AC/DCの『ロック魂』からシステム・オブ・ア・ダウンの『毒性』まで、ロック界屈指のドラマーがクラシックの数々について語り尽くす。

本誌が「史上最高のメタルアルバム100枚」を選出するにあたって、編集部が真っ先に意見を求めたミュージシャンの1人が、メタリカのラーズ・ウルリッヒだった。
同リストで第2位に選出された『メタル・マスター』を含む、ランクインした5枚のアルバムで共同作曲兼ドラマーとしてクレジットされている彼は、約40年にわたってメタル界のご意見番であり続けている。

数々のインタビューおよび無数の「gareage days」リリースは、彼が抜群のセンスの持ち主であることを証明している。そして同リストには、彼らが「garage days」シリーズでカバーしているダイアモンド・ヘッド、ブラック・サバス、モーターヘッド、マーシフル・フェイト等の作品も名を連ねている。つまりウルリッヒと彼のバンドメンバーたちは、何十年も語り継がれる作品を見抜くだけのセンスを備えているということだ。

アイアン・メイデンの緻密なアレンジから、ガンズ・アンド・ローゼズのハートに響くパンクスピリットまで、彼が本企画のために選出したレコードのリストは実に多様だ。「大好きなバンドの作品の中から、それぞれの代表作だと思えるものを選んだ」彼はそう話す。「これらのバンドの多くは、そのキャリアを通じて進化を遂げ続け、優れたレコードを数多く残している。ここで俺が選んだ作品の中には、アーティストのキャリアという観点から見たものもあれば、俺個人が受けた影響の大きさに基づいてるものもある」

ラーズ・ウルリッヒ自身による解説とともに、彼が選出したお気に入りのメタル&ハードロックアルバム15枚を紹介する。なお本人の要望により、掲載はアルファベット順となっている。

●「メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ最強の15作」アルバム一覧

AC/DC『Let There Be Rock』(邦題:ロック魂、1977年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


これはAC/DCの作品の中でも最もヘヴィで肉厚、そして最もエネルギッシュなアルバムだ。「ロック魂」「バッド・ボーイ・ブギー」「ホール・ロッタ・ロジー」「地獄は楽しい所だぜ」の4曲はライブの定番になってる。彼らがこれらの曲を今までに何度演奏したのか知らないけど、気が遠くなるほどの回数であることは間違いない。


言うまでもなく、これはAC/DCが『地獄のハイウェイ』で(プロデューサーの)マット・ランジと組んで、ラジオ受けする3~4分のロックの曲っていうフォーミュラを完成させる前に残されたアルバムだ。今作における2本のギターのバランスは非の打ち所がなく、アンガスとマルコムによるギターソロとリフのを存分に堪能することができる。曲の多くはどちらかのギターのリフで始まり、もう片方がオープンコードを弾くっていう展開になってる。16小節とか32小節とかを過ぎたあたりで、2本のギターが同じリフをユニゾンで弾き始めて、そこにボン(・スコット)が女やら不良やら非行やら、ちょっとアニメめいたヤバい歌で加わるんだ。各曲の冒頭にはアンプのノイズやカウントインのコール、スタジオでの会話なんかも入ってたりして、彼らと一緒にスタジオにいるような気分にさせてくれるところも魅力だ。これぞブルースをベースにしたハードロックの原点であり、問答無用の金字塔さ。

中でも「オーヴァードウズ」は、俺が一番好きなAC/DCの曲かもしれない。2本のギターが重なり合うところは、音楽史上最もヘヴィな瞬間だ。俺が知る限り、この曲がライブで演奏されたことは一度もない。俺のような筋金入りのAC/DCファンにとっては、死ぬまでに生で聴いてみたい曲のひとつのはずさ。なんでライブでやらないのか、アンガスに直接訊いてみるほどの度胸は俺にはないけどな(笑)でもアクセルが加入して以来、彼らは長く封印してた曲をライブでやったりしてる。だからアンガスじゃなく、アクセルにあの曲をやれってけしかけようと思ってる。


