音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2020年10月の特集は矢沢永吉
第2週となる今回は、ソロ活動を始めた矢沢永吉の1970年代を辿る。

ウイスキー・コーク / 矢沢永吉

こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今お聴き頂いているのは矢沢永吉さんの「ウイスキー・コーク」。2013年発売になるベストアルバム『ALL TIME BEST ALBUM』よりお聴きいただいております。オリジナルは1975年のアルバム『I LOVE YOU,OK』の中の曲です。
今日の前テーマはこれです。

今月2020年10月の特集は「矢沢永吉」。1949年9月14日生まれで今年71歳。去年発売したオリジナルアルバム『いつか、その日が来るまで...』がアルバムチャート1位になり、史上最年長記録となりました国民的ロックスター。日本のロックの革命時、風雲児。日本のロックの最先端を走り続け、日本のロックのインフラを作った。
そして、日本のロックをメジャーにしたスーパーレジェンドであります。先週は、10月21日に出る3枚組アルバム『STANDARD~THE BALLAD BEST~』のご紹介をしました。今週からは、3週にわたって矢沢さんの45年間を辿ってみようと思います。今週は1970年代、まさに"オレ達若かったよな"という時代です。生まれていなかった人もいるでしょう。今週も矢沢さんからのコメントをいただいておりますのでお楽しみに。
1曲目は1977年の曲です。「黒く塗りつぶせ」。

黒く塗りつぶせ / 矢沢永吉

1977年発売、3枚目のアルバム『ドアを開けろ』の中の「黒く塗りつぶせ」。拍手しましたね。胸のすくようなロックンロールでありました。当時の矢沢さんは26歳。
ドアを開けろ、そこを通せ、俺の邪魔をするなと言わんばかりです。矢沢さんの還暦の東京ドーム公演がありまして、そのライブを観に行った時に、シークレットゲストで氷室京介さんとザ・クロマニヨンズのヒロトさんとマーシーさんが出てきて、この曲を一緒に歌いました。

続いて、矢沢さんからのコメントをご紹介いたします。矢沢さんからのコメントに続いて、1975年発売の1stアルバム『I LOVE YOU,OK』のタイトル曲であり、最初のシングル曲でもありました「アイ・ラヴ・ユー, OK」。これを10月21日に発売の3枚組アルバム『STANDARD~THE BALLAD BEST~』からお聴きいただきます

矢沢永吉:1970年代と言えば、矢沢がキャロルでデビューして、2年半のキャロルの活動を解散、Eikichi Yazawaとしてソロでやっていく。まあ、すごい時だよね。
1970年代の矢沢……。がむしゃらで必死で、唾を飛ばしながら言いたいことを言っていた。ただ分かりやすかったことは、上に行きたい! あの星を掴むんだ! ってこと。普通もうちょっと黙ってれば神秘的でかっこいいのに、自分の想いというものをインタビューでもなんでもぶつける、尖ってる矢沢でした。やかましい矢沢。うるせえ矢沢。
全部同じ意味か。そんなど真ん中だったと思うなあ。でも今、僕は遥か彼方、40年以上前のデビューした頃の話をチラッとしたんですけど、今は71歳になって当時の矢沢を振り返ってみると、あれはあれで良かったんじゃないかな? やっぱり20代の頃に「この扉を開けるんだ! 開くかな? 開かないのかな? いや、開かないはずがない!」っていうあの頃。青くて無我夢中でいいんじゃないかな。そういう矢沢だったんじゃないかなと思うし、それはそれで非常に素敵だったと思います。自分で自分のことを素敵だったって言いたくなるような。

