2023年1月には故マック・ミラーの参加した「Heart to Heart」がTikTokで突然のバイラル・ヒットを記録。同年4月にはインストを中心とした199曲入りのアルバム『One Wayne G』を発表してファンを驚かせたマックだが、今回のジャパン・ツアーは2019年の『Here Comes The Cowboy』以来となる全編歌ものアルバム『Guitar』を引っ提げて行われるもので、待ちわびたファンの感慨もひとしおだろう。
だがこの『Guitar』、いつものマックとは少し様子が違うようだ。タイトル通りギターを中心に、すべての楽器の演奏から録音、ミックスまでをマックひとりで手掛けていることこそ普段と変わらないが、歌詞のテーマはダウナーで、救いを求めるような内容が多い。噂によると最近は以前暮らしていたロサンゼルスを離れ地元カナダで過ごしているそうで、大好きだった煙草も止めてしまったそうだが、何かあったのだろうか?
心配しつつインタビューに臨んだのだが、画面の向こうのマックはいつも通り明るく、長年のパートナーとも”Still Together”なようで、ジョークを交えつつ様々な話題に答えてくれた。来日公演がアルバムとは一味違うロックンロール・ショウになることは間違いなさそうだが、念のためもう一度言っておこう。ウンチはありませんでした!
細野晴臣がトイレを借りた件
―今日はよろしくお願いします。ちなみに今は自宅から?
マック:そう、カナダにある新居というか、カナダが地元だから新居というよりも古巣というのがふさわしいのかもしれないけど。
―新作『guitar』のアルバム・ジャケットに写っているのもカナダの自宅なんですか?
マック:そうだね、カナダにある自分の家だよ。
―じゃあ、ジャケットに写ってる犬もいますか?
マック:そう、うちの愛犬(笑)。今もすぐ近くにいるよ。
―”Osito”という名前だそうですね。
マック:そう、スペイン語で”小熊”って意味なんだ。犬なんだけど熊って名前がついてる (笑)。
―もしかして、あなたの友人でもあるウルグアイ出身のフアン・ウォーターズが命名したとか?
マック:いや、なんかこの犬のもともとの飼い主がメキシコ人で、ちょいちょい仕事を手伝ってもらったりしてるんだけど、その飼い主からそのまま引き継いだ名前で。メキシコだから英語じゃなくてスペイン語の”小熊”って名前で呼ばれてた子をそのままもらったっていうだけで、自分もうちの子に出会って初めて知ったスペイン語なんだよね。

『guitar』ジャケット写真
―日本ではちょうどフジロックが終わったところです。あなたの2018年のツアーのタイトル「Purple Bobcat Next to River」は、苗場プリンスホテルの近くの川沿いに停まっていた重機に由来しているそうですね。フジロックでは日本のゲーム『MOTHER 2』のプレイ映像を流しながらのライブでしたが、何か記憶に残っていることはありますか?
マック:そうそう、今日ちょうど日本とのインタビューがあるんで、振り返って思い出してたんだよ……あの時ポスト・マローンがシェイカーを振ってたよなって(笑)。あと、自分の日本人の友達のユウキ、菊地佑樹が、日本語で何て言うんだろう、(日本語で)チカラ? ステージでチカラいっぱい、全力で叫んでたのを覚えてる(笑)。……なんか全体的に超シュールな思い出(笑)。あと苗場に関して印象的なのは、カナダの名称を冠しているホテルだの、レストランだのがちょいちょい目について……アルバータ・ホテルだの、ジャスパー・レストランだの (笑)。それがカナダ人の自分からしたらすごく奇妙で、「なんで日本の地方にカナダの地名が⁉」みたいな。苗場がスキー・リゾートで、そこからのカナダ繋がりなのかもしれないけど、それがめちゃくちゃ奇妙で、強烈な印象として残ってる(笑)。
ポスト・マローンがシェーカーを持ってマック・デマルコのステージに登場、「上を向いて歩こう」をカバー
―自分があなたにインタビューするのは2017年の『This Old Dog』のリリース・タイミング以来なので少し遡って話をしたいのですが、2019年に細野晴臣さんのロサンゼルス公演で共演した際、あなたのロサンゼルスの自宅に細野さんが遊びに来てトイレを借りたそうですね。その時のエピソードがあれば聞かせてもらえますか?
