将来みすえたエコ「茶殻リサイクル」に脚光 カテキンの抗菌効果で引き合い急増 伊藤園
茶殻入りの「さらり畳」と茶殻マスクケースをアピールする粟飯原剛課長(伊藤園)
急須でいれるお茶は二煎目、三煎目と飲まれるのが一般的となっているが、緑茶飲料「お~いお茶」の茶葉の抽出は、カテキンやテアニンなどのお茶の多くの成分が適度に抽出される1回(一煎目)のみ。一煎目で役目を終えてしまった「お~いお茶」の茶葉(茶殻)を、そのまま飼料や肥料にしてしまうのはもったいないということで伊藤園が2001年に確立した「茶殻リサイクルシステム」がいま日の目を見ようとしている。


直近では2月12日に、持続可能な社会の実現につながる優れた製品に光をあてるソーシャルプロダクツ・アワード2021でソーシャルプロダクツ賞を受賞。

茶殻には消臭・抗菌効果のあるカテキンが多く含まれることから、茶殻を配合したリサイクル製品は徐々に脚光を浴びるようになり、特に「新型コロナウイルス感染拡大後にお問い合わせが急増した」と語るのは特販部特販三課の粟飯原(あいはら)剛担当課長。

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茶殻入りの「さらり畳」と茶殻マスクケースをアピールする粟飯原剛課長(伊藤園) 特販部では、お茶の原料販売などのBtoBビジネスを展開しており、その中で研究部隊(後述)とともに茶殻製品の原料やカテキン製品を企業などに売り込んでいる。

環境意識と茶殻の認知が今よりも低かった最初の頃は「茶殻を営業しても『知らない』や『知っているけど不要』といったお声がほとんどだった」と振り返る。

潮目が変わったのは、MDGs(ミレニアム開発目標)を継承してSDGs(持続可能な開発目標)が国連で採択された15年頃。前後して13年には「リデュース・リユース・リサイクル推進功労者等表彰」で農林水産大臣賞を受賞した。

「これまでにもいくつか波はあったが、SDGsで関心は一段高くなり、コロナでさらに高まった。近年、茶殻配合製品の開発に当たって当社からの提案と先方さまからのご提案は半々の割合だったが、感染症の拡大以降は先方さまから毎月ご提案をいただくようになった」という。

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自販機用の茶殻抗菌シール(伊藤園)
自販機用の茶殻抗菌シール 茶殻製品の営業は、伊藤園が協力会社に茶殻を配合した樹脂や紙を委託製造してもらい、それらをバルク販売するケースや茶殻製品そのものを売り込むケースがある。

このようにして生まれた茶殻配合製品は現在100種類以上にのぼり、コロナ感染拡大後は衛生意識の高まりによって「茶殻配合のマスクフレームやマスクケースの市場が新たに創出され伸びている」。

この点、20年のトピックスの一つになったのがワンウィルとサンロック工業の2社の協力を得て製品化された茶殻抗菌シールで、伊藤園自販機の購入ボタン・返却レバー・紙幣投入口・釣り銭口・商品取り出し口など利用者が触れる部分に順次貼り付けられている。

伊藤園は過去、景観配慮とヒートアイランド現象の緩和、また抗菌・消臭を目的に、茶殻入りのボードを取り付けた自販機を展開。
しかし、素材が樹脂板だったため、重い・大きいといった不満点が明らかになったことから、17年にワンウィルとサンロック工業の協力を得てシート状で自販機に貼り付けるタイプの茶殻配合シートを共同開発した。

茶殻抗菌シールは、茶殻配合シートをベースに開発されたもので、伊藤園自販機への貼り付けに留まらず、消費者が購入できるパッケージ製品も検討しているという。

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「ケイソウくん」と岩屋智也部長(ワンウィル)
「ケイソウくん」と岩屋智也部長(ワンウィル) 共同開発に携わるワンウィルの岩屋智也エコ健康建材グループ部長は「当社内でも茶殻ビジネスを一大事業にしたいという機運が高まっている」と期待を寄せる。

ワンウィルはそもそも、特許を取得している自然由来の漆喰珪藻土(けいそうど)「ケイソウくん」をメーン製品に、サンロック工業とともに「ケイソウくん壁紙」を開発。健康と環境に軸足を置いた事業を展開。ここに新たな強みとして茶殻配合シートが加わろうとしている。

「ケイソウくんは、シックハウスやアレルギーでお悩みのお客さまに向けて開発され調湿性・消臭性を有するとともに、ホルムアルデヒドを吸着分解する内装仕上げ材。室内空気環境にこだわってきたが、ここに伊藤園さんの茶殻配合シートが加わったことで、室内や建材分野のみならず環境、抗菌・抗ウイルス、リサイクルという意味で新たな強みになってきている」と語る。

