作詞・作曲した全楽曲をボブ・ディランが3億ドル超え(約315億円)と推定される金額でユニバーサル音楽出版グループ(UMPG)に売却したというニュースは、世界でもっとも偉大なソングライターのひとりであるディランのキャリアにおける大きなサプライズだ。今回の契約金は、この手の取引に関しては史上屈指の金額かもしれない。だがこれは、ディランの楽曲にとって具体的に何を意味するのだろう? 現時点で報じられている重要点を紹介しよう。
ディランの楽曲の全カタログによる収入は今後すべて、新たな所有者のものとなる。
今回の契約は、ディランの既存の楽曲のパブリッシング・ライツ(訳注:音楽著作権に関する幅広い権利を指すものの、法律による定義はなく、米音楽業界で認められている用語)だけを対象としている。具体的には、デビュー以来、ディランが手がけた600超の楽曲および歌詞と、その間に発生した著作権使用料(ロイヤリティ)が対象となる。要するに、「風に吹かれて」や「ブルーにこんがらがって」など、ディランの楽曲がストリーミングされたり、販売されたり、ラジオでオンエアされたり、あるいはテレビCMや映画の予告編のように営利目的で使用される際、いままではディランに入っていた著作権使用料が今後はUMPGの銀行口座に入るのだ(作詞作曲はロビー・ロバートソンだが、パブリッシング・ライツはディランが所有しているザ・バンドの1968年の名曲「ザ・ウェイト」のように、ディランの楽曲を他のアーティストがカバーする場合もしかり)。
重要なのは、今回の取引が音楽著作権という2車線道路の片側であるパブリッシング・ライツだけを対象にしており、もう片方の録音された音楽は対象外であるという点だ。未公開株式投資会社が3億円(約312億円)相当のテイラー・スウィフトの原盤権を手に入れた際、そこにはレコーディングに関する権利も含まれていたものの、パブリッシング・ライツは対象外だったことを思い出してほしい——これは、ディランとは真逆の状況だ。通常、パブリッシング・ライツを持つアーティストは、テレビ、映画、広告などで自身の楽曲が使用される際の使用許諾を管理している。そのため、スウィフトの場合はスウィフト本人がこれをコントロールする一方、ディランの場合はUMPGの判断に委ねられる。
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今後、ディランの楽曲が映画、テレビ番組やCMなどに起用されることが多くなるかもしれない。
過去にディランがこうした方法で自身の楽曲を大喜びで利用してきたことからもわかるように——Apple、ヴィクトリアズ・シークレット、キャデラック、ペプシなどの広告とのタイアップは記憶に新しい——今回の契約によってディランの音楽コンテンツがこうした場面で使用される頻度が大きく変化することはありそうにない。だが、まだまだ続きがあるかもしれないのだ。もしあなたが、ディランの「Sad-Eyed Lady of the Lowlands」がフィットネス事業を展開する米ペロトンの来年の広告用BGMにどうして起用されたのか? と頭をひねっていたなら、その理由がわかったはずだ。
レコーディングによるディランのアウトプット量は変わらない。
今回の契約は、レコーディングにおけるディランの原盤権までは対象としていない。レコーディングにおける原盤権とは、パフォーマーとしてディランが発表したすべてのアルバムおよび楽曲にまつわる権利と著作権使用料のことだ。そのため、EDMリミックス版『ブロンド・オン・ブロンド』や『フリーホイーリン2』的な作品が今後リリースされる頻度は変わらないだろう。それに加え、いまもディランが取り組んでいる未発表音源集『ブートレッグ・シリーズ』の今後のリリースにも影響はない。というのも、同シリーズは今後もディランと彼のマネジメントおよびレコード会社の支配下に置かれるからだ。
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今後は、より多くのメジャーアーティストが楽曲を売却することになる。
こうした発想は、何もディランに限ったことではない。
From Rolling Stone US.