それをもっと面白みとして自覚すべきだよね。

ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『デススト』で得た「世界を変えていくためのヒント」

Photo by Kana Tarumi

ーたとえば今挙げていただいた日本の漫画やアニメで言うと、少年少女の成長と葛藤が物語になっていくものが多いですよね。それとも通ずる物語性がブリング・ミーのバンドストーリーにもあると思うし、そのストーリーを描けるバンド自体が今は少なくなっていますよね。その辺りで自覚的なものはありますか。

オリヴァー:ああ、確かにそうかもしれないね。そういう部分でも日本のカルチャーは僕らの新しい刺激になるし、ヒントになるんだ。言ってくれたように社会やカルチャーとして閉鎖的になっていくのだとしたらもったいないと思うけど、たとえば世界の都市を見てみても――ニューヨークにしても、パリにしても、いろんな映像である程度のイメージができているわけだよね。実際、そこに行ってみても想像通りの範疇に収まることが多い。だけど日本は、毎回想像以上の驚きがあるんだ。街のネオンにしても、音楽にしても、ゲームにしても、クレイジーなファッションにしても、とても刺激的だよ。まるでディズニーランドに来た感覚になれる。そういうものを僕らも吸収して、変化していければと思ってる。

「僕らはシーンにすら属せていないんだよ。なぜなら、もうロックのシーンがないんだから」

ー端から、単なるメタルコアでもデスコアでもなく、世界中のエクストリームな音楽性を喰らい尽くしていく巨大な生命体のようなバンドだと捉えてブリング・ミー・ザ・ホライズンの音楽を聴いてきたんですね。2000年代EMOのファッションカルチャーとも接続して、ゲームのように物語性のある音楽を構築して、個を解き放つ叫びと衝動性も追求されてきた。そのスタンスがさらに世界規模になってきているのが今だと思うんですね。世界に点在するカルチャーを喰っていくのは、その先に何を見ていて、今の自分たちはどういう時期にいると思うからなんですか。

ジョーダン:今も自分たちが変化して進化し続けられていることは自覚しているし、それはまさに、広い規模で活動していくための音楽と作品がもたらしてくれたものなんだ。その中であらゆるカルチャー、世界中にある独自の面白さとどんどんコラボレートしていくことが、僕たちの進化のために一番大事なことなんだよね。ロックバンドとして進んでいくためにも、音楽をやっていくためにも、それを取り巻くものと接続していかなければ進化はできない。同じところに止まっていることなんて、面白くないだろ?

オリヴァー:そもそも、2019年にこうしてロックバンドをやっていること自体がとても厳しくてタフな状況なわけだよね。それはさっきも話してくれたように、音楽的にもメッセージ的にもロックが定型化してしまった今の状況で、僕たちがロックバンドとしてやらなければならないのは、従来の型に止まらないっていうことなんだ。既に名が売れている超大物バンドならいくらでもツアーを回れるし、そのままやっていくことは可能かもしれないけどね。

ーただ、それだけではロックそのものがコンサバ化してしまうだけですからね。

オリヴァー:そう。その中で若いバンドがやっていくためには、世界の動向にもしっかりと反応しなければならない。かたやラップミュージックは毎日のようにSoundCloudに曲がアップされて、エキサイティングなものが生まれ続けているよね。その物理的なスピードに対しても、個々が自由に自分を表現できる環境に対しても、そしてロックバンドでありながらも今のポップミュージックを吸収していくことに対しても、貪欲であらねばならないと思ってるんだよね。その意識はどんどん強まっていると思う。かつてはロックバンドが世界を制覇していたはずなのに、いつしかロックは自分を自由に表現できるものではなくなってしまった。それを打破していくためにも、自分たちだけで道を切り開いていく覚悟と、従来の価値観にとらわれず自分たちのやりたいことを貫くことが大事なんだよね。

ブリング・ミー・ザ・ホライズンが『デススト』で得た「世界を変えていくためのヒント」

Photo by Kana Tarumi

ーそれこそロックバンドの音楽的な型は90年代に一度完成してしまったと言われているし、それをどう刷新していくのかは、90年代の音楽をリアルに体感してきた世代として託されている部分ですよね。音楽の視聴環境の変化にしても、ロックという音楽の定義にしても、ロールモデルは一度なくなったという認識が必要で。

ジョーダン:そうだね。今は、そのロックのシーン自体がなくなってしまった状態だと思うんだよ。ならば、なおさら自由にやっていくことが必要だと思うんだよね。どのフェスに出るかの判断ひとつをとってもそうだし、「あいつらがやったことを俺たちもやってみよう」という発想自体がもう存在しないんだよね。

ーその認識が、ブルータルなハードコアから始まりながらも世界中の音楽とカルチャーを喰らい尽くしていく自由さに繋がっているんですか。

オリヴァー:そう。ここからは、自分たちのやることすべてが前例のないことだっていう意識でやっていくべきだ。今のラップミュージックの若手なら、新曲をネットにアップして流れに乗ればいい。だけど僕らには、そういうセーフティネットすらないんだよね。僕らはシーンにすら属せていないんだよ。なぜなら、もうロックのシーンがないんだから。そのシビアな認識があるからこそ自由になれるし、クールなものを消化して、自分たちの幅を広げていくことができる。当然、前例のないことをやれるのは大変だしタフだけど、だからこそ楽しいしやりがいがあるんだよね。自分たち自身はロックバンドと呼ばれようが、未だにデスコアと言われようが、構わない。もちろんポップミュージックとして受け入れられていくのも喜ばしいことだよ。それはつまり、自分たちだけでトライしてきたことがちゃんと伝わっているということだから。ひたすら自分たちだけで道を切り開いていくこと、それこそが自分たちのやるべきことだと思っているよ。そのために世界中であらゆるものを吸収して、人とつながっていきたいんだ。

ーこれだけエクストリームな音楽でありながら、それと同時にサウンドとしても楽曲の構造としてもポップミュージックの芯を食っていることの素晴らしさ。それは十分に伝わっていると思います。また進化した姿でお話を伺える次の機会を楽しみにしてます。

オリヴァー:ありがとう。僕らも日本を十分エンジョイしようと思うし、また戻ってこられる日を楽しみにしているよ。

Songs for PlayStation selected by Bring Me The Horizon

 
Hideo Kojima Select

・小島秀夫監督からのスペシャルコメント

『DEATH STRANDING』のテーマは「繋がり」です。分断された世界を、点と点を繋いでいくゲームです。目的の地点に到達するためには、ユーザーがどのようなルートを通ってもいい、オープンワールド特有の大きな自由度があります。本作の主人公であるサム・ポーター・ブリッジズは、その広大なオープンワールドをたった一人で配送し続け、疲労したり負傷したり、時にはバランスを崩して転倒することもあります。

プレイヤー(サム)は厳しい自然の中で過酷な配送をしてきているので、プライベートルームではリラックスし、回復してもらうことができます。そのプライベートルーム内のミュージックプレイヤーでは、音楽を楽しむこともでき、このBring Me the Horizonの「Ludens」もお聴きいただけます。

「Ludens」はコジマプロダクションのシンボルキャラクターでもあります。オランダの歴史学者ホイジンガが提唱した「人間の活動本質は遊びであり、それこそが文化を生み出す」というホモ・ルーデンスの概念に共感し、最先端のテクノロジーを使い、未知なる所に遊びを届けに行くというプロダクションのコンセプトが込められています。

 Bring Me The Horizonが彼らの解釈でゲームを彩る新しい楽曲を産み出してくれたことに感謝します。

by Hideo Kojima
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