マック:いやもう、おかしな体験っていうか、細野さんと一緒にステージに立たせてもらうこと自体がシュール過ぎて……それで言うならこれまでで一番ビビったステージかもしれないよ(笑)。細野さんからリクエストで「日本語で歌って」ってことだったけど、自分は日本語を話せないものだから、一応トライしてみたものの、果たしてうまくできたかどうかは今もって謎(笑)。何しろ、自分が細野さんの音楽のガチのファンなんでね。本人を前にするとやっぱり、いまだにどっかで緊張してるんだろうね。でまあ、今の話にあった通り、自分の家に来て、インタビューをして、一緒に音楽を聴いたりして……自分の曲のひとつのドラムがすごく良いって言ってもらったのが感激で……なんかもう、 全体的にシュ―ルというか、信じられないみたいな気持ちだった。いやもう、マジで感動した。一生忘れられないエピソードっていう感じだよ。
―細野さんが家のトイレを借りたという話は本当だったんですか?
マック:そう、普通に。
―ファンの間で細野さんがあなたの家のトイレを借りてウンチをしたのに流さなかったから、しばらくそのままにしておいたっていう噂があるんですけど(笑)。
マック:(びっくりした顔で吹き出す)いやいや(笑)、それはないって、トイレにウンチ放置とか(笑)!そこは細野さんの名誉のためにもこの場を借りてちゃんと否定させてもらわないと! 「ウンチはありませんでした」(笑)! とはいえ、それぐらい頭の中がバグッてる状況っていうか、だって、自分の憧れのヒーローが自分の家のトイレを使ってるとかマジであり得ないわけで! 普通にないっていうか、マジであり得ないって。
―2019年のアルバム『Here Comes The Cowboy』に収録されていた「Choo Choo」は故スライ・ストーンへのオマージュだそうですが、タイトルからして細野さんっぽくも聴こえます。
マック:自分のやってることの、ほぼすべてに確実に細野さんの影響はあるんだけど……ただ、あのアルバムの制作前はちょうどスライ・ストーンにハマってたんだよね。とはいえ、結局、最終的には『HOSONO HOUSE』に戻っちゃうんだよなあ……あのアルバムの中に「CHOO-CHOOガタゴト」って曲があるじゃないか。それが自分の頭の中にずっと流れてて。あと東横線のアナウンスについては、前回のツアーで日本に滞在中にマイクを持ち歩いてフィールドレコーディングを録り溜めてたんだよね。それこそあちこち動き回りながら音を収集していて。そのうちのひとつが、あの東京滞在中に乗った電車内のアナウンスなんだ。 『Here Comes The Cowboy』自体がフィールド録音した音を再生しながら、その上に音楽を被せたり、曲に盛り込んだりしながら作ってるんで、その流れであの音がアルバムの中に紛れ込んでるという。いい感じだよね。
坂本龍一や矢野顕子への敬意、カナダ人らしさとは何ぞや?
―2023年のインスト・アルバム『Five Easy Hot Dogs』のサンクス・クレジットに、アレックス ・Gの名前がありました。同年のリル・ヨッティのアルバムに収録されていた「:(failure(:」という曲にはあなたとアレックス ・Gの名前が共作者としてクレジットされていましたが、どういった形で共作したのでしょう?
マック:『Five Easy Hot Dogs』のクレジットに関しては、とりあえずレコーディング中で出会った人たち全員の名前を片っ端から載せていったんだ。ニューヨークにいる時、アンノウン・モータル・オーケストラでも演奏してるジェイク(・ポートレイト)っていう友達のスタジオにいたら、アレックスがフラッと遊びに来て、一日中ずっと一緒に音出して遊んでたんだよね。
―他にもベニー・シングスやドミ&JD・ベック、ケニー・ビーツ、アイドレス、ライアン・パリスなどとコラボしてきましたが、特に印象に残っているものはありますか?
