後藤正文ASIAN KUNG-FU GENERATION)がホストを務めるSpotifyのポッドキャスト番組『APPLE VINEGAR -Music+Talk-』では、つやちゃん、矢島由佳子、小熊俊哉(本誌編集)というレギュラー陣に、ときにはゲストも交えながら、ユニークな視点で音楽トピックや楽曲を紹介している。昨年に引き続き同番組との連動企画で、2大洋楽フェスをテーマに音楽談義。
注目すべき出演アーティストなどについて4人で語り合った。こちらはフジロック編。

後藤:いよいよライブでもお客さんの声出しが解禁になって、春に開催されたフェスはとても盛り上がっていました。かつての風景が取り戻されつつあることを実感する日々です。ライブをする側としても嬉しいかぎりだし、コロナ禍のなかで作った曲を一緒に歌ってほしいという気持ちを、多くのミュージシャンが抱いているんじゃないかな。そういうポジティブなムードのなか開催される今年のフジロック、僕はヘッドライナーのリゾが楽しみです。


矢島:私もめっちゃ楽しみ!

後藤:GREEN STAGEが合いそうだよね。特に「Good As Hell」という曲が好きなんだけど、あの曲でメチャクチャ踊りたい。踊るの下手なんだけどね(笑)。でも、リゾって「下手な人でも踊っていい」みたいな音楽でもあるでしょ。あらゆる人をエンパワーメントするアーティストだと思うし、僕も開放されたい。彼女自身が多様性の象徴といった面もあるし、すごく素敵な存在だと思っています。


つや:去年のサマソニが顕著でしたが、近年、フェスでの出来事や現地で撮られた写真がSNSで拡散される傾向が強まっていますよね。現地に行かない人にまで、フェスのシーンが届けられる状況になっている。その点、リゾはどんな衣装で歌うのか、観客にどうレポートされるのか、といったところも楽しみです。去年のリナ・サワヤマ然り、そういう切り口から世間の価値観が更新されていくこともあると思うんです。あと、去年はミーガン・ジー・スタリオンがサマソニでセーラームーンの衣装で歌っていましたが、リゾも同様のコスプレをしたことがあるので、もしかしたら日本のフェスで2年連続セーラームーンが見られるかもしれない(笑)。

その話でいうと、デンゼル・カリーというラッパーも出演するんですけど、彼も日本のカルチャーが大好きで、リリックに「椿三十郎」や「座頭市」といったワードを盛り込んでいます。


小熊:本誌WEBでつやちゃんに取材してもらったときも、『カウボーイビバップ』や松田優作の魅力について「そこまで語るか!」というくらい熱弁していました(笑)。

後藤:こないだもコーチェラの中継で、とあるアーティストが日本のアニメをバックの映像に使っていたのを見かけました。YOASOBIなんかにも通じる感覚や表現だなと思ったし、世界的な流れでもあるんでしょうね。やっぱりアニメってすごいカルチャーだと思います。

つや:海外のアーティストにとっても「来日したい」「日本でライブがしたい」と思う動機のひとつになっていますよね。

後藤:それに、日本のアニメは世界中のティーンエイジャーを救っているはず。
「アニメのおかげで青春時代を乗り切れた」みたいな人が海外にもたくさんいる。そういう人がミュージシャンになり、日本に来たいと思ってくれているんだったら素敵な話ですね。

小熊:アジカンとも縁の深いフー・ファイターズについてはいかがでしょう?

後藤:もちろん観たいですよ。悲しい別れを乗り越えてのライブですしね。2日目はフー・ファイターズの前に、ELLEGARDEN、アラニス・モリセットが出るのもいい流れだなと。

小熊:テイラー・ホーキンス急逝という悲劇を経てのライブは見逃せないですし、彼はもともとアラニスのバンドで叩いていたわけで、そこにもドラマが感じられますよね。


小熊:3日目に出演するウィーザーも思い入れが深いのでは?