アリス・イン・チェインズ『Dirt』(1992年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


俺はアリス・イン・チェインズのことを、1990年の夏に出た彼らのデビューアルバムで知った。当時俺たちはロスで『ブラック・アルバム』を制作中で、やつらとはバーやらクラブやらでしゅっちゅう会ってた。若くて気さくで、ユーモアのセンスもあったし、ちょっと変わってたけどマジでいいやつらだった。シャツの下に長袖の下着を着るセンスには首を傾げたけど、彼らのネルシャツの着こなし方は斬新でクールだった。そして彼らの音楽はとてつもなくヘヴィで、アティテュードも満点だった。

それから2年後くらいに出た『ダート』は、ものすごくダークでディープなレコードだった。当時の俺たちはドラッグはそんなにはやってなくて、仲間たちとつるんでがっつり酒を飲むことで満足してた。ドラッグカルチャーは俺たちにとって、決して身近なものではなかったんだよ。俺はそういうのにどっぷり浸かってたやつらとは交流がなかったから、このレコードで歌われていることについても最初はあまり共感できなかったし、遠回しなドラッグへの言及についても理解してなかった。でもやつらとの付き合いが深まり、このレコードの魅力が理解できるようになって初めて、その歌詞の重みに気づいたんだ。

マジでとてつもなくディープでダークなアルバムだと思う。「ルースター」の素晴らしさは、俺が今更説明するまでもないだろう。
あれがジェリーの父親についての曲だってことを、当時の俺は知らなかった。「レイン・ホエン・アイ・ダイ」「ダム・ザット・リヴァー」なんかは凄まじくヘヴィだし、短い曲の出来も文句なしだ。正真正銘の傑作で、92年に俺が一番よく聴いたアルバムのひとつであることは間違いない。

ブラック・サバス『Sabotage』(1975年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


ブラック・サバスのファンの大半は『パラノイド』か『マスター・オブ・リアリティ』がお気に入りだってことはよく知ってる。でも俺は、「ホール・イン・ザ・スカイ」と「悪魔のしるし」のワンツーパンチこそが彼らの真骨頂だと思ってる。よりディープな曲群も相当にヤバい。「誇大妄想狂」は、まるでヘヴィメタルの教科書のような曲だ。レコードでいうA面は、おそらくブラック・サバス史上最高の20分だろう。極めつけは「悪魔のしるし」だ。シンプルなリフや、チャグチャグっていうあのダウンピッキング、あれぞ80年代や90年代のハードロックやメタルの原点さ。

俺が初めて買ったサバスのレコードは、これの前作にあたる『血まみれの安息日』だった。発売直後の1973年のクリスマスにゲットしたんだけど、マジでゾクゾクした。
とりわけ怖いのが、「血まみれの安息日」の後半だ。「どこに逃げるつもりだ? / 俺たちが他に何をしたっていうんだ? / 血まみれの安息日 / 万策尽き果てた」背筋が凍りつく恐ろしさだ。『サボタージュ』は他の作品に比べてアップテンポな曲が多いのが、俺がこのアルバムをお気に入りに挙げる理由のひとつだ。彼らのサウンドは作品ごとに洗練されていくけど、個人的には初期のシンプルさに一番魅力を感じる。そういう意味でも、『サボタージュ』は彼らの最高傑作だと思う。

●オジー・オズボーンが選ぶ、究極のメタル/ハードロック・アルバム10作

ブルー・オイスター・カルト『On Your Feet or On Your Knees』(邦題:地獄の咆哮、1975年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


これは史上最高のライブアルバムのひとつだ。曲の大半は『オカルト宣言』に収録されているやつだけど、「シティーズ・オン・フレイム」のような初期のヒット曲や、「ザ・レッド・アンド・ザ・ブラック」のようなマイナーな曲、そして70年代のハードロックバラードの原型というべき「ラスト・デイズ・オブ・メイ」も聴きどころだ。このレコードの凄いところは、濃密でありながら一貫してるところなんだ。

このバンドはメンバー全員が歌えるんだけど、「シティーズ・オン・フレイム」で歌ってるのはドラマーだと思う。ちなみに「ME 262」では、5人のメンバー全員がギターを弾いてて、すごくイカした写真も残ってる。あれぞ究極のギターソロだ(笑)。正規のギタリストは2人だったと思うけど、そこにスティックをギターに持ち替えたドラマーが加わるのさ。