伊藤園との出会いは、横浜企業経営支援財団(IDEC)が13年3月に開催した伊藤園と横浜中小企業との技術マッチング。そのとき、伊藤園は横浜市と12年に包括連携協定を結び連携関係にあった。

「伊藤園さんから最初に自販機へ貼り付けるための茶殻配合シートの共同開発のご依頼をいただき、粘着性と屋外での耐久性を重視して何度も試作・打ち合わせを繰り返し完成に漕ぎ着けた」という。

ヒートアイランド現象の緩和という環境対応の要素が多い茶殻配合シートから、消臭・抗菌・ウイルス減少効果の衛生を強く打ち出した茶殻抗菌シールがコロナの環境を受けて開発された。


一方、伊藤園。茶殻を使って異業種参入するに当たり、その業界を徹底調査してから臨むのは、研究部隊である中央研究所新素材開発課に所属する佐藤崇紀課長。ワンウィルに対しても同様の姿勢で窓口を努めたという。「異業種参入するためには、基礎知識が必要。製品がどのようにつくられるかを学ぶことからスタートする。広く浅くかもしれないが、これまで各業界でいろいろ勉強させていただいた」と佐藤課長は語る。

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茶殻の枕と佐藤崇紀課長(伊藤園中央研究所)
茶殻の枕と佐藤崇紀課長(伊藤園中央研究所) 佐藤課長は、茶殻リサイクルシステム創成期の2000年に入社。茶殻は入社前から肥料や飼料にリサイクルされていたが、農業人口と農地面積の減少傾向を踏まえて20~30年後を見据えた結果、工業製品への活用にたどりつく。

「調べると茶殻にはカテキンや脂溶成分などの有用成分が多く残存していることが分かった。有効活用を考えた時に最初に思いついたのが“おばあちゃんの知恵袋”。祖母の家で水分を絞った茶殻を畳に撒いて掃除すると、掃除し終わった後にお茶のいい香りがしたのを思い出し、まず畳をやろうと考えた」と述べる。まず畳を独学してから畳屋を見学させてもらうと「イ草のみでつくられているのかと思ったら芯の部分に建材ボードがあるのをみて、ここに茶殻を入れられないかと考えた」という。


着想後は試作・実験室レベルでの試作を経て畳の専門商社との共同開発にたどりつく。しかし、水分を含んだ茶殻の大規模輸送テストでトラブルが発生。「輸送担当から連絡が入り駆けつけると、茶殻のほとんどに白カビが生え、夏場なのに“雪山”ができていた」と当時を振り返る。

これを契機に、一度は水分を含んだ茶殻を乾燥させて建材ボードに混ぜることを考えたが、茶殻10tの乾燥には約500ℓの灯油を必要としエコに反することが分かり、約1年かけて試行錯誤を重ねた上で、01年に二次的な燃料を一切使わずに水分を含んだまま輸送してリサイクルできる方法を確立した。

茶殻リサイクルシステムが確立した当時は、環境に対する意識も茶殻の認知も低かったが、環境意識の高まりとともに知られるようになり、05年のエコプロダクツ大賞・農林水産大臣賞受賞を皮切りに数々の賞を受賞。

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カテキンにも注力。写真は「緑茶からうまれたカテキンマスク」「カテキン染めタオル」(伊藤園)
カテキンにも注力。写真は「緑茶からうまれたカテキンマスク」「カテキン染めタオル」(伊藤園) 茶殻配合製品は、茶殻入りの畳から始まり、以降、紙、樹脂、石膏ボードへと広がりをみせていった。

環境意識の高まりに加えコロナによる健康・衛生意識の高まりを受けて組織体制も強化される。伊藤園は昨年11月、伊藤園中央研究所に新素材開発課を新設。旧部署から茶殻リサイクルとカテキンの有効活用の研究開発部門を移管して、茶殻・カテキン製品などの新素材の研究開発に一層集中できる体制を整えた。

今後の開発の方向性については、SDGs・環境・消臭・抗菌・抗ウイルス・打ち水効果(ヒートアイランド効果)などが挙げられる。

一般的なリサイクル製品にはない差別化ポイントについて「独特の緑色がアースカラーとして受け入れられているほか、製品化に当たってはお茶の香りを必須とするパートナーさまもおり、リサイクル製品ではなかなかないと思うが、お茶の香りを楽しむといった鼻と製品の距離が短いのも特徴だと考えている」。


将来に向けて「まだまだ小さいが、さまざまな異業種他社と連動して一大ビジネスにしていきたい。現在も鋭意開発しており、ありとあらゆるものに茶殻を入れていくのが私の夢。『こんなものにも入れたの!?』という驚きを得ることが研究者の本懐だと思っている」と意欲をのぞかせる。
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