”隠れ名盤”と言いながらも、ジャニス・ジョプリンのソロ・デビュー作『I Got Dem Ol' Kozmic Blues Again Mama!(コズミック・ブルースを歌う)』(69年:全米5位)、ボブ・ディランがザ・バンドと組んだ『Planet Waves』(74年:全米1位)、デヴィッド・キャシディ『Dreams Are Nuthin' More Than Wishes(夢のつぶやき)』(73年:全英1位)、バリー・マニロウ『Barry Manilow II(哀しみのマンディ)』(74年:全米9位)、ゲス・フー『American Woman』(70年:全米9位)、エドガー・ウィンター・グループ『They Only Come Out At Night』(72年:全米3位)、ハート『Little Queen』(77年:9位)、チープ・トリック『Dream Police』(79年:全米6位)、カルロス・サンタナ&バディ・マイルス『Carlos Santana & Buddy Miles! Live!』(72年:全米8位)と、米英アルバムチャートのトップ10にランクインしたヒット作を多数含むラインナップだ。
ジャニス・ジョプリン「Maybe」(『I Got Dem Ol' Kozmic Blues Again Mama!』より)
チープ・トリック「Dream Police」(『Dream Police』より)
さらに見ていくと、ルー・リード『Coney Island Baby』(76年)、イギー&ストゥージズ『Raw Power』(73年)とイギー・ポップのソロ作、モット・ザ・フープル『All The Young Dudes(すべての若き野郎ども)』(72年)及びイアン・ハンターのソロ作などがある一方で、パティ・スミス・グループの『Radio Ethiopia』(76年)、『Wave』(79年)も。いずれ劣らぬ”オルタナティヴ・ロックの原点”と呼びたい傑作ばかりだ。
パティ・スミス・グループ「Pissing In a River」(『Radio Ethiopia』より)
ローラ・ニーロが活動休止期間を挟んで発表した2作『Smile』(76年)と『Nested(愛の営み)』(78年)は、CD化以降の新定番と言っていい人気作。それらのソウル・テイストを好む方なら、アース・ウインド&ファイアーの出世作と言える4作目『Head To The Sky』(73年)や、ルー・コートニー、フィービ・スノウ、タワー・オブ・パワー、Pファンク・ファミリーのバーニー・ウォーレルまでラインナップに含まれていることに惹かれるはずだ。
他にもトーケンズやニルソンなどポップ系、ジョン・デンバーなどシンガーソングライター系、ジャーニーなどハードロック系までとラインナップは実に幅広い。そうした有名どころの中に、現Eストリート・バンドのニルス・ロフグレンが在籍していたグリン(Grin)や、ニッキー・ホプキンスが参加したスウィート・サーズデイなど、ど真ん中の”隠れ名盤”もしっかり含まれている。そして何より気になるのが、日本初CD化となる9タイトル。ここではそこから6枚ほどピックアップして、駆け足で聴きどころを紹介していこう。
ローラ・ニーロ「 Sexy Mama」(『Smile』より)
スウィート・サーズデイ「Gilbert Street」(『Sweet Thursday』より)
「発掘!洋楽隠れ名盤 Hidden Gems in 70s」第2弾 試聴プレイリスト
ザ・グループ『The Groop』(1969年)
ザ・グループは映画『真夜中のカーボーイ』のサウンドトラック盤に収録されたジェフリー・コマナー作の2曲で存在が知られていた、男性2名+女性2名のシンガー4人組。唯一のアルバム『The Groop』は発売目前でお蔵入りの憂き目に遭ったため市場にほとんど出回らず、webオークションで50万円超の値がつく稀少盤だ。2007年にSundazedがボーナストラック入りでCD化、今回の日本盤もその曲目を採用している。日本風に言うとソフト・ロックということになるが、スタイルとしてはママス&パパスやスパンキー&アワ・ギャングの影響を強く感じるハーモニー・ポップ。
ゲス・フー『American Woman』(1970年)
