リーグ優勝やAクラス入りを目指す球団、低迷からの脱却を狙う球団の補強ポイントに合致した"ポテンシャルが高い即戦力"を一挙紹介!

※成績は6月17日現在

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■球団によって選手層に差があるポジションとは?

プロ野球は今週末から再びセ・パのペナントレースへ。現在までの戦況を踏まえ、7月31日に期限を迎えるトレードをどのように有効活用するかも重要な視点となる。

「この時期にトレードが成立しやすいのは、優勝や上位進出を狙う球団が足りないピースを埋めようとするため。

また、下位に沈む球団が今後を見据えて、再建のため戦力を整備するケースも多いです」

こう話すのは現役投手を指導するピッチングデザイナーで、『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏だ。下位球団の再建という意味では、セ・リーグ5位の中日が交流戦真っただ中の6月15日、西武から佐藤龍世を金銭トレードで獲得して注目を集めた。

「シーズン中のトレードはリーグをまたぐ事例がほとんど。その点、交流戦は普段接点の少ないセ・パのフロント同士が球場で連絡先を交換し、会話ができるチャンス。すでに軽い打診をしている可能性はあるだけに、ここからさらにトレードが活発化しても不思議ではありません」

佐藤は、お股ニキ氏が以前から「トレードの可能性は高い」と語っていた選手だ。開幕前に寝坊によるペナルティで3軍降格になるなど、西武が持て余していた人材であり、得点数が12球団最下位と貧打に悩む中日との思惑が合致した格好だ。

「佐藤は寝坊や不祥事によって出番を与えられていなかっただけで、打撃とサード守備は注目に値する選手。離脱中の岡本和真の穴が埋まらない巨人、年齢的にそろそろ宮﨑敏郎の後継者が欲しいDeNA、村上宗隆の後釜が欲しいヤクルトなどとのトレードの可能性も感じていました。

その中で中日が真っ先に動いたと言えます。私は飛躍しきれない石川昂弥との交換トレードで互いに奮起を促すのはどうかと考えていましたが、金銭での移籍に落ち着いた形です」

では、佐藤に続いてトレードの可能性がありそうな選手は誰なのか? 

「各球団の現状を踏まえた補強戦略的な分析」「出場機会さえあれば他球団で活躍できそうな選手」、さらには「全盛期から実力は落ちてきているものの、別の環境や使い方次第では輝けるベテラン」といった視点から、お股ニキ氏に魅力あふれる選手たちの名を挙げていただこう。

トレードの肝は、選手層の厚いポジションから余剰戦力を放出し、選手層の薄いポジションを補強すること。球団によって選手層に差があるポジションといえば捕手だが、ここ数年、捕手経験者を積極的に補強した日本ハムはその宝庫と言える。

各球団の補強ポイントを徹底分析! プロ野球・夏のトレード予想...の画像はこちら >>

アリエル・マルティネス(日本ハム/捕手) 中日退団後、2022年オフに加入。2年連続でオールスターゲームに出場する実力者だ

「近年の日本ハムはアリエル・マルティネスや郡司裕也、吉田賢吾らを次々と獲得した上に、若手の田宮裕涼や進藤勇也らも育ってきている。出場機会が減った選手たちをうまく活用することで、手薄な中継ぎ陣を補強できるチャンスです」

実際、数年前まで正捕手を争っていた清水優心や梅林優貴が今季は1軍未出場。さらに、マルティネスも代打やDHでの出場ばかりだ。

「清水はポテンシャルを生かせず、大事な場面でのボーンヘッドもあって出番が激減。梅林はフレーミングをはじめ、捕手としてのレベルは高いものの、打撃に課題がある。

マルティネスは今季、野村佑希の台頭でDHや一塁での起用も激減しています。ただ、3人とも実績はあるので、もしトレード市場に出せば、相応の中継ぎ投手を獲得できるはず。

例えば、根尾昂(中日)とのトレードであれば話題性も十分です。新庄剛志監督ならば、二刀流再挑戦で矢澤宏太と競わせる展開も考えるかもしれない。中日としても捕手は手薄で、双方の補強ポイントに合致します」

各球団の補強ポイントを徹底分析! プロ野球・夏のトレード予想「くすぶっている逸材」は誰だ!?
大城卓三(巨人/捕手) 今季は甲斐のFA加入で出番減。DH起用も可能なパ・リーグのほうが活躍の幅は広がるか

大城卓三(巨人/捕手) 今季は甲斐のFA加入で出番減。DH起用も可能なパ・リーグのほうが活躍の幅は広がるか

甲斐拓也の巨人移籍で大きく出番を減らしたのは大城卓三。

出場機会を得た試合でも打率1割台と低迷している。

「バランス型の岸田行倫、守備特化型の小林誠司との比較でいうと、大城が最もトレードに出しやすい。FA権を取得した直後の昨オフにも提言しましたが、大城なら捕手だけでなく、DHや一塁起用もできるので、パ・リーグのほうが活躍の幅は広がると思います」