後藤:過去に何度も観てますが、一生好きなバンドであることは間違いないです。あとはダニエル・シーザーも気になる。「沁みるなー」ってゆらゆらしながら聴きたい。

つやちゃん・矢島・小熊のおすすめ

後藤:みなさんが注目している出演者は?

小熊:フジロックの伝統的な魅力の一つとして、FIELD OF HEAVENでジャム・バンドやオーガニックな音楽を楽しめるというのがありますよね。今年はファンク系のラインナップも充実していて、個人的にはコリー・ウォンが楽しみです。ヴルフペックの一員にして現代屈指の人気ギタリスト。
今年リリースされたライブ盤『The Power Station Tour』が大変かっこよかったのですが、フジでもホーン隊を含む8人編成で出演するらしく、これは間違いないだろうと。あとは元スナーキー・パピーのオルガン奏者、コリー・ヘンリーも実力者ですね。「メインステージもいいけど奥地も楽しいよ」というのは強調しておきたいです。

矢島:「盛り上がること間違いなし」でいうと、私が楽しみなのはルイス・コール。彼も13人編成のビッグバンドで出演する予定で、昨年の来日公演に続いて、ホーン隊は日本人のミュージシャンを起用するみたいです。映画『BLUE GIANT』にて主人公・宮本大のサックスを演奏したことでフィーチャーされている馬場智章さん、King Gnuやmillennuim paradeでも活躍するMELRAWさん、石若駿さん率いるAnswer To Rememberなどにも参加する佐瀬悠輔さん、星野源さんなどのライブでおなじみの武嶋聡さんといった凄腕メンバーとのコラボも楽しみですし、ルイス自身が超絶テクのドラマーでありつつエンターテイナーなので、笑えて踊れるハッピーなライブになると思います。

つや:私は100 gecsとキャロライン・ポラチェックですね。100 gecsはハイパーポップの文脈で語られることが多い2人組で、ポラチェックもその周辺人脈と繋がっていて。チープでふざけた感じもありつつ、最終的にはポップに聴かせるのが上手い2組。エクストリームな音像をライブでどういうふうに表現してくれるのか楽しみです。100 gecsは去年のコーチェラではふざけた格好でふざけた演出のライブをしていたので、フジロックでもそういう感じのステージだったらいいなと(笑)。

つや:それと、今年のフジはUKのクラブミュージック系も充実していますよね。1stアルバム『Good Lies』が出たばかりのOvermono、フランク・オーシャンの楽曲プロデュースでも知られるVegyn(ヴィーガン)、爽やかで軽快なダンスチューンが特長のTSHAというふうに、改めてレイブ・カルチャーが盛り上がってきている中でダンスミュージックのホットなラインを揃えていてワクワクするなと。

小熊:Vegynは昨年来日したとき観に行って、どれだけ先鋭的なDJをするんだろうと思ったら、ケミカル・ブラザーズやダフト・パンクの超ド定番をかけていたので「いいヤツじゃん!」と思いました(笑)。深夜のRED MARQUEEにそういった海外勢がブッキングされているのも久しぶりだし、「夜の名物スポット」THE PALACE OF WONDERの4年ぶり復活も嬉しいですよね。サーカスやポールダンスもあって賑やかだし、移動式テントのCRYSTAL PALACEでは、国境やジャンルを超えて良質な音楽が楽しめる。多様性を追求してきたフジロックの精神を体現するような空間というか。

後藤:いろんな国の音楽と出会うことができるのもフジロックの醍醐味だもんね。

小熊:今年もスペインはカタルーニャ出身のItaca Band(イタカ・バンド)、インド発のJATAYU(ジャターユ)から、タイのマルチプレイヤー・The TOYSと、本誌vol.22の特集「世界で活躍する日本のアーティスト10組」でも取り上げた凄腕ギタリスト・Ichika Nitoさんの共演まで、国際色豊かなアーティストが揃っています。