日本初CD化が意外すぎるのが、カナディアン・バンドの代名詞的存在だったゲス・フー(The Guess Who)の全米No.1ヒット「American Woman」を収録した同題のアルバム。のちにソロでも活躍するバートン・カミングスの加入によって、彼のボーカルを活かしたブルーアイド・ソウル的な「These Eyes」(全米6位)や「Laughing」(10位)をヒットさせていた彼らが、ハードロック路線へと舵を切った野心作だ。同時に本作は、ギタリストのランディ・バックマンがバンド脱退後にバックマン・ターナー・オーヴァードライヴを結成することを予感させるアルバムでもある。印象的なリフを持つ「American Woman」は、99年にレニー・クラヴィッツが映画『オースティン・パワーズ:デラックス』のサウンドトラック盤でカバーして全米49位まで上がるスマッシュヒットに。プリンスがペイズリー・パーク・スタジオで行なったスペシャル・ライブ『Rave Un2 the Year 2000』にレニーがゲスト出演、二人でこの曲を演奏する場面を記憶している人も多いだろう。
ジェリー・ウィリアムス『Jerry Williams』(1972年)
ジェリー・ウィリアムスはアーティストとしての知名度は低いかもしれないが、エリック・クラプトンに「Forever Man」「Pretending」「Running On Faith」を提供したソングライター、と言えばピンと来るはず。72年に前述のグリンと同じスピンディジー・レコードからリリースされた初ソロ作『Jerry Williams』は、そのグリンもバックに参加した知る人ぞ知る一枚だ。シンガーとしてはハイトーンが特徴的で喉が強く、スティーヴ・マリオットを彷彿させる豪快な歌いっぷりに圧倒される。聴けばニルス・ロフグレンのギターとわかるピッキングハーモニクスが鮮烈なロックンロールナンバーと、コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、バーナード・パーディー(ドラムス)などスタジオミュージシャンを起用した曲、2本立ての妙も効いている。これだけのポテンシャルを持ちながら、ソロシンガーとして成功するチャンスをつかめないまま2005年に57歳で病死してしまったことが、つくづく不憫でならない。
ストーリーズ『About Us』(1973年)
ストーリーズは元レフト・バンクのソングライター兼キーボード奏者、マイケル・ブラウンが、モンタージュでの活動を経て71年に結成。イアン・ロイドという強力なシンガーを迎え、それまでのバロック・ポップ的な作風から踏み出してロック色を一気に強めた。72年の1stアルバム『Stories』からは軽めのポップ・シングル「I'm Coming Home」が全米42位まで上昇。その勢いに乗るはずだった2作目が、今回発売された『About Us』だ。マイケルとイアン、二人の個性がうまく合致した「Darling」や「Please, Please」はパワーポップ的と言っていい仕上がりだったが、アルバム完成後にマイケルが脱退してしまう。所属レーベルからの要請で、同年初めにイギリスでホット・チョコレートがヒットさせていた「Brother Louie」を残ったメンバーがカバーしてシングルとして発売すると、皮肉にもこれが全米No.1の大ヒットに。今回はその「Brother Louie」を追加して再発売された際の曲目が採用された。88年にテイチクが1stアルバム『Stories』との2 in 1でCD化しているが、セカンド単体での日本盤CDは今回が初となる。
アル・スチュワート『Past, Present And Future(過去、現在、未来)』(1973年)
アル・スチュワートの『Past, Present And Future』は通算5枚目。フォーキーだった初期の作風から一転、ブルース・トーマス(ベース)やボブ・アンドリュース(キーボード)といったパブ・ロック人脈、ティム・レンウィック(ギター)やリック・ウェイクマン(キーボード)などを迎えてロック色を強めた『Orange』(72年)の路線を踏襲し、その4人に加えてフェアポート・コンヴェンションのデイヴ・スウォーブリック(マンドリン)やカーヴド・エアのフランシス・モンクマン(モーグ・シンセ)、クイーンのロジャー・テイラー(パーカッション)も参加した華やかな作品になった。アレンジの幅がグッと広がった本作は、次の『Modern Times』(75年)からアラン・パーソンズとタッグを組み、傑作『Year Of The Cat』(76年)や『Time Passages』(78年)を生み出す下地となったアルバム、と位置付けられる。物語歌の巧みさはさすがで、バディ・ホリーの死や、ロンドンに出てきてアレン・ギンズバーグの詩を読み始めた頃の心境、ジミ・ヘンドリックスやザ・ビートルズ『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の印象、そしてディランを追いかけ続けていた青年の迷える気持ちが歌われていく「Post World War Two Blues(戦後ブルーズ)」は必聴。