マック:あー、どれになるんだろう。というか、わりと自然にというか、基本、LAにある自分の家のスタジオで一緒に音を出してるうちに、いつのまにか曲ができてたみたいなパターンが多いから。しかも、どの人もみんな違ってるし、作ってる音楽となったら、さらに違ってくるからね。みんなそれぞれ個性的だし、JDとドミのふたりなんて超絶クレイジーなミュージシャンだから、マジでぶっ飛んでたっていうのはあるけど(笑)。とりあえず毎回違ってることは確実で……ただ、いつもは自分のスタジオで一緒に何かやるってパターンが多い。一番印象に残ってるのは、ライアン・パリスと「Simply Paradise」を作った時かな。イタリアのアルデーアにある彼の家のスタジオで一週間滞在して作ったんだけど、僕もパートナーのキエラ(・マクナリー)もライアンとは初対面で、車で現地に行って、家にステイさせてもらったんだ。イタリアのその地域に長く滞在したこともなかったから、何もかもが新鮮で最高だった。ミュージック・ビデオも彼の家の近くのビーチで撮って、まさに忘れられない思い出ってやつだよ。
―実は、初来日公演の時に(2015年)自分が開場前の音楽を担当していて、その時にライアン・パリスの「Dolce Vita」をかけたんですよ。なので感慨深いものがありました。
マック:おお、いいね、わかってるね! あれはほんとマジで名曲だよね。
―同じく2023年にリリースされた199曲入りのアルバム『One Wayne G』は、曲名がほぼすべて録音された日付になっていますが、これは直前にリリースされた坂本龍一さんの遺作『12』へのオマージュだそうですね。『MOTHER 2』のクリエイターでもある糸井重里さんは坂本龍一さんや矢野顕子さんの作詞もしていましたが、彼らからはどんな影響を受けましたか?
マック:いや、もう、細野さんと同じで神の領域というか、山の頂上みたいな存在っていう前提があり……しかも、坂本さんって、もう何て言うか、あり得ないほど膨大な数の作品を残してて、しかもそのどれも充実した内容でものすごくインスピレーションに溢れてる。自分のアルバムに番号のシステムを採用したのも、坂本さんへのちょっとしたオマージュでもあり……たしか細野さんも何かでそういう番号付けをしていた記憶があって……日本の元号だか、日付だったかな? なんかそんな感じ。ただ、日付や番号システムをアルバムに取り入れたら、かえって混乱するのか、あるいはその瞬間だけピンポイントで切り取るみたいな感じになるのかと思って。もはやアルバムのどの位置にあるどの曲を聴いてるのかとか関係なくなって、ただ純粋にリスニング体験だけが残るような気がして。
で、坂本さんの話に戻ると、やっぱり僕にとってのヒーローの一人なんで。まさに生涯に渡って偉大なアートを創作し続けてたアーティストだよね、本当に……一度も音楽から離れたことのない人生を送られたんじゃないかな。矢野顕子さんもそう。彼女とは実は少しだけコラボレーションしたことがあって。
―最近『MOTHER 2』の30周年記念ライブがあって、坂本さんと矢野さんの娘の坂本美雨さんも出演してたんですよ。
マック:へえー、いいね。そうだ、『MOTHER 2』のクリエイターが坂本さんの歌詞を書いてた、って言ってたよね? ものすごい繋がりじゃない? それもチェックしなきゃ。
―そうです、『左うでの夢』っていうアルバムとか。199曲入りのアルバム『One Wayne G』のタイトルは、あなたの故郷カナダのホッケー・チーム、エドモントン・オイラーズのウェイン・グレツキー選手の背番号99に由来しているそうですね。新作のジャケット写真でもオイラーズのキャップを被っていますし、リード・シングル「Home」のビデオもカナダの母親の家の近くで撮影されたと聞きました。最近はLAよりもカナダで過ごすことが多いんでしょうか?
