法制日報は24日付で、社会に「千奇百怪」な文字づかいが氾濫(はんらん)していると憂慮する記事を発表した。中国新聞社など他の中国メディアも同記事を転載した。


 中国は1949年の建国して比較的早い時期から、「文字の普及」などを国家の重要事業と定めた。そのため、規範に合致しない文字や用語は改善を強制できるという「国家通用語言文字法(国家通用言語文字法)」も制定した。

 しかしこのところ「漢字の誤用が増えている」との指摘が目立つようになった。法制日報の記事も、「文字の乱れ」を憂慮する内容だ。

 記事は、公共の場所や公式文書でも誤字が目立つと指摘。「失語症」ならぬ「失写症」と風刺した(中国語の「写」は「筆記」の意)。

 天津市内の「五大道歴史文化街区」の表示を調べたところ、近代史上重要な人物である中華民国北洋政府の顧維鈞首相の旧居は、「顧維釣故居」と書かれていた。ラスト・エンペラーである溥儀を紫禁城から退去させた「鹿鍾麟」将軍の名は「陸忠麟」となっていた。どちらも発音は「ルー・ヂョンリン」だが、全く別の文字だ。

 公的な場所や文章だけでなく、商業関連ではさらに誤字が多い。飲食店のメニューではチャーハン(炒飯)を“抄飯”と書いている場合がある。

 広告に至っては、印象を強めようと、薬品の広告で「刻不容緩(猶予のない症状」を「咳不容緩」、家電製品の広告で「賢妻良母(シェンチー・リャンムー)」を「閑妻良母」などと、発音が同様の別の文字を使って書く場合も多い。


 中国では識字率を高めるために画数を減らした「簡体字」が定められ、簡体字以外の“漢字”の使用は法律で禁止されている。ただし、文化財にある文字や姓名の異体字、書道や篆刻、揮毫などの展示物などでは伝統的な文字の使用が求められている。

 中国大陸で画数の多い伝統的な文字は「繁体字」と呼ばれるが、この繁体字についての「誤字」が極めて多いという。2013年夏に山東師範大学の修士課程を卒業した陳偉氏は2009年から山東省語言文字改革委員会に加わって公共の場の表示に使われている文字の問題研究してきたが、調査した表示8211点において838文字の誤字があった。うち繁体字の間違いは704文字で、全体の84.31%だったという。

 北京師範大学の王寧教授は「通用規範漢字表」の制定チームに加わった経験があるが、中央政府・公安部(国家警察)の協力を得て、同部が所管する公的身分証の文字を確認したところ、「使ってはならない基準外の漢字」が総計で8000文字以上存在したという。

 身分証については「記入の間違い」の問題も発生しており、身分証が必要となる結婚、不動産購入、入学試験受験などで障害が出る場合がある。

 陳偉氏によると、「漢字の乱れ」の背景には文字に対する「いい加減体質」がある。例えば企業名には「正規の簡体字」を使うことが法律で定められているが、登記を受け付ける行政部門がチェックをしない。担当者に事情を尋ねたところ、文字については「なんでもかまわないよ。べつに大した規則ではない」と説明したという。

 陳氏は、言語についての仕事はもとづくべき規則が必要であり、「規則がある以上、かならず従わせる。
規則違反は必ず追及する。行政の具体的担当部門が実施する」など、手順を定めることが必要と主張した。

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◆解説◆

 中華人民共和国は1952年、伝統的な漢字を簡略化した「簡体字(ヂエンティーヅー)」づくりに着手し、56年に発表した。その後もしばしば、新たな簡体字を発表した。ただし、77年に発表した大胆に簡略化された文字は「読みにくい」、「見苦しい」との批判が噴出して、撤回された。

 台湾や香港、澳門(マカオ)では伝統的な画数の多い漢字が用いられている。中国大陸では伝統的な漢字を「繁体字(ファンティーヅー)」と呼んでいるが、台湾では「正字(ヂェンヅー)」とされている。

 中国大陸では1980年代ごろ、香港や台湾からの外来文化に対する評価から、「簡体字よりも繁体字の方が新しくて進んでいる」とのイメージも発生した。

 シンガポールでは1969年から「簡体字」が用いられている。当初は中華人民共和国と完全に同一ではなかったが、1976年から同一の文字を使うことになった。

 中国の周辺国で、日本は漢字をもとにした「ひらがな・カタカナ」を作り出した。漢字の読み方も「音訓」を併用するなどで、自国語を表記できるようにした。


 韓国(朝鮮)では1446年、世宗の指示による「訓民正音」が公布された。いわゆる「ハングル」だ。ただし本来は「漢文の読み書きができない庶民のため」との位置づけで、中国的教養が必須だった上流階級は反発し、ハングルを用いなかった。

 ハングルについて、「韓国人の独自の発明」との主張があるが、元朝が公式文書でモンゴル語を表記するために定めたパクパ文字(パスパ文字)を参考にしたとの説が有力だ。

 また、韓国人は「ハングルを使えば、世界のすべての言語の発音を表記できる」と主張する場合があるが、この主張にはあまり意味がない。韓国語には発音が多いため、日本の「かな」などと比較すればハングルで表すことができる発音は相当に多いが、韓国語にない他発音の場合「近い音を表記できるので、完全に表記できた」と思い込んでいるにすぎない。

 モンゴル民族はウイグル文字をもとにしたモンゴル文字を作った。ただし、アラビア文字系統のウイグル文字は右から左への横書きだが、モンゴル文字はたて書きで左から右へと行を進める。モンゴル西部の部族は自らの方言をさらに正確に表記できるトド文字(トドルホイ文字)を作った。モンゴル文字は中国領内の内モンゴル自治区などで用いられるが、モンゴル国ではキリル文字(ロシア文字)を使うようになった。

 チベット民族はサンスクリット文字に基づくチベット文字を作った。雲南省に住むナシ族は象形文字であるトンパ文字を作った。
その他、東アジア地域では西夏文字などが作られたが、使用されなくなった。満洲民族(マンジ)はモンゴル文字を土台に満洲文字を作ったが、話者そのものがほとんどいなくなってしまった。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)
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