ブルー・オイスター・カルトはニューヨークのシーンの一部だった。CBGBを中心としたダウンタウンのインテリ界隈にいたバンドで、キーボーディストのアレン(・ラニアー)はパティ・スミスと付き合ってたんだ。ルー・リードやヴェルヴェット・アンダーグラウンドを筆頭に、当時のニューヨークのシーンには知的なイメージがあった。あの頃売れてた他の野蛮なバンドに比べると、彼らはスマートで落ち着いていて、どこか凛としてる感じがあったね。

ディープ・パープル『Made in Japan』(1972年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


「ハイウェイ・スター」や「スモーク・オン・ザ・ウォーター」、「スピード・キング」等を例に挙げるまでもなく、ディープ・パープルは数多くの名曲を残してきた。ライブ用に曲をこんなにも劇的にアレンジできるバンドは、彼ら以外にはいないだろう。俺が初めて買ったディープ・パープルのレコードが『ライヴ・イン・ジャパン』で、盤が擦り切れるほど繰り返し聴いた。レコードだとA面からC面までは2曲ずつ収録されてて、D面は20分近くもある「スペース・トラッキン」だけになってる。それから何年かかけて彼らのスタジオアルバムを買い集めていったんだけど、『マシン・ヘッド』を聴いた時は驚いたね。「スペース・トラッキン」は3分くらいしかなくて、残りの17分は一体どこからやってきたんだって感じさ。これぞ探究心ってやつだと思ったね。

このレコードは、メンバー5人がステージで一緒に音を出すことで生まれるケミストリーを見事に捉えてる。
ライブ映像を観ると、各メンバーが互いに距離をとって演奏してるのがわかる。ブラックモアがソロを弾き終えるタイミングで右手を上げるのは、次のパートに移れっていうドラマーのイアン・ペイスへの合図なんだ。完全に即興なんだけど、「マッシュルームを4時間ぶっ通しでやる」みたいな、いかにもヒッピー的なトリップ感とは無縁だ。芯の部分は揺るぎないんだけど、ライブでのアレンジが毎回違うから、2つと同じショーは観られない。ソロの長さが何小節になるかなんてことは、弾いてる本人しか知らないんだよ。

このアルバムに収録されてる、1972年8月に行われた大阪での2公演と東京での1公演でのパフォーマンスはすごく特別で、鬼気迫るものを感じさせる。「チャイルド・イン・タイム」のギターソロは、オーネット・コールマンやマイルス・デイヴィスのぶっ飛んだやつを好むような筋金入りのジャズ好きをも唸らせるだろうし、実際にリッチー・ブラックモアとイアン・ペイスのインタープレイはほとんどジャズだ。それでいて、ダウンピッキングでリフをザクザクと刻む「ハイウェイ・スター」なんかは、とてつもないエネルギーに満ちてる。バンドにおける人間関係が良好ではなかったことはよく知られてるけど、メンバーが互いにけしかけて、その挑発に乗ってやると言わんばかりに各自が応戦することで、演奏に痺れるような緊張感が生まれてるんだ。

10年か15年くらい前に出た『ライヴ・イン・ジャパン』っていうアルバムには、その3公演の全編が収録されてる。全部聴いてみれば、「ハイウェイ・スター」「チャイルド・イン・タイム」「スペース・トラッキン」「レイジー」「ストレンジ・カインド・オブ・ウーマン」なんかのギターソロやドラミング、ヴォーカルまでが毎回全然違うことに驚くはずさ。

ダイアモンド・ヘッド『Lightning to the Nations』(1980年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


メタリカのサウンドの原点といえるレコードを1枚挙げろと言われたら、これ以外には考えられない。これまでに1000回、いや1万回くらいそう答えてきたはずだ。

1981年の夏、俺はダイアモンド・ヘッドのシンガーとギタリストだったショーン(・ハリス)とブライアン(・タトラー)の自宅のリビングに住まわせてもらってたんだ。カリフォルニアに戻ってバンドを始めようとしてた俺にとって、伝統的なハードロックのアプローチをとってた彼らはお手本のような存在だった。レッド・ツェッペリンの大ファンだった彼らの曲には、聴き手を惹きつけるストーリー性と探究心、そしてギターリフに基づいたピュアなエネルギーがあった。シンプルなドラミングも手伝って、彼らの曲はグルーヴに満ちてた。

