シンガー・ソングライター/ギタリストのReiが、通算10枚目となる7曲入りのミニアルバム『VOICE』をリリースした。「声」を意味するタイトル通り、本作は彼女の「歌声」はもちろん、シンガーソングライターとしての「心の声」をフィーチャーした内容となっている。
サウンド面でも、山下達郎大瀧詠一ら日本のポップスに大きな影響を受けている日系アメリカ人のアーティスト、ジンジャー・ルートとのコラボレーションや、最前線のJ-POPを数多く手がける気鋭のプロデューサー、ESME MORIとの共同プロデュースにより、これまで以上に「ポップミュージック」と向き合った内容に。先日開催されたライブのMCで、「次のアルバム(本作)ではギタリストではなくシンガーソングライターとして本音を曝け出したい」と打ち明けていたとおり、Reiにとってまさに新境地といえる作品に仕上がった。

─Reiさんは作品を作るときに、明確なテーマやコンセプトを掲げていることが多いですよね。今回は、どんなことがテーマになっていたのでしょうか。

Rei:まずアルバムタイトルですが、「声」には「歌声」という意味のほかに、自分の本音を打ち明けたり、心のうちを曝け出したりする「声を上げる」という意味もあり、その両方の意味を込めて『VOICE』とつけました。歌い方に関しても、これまで以上に工夫を凝らしましたね。たとえば曲調や歌詞の内容に準じた発声の仕方だったり、この場面ではミックスボイスを使って、この場面ではファルセットボイスを使おうとか、歌の立ち上がりの部分にはハスキーな成分を増やそうといったニュアンスだったり、曲ごとにかなり細かいところまでこだわりながら歌っていますね。

─思えば今年10月、東京キネマ倶楽部で開催された自主企画ライブ『Reiny Friday -Rei & Friends- Vol.15』でも、「次の作品ではギタリストではなくシンガーソングライターとして本音を曝け出したい」とおっしゃっていましたよね。

Rei:ずっとこういうテーマで作品を作ってみたいと思っていました。ギターは自分にとってとても大切なモチーフであり、ギタープレイを評価していただけるのはすごく光栄なことです。でも、私がいつも「ギタリスト」より「シンガー・ソングライター」という肩書きを前にしているのは、私なりの理由がある。すごく贅沢な望みではありますが、自分で作詞作曲をして、アレンジもほぼ自分で手がけ、歌も歌っているという部分にも注目してもらいたいという気持ちがあったんですよね。
なので今回は、より「シンガーソングライター」の側面をフィーチャーした作品を目指しました。さらに言えば、過去作もそういう視点で聞いていただけるきっかけになるような作品になったらいいなと思っていましたね。

Reiが語る、「心の声」と向き合ったシンガーソングライターとしての新境地

Photo by Tak Sugita

─「シンガー・ソングライター」としてのReiさんの転機となった楽曲は、僕は「Categorizing Me」(『Honey』収録)だと思っているんです。『Reiny Friday -Rei & Friends- Vol.15』の時に、あの曲は吉澤嘉代子さんとの交流がインスピレーションの一つだったとおっしゃっていました。Reiさんが、「本音を曝け出すシンガー・ソングライター」としてリスペクトしている人や共感している人は、他もいらっしゃいますか?

Rei:例えば今作に限っても音楽的なリファレンスはたくさんあったので、なかなか選ぶのも難しいところなのですが、ミュージシャンではない人を挙げるとすると、岡本太郎さんの生き方にはものすごく影響を受けていると思いますね。太郎さんが、パートナーの岡本敏子さんと出された『愛する言葉』という詩集がとても好きなんです。また今回は、谷川俊太郎さんをはじめとする詩人の作品をたくさん読み込みました。他にも私小説的な文学……たとえば西村賢太さんの『苦役列車』や、綿矢りささんの『蹴りたい背中』のような、心の「えぐみ」や「苦味」を描いた作品に、意識的に触れていた気がします。

─では、曲ごとに詳しくお聞きしていきます。冒頭を飾る「Love is Beautiful」はジンジャー・ルートとのコラボですが、これはどのような経緯で実現したのでしょうか。