アイ・ラヴ・ユー, OK / 矢沢永吉

1975年9月発売のデビューアルバムのタイトル曲、そしてデビューシングルでもありました「アイ・ラヴ・ユー, OK 」。この曲が、『STANDARD~THE BALLAD BEST~』の中ではライブ音源で収められているんですね。2018年の「EIKICHI YAZAWA 69TH ANNIVERSARY TOUR 2018 - STAY ROCK -」、69歳の時の東京ドーム公演の様子が収められています。この曲は矢沢さんが18歳の時に書いたものですが、50年後にこんな風に歌っているわけです。キャロルが解散したのは1975年4月で、1stアルバムと1stシングルである『I LOVE YOU,OK』がリリースされたのは1975年9月。キャロルの炎の日比谷野音公演は4月、この1ヶ月後の5月に矢沢さんは単身でロサンゼルスに渡って、現地のA&Mスタジオでレコーディングしています。曲は全部用意してありました。「I LOVE YOU,OK」は18歳の時の曲ですから、キャロルを組む前にすでに曲は出来ていた。こういう曲があったからこそ夜行列車に乗って上京したとも言えるでしょうね。でも、「I LOVE YOU,OK」を東芝とソニーに持ち込んで相手にされなかったというエピソードもあります。そして、このデビューアルバムの制作費は彼の個人で負担したんですね。キャロルの印税はそこで全部使った。でも、キャロルはまだ前のレコード会社とまだ契約が残ってる時に解散したので、レコード会社には違約金を払わなければいけなかった。その違約金は新しいレコード会社のソニーから借りて、レコーディング費用は全部自費で出した、そんな始まりでした。『I LOVE YOU,OK』からもう一曲、「恋の列車はリバプール発」。

恋の列車はリバプール発 / 矢沢永吉

軽快なロックンロールですね。今月、矢沢さんの特集をやろうと思ったのは、8月にエルヴィス・プレスリーの特集をしたからですね。あの時に矢沢さんもやらないといけないなと。キャロルで矢沢さんを初めて聴いた時に、うわ、エルヴィスだ! って思ったんですね。日本のアーティストの中で、身体を突き動かすロックの衝動、ビートが音楽や歌になっている人は、僕の中で矢沢永吉さんと氷室京介さんくらいしか思い当たらない。もちろん色々な人が居ますが、その中でもエルヴィスを想起させる瞬間があるのはこの2人だと思ってます。でも、矢沢さんのソロの船出は嵐の中でした。当時はキャロルのイメージ、革ジャンとリーゼントのロックンロールのイメージがあったんですが、矢沢さんはそのイメージをかなぐり捨ててましたからね。それを捨てるところから自分で決めて、ロサンゼルスに行かれた。最初のソロツアーは散々だった。僕が見たのはそのツアーの中野サンプラザ公演だったんですが、客席からは「これ、永ちゃんじゃねえよ」というブーイングもありました。そこから始めて、1976、1977年に「33,000MILE ROAD JAPAN」というツアーで日本中を回ってきて、時には会場からの拒否という目に遭いながら日比谷野音公演も行なった。”帰ってきたぞ!”の野音です。その後に発売されたのが1977年に発売されたのが、アルバム『ドアを開けろ』でした。この中からもう一曲、「世話がやけるぜ」。

世話がやけるぜ / 矢沢永吉

なんというんでしょうね、この桁違い感と言いましょうか。ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ! みたいな熱がそのままロックンロールになってる曲は、矢沢さんの中にはいっぱいあります。お聴きいただきましたのは、1977年のアルバム『ドアを開けろ』から「世話がやけるぜ」。1stアルバムの『I LOVE YOU,OK』では、プロデューサーがトム・マックという映画音楽で有名な人で、映画『ゴッドファーザー』など手がけた人です。2枚目のアルバムから、矢沢さん自身でプロデュースするようになって、『ドアを開けろ』はプロデュース、曲のコンセプト、アートワーク全てを自分でやられた。そういう意味では、1970年代だけではなく日本ロック史に残る傑作アルバムだと思っております。

