2017年の結成以降、「オルタナティブ・K-POPバンド」を掲げ、総勢11名のメンバーによる個性的なクリエイティブを軸に活動を行ってきたBalming Tiger。音楽のみならずフィルム・ディレクターやA&Rをバンドメンバーとして招き入れ、ポストパンクやヒップホップなど肉体的なサウンドを野生的に咀嚼してきた彼らは、現在隆盛を極める韓国ポップカルチャーの最先端として常に最高峰の評価を得てきた。BTSのRMが彼らのセンスに共感し、お互いの作品にそれぞれ参加するなど、K-POPの王道を歩む才人からもBalming Tigerは羨望の眼差しを向けられている。
さらにグラストンベリーやレディングなどの大型フェスティバルにも出演するなど、Balming Tigerの名前は韓国を飛び出し、世界規模のプロジェクトへと発展。特にここ日本では新しい学校のリーダーズとのコラボや、NHKドラマ10『東京サラダボウル』の主題歌である「Wash Away」の提供、さらに直近では細野晴臣「熱帯夜」のカバーをリリースするなど深い関係を築いている。大雨の中のパフォーマンスとして話題になった昨年のフジロックのステージを記憶している方も多いだろう。
2023年の初スタジオアルバム『January Never Dies』から3年。メンバーのOmega SapienやMudd the studentをはじめ、各々のソロ活動も活発化する中で『Gongbu』の制作は進められた。本作は、「一つになる」という名目の元に制作が進められ、絶え間ないコミュニケーションと相互理解の末に生まれたのだという。そんな彼らの道のりを端的に表したのが『Gongbu』という単語だった。つまり、一朝一夕では得られない信頼関係が形成されるまでのプロセスを、Balming Tigerは一枚の作品に落とし込んだのだ。
以下に続くインタビューでは、統括的ポジションからメンバーを束ねるクリエイティブ・ディレクター/プロデューサーのSan Yawn、パフォーマーの中で唯一の女性メンバーであるボーカリストのsogumm、さらにParannoulやAsian Glowといった韓国インディーの重要プレイヤーとも関わりの深いMudd the student、メンバーの中でも特に日本のカルチャーへの関心が強いbj wnjnというふたりのソングライターを交えた4人に話を訊いた。終わることのない旅を楽しむBalming Tiger、その原動力を探る。
収録曲「Keep On」MV。長年のパートナーである映像監督・Pennackyが手がけた作品。映像は夢の中をさまようOmega Sapienの体験を中心に構成され、メンバーたちが次々と登場しながら、人間の無意識が果てしなく広がり混ざり合っていく過程を描き出している
「勉強」と「平和」、他者への想像力
―アルバムの完成、おめでとうございます!
一同:拍手
―作品について伺う前に、昨年のフジロックについて聞かせてください。新しい学校のリーダーズとのコラボや突然の豪雨などの事件もあり、現在もBalming TigerのYouTubeチャンネルにアーカイブされているということから、チームにとっても大変満足のいくステージだったのではないかと。
San Yawn:確かに、観に来た人からの評判は最高でした。
sogumm:帰国した後に、韓国の友達が「フジロックのライブ中に雨が降るのって本当に凄いことなんだよ」って教えてくれたんです。YouTubeのコメント欄でも日本のファンの方々が「神が来た」とか「奇跡が起きた」みたいな反応を送ってくれて(笑)。そのコメントのおかげで、あのライブ中の激しさをようやく実感できたような気がしました。
San Yawn:しかも「Wash Away」を歌っている最中だったんだよね。
sogumm:そうそう! 個人的にフジロックは物凄く特別で、あの時は狂おしいほど胸がいっぱいだったんです。
―フジロックのステージに立った時には、既に今作の構想はあったのでしょうか?
Mudd the student:フジロックは去年の夏だから……もう作ってたよね?