そのうちに、メタリカで彼らの曲をやってみることになった。「アム・アイ・イーヴィル?」はもちろん、「イッツ・エレクトリック」「ヘルプレス」「ザ・プリンス」なんかは正式にリリースされてる。昔は「サッキング・マイ・ラヴ」や「スイート・アンド・イノセント」もよくやってた。要するに、『ライトニング・トゥ・ザ・ネイションズ』は俺たちにとっての教科書だったってことさ。あのアルバムに収録されてる全ての曲が、俺たちにとってものすごく重要な意味を持ってるんだ。

メタリカの初ライブでは、ダイアモンド・ヘッドの曲を4曲演ったと思う。俺たちは元々カバーバンドで、ただ好きな曲を演奏してるだけだったんだよ。その日に演奏した曲がカバーだってことは誰にも言わなかったけど、自分たちの曲だとも言わなかった。ただステージで好きな曲を弾く、それだけだったのさ。2度目か3度目のショーでサクソンの前座を務めることになったんだけど、彼らのサウンドマンのポールってやつに「ダイアモンド・ヘッドってバンドを知ってるか?」って訊かれてさ。「もちろんさ、彼らの曲を4曲カバーしてるからね」って正直に答えたよ。つまり、メタリカは元々ダイアモンド・ヘッドのカバーバンドだったんだよ。

ガンズ・アンド・ローゼズ『Appetite for Destruction』(1987年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


このアルバムのことはもう語り尽くされてるよな。紛れもなく、史上最高のロックレコードのひとつだ。ハードロックとメタルの垣根をぶっ壊しただけじゃなく、この金字塔はある時代を象徴する作品として、数えきれないほどのフォロワーを生み出した。(ビートルズの)『リボルバー』や、ストーンズやスプリングスティーンやU2の最高傑作にも引けを取らないレコードだと思う。当時は誰もがこのレコードに夢中になったし、人生の一部のサウンドトラックになったはずだ。

このアルバムを聴くと、1987年当時のことがありありと蘇るんだ。そのインパクトは以降3年くらい続いた。このレコードを初めて聴いた時の衝撃は、今でもはっきりと思い出せるよ。ニューヨーク行きの飛行機の中で聴いたんだけど、俺はその日にロサンゼルスにあるレーベル本社に行ってて、担当のA&Rの人間が「今度うちから出るバンドのレコードだ」って言ってカセットテープをくれたんだ。確か発売の2カ月くらい前だったと思う。まずは「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」にやられたね。衝撃的ってほどじゃなかったけど、すごくクールだと思った。でも「イッツ・ソー・イージー」、あんな曲は過去に聴いたことがなかった。「簡単さ、退屈しちまうほどに」っていう、アクセルのアティテュードも最高だ。「ナイトレイン」の不遜さ、「アウト・タ・ゲット・ミー 」の迫力もヤバい。「奴らに俺を捕まえることはできない」っていうフレーズに込められた悪意と怒り、あれは鳥肌ものさ。続く「ミスター・ブラウンストーン」と「パラダイス・シティ」のワンツーパンチで、俺はもう完全にノックアウトされた。

この冒頭の6曲を聴いた時点で、俺は機内で座ったまま呆然としてた。「とんでもないレコードだ」思わずそう呟いたよ。あのアルバムの冒頭20分には、それくらいの破壊力がある。着陸するなり、興奮で目を充血させた俺はロサンゼルスのA&Rに電話をかけて、「こいつらは一体何者だ? どっから出てきたんだ?」って感じでまくし立てた。このレコードはシーンを変える、俺はすでにそう確信してたよ。

アイアン・メイデン『The Number of the Beast』(邦題:魔力の刻印、1982年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