マック:まあ、そうだね。今はまたカナダに戻ってるし、最近はこっちで過ごす時間が増えてる。とはいえ、LAにもまだ自宅はあるし、今後どっちがメインの住居になっていくのかな……もうすぐツアーも忙しくなるから、ますます自分がどこに住んでるんだかわからない状態になりそう。ただ、カナダに戻ってるとはいえ、今は地元のエドモントンに暮らしてるわけじゃないんだよね。ただ、自分でも面白いなって思うのは、今言ったホッケーなんかが自分の中では故郷を象徴するアイテムになっててさ……なんか不思議というか意外なところで繋がってるというか。そう、今回のアルバムではホームをテーマとして少し掘り下げてるところもあるし……今では離れてしまったとしても、地元民であることをアピールしたい気持ちはあるんでね。好むと好まざるとに関わらず、自分という人間を形成した土地であるわけで、それだけでも自分という人間の一部について確実に物語ってるし、主張していく価値があるんじゃないかと。
―なんか海外の人と会うと地元とか出身地のロゴの入った服を着てる人が多いんですけど、日本でそれやってる人ってあんまり見かけないので、なんだか不思議っていうか。
マック:おお、そうか、なるほど、確かに……ただ自分が地元を離れてるからっていうのもあるのかもしれないけど……いやでも、オイラーズのキャップに関しては地元でも普通に被ってる気がするし……いや、もし今でも地元に暮らしてたら「いい年した大人が、ガキじゃあるまいし」って感じになるのかもしんないけど。いや、そうだとしても、普通に被ってそう。わかんないけど。自分の場合、長いことカナダの外で暮らしてたから、もはや自分がカナダ人であるっていう意識がだいぶ薄れてて……ずっとカナダに戻ってなかったこともあって、ここにきて再びカナダ人である自分を取り戻そうとしてるというか、空白を埋めようとしてるのかもしれない。というか、「そもそもカナダ人らしさとは何ぞや?」って話ではあるんだけどさ……いや、わかんない。少しでも地元の一部を自分の中に取り込もうとしてるような感じ……と同時に、カナダ人のくせにわざわざカナダ人ぶってるような気もするし、なんかちょっと不思議な感じだよね。
―再びカナダで時間を過ごすことになったのには、何か理由があるんですか?
マック:ちょうど母親が引っ越したタイミングでもあって。それで引っ越しの手伝いをしたり、家のリノベーションを手伝ったりしてたのもあって……それがちょうど去年から今年にかけてあたり。あるいはカナダを出てからしばらく会ってなかった友人に再会したりして、「あー、こっちの暮らしもなかなかいいもんだなあ」なんて思い返すようになったりして。だから、もうひとつの拠点みたいな感じかな。少なくとも夏の間の拠点にするのにはカナダは大いにアリだなって。というか、そもそもLA暮らしってしんどいっていうか、なにしろ目まぐるしくてクレイジーって感じなんでね。それに比べると、カナダはのどかでまた違った雰囲気なんで。しかも自分の故郷でもあるんでね。自分のルーツと再び繋がるみたいな感覚もあるのかもね。
煙草もシンセもやめた理由
―そういえば、ジャケット写真のテーブルの上に、デルモア・シュワルツの詩集が置いてあるのが気になりました。
マック:え、デルモア・シュワルツの詩集? そんなのあったかなあ……もしかして自分のパートナーのキエラの本かも……ルー・リードの好きな詩人とかだっけ?
―ルー・リードの大学時代の先生だったそうです。
マック:ああ、なるほど。だったら自分もパラパラ目を通したかも。そもそも大量に本を読み漁ってるし、しかもルー・リード関連だったらなおさらチェックしてるだろうから、もしかして自分が買ったやつなのかもしれない。納得。この機会にちゃんと読み返してみるべきかもね。
―あなたは「Ode to Viceroy」という曲で〈煙草を死ぬまで吸ってやる〉と歌っていましたが、最近のインタビューで、「酒と煙草、冷たい食べ物をやめた」と話していましたね。このことによるデトックス効果はあったのでしょうか?