San Yawn:そう。春には制作を始めていて、フジロックの時はとにかくデモを作っていました。なのでフジロックから貰ったエネルギーとインスピレーションは、知らず知らずのうちにアルバムに溶け込んでいるはずです。
―『Gongbu』というタイトルもフジロックの頃には決まっていたのでしょうか?
sogumm:いや、そこはアルバムを作り終えてからしばらく悩んで……というのも、どういうメッセージを伝えたいかは確実に分かっていたのですが、一つの単語に決められなかったんですよね。キャッチーかつ独特で、自分たちのアイデンティティを言い表せられる単語。そして──これは個人的な願望として──大げさに聞こえるけど、Balming Tigerが使うことによってカッコよく映える単語。そんなのを探していたんです、例えば「達人(달인 / Darin)」とか「カンフー(쿵푸 / Kungpu)」みたいな(笑)。それでSan兄さんにも相談してね、覚えてる?
San Yawn:そうそう、あったね。
sogumm:それで「アルバムに入っている『Gongbu』というのはどう?」って提案してくれたんです。
―タイトルトラックでOmega SapienはDuolingo(語学アプリ)をネームドロップしていますよね。
sogumm:元々はDuolingoが曲のタイトルだったんだよね?
Mudd the student:そう、デモの時点ではDuolingoだった。
―言語の壁を超えることも勉強(Gongbu)の一種ですよね。みなさんは「勉強」について、どのように考えていますか?
San Yawn:僕らは何かを理解しようと努力するプロセスや意欲が既に勉強の一つだと捉えているんです。その上で、Omegaは知識を得る行為としての勉強について「Gongbu」で歌っていますが、sogummは自分と違う人々を理解するために勉強すると解釈している。このズレこそがBalming Tigerの面白いポイントなんです。一つのテーマについて歌っていても、色んな「勉強」が同じ曲の中に存在しているんです。
sogumm:以前、私は平和について深く考えていたんです。友だちに「平和を信じてる? 永遠の平和ってあると思う?」って聞いて回ったんですよ。そうしたら、一人も「永遠の平和はある」と信じていないと分かったんです。「信じたいけど来ないと思う」みたいな答えばかりで、それで心が痛くなって……。
そこで「そもそも平和って何なんだろう?」と思って、私は「平和の勉強」にハマったんです。ちょうどその時にあったデモ・トラックのタイトルが「Duolingo」でした。平和について勉強すれば世界のことをもっと知れるし、愛についてちゃんと人に伝えられるはず。そう考えたところから歌詞を書いていきました。
―素晴らしいアイデアですね……。翻訳アプリやAIが台頭する今、Duolingoを使って言語を学んでいる時間って誰かのことを考えてる時間でもあると思うんです。つまり勉強というのは思慮深さによって支えられているプロセスなのではないかと。
sogumm:そうなんです。結局、言語や平和について学ぼうとすることも、全ては好奇心によって始まるものだと思うんです。そして、その好奇心は他者への想像力から生まれるものでもある。
―以前からBalming Tigerは韓国語と英語を使い分けていましたし、今作では「Espero」でスペイン語も歌われています。
bj wnjn:そう、あれはSan兄さんのアイデアだったはず。
San Yawn:「Espero」はスペイン語が合いそうだと直感的に思ったんですよね。制作を行う上で、僕らは限界を置かないようにしています。だから音楽に限らず、展示をすることもあるし、ダンスを踊ることもある。言語についても同じです。僕たちが韓国語しかできないからといって、韓国語だけの歌詞である必要はない。スペイン語が似合いそうであればスペイン語を使えばいい。それに、色々な言語を一つの曲で使うこと自体は、韓国の昔ながらのポピュラー音楽だったり、日本や欧米のポップスでも行われてきましたよね。僕らがリファレンスとした作品がそうである限り、言語が一つに限定されないのは自然なことなのではないかと。
Photo by Hong Chanhee
―では、むしろ「韓国らしさ」を意識した点はありますか?