俺の意見では、このアルバムこそがアイアン・メイデンの最高傑作だ。ソングライティングだけじゃなく、プロダクションの面においてもね。このアルバムをプロデュースしてるのは、ディープ・パープルの初期の作品やレインボーのレコードを手がけたマーティン・バーチだ。まさに彼らの最高到達点と言っていいと思うね。「魔力の刻印」は、バンド史上最高のシングル曲のひとつだろう。大ヒットした「誇り高き戦い」の方がセールス的には上だったとしてもね。超ディープな「審判の日」は、(ジューダス・プリーストの)「死の国の彼方に」や、(ディープ・パープルの)「チャイルド・イン・タイム」にも引けを取らない、メタル史上屈指の一大叙事詩だ。あの曲はメタリカの「フェイド・トゥ・ブラック」「ワン」「ウェルカム・ホーム(サニタリウム)」なんかの原型と言ってもいい。

比較的地味なイメージの曲もすごくいい。テレビドラマを下敷きにした「ザ・プリズナー」や、バンドの1stアルバムに収録されてる「娼婦シャーロット」の続編にあたる「アカシア・アベニュー22」なんかがそうだね。これはヴォーカルがポール・ディアノからブルース・ディッキンソンに変わってから初めてのレコードで、プロダクションやソングライティング、それにアティテュードまで、バンドの真価が存分に発揮された1枚だ。また結成メンバーで、今は亡きクライヴ・バーがドラムを叩いてる最後のアルバムでもある。彼からはすごく影響を受けたよ。得意技だったとんでもなくタフなスネアロールもそうだけど、彼はテクニックよりもウェイトや、それこそエアドラムしたくなるようなアティテュードを大切にしてた。プレイはシンプルなんだけど、1音1音にはっきりとした目的があるのがわかるんだよ。

メタリカがどれだけアイアン・メイデンから影響を受けてるかってことを、俺はこれまでも公言してきた。彼らは俺たちにとって大きなインスピレーションだからね。ジャケットやパッケージング、ツアーパンフレット、Tシャツ、ステージプロダクションまで、何もかもが最高にクールだった。彼らは常に先を行ってて、すごくクールな照明器具をいち早く採用したりしてた。ファンをすごく大切にするところにも感銘を受けたよ。俺の友達なんかは、エディのイラストが描いてあるクリスマスカードを受け取ってた。クレイジーでクール、それでいて他のどのバンドよりもファン思いっていうスタンスを、彼らは徹底的に貫いてるんだ。

ジューダス・プリースト『Unleashed in the East』(邦題:イン・ジ・イースト、1979年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


これはジューダス・プリーストの初期の傑作だ。当時のヨーロッパでは、ハードめなバンドの多くがアメリカの市場を意識して、短めのシングル向けの曲を出し始めてた。それは別に悪いことじゃないけど、中には自分たちのルーツを見失っていったバンドもいた。このアルバムはジューダス・プリーストがヒット曲を出す前の作品で、彼らのライブの凄まじさを物語ってる。

このアルバムには『運命の翼』のディープな曲がたくさん収録されてる。歴史的名演の「生け贄」はエネルギー全開で、ザクザクと刻むダウンピッキングのリフはディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」を思わせる。2本のギターのユニゾンっていうコンセプトを考えついたのは、AC/DCか彼らのどっちかだろうね。モーターヘッドとかディープ・パープルはギターが1本だけだったし、音を重ねるにしても違うパターンやコードを弾いてたけど、ジューダス・プリーストでは2人のギタリストが全く同じフレーズを同時に弾いてた。それによってよりヘヴィでビッグ、肉厚で臨場感のあるサウンドを生み出してた。オープンEの「グリーン・マナリシ」を聴けば、彼らがダウンピッキング中心のヘヴィメタバンドのトップランナーだった理由がわかるはずさ。このアルバムが出たのは1979年だけど、彼らは76年頃からこういうサウンドを追求してた。彼らはすごく先を行ってたんだよ。俺にとっては今でも、ジューダス・プリーストの全作品の中でこれが一番だ。

●ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードが選ぶ、至高のメタル・アルバム10作

マーシフル・フェイト『Melissa』(1983年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


マーシフル・フェイトは俺たちにとってものすごく重要な存在だ。メタリカもそうだけど、アンダーグラウンドのハードロックバンドの多くが彼らを手本にしてた。これは彼らの正式なデビューアルバムで、俺たちも含めた後世のバンドに与えた影響の大きさは計り知れない。俺らは彼らと仲が良くて、リハスタで一緒に音を出したり、あちこちで対バンしたりしてた。(メタリカの)『ガレージ』アルバムのひとつでは、彼らの曲だけのメドレーをやってる。バンドにはギタリストが2人いて、豊かなハーモニーをはじめいろんなことを試みてた。中にはすごく長い曲もあって、「セイタンズ・フォール」は10分以上あったんじゃないかな。

彼らのライブはマジでヤバかった。(フロントマンの)キング・ダイアモンドは、曲を始める前に主の祈りを後ろから読み上げるんだ。彼は儀式的なものにすごく入れ込んでて、曲を演奏しながらガチョウの羽を撒いたりしてた。ものすごくいいヤツなんだけどね。俺たちは新鮮でオリジナルな彼らの音楽が大好きだったし、人柄も最高だった。長い間、彼らは俺たちにとって兄弟のような存在だったんだ。

モーターヘッド『Overkill』(1979年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


俺がモーターヘッドのことを知ったのは1979年の春だった。その日、俺はデンマークのコペンハーゲンにあるレコード店を覗いてて、店員にモーターヘッドってバンドの曲をかけてみてくれって頼んだんだ。それで耳にしたのが、フィル・テイラーの2バスで始まる「オーヴァーキル」だった。あんな曲は過去に聴いたことがなくて、完全にぶっ飛ばされたよ。しかも冒頭のエネルギーが、最後までまったく衰えないんだ。レミーのヴォーカルはものすごく新鮮だったし、パンクとロックとメタルのフュージョンのようなサウンドが最高にイカしてた。アニメを思わせるような極端な歌詞も、曲のエネルギーに見事に華を添えてた。

その「オーヴァーキル」から始まり、長年にわたってライブの定番曲だった「ステイ・クリーン」、「(アイ・ウォント)ペイ・ユア・プライス」、ZZトップも真っ青の「ノー・クラス」、メタリカでもカバーした「ダメージ・ケース」、長めでディープな「メトロポリス」や「リム・フロム・リム」まで、一貫性も満点だ。マジで恐るべきレコードだよ。モーターヘッドはロックだけじゃなく、プログレやポップ、パンク、スカ(俺は聴かないけど)等、あらゆるジャンルのファンから愛されるバンドだった。彼らの作品の中で俺のお気に入りを挙げるとすれば、間違いなく『オーヴァーキル』だ。

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン『The Battle of Los Angeles』(1999年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは全アルバムが必聴だ。最初の2枚には若さと凄まじい反社会的エネルギーが宿ってるけど、曲の出来と完成度っていう点ではこの3作目に分があると俺は思ってる。彼らのポテンシャルが完全に発揮された、文句なしの傑作だ。

『バトル・オブ・ロサンゼルス』のサウンドはものすごくピュアだ。フィルターが一切なくて、衝動的で本能のようなものを感じさせる。当時のハードロックのレコードは、細部まで作り込まれたものが多かった。俺たちの作品も含めてね。そういう手の込んだものとは対照的に、このアルバムからは世界を敵に回す覚悟を持った4人の男たちが、同じ部屋で一緒に音を出している姿が見えてくる。全体の統一感もバッチリだ。「テスティファイ」から始まり、「カーム・ライク・ア・ボム」やディープな「スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアー」へと流れ、さらにディープな「ヴォイス・オブ・ザ・ヴォイスレス」のような曲もある。正真正銘のモンスターアルバムさ。ザック(・デ・ラ・ロチャ)のシャウトには、目の前で訴えているような切迫感がある。リスナーが自分のことを歌っているように感じるっていうのは、あらゆる歴史的名盤に共通して言えることなんだよ。

システム・オブ・ア・ダウン『Toxicity』(邦題:毒性、2001年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