マック:おかげでものすごく快調だよ。前よりずっと健康的に感じてる。〈死ぬまでお前を吸い続ける〉って歌ってんだけど、もしかしたらあの頃は本気で死にかけてて、今はまた生き返ってるのかもね。そう、タバコをやめて何年くらいになるんだろう……『Five Easy Hot Dogs』を作ってた頃だから、3、4年になるのかな。正確には覚えてないけど、なんか自然とやめようってなって。おかげで今はすごく調子がいいよ。自分が激しく依存してたものをやめるって、すごく不思議な感覚なんだよね。やめた今となっては、なんであそこまで憑りつかれてたんだろう、というか、そもそもなんであんなもの必要としてたんだろう?みたいな。でも、まあ、人生においてそういうことって往々にしてあるよね。
―新作ではここ数作で顕著だったシンセサイザーもほとんど使われていないように思えますが、これはどういった意図だったのでしょう?
マック:それもなんか自然にって感じだよね。ただ、一曲目の「Shining」には最初シンセサイザーが入ってたんだよね。その後でアルバム・タイトルを『Guitar』にしようって案を思いついて、遡ってシンセサイザーの部分を削除したんだ。というわけで、混ぜ物なしの、純度100パーセントのギター作品になってる(笑)。完璧でしょ(笑)。
―ギターといえば、以前インタビューで「ペダルはもういらない。ペダルを全部山にして、火をつけよう」と、ギター・ペダルへの嫌悪について話していましたよね。実際新作はギターのエフェクトを極力減らしたサウンドになっていると思うのですが、どういった心境の変化があったのでしょうか?
マック:そう、なんかね。今回のアルバムではエフェクターは一切使ってなくて。仮に何か色を加えてるとしたら、せいぜいビブラートを取り入れてるくらいで。とはいえ、それは毎度のことなんで。結局、自分が楽器へのアプローチってとこに関して興味あるのは、楽器の持ち方とか、弾き方そのものなんだよね。まあ、エフェクトを使ってそういうものを補うことはできるとは思うんだけど。でも、自分が好きなギタリストはみんな自分だけの音を持ってるんで。どんなギターを使ってようが、どんなエフェクトを通していようが、彼らの声がはっきりと伝わってくる。たとえば、コナン・モカシンなんて、自分の大好きなギタリストの一人だけど、音を聴いた瞬間に「あ、これ、コナンのギターだ」って一発でわかる。もうマジで凄い。たぶん、そういう人達に対するリスペクトみたいなところから来てるのかもしれない。

影響を受けた音楽「仲野順也さん、連絡待ってます!」
―本作からポール・マッカートニーの初期のソロ・アルバムを連想したのですが、2021年にリリースされたポール・マッカートニー『McCartney III』のリミックス・アルバムに収録された「When Winter Comes」のアンダーソン・パーク・リミックスに、演奏で参加していましたよね。あれはどういった経緯で実現したのでしょう?
マック:ある晩、いきなりアンダーソンから電話があって「YO! 今度ウチでポール・マッカートニーのネタをやるんだけど来ない?」って言われたから「OK」ってことで。LAにアンダーソンのスタジオがあって、自分も一時期しょっちゅう入り浸ってたんだよね。その場でアンダーソンからマッカートニーのボーカルだけを切り取った音源を聴かせてもらって、「うわ、マジでヤバい‼」って。それをあれこれいじって、うちのレーベルからも出してるヴィッキー・フェアウェルも加わって、3人でその場で色々音を出しながら形にしていったんだ。最初から計画してたっていうよりは、ただアンダーソンの家に誘われて3人で一緒にプレイしたっていう、まさにフリーな感じ。最高に楽しかった。
―その後、ポール・マッカートニー本人と直接話したり、曲の感想を訊く機会はありましたか?
マック:いや、ないよ。もしかするとアンダーソンは繋がってるのかもしれないけど。
―ポール・マッカートニーと実際に会ったことはないんですか?
