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シーズン開幕前は昇格候補の筆頭に挙げられていたグルージャだが、7節を終えて12位と苦戦。ここからの巻き返しはなるか

2014年のJ3誕生以来、岩手県唯一のJリーグチームだった「いわてグルージャ盛岡」が、今季はJFLでの戦いを強いられている。

22年にクラブ史上初のJ2昇格を果たすも、翌23年にJ3へ舞い戻ると、昨季は最下位(20位)に沈み、わずか3年で2カテゴリーの急降下。

JリーグクラブがJFLに降格したのは12年の町田ゼルビア以来(昨季J3・19位のY.S.C.C.横浜も入れ替え戦の末にJFLに降格)で、これはクラブにとってはJリーグからの退会、選手にとっては〝Jリーガー〟の肩書を失うことを意味している。

グルージャは22年10月からの2年間、元日本代表DF秋田 豊氏がクラブのオーナー兼代表取締役社長を務めてきた。

だが、JFLへの降格を機に19年秋から3年間、クラブのオーナー企業だった英会話教室の運営などで知られるNOVAホールディングスが株式譲渡を受ける形で経営権を再取得。同クラブで昨季限りで引退し、日本代表経験もある水野晃樹氏をGMに迎えてリスタート。オフには19人の選手が新たに加入した。

JFLでは働きながらサッカーをする選手も珍しくないが、グルージャでは基本的に全31選手がサッカーだけで生活できる環境を与えられ、1年でのJリーグ復帰を至上命令としている。

23年夏に加入した元日本代表DF西 大伍(37歳)のほか、開幕前には元日本代表MF小林祐希(33歳)、ヴィッセル神戸などでJ1経験のあるFW藤本憲明(35歳)らを加えるなど戦力はリーグ屈指。だが、4節で初黒星を喫するとそこから4連敗。7節を終えて2勝1分け4敗の12位と苦しい戦いが続いている。

JFL「いわてグルージャ盛岡」の今。"Jリーガーじゃない男たち"の覚悟と誇り
ケガで別メニュー調整を続ける弓削は5月中にも復帰予定

ケガで別メニュー調整を続ける弓削は5月中にも復帰予定

この現状を選手はどう受け止めているのだろうか。22年に日本体育大学から加入した在籍4年目のMF弓削 翼(25歳)は、こう話す。

「入団時はJ2だったのに今はJFLですから、もどかしさはあります。『プロサッカー選手ではあってもJリーガーではない』、正直そこは聞かないでって感じです(苦笑)。ただ試合に対する気持ちは変わらないし、頑張って1年でJリーグに戻るだけ」

弓削はJ2時代を知る数少ない選手でもある。降格を繰り返す中、環境や待遇の変化も目の当たりにしてきた。

「当たり前ですが、出場給や勝利給などはカテゴリーが下がれば減ります。移動は、例えば関東での試合の行きは新幹線ですが、帰りは7、8時間かけてバスになったり......。

試合前の宿泊もスタメン以外は2人部屋とか。それでもサッカーだけに集中させてもらっているのはありがたい。ただ、今季昇格を逃せばどうなるかわからないですよね」

弓削は昨季途中に右膝の手術を受けた影響で、今季はまだピッチに立っていない。ただ、ユース時代を過ごした浦和レッズの同期らの活躍にも刺激を受け、チームの昇格はもちろん、移籍という〝個人昇格〟も諦めていない。

「橋岡大樹(25歳、ルートン・タウン)は日本代表に入っているし、荻原拓也(25歳、浦和レッズ)は昨季、ディナモ・ザグレブで欧州チャンピオンズリーグでゴールを決めましたからね。今季、浦和に入った長倉幹樹(25歳)もユースの同期。

僕もいつか絶対に埼玉スタジアムでプレーしたいと思っています」

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試合後、ファンサービスする小林

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コンサドーレ札幌から加入した小林は、一時は引退も覚悟した中、新オーナーから直々に声をかけられたことで移籍を決意したと話す。

「オーナーから『このまま辞めるのはもったいない』と声をかけてもらい、そうだなって。代表で共にプレーした大伍くんや神戸で一緒だったノリくん(藤本)らとまたプレーできるのも楽しそうだと思ったし、残りのキャリアがどれだけあるかわからないけど、いい形で終われるならそのほうがいいじゃないですか」

小林は開幕こそケガで出遅れたが、4節以降徐々に攻撃の司令塔役として出場時間を増やしている。

「(勝ち星に恵まれていない中)環境や審判の判定などに不満がないわけではない。ただ、今季昇格できないようなら、後がない。人生かけてプレーするだけですよ」

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グルージャのホーム、いわぎんスタジアムの収容人数は約5000人。熱狂的なサポーターはいるが、ファンをどう増やすかも課題

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昨季からJリーグはJ3参入条件にホーム戦での平均観客動員数2000人以上という条項を加えており、昇格には成績上位(1位は自動昇格、2位はJ3との入れ替え戦)で終えるだけでなく観客動員数のクリアが求められる。

24年はホームでの平均観客数が1362人とJリーグ60チーム中59位だったグルージャにとって厳しいレギュレーションといってもいい。6節のアトレチコ鈴鹿戦で今季初めて2000人を超える観客を集めたものの、ここまではチームの成績同様、苦戦している。

「鈴鹿戦は、(結局欠場となったが)カズさん(三浦知良)の出場が噂されたことでなんとか今季最多の2252人の観客を集めることができました(苦笑)。ただ、本来なら集客を見込めるホーム開幕戦は雪がチラついたこともあり1214人と数字が伸びなくて......。これから暖かい季節になっていく中で、なんとか盛り返せればと思います」(チーム関係者)

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中村は「シンプルにもう一回Jリーガーになりたい」と話す

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鹿島アントラーズ時代にリーグ優勝やクラブW杯出場経験もある在籍4年目の中村充孝(34歳)は「優勝や昇格はカテゴリーに関係なく難しい」とし、こう続けた。

「JFLはグラウンドが悪かったり、不安を言ったらキリがない。でも、僕のようなベテランになると他クラブからオファーなんてないし、サッカーを続けるためにもJリーグに戻らないと」

チームがJFLへ降格した中、選手はそれぞれに葛藤を抱えながらも前を向き、モチベーションを保っている。

「やっぱり自分のプレーでスタンドが沸けばうれしいし、シンプルにサッカーが好きで楽しいんですよ」(中村)

スタートダッシュには失敗したが、グルージャのここからの巻き返しに期待したい。

取材・文・撮影/栗原正夫

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