システムは最初のアルバムもヤバかった。(プロデューサーの)リック(・ルービン)の手腕もあって、誰も聴いたことがないサウンドを確立した。その時点で俺は彼らがアルメニア出身だってことを知らなかったけど、彼らのルーツやバックグラウンドが他のバンドとは決定的に違うことは明らかだった。でも本当に衝撃を受けたのは、2ndアルバム『毒性』に収録されてる「チョップ・スイ!」を聴いた時だった。

まずあの曲がMTVやラジオで流れ始めて、「トクシシティー」や「エリアルズ」がそれに続くと、俺はあのアルバムにハマり始めた。「奴らは牢獄を作ろうとしてる / お前と俺を共生させるために」っていう歌詞には、彼らの政治的なスタンスがにじみ出ていた。風変わりでエネルギーに満ちてて、ソングライティングの面でも隙がなかった。俺たち自身、彼らからは大いに影響を受けたよ。あんな風に曲をすごく簡潔にまとめることが、俺たちは苦手だったからね。ロック史上に名を残す、掛け値なしの名盤さ。

UFO『Strangers in the Night』 (邦題:UFOライヴ、1979年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


ハードロックのライブアルバムとしては、史上最高の作品のひとつだろう。他の70年代のバンドとの出会いもそうだったけど、俺はまずライブアルバムから入って、その後遡ってスタジオアルバムを聴くようにしてた。レーベルの指示に従って、ジューダス・プリーストもブルー・オイスター・カルトもUFOも、スタジオアルバムを4~5枚出した後にライブアルバムを出してるんだけど、その多くは70年代中盤から後半のベストトラックを集めた2枚組になってる。わりと早い段階でライブアルバムを出すことは、バンドの勢いを持続させるための戦略だったんだ。

『UFOライヴ』は「ナチュラル・シング」で幕を開け、「オンリー・ユー・キャン・ロック・ミー」や「ドクター・ドクター」等のヒット曲がいくつか続く。「ラヴ・トゥ・ラヴ」はハードロックバラードの走りのひとつで、「ロック・ボトム」にはマイケル・シェンカーの7分くらいありそうなギターソロが収録されてる。ランディー・ローズやジミー・ペイジのような脚光こそ浴びなかったけど、カーク・ハメットも含めた多くのギタリストにとって、マイケル・シェンカーは知られざるヒーローだった。彼をお気に入りのギタリストに挙げるミュージシャンは多いよ。このアルバムは臨場感がすごくて、まるで現場にいるように感じさせてくれる。それって優れたライブアルバムの証拠なんだよ。

ウォリアー・ソウル 『The Space Age Playboys』(1994年)
メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作


ウォリアー・ソウルはGeffen Recordsからデビューして、当初は俺たちと同じマネージメントがついてた。そういう事情もあって、彼らとはよく対バンしたよ。その後レーベルから解雇されてしまった彼らは、1994年にこのアルバムを自主リリースした。

「Rocket Engines」はマジでぶっ飛んでる。ヘヴィでパンクで、狂ったようなエネルギーに満ちてる。リードシンガーのコリー・クラークはマシンガンのように言葉を放ち、怒涛のアティテュードを見せつけ、印象的なラインを次から次へと繰り出す。そのテンションが最後まで続くんだから、マジでとんでもないレコードさ。

彼の初期のレコードにはやや政治的なところがあった。先住民のインディアンやチャーリー・マンソンを題材にした曲があったり、抑圧されてると感じる自分の心情を歌った曲もあった。それに対して、このアルバムはもはやパンクだ。(ニューヨーク・)ドールズやストゥージズのような、初期のニューヨークのグラムロックとパンクを無理やり組み合わせたような、独特のフュージョン感がある。彼のことを知らない人は、早急にこのアルバムをチェックすべきだ。

【レジェンドが選ぶ「史上最高のメタル・アルバム」】
①オジー・オズボーンが選ぶ、究極のメタル/ハードロック・アルバム10作
②ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードが選ぶ、至高のメタル・アルバム10作
③メタリカのラーズ・ウルリッヒが選ぶ、最強のメタル/ハードロック・アルバム15作
④スレイヤーのケリー・キングが選ぶ、不滅のメタル・アルバム10作
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