マック:ないよ。というか、そもそも自分がポール・マッカートニーに会いたいと思ってるかどうかも疑問……いや、もちろん本人にあったら大感激するんだろうけど、なんかこう、あまりにも雲の上の人すぎて、そのまま永遠に自分の想像の中だけの人でいてほしい、みたいなことってない? ポール・マッカートニーって、自分の中ではそういう存在。
―実際にポール・マッカートニーに影響を受けたかどうかわかりませんが、最近聴いたり、影響を受けた音楽はありますか?
マック:とりあえず、さっきの話にも出たルー・リードは必須。ルー・リードに関してはもう心酔しちゃってるんで。あとは王道でブライアン・ウィルソンとか……それと最近になってからブロッサム・ディアリーにめちゃくちゃハマってるんだけど、本当に素晴らしいアーティストだと思う。あとは誰になるんだろうなあ……最近は歌詞が少ない、もしくは一切入ってない音楽をよく聴いてるかなあ…。それで言うなら、リュック・ベッソン映画のサントラを手がけてるエリック・セラとか。『グラン・ブルー』とか『レオン』とか『ニキータ』とか、どれも彼がサウンドトラックを手掛けていて、彼の音楽はよく聴いてるね。あとは最近というか、子供の頃からずっと聴いてる音楽だけど『ファイナルファンタジー』シリーズの音楽だよね。昔からノブオ・ウエマツ(植松伸夫)作品のファンで、あとジュンヤ・ナカノ(仲野順也)って作曲家の作品も最高に好きで、マジでずっと聴きまくってる。確か『ファイナルファンタジーX』あたりから関わり始めたんだと思うけど、最近になって彼が90年代後半に作った音源を発見して、もうマジで最高に素晴らしすぎるんだよ! おお、そうだ、この記事、日本語で出るんだよね? どうか彼の目に留まりますように……というか、前にEメールも送ってるしインスタでもメッセージを送ってるんだけど、一度も返信がなくて(笑)。この記事読んでたらぜひ! ジュンヤさん、どうか! お願いします! 一度だけでも! いつでも待ってます(笑)!
―(笑)とはいえ、最新作の音って、今言ったのとは全然違う感じですよね。
マック:あー、確かに。どうだろう。ただ、とりあえず最近の音楽についてはそこまで詳しくなくて……というか、たぶん、自分がド真ん中で好きな音楽でいったら、たぶん、J.J.ケイルとか、あのへんの音楽だと思うんだよね……それがここ何年かで仲野順也とか、そっち方面に寄り出してる。『One Wayne G』なんてまさしくそれで……あるいは、さっきの話に出た坂本龍一さんなんかにしても。彼の音楽からもすごく影響を受けてる。今回の曲に関しては、何だろう……ささやかで、こぢんまりとした曲というか。小さな曲というか、シンプルでこぢんまりとした曲というか。それで言うならポール・マッカートニーの影響も感じられるし、あと似たような空気感でいうなら、最近よく聴いてるのはランディ・ニューマンだったり。ランディ・ニューマンも昔からずっと好きなんだよね。あるいはポール・サイモンなんかにしてもそう。ただ、彼らのソングライティングって実はものすごく複雑なんだよね。対して、自分がやってるのはもっとちいさくてシンプルな曲で、小粒ながらもグッと聴かせるような、そういう感じを目指してる気がする……うん、なんかそんな感じ。
―今、J.J.ケイルの名前が挙がりましたけど、逆に自分はJ.J.ケイルの『Troubadour』っていうアルバムを聴いた時に、マック・デマルコっぽいなって思ったんですよね。
マック:わかるよ、あるよね、そういうのが訪れる瞬間っていうか……自分は昔からJ.J.ケイルの同じ曲をずっと聴いてたんだけど、バイクに乗ってヘルメットをつけて音楽を聴いてた時にJ.J.ケイルの「Don't Go to Strangers」が流れてきて「何これ、自分の曲?」ってなった瞬間があって。「え、マジでどういうこと?」みたいな。同じような体験をブロッサム・ディアリーの曲にも感じたことがある。これに関しては曲が似てるっていうよりは、彼女の『Blossom Dearie Sings』っていうアルバムの中に入ってる曲で、どの曲かは忘れちゃったけど、ドラムのビートがまるで自分が叩いてるドラムみたいだったんだよ! 強いて言えば向こうのほうがちょっと上手いくらい(笑)。聴いた瞬間、「えっ、今の何⁉」って。あまりに似過ぎててちょっとゾッとするくらい……とはいえ、そういうのって美しくて感動する。あと『Five Easy Hot Dogs』を録り終えた後にムーディ・ブルースの「Had to Fall in Love」って曲と出会って、「マジでもうこれじゃん、これやろうとしてたんじゃん!」ってなったし。ハーモニーなんかもめっちゃ似てて。なんか、そういうのって自分の中ではすごく特別な瞬間で、いい意味でハッとさせられる瞬間だよね。