チャイナタウン / 矢沢永吉

『ドアを開けろ』からもう一曲「チャイナタウン」。『STANDARD~THE BALLAD BEST~』からお聞きいただいてます。これは、1998年のアルバム『SUBWAY EXPRESS』のバージョンです。1970年代の日本のロックの中では群を抜いてお洒落な曲だと思っておりますが、当時ソロになって3年です。1976~1977年は日比谷野音、武道館、そして1978年は後楽園球場。これだけのサクセスストーリーというのは史上初めてだったでしょうね。しかも状況は決して順風満帆ではなかった。矢沢のライブは喧嘩が起きる、危険だから小屋を貸さないという会場があったりもして。そういう中で矢沢さんが掲げていた旗は、ロックンロール十字軍。十字軍はキリスト教の遠征のことを指すんですが、あの時は、ロックを日本中に普及させるんだという旗でしたね。デビューした時のレコード会社が、ソロになってから無断でデビュー前の音源を発売した時、レコード会社と戦ったりしたんですね。1975年に吉田拓郎さんたちがフォーライフ・レコードを設立したりするように、ミュージシャンが自分たちの権利に目覚めていくというのが当時だったんだと思います。そういう意味では、”闘う”という言葉が精神的な意味ではなく本当に体を張って戦ってきた。ただ、あまりにそういう生き様がクローズアップされてきて、音楽家としての部分にはあまり日が当たらなかったのではないか? というのが今月の矢沢永吉特集の趣旨の一つです。『ドアを開けろ』の中にはこんな曲もありました。「バーボン人生」。

バーボン人生 / 矢沢永吉

作詞は「トラベリン・バス」でお馴染み、西岡恭蔵さんです。矢沢さんの曲には、作詞家がNOBODYの相沢行夫さんと木原敏雄さんなど何人かいるのですが、恭蔵さんの歌詞が一番アメリカっぽい。バタくさい。矢沢さんのアメリカっぽいルーツ・ミュージック的な面も引き出していて、このコンビは本当に素晴らしいと思いました。西岡恭蔵さんが亡くなった時には、矢沢さんはアメリカからとんぼ返りで帰ってきて参列されていたと思います。一枚のアルバムの中に「黒く塗りつぶせ」と「世話がやけるぜ」と「チャイナタウン」、「バーボン人生」が入っているんですよ。いかに『ドアを開けろ』が素晴らしいアルバムだったかお分かりいただけたら幸いです。1970年代のピークでいえば1978年でしょうね。これは矢沢さんにというのではなく、日本のロックがあるピークを迎えた年。資生堂のCMソングで「時間よ止まれ」が流れて、ロックがお茶の間に認知される。ドアを開けたんです。「時間よ止まれ」のミュージシャンには、坂本龍一さん、後藤次利さん、高橋幸宏さんなどそうそうたるメンバーが揃っていましたが、それも矢沢さんの希望だった。6月に出たアルバム『ゴールドラッシュ』が一位、自伝の『成りあがり』が発売、長者番付が一位、8月に後楽園球場という流れがありました。改めてお聴き下さい、「時間よ止まれ」。

時間よ止まれ / 矢沢永吉

これはオリジナルのままの音源なんですが、リマスタリングされてるんです。タイトでクリーンでソフト、全然違って聴こえますね。先週矢沢さんが言っていましたが、今の音にしたいということでこういう形になった。そういう象徴的な一曲です。この「時間よ止まれ」は、テレビの特番の中でドラマ化されたことがありました。僕はテレビをあまり観ないのですが、この曲を作ったCM音楽制作会社ONアソシエイツのディレクター、関口直人さんにこの曲のお話を伺ったことがあります。資生堂の会議というのがあってそこに矢沢さんも出席されて、そこでギターを弾いたと仰っていました。この曲は、ツアー中にギターを弾いていてすぐに出来たと『ALL TIME BEST ALBUM』の中に書かれてました。この曲があったからこそ、矢沢永吉という名前がお茶の間にも浸透し、ロック御三家というところに繋がっていく。そういう意味では、日本のロックにとっても重要な曲なんだと思います。この曲のリマスタリング、音についてはあまり語られてくることがなかったので、今回の『STANDARD~THE BALLAD BEST~』がいい機会になればいいなと改めて思います。そして、今日最後の曲は『ゴールドラッシュ』から「長い旅」。

長い旅 / 矢沢永吉

矢沢さんが28歳の時の曲ですね。1978年8月29日に後楽園球場、1979年9月15日に名古屋球場。1970年代の締め括りとなる球場コンサートのアンコール最後の曲でした。後楽園球場の客出しのBGMに「ひき潮」という曲が流れたんですね。これは1973年にシングルでは出ていたんですが、アルバムには入っていませんでした。この曲が今回の『STANDARD~THE BALLAD BEST~』にライブバージョンで収録されています。これについては来週か再来週にお聴きいただこうと思います。

FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」2020年10月矢沢永吉特集Part2。今年がデビュー45周年、10月21日に『STANDARD~THE BALLAD BEST~』をリリースする彼の軌跡を辿る1ヶ月。今週は1970年代編でした。今流れているのは、後テーマ曲で竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。

さっき少し触れた1979年9月15日名古屋球場の公演を見に行ってるんですけど、そうか、30歳の誕生日の翌日だったんだと改めて思いました。矢沢さんのずっと年齢を刻んできてますね。30歳以上は信じるな! と言っていたのが1970年代ですよ。そういう反抗的なロックの象徴のようでもあった矢沢さんが、どんなライブをやっているかなと思って見に行ったんです。何よりも驚いたのが、名古屋球場の外に機動隊の装甲車がずらっと並んでたんですよ。1979年ですよ? 「時間よ止まれ」が出て長者番付の一位になった後なのに、まだこんな風に見られているのかと思いました。そんな逆風を物ともせず戦ってきた、生き抜いてきた、扉を開け続けてきたのが矢沢さんの45年です。とはいえ、矢沢さんのキャリアは1970年代の後、つまり、日本で上り詰めた後、どうしたかということが何よりも重要です。その話は来週と再来週、矢沢さんのコメントともにお届けできると思います。

<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
https://cocolo.jp/service/homepage/index/1210

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<リリース情報>

矢沢永吉がロックで上り詰めるまで 1970年代の楽曲とともに語る


矢沢永吉
『STANDARD ~THE BALLAD BEST~』

発売日:2020年10月21日(水)
通常盤:3CD/3630円(税込)
初回限定盤A(Blu-ray):3CD+Blu-ray/5830円(税込)
初回限定盤B(Blu-ray):3CD+Blu-ray/5830円(税込)
初回限定盤A(DVD):3CD+DVD/5280円(税込)
初回限定盤B(DVD):3CD+DVD/5280円(税込)

=収録楽曲(初回限定盤A/B/通常盤・共通)=
DISC1
1. 面影
2. #9おまえに
3. フォーチュン・テイラー
4. 真昼
5. 燃えるサンセット
6. ミスティ misty
7. ひき潮
8. THE STRANGE WORLD
9. この海に
10. 黄昏に捨てて
11. 愛はナイフ
12. 今・揺れる・おまえ
13. YES MY LOVE

DISC2
1. 未来をかさねて
2. HEY YOU・・・
3. 風の中のおまえ
4. Moon Light Song
5. 安物の時計
6. Morning Rain
7. バーチャル・リアリティー・ドール
8. 早冬の気配
9. Tonight I Remember
10. チャイナタウン
11. A DAY
12. メイク
13. キャロル

DISC3
1. 親友
2. 「あ.な.た...。」
3. Sweet Winter
4. 棕櫚の影に
5. アイ・ラヴ・ユー, OK
6. 時間よ止まれ
7. いつの日か
8. Dry Martini
9. 東京
10. パセオラの風が
11. 夕立ち
12. エイシャン・シー
13. ホテル・マムーニア

※初回限定盤A(Blu-ray/DVD共通)収録楽曲
1. 東京(2014年「Dreamer」)
2. 風の中のおまえ(2017年「TRAVELING BUS」TOUR)
3. 時間よ止まれ(2014年「Zs START ON」TOUR)
4. YES MY LOVE(2019年「ROCK MUST GO ON」TOUR)
5. アイ・ラヴ・ユー, OK(1999年「LOTTA GOOD TIME」TOUR)
6. A DAY(2010年「TWIST」TOUR)

※初回限定盤B(Blu-ray/DVD共通)収録楽曲 
1. 風の中のおまえ
2. YES MY LOVE                            
3. 面影(from ONLY ONE~touch up~SPECIAL LIVE in DIAMOND MOON)

STANDARD~THE BALLAD BEST~特設サイト
https://www.eikichiyazawa.com/feature/standard

矢沢永吉オフィシャル・ショップ
https://diamondmoon.jp/