Rei:日系アメリカ人のジンジャー・ルートが作る作品にはさまざまな音楽がミクスチャーされていて、中でも重要な要素の一つに日本の音楽、特に1980年代のポップスがあるんですよね。私は一方的にYouTubeなどでジンジャーの楽曲に触れていたのですが、実は彼も私のことを知ってくれていて。
ある時からInstagramのメル友になっていたんですよ(笑)。今年1月の来日ツアーも遊びに行かせてもらい、その時に「日本にいるうちに会いたいね」という話になって、一緒にスタジオに入ったんです。普通にセッションをするだけでも良かったのですが、せっかくなので一つ曲の種を持っていって一緒に発展させてみたら楽しいだろうなと。それがこの曲の生まれた経緯でした。

─曲調やギターワークなど、シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」を彷彿とさせるところもありますね。

Rei:たとえばナイアガラ・トライアングルや山下達郎さん、ユーミン、はっぴいえんどなど日本語が美しいポップミュージックにはかねてから影響を受けていたのですが、数年前にテレビでシュガーベイブの「DOWN TOWN」をカバーする機会があって、その時にギターアレンジのかっこよさに気づかされました。そこからもう一度その時代の音楽はもちろん、小沢健二さんやオリジナルラブ、コーネリアスなどいわゆる「渋谷系」と呼ばれてきた音楽にもハマり直したようなところがあって。これまで同様、洋楽から受けてきた影響を大事にしつつ、改めて日本語が美しい、歌い継がれるJ-POPを作ってみたいという気持ちが芽生えました。ジンジャー・ルートとの出会いは、その時のモードにしっくり来たのだと思います。

─歌詞にはどんな想いを込めましたか?

Rei:恋愛の曲であると同時に、「好き」という気持ちをジェネラルに描いた歌詞でもあります。人は誰しも、いろんなモチベーションがあって毎日を生きていると思うのですが、その全ての根源に「好き」という気持ちがあるのではないかなと。「憎しみ」や「怒り」から来るモチベーションは、やはり長くは続かない。
「愛の力」というか、「好きだ!」という気持ちは何よりも尊いものだと思うんです。生きていると、そういう気持ちを見失いそうな時もありますが、改めてそれを思い出せるような歌詞にしたいなと。

─印象に残ったのは、”Remember the days you used to be Surrounded by a wall to hide your fears(分厚い壁で自らを囲っていたあの頃))” ”Baby how long have you been living so lonely? Hold my hand, come with me(臆病な自分を隠して、君はひとりぼっちだった 手をつなごう 一緒においで)”と歌われるところです。

Rei:ここは、実際に思い描いている人がいました。その人は、出会った時はすごく臆病というか。人当たりもいいし愛嬌もあるのだけど、誰に対してもどこか壁を作っているところがあるなと感じていたんです。でも関係を深めていく中で、ある日その人の心の壁が解き放たれる瞬間があり、それが自分にとってものすごく衝撃的な出来事でした。

人は真剣に生きれば生きるほど、一つひとつの事柄に対して敏感に察知してしまうし、丁寧に生きようとすればするほど傷つきやすくなる。そして、傷つくたびに人との壁がより厚くなっていくと思うんですよね。でも、その壁が解き放たれれば、きっと人生は楽しくなる。毎日を真剣に生きているが故に、がんじがらめになって苦しくなってしまった人の「心の壁」を解き放ってあげられるような曲にしたいと思いながら完成させました。ちなみに歌詞の前半では「好きなもの」をどんどん羅列していくのですが、そこは矢野顕子さんの「ひとつだけ」という曲にインスパイアされた部分です。
私にとって「ひとつだけ」は、とても大切な曲ですね。

Reiによる『VOICE』全曲解説

─「Sunflower」は、ESME MORIさんを迎えてReiさんが「ポップス」に真っ向から取り組んだ楽曲だと思いました。

Rei:歪まないギターでスマートにカッティングするギタリストの魅力に最近気づきまして。長岡亮介さんはもちろんその一人ですが、今年フジロックで共演したコリー・ウォンなどからの影響も大きいですね。この曲の歌詞も思い描いている人がいました。その人は、ひまわりのような人なんです。

人生には「季節」があり、別れが訪れることもある。精神的な別れにしても、物理的な別れにしても、失ったものの大切さに後から気づくことってあるじゃないですか。そういう気持ちを掘り下げて描きたかったんです。先行シングルとして秋口に配信リリースしたのですが、夏が過ぎ去った後に「ひまわり」と名付けた楽曲を出すことで、喪失感をリスナーにも体感していただけたらと。