7年ぶりの来日に向けて
―新作は「僕の人生において現在どこに立っているのかを、可能な限り紙に書き出した」作品とのことですが、歌詞を言葉通りに受け止めてしまうと、あまりいい状況とは思えない気もします。実際はどうなのでしょう?
マック:というか、人間いつでも絶好調ってわけにはいかないじゃないか。自分だっていつでも完璧ってわけでもないし、逆にダメダメってわけでもない。ただ普通に現実を映し出してるだけなんじゃないかなあ……それと自分が曲を書こうと思い立つときって「よっしゃー、今日もハッピー全開!」って気分の時よりは(笑)、むしろ自分の中に溜まってたものを吐き出す機会として曲作りを利用してることが多い気がするんで。ただ、少なくともアルバムを作ってた時点での自分の心の状態を反映してるとは言えるだろうし……あるいは、過去の感情を遡って引きずり出してる場合もあるだろうし、時間と共に変化していった感情もあるだろうし……。まあ、要するに現時点での自分の中身はどうなってるんだろう?っていう確認作業みたいな……で、たぶん、これって自分に限らず、たいていの人が自分を振り返るときって「よっ、さすが、自分! いいね‼ 自分、最高‼」みたいなモードよりは(笑)、「うわ、自分、マジで何やらかしてんの?」みたいなモードに着地しがちな気が(笑)。ある意味、マンガみたいなもので、自己反省を面白おかしく拡大表現してるみたいな。
―なるほど。音楽以外でハマっていることがありますか? 好きなアニメやゲーム、YouTubeチャンネルなどでもいいです。
マック:山ほどあるよ。ちなみに今日は大工仕事をやってて、リハーサル用の音響パネルを組み立ててるところ。あとは家の修繕だの、配管まわりの作業もやってて、昨日は電気系統の整備と、浄水システムとUVライトの設置、あとは周辺のシステムの設置。このあとは配管清掃して水を通した後、オリーブ畑の木の剪定もしてて、それは結構大掛かりな作業だった。それとここ最近ずっと井戸水の仕組みを研究してたから、そのへんもだいぶ詳しくなったし。今住んでるカナダの家がちょっとした農場みたいな場所だから、雨水の収集方法についても調べてる。とりあえず水源を確保しないといけないんで。あとカヌーにもよく乗ってて、昨日もカヌー中に友達がカサゴを釣ったりとか、ガーデニングもやって色々育ててたり。手仕事および実用的なことにかまけてて、音楽関連のことはそんなにやってない。とはいえ、いずれ自分が今やってることのすべてが音楽に反映されていくんだけどね。基本、物作りとか修理とか大好きなんで。すごく満たされる。
―ギタリストなので指に注意しないとですね。
マック:いや、ほんとそう。うっかりしてたら、一瞬でスパッ(指を切り落とすアクション)だから。
―逆にその日曜大工的なものをあなたがYouTubeにアップしてたら、絶対にチャンネル登録して見ますけどね。
マック:いや、そもそも自分がYouTube動画からそういうのを学んでるもので、素人の二番煎じも甚だしい恥ずかしいものになりそうだから(笑)。

―(笑)ジャパン・ツアーはバンド編成になるんでしょうか? もしそうだとしたら、現在のバンド・メンバーについて教えてください。
マック:そう、何本かライブを予定してるよ。 メンバーは、自分とダリル・ジョンズっていうニュージャージー出身のベーシスト、それからペドロ・マルティンスっていうブラジル出身のギタリストで、彼がまた最高に良いんだよ。キーボードは昔からの友人で同じエドモントン出身のアレック(・ミーン)。 それから新たにフィルこと、フィリップ・メランソンっていう、カナダのモンクトン出身のドラマーの編成。まだリハーサルはしてないけど、来週くらいにはぼちぼち始めようかと。どうなるかすごく楽しみ。というか何よりも久しぶりの日本がめちゃくちゃ楽しみ。最高のツアーになるはず。
―ベスト・ヒット的な内容になるんですか?