アージェント『Counterpoints』(1975年)
アージェントの通算7枚目にして最終作となった『Counterpoints』は、このバンドにプログレッシヴ・ロック的な要素を求めるファンにとって、最高のご馳走と言えるだろう。ソングライティングとヴォーカルの両方で貢献していたラス・バラードがバンドを去り、ジョン・ヴェリティ(ギター、ヴォーカル)とジョン・グリマルディ(ギター、ジャケットのアートワークも担当)が加入した前作『Circus』(75年)から、ロッド・アージェント(キーボード、ボーカル)の個性がいよいよ前面に。ドラマーのロバート・ヘンリットが体調を崩していたため、助っ人としてジェネシスのフィル・コリンズがいくつかの曲でプレイした本作は、ジャズ/フュージョンへの傾倒が顕著になり、マハヴィシュヌ・オーケストラを想起させるヘヴィな曲も多い。その一方で、いかにもロッド・アージェントらしい旋律が聴ける「Butterfly」や「Road Back Home」では、後期ゾンビーズから続くポップセンスを確認できる。共同プロデューサーとしてトニー・ヴィスコンティも参加、この路線でとことんやり切った『Counterpoints』の魅力が再発見されるのは、これからかもしれない。
★そのほかの日本初CD化タイトルもチェック
タジ・マハール『Music Keeps Me Together』(1975年)
ブルース・ミュージシャンのタジ・マハールが、前作『Mo' Roots』に続きレゲエをはじめとするカリブ音楽の影響を積極的に取り入れた75年作。ボブ・マーリー率いるウェイラーズの一員だったアール・リンドがキーボードで参加し、表題曲の作曲も担当。一方で、チャック・ベリーやバハマのギタリスト、ジョセフ・スペンスの楽曲に自由な解釈を施したカバー曲も含むなど、多彩な音楽的背景を持つ楽曲で構成された意欲作。
ブラッド・スウェット&ティアーズ『Mirror Image』(1974年)
ジェリー・フィッシャーをリード・シンガーに迎え再スタートを切っていたブラス・ロックの雄、BS&Tが、生粋のジャズマン、ロン・マクルーアと元エドガー・ウィンターズ・ホワイト・トラッシュのジェリー・ラクロアをラインナップに加え、ジャズ/ソウル路線に舵を切った異色作。スティーヴィー・ワンダー、スモーキー・ロビンソンらとの仕事で知られるヘンリー・コズビーがプロデュース。
※ニール・セダカ『Solitaire』(1972年)は近日発売予定
発掘!洋楽隠れ名盤 Hidden Gems in 70s
[全40タイトル]
定価¥1,430(税込)/新規ライナーノーツ付き
*歌詞・対訳は付きません。あらかじめご了承ください。
特設ページ:https://www.sonymusic.co.jp/PR/kakuremeiban/info/577911
Hidden Gems in 70s 第2弾 試聴プレイリスト
https://sonymusicjapan.lnk.to/KM2SamplerLP
70年代前半のボウイ”周辺”を語る会
日時:2026年1月24日(土)13:30開場/14:00スタート(15:30頃終了)
会場:西荻窪「3313アナログ天国」(東京都杉並区西荻北4-30-4)
入場料:1,000円(1ドリンク込み)当日現金払い
予約:https://peatix.com/event/4725774
「発掘!洋楽隠れ名盤」シリーズ第2弾では、デヴィッド・ボウイが関わった70年代前半の作品を複数取り上げている。ボウイはこの時期、『ハンキー・ドリー』(1971年)や『ジギー・スターダスト』(1972年)など名作を次々に発表する一方、ルー・リードの『トランスフォーマー』(1972年)をプロデュース。さらに、イギー・ポップ率いるザ・ストゥージズやモット・ザ・フープルのサポートも行うなど、八面六臂の活躍を見せた。今回のトークイベントでは、ボウイのグラム・ロック時代を支えた名ギタリスト、ミック・ロンソンをはじめとする”ボウイ周辺”のアーティスト/作品を実際に聴きながら、当時のロック・シーンを深掘りしていく。
ゲストスピーカーは、「発掘!洋楽隠れ名盤」シリーズでライナーノーツを執筆、ボウイ関連の著述でも知られる音楽評論家の大鷹俊一氏。聞き手は、ボウイがソニーミュージック移籍後『ヒーザン』から、2004年の最後の来日公演、ラストアルバム『★』まで関わってきたソニー・ミュージックの白木哲也氏。当日は、同時代に製造されたALTEC社のホーン型スピーカー「A7」を使用し、レコード/CDの音を楽しめるリスニング環境も用意される。


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