─この曲は、別れをポジティブに受け入れようとしている気持ちが綴られていますよね。

Rei:かつての自分だったら、別れをネガティブに捉えることしかできなかったと思うんです。
喪失感に打ちのめされ、いつまでもやんわり引きずっていたかもしれない。でもそうじゃない別れがあってもいいなという気持ちが最近はあって。過ぎ去った季節を懐かしむような、ガラスケースの中に大切にしまっておいて、たまに取り出して磨くような気持ちで書きました。

─「CITY」ははマンドリンやフィドルをフィーチャーしたアイリッシュフォークで、長岡亮介さんとのコラボ曲「Don't Mind Baby」(『QUILT』収録)にも通じると思いました。

Rei:私自身はブルーズなど黒人音楽からの影響が大きいのですが、アイリッシュリールのエッセンスが入ったこの曲は、私がカントリーミュージックに興味を持つようになったきっかけでもある亮介さんからの影響があると思います。ドワイト・ヨアカムやブラッド・ペイズリーなども、亮介さんと出会って聴くようになりましたし。ただ、カントリー直系ではないですがシェリル・クロウやミッシェル・ブランチ、デキシー・チックスあたりの、アコースティックな質感のあるポップスは大好きでたくさん聴いて育ったので、その要素も入っていると思います。

─こういうスタイルの楽曲を、荒田洸さん(WONK)のようなまた違うルーツを持つミュージシャンと作り上げるところがReiさんらしさなのかなと。

Rei:「Sunflower」の時もそうだったのですが、ちゃんとハイブリッドされた今の音楽にすることは常に心がけています。ちなみにこの曲は、イエバという大好きな女性シンガーがエレクトリック・レディ・スタジオでライブ録音した音源も参考にしています。洸くんは、その方向の音楽にすごく詳しくて。今回、ドラムも結構ダビングしていましたね。


─「Call My Name」も、マーティ・ホロベック&石若駿というSMTKのリズム隊がフォークミュージックを演奏する面白さがありますよね。

Rei:この曲はアルバムのリード曲で、作品を作るきっかけにもなっています。歌詞も、これまでにないくらいストーリー仕立てになっていたり、情景描写にこだわったりしているチャレンジングな曲。恋愛の曲として聴いてもらっても構わないのですが、「名前」というものがアイデンティティの象徴であるのなら、大切な人には自分の名前……つまり自分のアイデンティティを、たとえ「肯定」しなくても「認識」してほしい、受け入れてほしいという思いを込めた曲にもなっています。

─今作の中でもとりわけアーシーかつスワンピーな「RICH KIDS」は、どのようにできた曲ですか?

Rei:たとえばベン・フォールズやスーパーオーガニズムのように明るくてノリがいい曲にしたいなと。キーボードはちょっとローリング・ストーンズっぽいし、それでいて「今夜はブギーバック」あたりの影響もミクスチャーされていますね。何かそういうプレイフルな曲をアルバムの中に1曲入れたかったんです。

「RICH KIDS」というのは、「金持ちのキッズ」という意味ではなくて「精神的に豊かに生きるキッズ」のこと。たとえば「Quality of Life」といいますか、自分をねぎらったりいたわったり、そういうことに目を向けているアーティストが、同世代にはすごく多いように感じます。彼らを見ているととても元気が出るんです。そのことに想いを馳せつつ、ザ・フーの「My Generation」的な、私たち世代の思想を盛り込むつもりで書きました。ライブでみんなと一緒に歌えるアンセムのようになったらいいなと思っています。

Reiによる『VOICE』全曲解説(2)

─個人的には、次の「朝」がとても好きです。メロディもどこかクラシカルで、Aメロの浮遊感やドラマティックな展開も心奪われるというか。

Rei:嬉しいです、ありがとうございます。この曲はアレンジを固めるのにものすごく悩みました。ギター、ドラム、ベースのすごくシンプルなデモがすごく気に入っていたんですよ。その空気感をそのままやるのもちょっと違うけど、それを越えられるアレンジがなかなか思いつかなくて。それこそ思いつく限りのアレンジを試し、ようやくピアノアレンジに辿り着きました。