マック:まあ、ニュー・アルバム中心にはなると思うんだけども。過去作も全部それなりにあると思う。 前回の来日からここまで間が開いちゃったのは、グレイテスト・ヒット的なショウになるのを避けたかったのもあり。せっかく日本でライブをやるからには、新作を引っ提げてっていう形にしたかったんでね! とはいえ、昔の曲だってもちろんやるよ。そりゃもう、ファンが聴きたい曲があればどんな曲でも喜んで演奏するよ! 最高に楽しい充実したライブになるはずだよ!
ダリル・ジョンズ(Perc)、ペドロ・マルティンス(Ba)、アレック・ミーン(Key)が参加したライブ動画
―日本に来るのは久しぶりだと思うんですが、なにかやりたいことはありますか?
マック:日本に友達がたくさんいて、もう何年も会ってない友達もいるから、また日本で会うのがすごく楽しみ……あとは日本の美味しいご飯も! 今からめっちゃワクワクしてるよ。日本って、自分の目にはすごく興味深く映るっていうか、それこそ自分がアメリカやカナダで普段からよく見慣れたものがあるんだけど、そもそもカルチャーであり土台が全然違うんだよね。いや、何しろ楽しみだよ。日本の音楽やアートのファンでもあるし、毎回最高に楽しませてもらってるんだから。今回も本当に楽しみにしてるんだから! 久々の日本になるからまた新鮮な視点で楽しめるはず。
―前に日本に来た時に多摩湖の近くをサイクリングしたそうですが、自分はその近くの出身なので、すごく嬉しかったのを覚えています。
マック:そうそう、さっきの話にも出た友達のユウキ、菊地佑樹がその近所に住んでて、一緒にサイクリングしたり川で泳いだりしてさ。そんで面白いのが、ユウキが母親から借りた自転車のカギをなくしちゃって、その後半年間ずっと盗まれることなく、現地に置きっぱなしになってたっていう(笑)。そういうのがなんか、自分的にはまさに日本的だなって思うっていうか。日本以外の国だったら、そんなん普通にありえないからね、マジで! 半年間、自転車を放置しといて持ってかれないなんてさ! しかも、その自転車だって柱とかに繋いでロックしてたとかじゃなくて、ただ普通に自転車にカギをかけた状態で置いてあったんだから。いや、まさに日本の社会を象徴してるよね。素晴らしいよ。
―また多摩湖に来てくれることを願っています。
マック:いやもう、ぜひ再訪したいところだね!
マック・デマルコ
『Guitar』
発売中
再生・購入:https://virginmusic.lnk.to/guitar

Mac DeMarco Japan Tour 2026
2026年2月16日(月)福岡DRUM Be-1
2026年2月17日(火)大阪UMEDA CLUB QUATTRO
2026年2月19日(木)京都 磔磔 *SOLD OUT
2026年2月20日(金)名古屋NAGOYA CLUB QUATTRO
2026年2月21日(土)東京KANDA SQUARE HALL *SOLD OUT
2026年2月22日(日)東京KANDA SQUARE HALL <追加公演>
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4488