80年代の幕開けと共に、70年代に活躍したジェネシス、イエス、ラッシュなどのプログレ・バンドは恐竜の如く消えゆくと思われていた。それというのも、時代はMTVとニューウェイヴ真っ盛り。しかし、プログレ・バンドは絶滅した恐竜にはならなかった。彼らがトレードマークだった長髪を切り落とし、楽曲の尺を20分から普通の長さにカットした途端、どうしたわけかプログレをやっていた頃よりも人気が出てしまったのである。また、短命のスーパーグループにも喜んで参加し、トップ40にチャートインし、マドンナやマイケル・ジャクソンなど飛ぶ鳥を落とす勢いの若手アーティストたちと肩を並べてしのぎを削ったのだ。そんな驚きのヒット曲の中でも、ベストと思われる10曲を厳選してお届けしよう。
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ジェネシス「トゥナイト・トゥナイト・トゥナイト」
ジェネシスが1986年にリリースしたアルバム『インヴィジブル・タッチ』は全世界で大ヒットし、同アルバムから5曲のヒット・シングルに恵まれた彼らは、スタジアム級の人気バンドへと変貌を遂げた。しかし、アルバムに収録された9分間のこの曲では、絶望的な依存について歌っている(ラジオ放送用に4分半の短縮版が作られた)。ビール・メーカーのミケロブがこの年のCM曲としてこれを採用したのだが、彼らはこの曲の本当のメッセージを理解していなかったようだ。
ラッシュ「The Spirit of Radio」
ラッシュは70年代にリリースしたアルバム『西暦2112年』や『神々の戦い』でプログレという音楽を限界にまで発展させた。そして、80年代の彼らはこの楽曲で自らの音楽を改革し、主流ラジオ局の酷さを嘆き悲しんだのである。ところがラジオ局がこの曲を受け入れるという奇妙な現象が起き、ラッシュの音楽がポップス・ファンという新たなオーディエンスにお披露目されることになった。
イエス「ロンリー・ハート」
南アフリカ人ギタリストのトレヴァー・ラビンが「ロンリー・ハート」を作ったとき、彼はまだイエスに加入する前だった。しかし、当時すでに活動停止状態だったプログレ・バンドのメンバーたち(ヴォーカルのジョン・アンダーソンも含まれる)とこの曲をレコーディングしたのである。そうやって出来上がった曲のキャッチーさは誰の目にも明らかで、アトランティック・レコードはマーケット戦略の一環として「イエス」というバンド名を復活させることにした。チャートの1位に急上昇し、終わりなきイエス物語に新たな章を記すきっかけとなったのがこの曲である。
エイジア「ヒート・オブ・ザ・モーメント」
キング・クリムゾンのジョン・ウェットン、イエスのスティーヴ・ハウ、ELPのカール・パーマー、バグルズのジェフ・ダウンズが1982年に集結して、MTV時代のプログレ・スーパーグループを結成した。グループ名はエイジア。リリースまもなく「ヒート・オブ・ザ・モーメント」がチャート4位に駆け上がり、アメリカで最もホットな新バンドとなった。
ピーター・ガブリエル「イン・ユア・アイズ」
ピーター・ガブリエルがソロ活動に専念するために1975年に脱退した頃、ジェネシスは相変わらずカルト・ファンに支持されるアート・ロックのバンドだった。そんなガブリエルも、アルバム『So』でジェネシスの影から這い出るまでに11年の歳月を要した。同アルバムから多くのヒット・シングルが出ているが、中でも卓越したこの曲は時代を経ても褪せることがない。
フィル・コリンズ「夜の囁き」(原題:In The Air Tonight)
ガブリエルの脱退に伴い、ドラマーのフィル・コリンズがジェネシスのリード・ヴォーカルを担当するようになった。1980年はジェネシスが活動休止中で、辛い離婚後のネガティヴな感情を吐き出そうと、コリンズがその場の思いつきでドラム・マシンを使って作った曲がこれだ。
マイク・アンド・ザ・メカニックス「Silent Running」
他のメンバーに負けじと、ジェネシスのギタリスト、マイク・ラザーフォードもソロ活動を楽しむべく、1985年にシンガーのポール・キャラックとポール・ヤングをリクルートしてマイク・アンド・ザ・メカニックスを結成した。彼らのデビュー曲が今でもベストとされている。
GTR 「ハート・マインド」(原題:When The Heart Rules The Mind)
70年代のイギリスでプログレ・ロック・バンドのギタリストをやっていたスティーヴという名前の男は、どうも驚異的なことを成し遂げる能力に恵まれているようだ。そのスティーヴが2人集まって80年代のスーパーグループを組んだのが1986年のGTRだ。イエスのスティーヴ・ハウとジェネシスのスティーヴ・ハケットが手を組んだら……内部分裂する前に1曲くらいはまともな曲ができて当然だろう。
ムーディ・ブルース「ユア・ワイルデスト・ドリームズ」
1968年のシングル「Tuesday Afternoon」の影の男は、ロナルド・レーガンとミスターTに代表される80年代という時代にフィットしないように思えるが、フロントマンのジャスティン・ヘイワードとデヴィッド・ボウイのプロデューサー、トニー・ヴィスコンティが手を組んで、1986年のこのソフトロックの楽曲を制作した。この曲はムーディ・ブルースにとって1967年の「サテンの夜」以来のトップ10ヒット曲となった。
エレクトリック・ライト・オーケストラ「オール・オーヴァー・ザ・ワールド」
プログレ・ロックの純粋主義者にしてみれば、ラジオでのヒット曲がたくさんあるELOは厳密には70年代のプログレ・ロック・バンドと言い難い部分があるのかもしれない。さらにオリヴィア・ニュートン=ジョン主演で大コケした映画『ザナドゥ』で使用されたこの曲も、彼らのプログレの名声を下支えするものでなかった。しかし、この曲のキャッチーさには誰も抗えない。
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From Rolling Stone US.
この投稿をInstagramで見るPeter Gabriel, Phil Collins, Yes, and Rush reinvented themselves for a new era in our latest Music at Home playlist, featuring the best Eighties pop hits by Seventies prog artists. Check it out at the link in our bio. Rolling Stone(@rollingstone)がシェアした投稿 - 2020年 8月月1日午後2時12分PDT