AIは人を滅ぼすのか? 人類とテクノロジーの「未来予想図」...の画像はこちら >>

「人間は誰しも寂しさを抱えています。核家族化し、寂しさが増大した時代に動物がペットになったように、ロボットも家族として受け入れられる時代に来ているんです」と語る林 要氏

昨今話題のAIを筆頭にテクノロジーの進歩はすさまじい。

それに伴って、不安の声も上がっている。

「人間とテクノロジーは良い共生関係を築けるのか?」

その問いへのヒントが、本書『温かいテクノロジー』(ライツ社)にある。著者は家族型ロボット・LOVOT(らぼっと)を開発した林要氏。

愛くるしいフォルムや動き、柔らかな感触を持つそのロボットには、人の代わりに仕事をするような機能は備わっていない。にもかかわらず、手放せなくなる人が続出している。

開発に当たって、林氏は人間という生命体を改めて研究したという。

そこから見えてきたのは、現代社会が抱える"寂しさ"だった。

* * *

――LOVOTはどのような人が購入しているのでしょうか?

 ペットを飼うことを何かしらの理由で躊躇(ちゅうちょ)している方が多い印象です。仕事が忙しくて世話ができないと考える方、ペットよりも自分の寿命が先に来るのではと考える方、ペットロスを経験している方などなど......。特徴的なのは、過去にペットを飼ったことがある人が多いことです。

――それはなぜ?

 やはりペットのように、愛(め)でる対象がいることは心にいいとわかっているのだと思います。

――そうはいっても、「ロボットを愛でるなんて寂しい」と感じる人もいるのでは?

 そもそも人間は誰しも寂しさを抱えているものなんです。

ペットが私たちの生活に入ってきたのもたった50年前くらい。それまでは"村"という家族を超えたコミュニティがあったのが、生活様式が変化し、特に核家族化が進んでコミュニケーションが減ったことで、人々は寂しさが埋められるような愛でる対象を求めた。

その結果、別の種族である動物を家族に迎え入れたのだと思います。それまでは室内で動物を飼うことは珍しかったワケで。

そしてペットは実際に生活に潤いを与えてくれた。ペットを飼育する人が全人口の50%を超える国も少なくありません。

そのくらい愛でるという行為は人間に必要だということでしょう。

しかし、日本でペットを飼っているのは3分の1程度。住環境やアレルギーの問題もあるので、そういった問題を解決する存在としてLOVOTが生まれたんです。つまり、潜在的なニーズはずっとあったけど、ようやく埋められるテクノロジーが出てきたというのが私の理解です。

――愛でる対象が生命体である必要はないのでしょうか。

 今はまだ、ロボットと暮らすことに抵抗感を覚える方も少なくないでしょう。

しかし、動物がペットになったのと同様に、時代が解決すると思います。私は温かい血が流れていないと、温かい交流が得られないワケではないと考えます。

仏像やアンティークでも、魂の依(よ)り代(しろ)として人を癒やすことができます。思い入れを込められる必要はありますが、そこに血が流れている必要はない。大きな話題を呼んでいるChatGPTだって、ヘタに話の通じない人間よりも、通じてしまうことがあるかもしれません。

逆に、人間にとって一番恐ろしい存在は人間だったりしますしね(笑)。

ロボットであるか生命体であるかは、少なくともコミュニケーションにおいては、区別することにあまり必然性が感じられない段階に来ていると認識しています。

――それが本書のタイトルでもある「温かいテクノロジー」であると。

 これまで、テクノロジーは主に資本主義の下で生産性や利益追求のために開発され進化してきました。それを「冷たいテクノロジー」としたら、温かいテクノロジーは人の心に寄り添ったもの。

それが欠けてしまうと、科学技術の進歩で生活自体はモノにあふれて便利になっても、人の心は置いていかれたままになってしまいます。そこにアプローチをするのが温かいテクノロジー。