─歌詞は、すごく大きな「愛」について歌ったものだなと思いました。

Rei:個人的には自分の死生観みたいなものも込められたかなと。朝、隣で一緒に眠っている恋人よりも自分の方が先に目覚め、その横顔を眺めている曲のようでもあるし、すでに亡くなっている人に想いを馳せている曲のようでもある。宇多田ヒカルさんが、亡くなったお母さまについて歌った「花束を君に」という曲のように、聴く人によって色々な捉え方ができる、器の大きな曲ができたらいいなと思いましたね。

─最後の曲「RUN, RUN, RUN」も、”I never thought that life was so full of anger And I've been losing confidence all the time(怒りにうちのめされたこの人生で、自分の在り処を失った)” ”Life is a beautiful nonsense It's never late to begin all over again(人生は意味がないからこそ美しい だから何度でもやりなおそう)”など、キラーワードがたくさん散りばめられています。

Rei:これはギターをガシガシ弾いている曲が1曲は欲しいと思ったのと、ちょっと次作を示唆させるような曲にしたくて。追い詰められている人が、どこかへ向かって逃げていくというか、駆け出していくようなイメージです。私、フィルムカメラが好きなんですけど、フィルムで撮影して現像した写真を見て「あ、これについて曲を書こう」と思いついたんです。

─それは、どんな写真だったんですか?

Rei:”街灯が立ち並ぶ国道沿いを 全速力で走り出す”という冒頭の歌詞のとおり、街灯が等間隔に並んでいる国道の写真でした。石若駿くんが、毎年開いている花火大会の帰り道に撮った写真だったんですよ。フィルムを使い切る時って、中途半端に現像されることがあるじゃないですか。まるでタングステンフィルム(夜も映る映画用のフィルム)で撮ったような、不思議な光が入った写真になってそこからインスパイアされました。

─ちなみにフィルムカメラは何を持っているんですか?

Rei:Olympus Trip 35をずっと使っているのと、Nikon 35Tiをよく使っています。全部で7台くらいあるのかな、ちょっと数えていないんですけど。フィルムカメラはもう10年くらい使っていて。「写ルンです」から始めて家にはとんでもない数のフィルムがありますね。毎日があまりにも早いスピードで流れていくので、もともとは曲の種摘みとして撮り始めたんです。忘れていた日常の瞬間を現像した時に思い出し、それをヒントに曲を作るということを上京した頃からたまにやっています。

─マイナーな曲調でラテンっぽい要素もあり、個人的にはエド・シーランなどを彷彿とさせました。

Rei:そういう感じもあります。今、トレンドでカントリー、ブルーグラスとEDMを組み合わせたジャンルがあって。アヴィーチーやリル・ナズ・Xなどもそうですが、それを自分流に表現してみたくてやってみました。

─Reiさんの新境地ともいえるアルバムが完成し、今はどんな気持ちですか?

Rei:この作品を、ファンの方たちがどんなふうに受け取ってくださるか。そのことについて、楽しみと不安とが入り混じっていますね(笑)。まずはこの『VOICE』というアルバムの魅力をいろんな角度から伝えていきたい。そういう意味ではツアーが待ち遠しいです。

─もうすぐ2023年も終わります。来年はどんな年にしたいですか?

Rei:実は次の作品のことも考え始めていて、皆さんをあっと驚かせるような活動もあればいいなと。それから海外公演ですね。しばらくコロナでできていなかったので、来年こそインターナショナルな活動をしていきたいと思っています。

Reiが語る、「心の声」と向き合ったシンガーソングライターとしての新境地

Rei
『VOICE』
発売中
再生・購入:https://umj.lnk.to/Rei_VOICE
特設サイト:https://www.universal-music.co.jp/rei/voice/

Rei presents "JAM! JAM! JAM!" 2023
2023年12月9日(土) ブルーノート東京
《1st》 OPEN 15:30 / START 16:30
《2nd》 OPEN 18:30 / START 19:30
詳細:https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/rei/

Rei Release Tour 2024 ”VOICE MESSAGE”
2024年2月11日(日)札幌・ペニーレーン24
2024年2月22日(木)名古屋・ボトムライン
2024年2月23日(金)大阪・心斎橋BIGCAT
2024年2月25日(日)福岡・BEAT STATION
2024年3月1日(金)東京・渋谷CLUB QUATTRO

Rei公式サイト:https://guitarei.com
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