bj wnjn:これはsogummにピッタリの質問かもね。
sogumm:うん、そうかも。アジア的なサウンドにフォーカスするのはもちろん、韓国人としてのキャラクターを鋭く表現したかったんですよね。『Gongbu』では、その歴史を理解した上で使いたいと思ったので、古い文献──特に女性の時調(韓国の伝統的な定型詩)──を調べましたし、実際に博物館へ行ってインスピレーションを得たりもしました。例えば「마뎅야에호(Madengyaeho)」は、稲作の最中に歌われていた朝鮮時代の労働歌を参考にしたんですよね。そういうふうに、実際に自分が生まれた土地とその中で受け継がれてきた言葉を現代的に解釈することを意識したんです。
bj wnjn:確かに、「마뎅야에호(Madengyaeho)」のサウンドはアルバムを象徴しているかも。
―なるほど。「마뎅야에호(Madengyaeho)」について検索しても全くヒットしなかったんですよね、それは古い労働歌で使われていた言葉だったからと。
sogumm:そう、簡単には見つからないはず。そういう点でも、『Gongbu』はこれまでのBalming Tigerの作品と全然違うんです。というのも、前作は即興的というか、「これ作りたい」とか「え、いいじゃん」みたいな直感から作品を作っていったんですよね。ただ『Gongbu』においては、メンバーが本当にたくさんの「勉強」をしたんです。スペインの友だちに連絡してスペイン語を教えてもらったり、昔の詩を勉強したり……このアルバムは私たち個人をそれぞれ大きく成長させてくれたんです。出来ることなら、この成長を続けられるためのアルバムを今後も作っていきたい。wnjn兄さんの歌詞とか最高だったんですよ、私が今ここでインタビューしたいくらい(笑)。
bj wnjn:うーん、僕は「希望」について歌っていた気がします。というか、今振り返ると『Gongbu』は「希望に溢れた自分たちのための労働歌」というニュアンスが強いと思うんです。奇妙なことに、今回はみんなで一緒に合唱するパートが多いんですよ。サウンドにその特色が表現されているんじゃないかな。
チームが「一つになる」ことの相互作用
―『Gongbu』ではバンドサウンドがフィーチャーされていますね。どのような点を意識してアルバムの音を作っていったのでしょうか?
San Yawn:メンバーそれぞれの個性が強く、年齢を重ねるにつれて各々の趣味や嗜好がハッキリしてきた中で、アルバムを作るにあたっては「個性を際立たせる」というより「一つになる」という目標を掲げたんです。それぞれがバラバラの音を出すのではなく、どうすれば本当に一つにまとまれるのかを考えていく中で、まずキャラクターを作って世界観を構築し、その視点を通して見た世界を想像しながら曲を作っていきました。これもBalming Tigerにとっては初めての試みです、なので統一感のある作品になったのだと思います。
Mudd the student:そう、「一つになる」ということが大きかった。とりあえずアイデアを出し切って、その後でどうにかまとめよう……前まではそんな方法で作っていたんですよね。今回は最初から自分たちの目線を揃えて、各々の共通点をアルバムの軸として設定し、そこから枝分かれしていくことを考えたんです。これまでの作品と比べても段違いに会話したんじゃないかな。
―その「共通点」とはなんですか?
Mudd the student:「韓国的な美学を活かそう」というキーワードです。例えばコリアン・サイケデリックの父と呼ばれるシン・ジュンヒョン(Shin Joong Hyun)を参照したりして、自分たちにとって未知の領域であっても美学によって探求していくことを重要視しました。おかげでお互いの理解が深まったというか、信頼を高めることができたんです。
―これを機に、『Gongbu』を通してBalming Tigerがみなさんにとってどのような意味を持った場所になったのか、それぞれ伺ってもいいですか?