後藤:その一方で、近年のフジロックは日本の若い人たちの出演が増えていますよね。昔はよくも悪くも門戸が狭かった印象ですが、今年はVaundy、Saucy Dogなど勢いのある若手もしっかり入っていて、ミュージシャンの立場からするとヘルシーでいい傾向だなと。そういうふうに開いていったほうが日本の音楽も風通しがよくなると思います。

矢島:何年か経ってからもっと有名になったとき、「あの年のフジロックに出てたんだ」みたいに振り返られるケースも多いですよね。

後藤:アジカンも初出演(2003年)は深夜のROOKIE A GO-GO、『ソルファ』を出したとき(2004年)はRED MARQUEEでした。あとは個人的に、「誰が出てても行きたい」と思うフェスであり続けてほしいですね。

フジロックは相撲観戦と似ている?

小熊:ただ、苗場というロケーションも込みで魅了され、長年通い詰めるフジロッカーが大勢いる反面、「敷居が高そう」みたいなイメージを抱く初心者もいなくはないのかなと。

後藤:気持ちはわかるけど、そんなに構える必要はないんじゃないかな。僕は若いとき友達の車で、日帰りで行ってましたよ。特に首都圏の人は日帰りでも余裕だと思う。

矢島:THE PALACE OF WONDERが再開することで、夜通しで遊びやすくなりますしね。私もオールナイトで満喫して、翌朝に帰るという遊び方を何回かやりました。雨具と上着と靴さえしっかり用意すれば、1日であればそこまで装備しなくてもなんとか過ごせます。

後藤:キャンプやハイキングに行くような服装を意識して、夜は寒いからアウトドア用のアウターを羽織る感じでいいと思う。

つや:コーチェラだって、砂漠地帯の大自然の中で開催されてますからね。でもみんな思い思いの格好でお洒落していて。そういうスタンスで大丈夫という気がします。

アジカン後藤正文のフジロック談義2023 音楽仲間と注目アクトを語る


後藤:大相撲を観に行くのと変わらないと思うな。相撲も初めての人からすると、最初はどうしたらいいかわからないでしょう。

矢島:たしかに。観戦マナーが問題ないかとか気にしちゃうかも。

後藤:でも実際は、全然そういうのないから。軽い気持ちで行ってみれば、あとはなんとかなる。ここは日本なんだし、みんな親切で治安もいいわけで。まずは「一回おいでよ」って言いたいですね。これまた相撲と一緒で、フジロックに行ってみることで新しい出会いも起こりうるわけだし。

小熊:推しの力士を見つけるように、一生モノの音楽と出会えるかもしれない。

後藤:ヘッドライナーや横綱という大きな存在が最後に構えていて、これから来るであろう若手がその前に登場する……そういうところも似てますね(笑)。

アジカン後藤正文のフジロック談義2023 音楽仲間と注目アクトを語る

FUJI ROCK FESTIVAL '23
2023年7月28日(金)29日(土)30日(日):新潟県 湯沢町 苗場スキー場
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

アジカン後藤正文のフジロック談義2023 音楽仲間と注目アクトを語る

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ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2023「サーフ ブンガク カマクラ」
2023年9月29日(金)福岡県 Zepp Fukuoka
2023年10月1日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
2023年10月4日(水)大阪府 BIGCAT
2023年10月5日(木)大阪府 なんばHatch
2023年10月8日(日)宮城県 SENDAI GIGS
2023年10月15日(日)北海道 サッポロファクトリーホール
2023年10月18日(水)愛知県 Zepp Nagoya
2023年10月21日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
2023年10月22日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
2023年11月2日(木)東京都 日本青年館ホール
2023年11月3日(金・祝)東京都 日本青年館ホール
2023年11月19日(日)東京都 TACHIKAWA STAGE GARDEN
2023年11月22日(水)神奈川県 鎌倉芸術館 大ホール
2023年11月23日(木・祝)神奈川県 鎌倉芸術館 大ホール

公式サイト:https://www.asiankung-fu.com/