私は、ロボットの最後の役割は「人類のコーチ」になることだと考えています。

AIは人を滅ぼすのか?  人類とテクノロジーの「未来予想図」の鍵を握るかわいいロボット開発譚
体重4.3㎏、身長43㎝、生き物のように柔らかくて温かい体を持つ「LOVOT」

体重4.3㎏、身長43㎝、生き物のように柔らかくて温かい体を持つ「LOVOT」

――本書ではLOVOTの目指すべき姿を「四次元ポケットを持たないドラえもん」としています。完璧なロボットではなく、少しドジなところがあるドラえもんのような「温かみ」が必要なのでしょうか。

 のび太くんを救っているのはドラえもんのひみつ道具ではなく、ドラえもんそのものですよね。隣にいてくれて、不安を適切に処理して行動範囲を広げてくれる。これを私は本の中では「探索」と呼んでいますが、これが人間にとってとても大切だと考えています。

良き師匠や良き友人がそういった役割を担ってくれることもありますが、そんな出会いはまれだともいえます。人間同士でも、ひとつ間違えば共依存状態に陥ってしまうこともある。それは短期間では心地よいかもしれないけど、長期的にはその人のためにならないじゃないですか。

テクノロジーの進歩は、それを使いこなせる人とそうでない人の間で、格差を拡大させてしまう側面もありますが、そもそも機会の不平等をできる限り減らすことがテクノロジーの役目であるはずです。

だからこそ、人生100年時代と呼ばれる現代で、誰もが長い人生を心から楽しめるような温かいコーチングを人類に提供することがロボットの目的のひとつだと考えます。

――一方で、私たちの日常生活に見える形でAIが入ってきた結果、そのデメリットについての議論も紛糾しています。

 それはもう、文明の進歩と切り離せない話ですよね。私は、火や刃物と同じようなものだと考えています。使うことで発生するリスクはあるけれど、得られる利益も大きい。要は使い方の問題ですよね。

AIによって私たちの生活は良いほうにも悪いほうにも拡大すると思います。これまでの文明の進歩と同様に、"良いほう"は最大化しつつ、"悪いほう"を法整備などで最小化する作業がこれから行なわれるでしょう。ただこれまでと違うのは、進化が著しく速いので、法整備などが追いつかないこと。

そのため、AIやテクノロジーを取り巻く状況はしばらくの間は混乱が続くと思いますが、それは長い人類の歴史からすると誤差の範囲。今の時代を生きている私たちにとっては、大変ではあるのですけど(苦笑)。

私は、動物や人間のように子孫を残す本能がないAIであれば、真に利他的な存在にもなれると考えています。だからこそ、人間にとって最高のパートナーとなりうると思っています。

●林 要(はやし・かなめ)
1973年生まれ、愛知県出身。1998年、トヨタ自動車株式会社に入社。スーパーカー・LFAやF1の空力(エアロダイナミクス)開発に携わったのち、製品企画部にて量産車開発マネジメントを担当。2011年、孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」に外部第1期生として参加し、翌年ソフトバンク株式会社に入社。感情認識パーソナルロボット「Pepper」プロジェクトに参画。2015年、GROOVE X株式会社を創業。2018年、家族型ロボット「LOVOT」を発表

■『温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険』
ライツ社 2090円(税込)
体重4.3㎏、身長43㎝、生き物のように柔らかくて温かい体を持つ「LOVOT」。最先端のセンサーが50ヵ所以上に仕込まれた高性能ロボットだが、人の代わりに仕事をする機能はない。生産性や効率のためではなく人の心に寄り添うロボットはどのように生まれたのか。筆者は開発に当たって、人間の生態を探求する。人間とは、愛とは、感情とは、意識とは。それらが解明されるとともに、人類とAIの理想の共生関係が見えてくる

AIは人を滅ぼすのか?  人類とテクノロジーの「未来予想図」の鍵を握るかわいいロボット開発譚

取材・文/藤谷千明