sogumm:『Gongbu』で私たちは内側から自由になったと思うんです。例えばウィソク(Omega Sapien)がラップではなく歌のパートを担ったり、自分も「마뎅야에호(Madengyaeho)」みたいな曲を構想して、それまであった役割の境界がどんどん曖昧になっていった感覚があるんです。振り返ってみると、アルバムを作る前に「それぞれのメンバーが主体的になろう」ということを話していたんですよね。まるで一人ひとりが自分のソロアルバムを作るくらいの意識で深く関わり、結果的に一人でカバーする領域が広がって誰かと重なり合うようになった結果、「一つになる」という目標を達成できたんだと思います。
bj wnjn:前までは「まぁこのチームが良いって言うなら大丈夫でしょ」って流してしまうことも多かったんですけど、今回はお互いを理解するためにコミュニケーションを積極的に取りました。例えば「メンバーには良く聴こえているけど、自分にはイマイチ理解できないな」と思った時には立ち止まるようにしたんですよね。その結果、sogummが言っていたように、各々のソロアルバムを作る時のような主体性を手に入れることができた。例えばヒップホップ調のトラックが一つあった時、前までは「Omegaの次に誰かラップしなきゃ!」って考えて、自分がラップを担当していたりしていたんです(笑)。でも今は自由に考えることができている。そういう意味で、今のBalming Tigerは最高の状態だと思うんです。
San Yawn:そう。同時に、僕らはチームメイトではあるけど、一番距離の近いミュージシャンでもあって、「この人に聴かせても恥ずかしくない音楽を作りたい」っていう野心を抱かせてくれるんですよね。それはソロ活動にも影響していて、各々の行動の中にもBalming Tigerが溶け込んでいるのがよく分かるんです。お互いの人生に多くの部分で影響を与えているというのが感じられます。
―なるほど。
Mudd the student:別の見方をすると、自分たちは本当に違うタイプの人たちだと思うんです。音楽の好みもバラバラだし、正直「僕ら同じチームで合ってるのかな?」と考えるくらい違う。だからこそ、一つになった時にお互いをスペシャルなものとして尊重できるんです。そうだよね?
San Yawn:すみません、討論みたいになってますね(笑)。でも、これもみんなで集まらないと出来ないことなんです。例えば、Muddがソロで極端なことを出来るのはBalming Tigerっていう「中心」があるからだよね? それもBalming Tigerによる影響だと思うんだけど。
Mudd the student:えぇ、確かに。
San Yawn:僕もMuddという極端な存在のおかげで、自分のキャラクターを見つけることについて自覚的になれるんです。sogummもOmegaもそうです。つまり、みんなで集まって影響を与え合うことで、それぞれの個性がさらに浮き彫りになる。その結果がまた個人に反映され、それもまたチームも成長する。その相互作用が働いているんじゃないかと。
sogumm:そう。San兄さんの執拗なまでにディテールを追求する才能にも感動しますし、考えれば考えるほどメンバーに恵まれてるなって。『Gongbu』を通して、各々の役割が曖昧になったのと同時に、本当にその人にしか出来ない役割については前よりも責任感が増したと思っているんですよね。だからこそ……次のアルバムが本当に楽しみなんです。思えば、これまでの私たちは力を完全に出し切れていなかった。現実的なことばっかり考えて、力を出すための「練習」だけをしていた。アニメの修行パートみたいなもので、Balming Tigerというチームはまだレベル1とか2くらいにしか到達していないんじゃないかな。
―おぉ。
bj wnjn:マジか(笑)。
sogumm:私たちが40歳とか50歳になったら、もっともっとクレイジーな音楽を作れるはず。そのためには、音楽的なスキルを深めるんじゃなくて、人間として成熟する必要があると思うんです。チームの中で喧嘩したり、仲直りしたりして、お互いを思いやりながら目標を達成する方法さえ掴めれば、良い作品は自ずと生まれる。私はそう信じています。
―そのプロセスは『Gongbu』のコンセプトとも繋がっているのではないかと。今日はありがとうございました、次に会う時までにDuolingoで韓国語を勉強しておきます!
一同:(笑)
San Yawn:ぜひぜひ!
Photo by Hong Chanhee
Balming Tiger
『Gongbu』
配信中
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