(18)「退職」「退官」
「ご退官後は何をなさいますか?」近ごろこんなふうに聞かれることが多い。今秋で満70歳、年度末には定年により退職する。
「本当のところは?」ですか。困りましたね。本当のところは、「さてどう過ごしたものか」と、思案しているところですから。
ところで、先にも書いたとおり、現在の私は「教官」ではない。したがって定年によって職を退くことになっても、「退職」であって、「退官」ということにはならない。
「退職」というありふれたことばよりも「退官」の方が聞こえがよさそうだから、こちらを使ってくれたのだろうが、「官」嫌いの私はどうも落ち着かない。
(19)「退休」
もっと落ち着かないのは、「ご退休後は……」である。「退休」は文字どおりには「退き休む」だから、「退職」や「退官」ほどあからさまでなくて、響きとしてはよい。
漢語としては珍しい語でもないが、日本語ではあまり使わないのか手元の国語辞典には載っていない。
漢語としての使い方は特に定義があるわけではないが、使用例は大役人が官を退くような場合に多い。
「○○教授退休記念」などと称して門下生が論文集を編んで恩師に献呈する習慣が一部にあるようだが、贈られる側がよほどの大先生でないかぎり、「退休」はそぐわない。
(20)「離休」
「退休」は、中国語としてはごく普通に使われる。正確な定義はよくわからないが、やはり個人経営や私企業に勤める人が退職するような場合に使われることは少なく、公務員などについていうことが多いようだ。
「退休」に似た語にもう一つ「離休」という語があって、ちょっと紛らわしい。
「離休」は中華人民共和国建国以前に革命に参加した幹部、つまり革命功労者が一定年齢に達して職を退くことをいうのだという説明を聞いたことがある。退職金や年金、その他でさまざまな優遇措置がとられているそうだ。
『現代漢語詞典』を見ると「一定の資格と経歴を有し、定められた条件を満たした老年幹部が……」とある。今は「建国以前」に限らず、高級役人が引退することを指して使っているのであろう。官僚のお手盛りの優遇措置のように感じられなくもないが、そう感じるのはお手盛りが常態化している国に私が暮らしているからであろうか。
(21)「定年」「停年」
先の「準」と「准」も紛らわしかったが、「定年」と「停年」も区別がよくわからない。「定められた年齢」ということで「定年」でよさそうだが(事実、近ごろはこちらの方がよく使われているようだが)、時に「私は停年で勤めを辞めた」などという表記を目にするし、辞書にも併記されている。
ちなみに中国の公務員等の退職定年は男子が60歳、女子が55歳である。弱者保護の観点からの定めなのだそうだが、「今どき?」という気がしなくもない。(執筆者:上野惠司)
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