遼寧省瀋陽市内で29日、操業を停止して10カ月が経過した化学工場が爆発した。保管していた金属ナトリウム200キログラムと雨漏りした水が反応した。
金属ナトリウムは水に触れると大量の熱と水素ガスを放出する。現場に到着した消防隊は燃え盛る工場への放水を開始した。遼瀋一線などが報じた。

 金属ナトリウムは空気中の水分とも反応して水素ガスを発生させる。そのため、密封容器に入れて灯油や液状の鉱物油に浸して保管する。使われていない工場建物に置いてあったとしても、通常なら雨水に触れるとは考えにくい。

 工場周辺住民のひとりによると、「ドーン!」という巨大な音があたりを揺るがした。29日午後1時ごろで、たまたま中庭にいた。思わず音のした方向を見た。特徴的な黄色に強く輝く炎の塊が、天を目指して昇って行った。輝きが薄らぐと、白っぽい煙になった。

 また「ドーン!」と音がした。
同様に強烈に輝く炎の塊が出現して、昇って行った。「7、8回は爆発しました」という。爆発音の合間に、消防車のサイレン音がかすかに聞こえてきた。次第に近づいた。何台もの消防車が道の左右に停車した。消防士が飛び降りた。消火活動の準備を急ぐ。現場周辺はさらに騒然となった。

 工場の建物は猛烈な炎に包まれていた。現場近くは白い煙に包まれた。ホースを抱えた消防士が前進した。危険を承知で、燃え盛る建物に近づき、片膝を地面についた。
高圧放水がもたらす後方への反動に備えるためだ。放水を開始。一瞬の後、強烈な爆発が発生した。最前部で放水していた消防士が、爆風でなぎたおされた。顔などにやけどを負っていたので、ただちに後送された。

 消防はその後、砂や砂利を使って出火現場を「埋める」方法に切り替えた。空気との遮断が奏功して、午後3時50分ごろまでに鎮火することに成功した。

 消防関係者は消防士の負傷について、「火を制圧するのに通常は、水が最も効果的という印象がありますから、火災に遭遇すると習慣的に放水で鎮火しようとしてしまうのです」と説明した。周辺住民からは、負傷した消防士について「大変な仕事だ。早く回復してほしい」などの声が出ている。

 工場は操業停止で閉鎖されていたため建物内に人はいなかった。同爆発で、病院で治療を受けることになった消防士以外にけが人は出なかった。


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◆解説◆
 日常生活で接触の機会のある「ナトリウム」は、塩素と結合した塩化ナトリウム(=食塩)や、脂肪酸と結合させた脂肪酸塩(石鹸の一般的な主成分)などで、極めて安定した物質だ。爆発などの危険を心配する必要はない。その他、薬剤などで注意を必要とする物質もあるが、商品説明などに従って扱う限り、格段の危険性はない。

 一方、単体(他の物質と結合していない物質)である金属ナトリウムは水と極めて激しく反応する。生成物は水素ガスと水酸化ナトリウムだ。高熱が発生するために、発生した水素が周囲の空気中の酸素と反応して爆発する危険性が極めて高い。爆発を起こした工場に保管されていた金属ナトリウム200キログラムがすべて水と反応した場合、水素ガスが約97立方メートル発生することになる。

 日本の家庭の場合、地域や季節などにより違いはあるが、1カ月当り都市ガスを30-40立方メートル程度使用すると考えてよい。水素ガスが燃焼した際の発熱量は、都市ガスの3倍に近い。つまり、水素ガス約97立方メートルが爆発すれば、家庭1世帯が9カ月かけて使い切る都市ガスの燃焼エネルギーを一気に放出することになる。

 金属ナトリウムと水との反応性の強さを利用して、化学実験の際には針金状にしたなどの金属ナトリウムを「微量に含まれている水分も除去したい」目的で、薬品に入れる場合がある。反応終了後、金属ナトリウムを取り出して析出した水酸化ナトリウムをろ過すれば水分を完全に除去できたことになる。


 古い話だが東京都内の某理科系大学の実験室で、上記目的で使用した後の金属ナトリウム片を教授が、水滴が多く残る実験台脇の流し台に「捨てた」ことがある。「バン!」という猛烈な音がして白煙が噴出した。爆発は発生しなかったが、急激に発生した熱で陶器製のぶ厚い流し台が「真っぷたつ」に割れた。白煙の立ち込める実験室で、教授は茫然としていた。専門家にしては実に珍しいミスだが、居合わせた者は金属ナトリウムの“威力”に改めて目を見張った。同事故で死傷者は出なかったという。(編集担当:如月隼人)(写真は遼瀋一線の上記記事掲載頁のキャプチャー)


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