各球団の補強ポイントを徹底分析! プロ野球・夏のトレード予想「くすぶっている逸材」は誰だ!?
伊藤 光(DeNA/捕手) 2018年にオリックスから加入。若手の台頭により、今季は開幕から2軍暮らしが続く

伊藤 光(DeNA/捕手) 2018年にオリックスから加入。若手の台頭により、今季は開幕から2軍暮らしが続く

知名度や実績はあるのに、今季まだ1軍未出場なのが伊藤 光(DeNA)だ。

「DeNAは来年のWBCメンバー候補の山本祐大に加え、打撃も抜群にいい高卒3年目の松尾汐恩が台頭。そこにベテランの戸柱恭孝もいるわけで、伊藤の使いどころがない。捕手の手薄な楽天などはリーグも異なるので検討していいはず」

各球団の補強ポイントを徹底分析! プロ野球・夏のトレード予想「くすぶっている逸材」は誰だ!?
松川虎生(ロッテ/捕手) 高卒新人として佐々木朗希(現ドジャース)の完全試合達成をアシスト。出場機会をつかみたい

松川虎生(ロッテ/捕手) 高卒新人として佐々木朗希(現ドジャース)の完全試合達成をアシスト。出場機会をつかみたい

パ・リーグでは、佐々木朗希(現ドジャース)の飛躍を牽引した松川虎生(ロッテ)もまだ今季1軍出場がない。

「松川は打撃面が成長しないものの、守備力は球界トップクラス。例えば、坂本誠志郎、梅野隆太郎の次がなかなか育ってこない阪神で環境を変えてみるのはアリです」

阪神ファンの祖父から「虎生」と命名された縁もあり、地元関西でプレーすることで化ける可能性もありそうだ。

「ドラフト1位の松川はトレードに出しにくいという事情もあるでしょうが、阪神2位入団の井上広大とのドラフト上位同士によるトレードならどうか。日本人の大砲が育たないロッテとしては欲しい人材だと思います」

■シーズン途中でも中継ぎ再整備は可能

実は1年前の『週刊プレイボーイ』本誌トレード展望企画で、お股ニキ氏が「変化球、投球センスはいいものを持っている」と評し、移籍機会があれば飛躍しそうだと予言したひとりに、今季巨人で活躍する田中瑛斗(現役ドラフトで日本ハムから移籍)がいる。

このように投手の目利きに長けるお股ニキ氏は、今季ここまでの各球団の投手陣をどのように見ているのか?

「前述した日本ハム以外でも、救援陣の再整備が必要な球団は多いです。

パではオリックス、楽天、セでは巨人、DeNA、中日、ヤクルトのリリーフ陣は心もとない。

ただ、中継ぎはシーズン途中でもトレードや抜擢で再整備しやすいポジションです。近年はDeNAが獲得した投手を魔改造して中継ぎで復活させるケースも目立ちます」

名前の挙がった巨人といえば、「8回大勢、9回ライデル・マルティネス」のリレーが盤石だが、7回までの中継ぎ陣に課題が多いという。

「ただ、巨人の場合は投手がいないわけではないです。育成の菊地大稀は十分に1軍中継ぎレベルなのに使われない。

ほかにも山田龍聖や今村信貴、京本 眞、支配下に復帰したばかりの戸田懐生、手術からの復帰を目指す田中千晴ら、環境を変えてもっと出番を増やせば数字を残しそうな投手は多い。トレードせずとも、このメンバーの誰かが台頭するだけで、巨人の中継ぎ事情は改善する可能性があります」

広島にもポテンシャルはあるが出番の少ない投手がいる。

「大道温貴や松本竜也、遠藤淳志、滝田一希ら、能力の割になかなか出番を与えられない投手が多い。広島は捕手が手薄なので、捕手の選手層が厚い日本ハムとのトレードを検討するのがよさそうです。

広島出身の梅林が地元へ戻るという展開もあるかもしれません。チーム本塁打数が少ないことを考えれば、マルティネスは適任ですし、捕手ではないですが、今川優馬も選択肢に入ります」

パ・リーグ勢にも、活躍の場を得れば再び輝きそうな救援投手がいる。

各球団の補強ポイントを徹底分析! プロ野球・夏のトレード予想「くすぶっている逸材」は誰だ!?
本田仁海(オリックス/投手) 2022年には42試合に登板し、26年ぶりの日本一に大きく貢献。今季は1軍未登板

本田仁海(オリックス/投手) 2022年には42試合に登板し、26年ぶりの日本一に大きく貢献。
今季は1軍未登板

「オリックスは吉田輝星と宇田川優希がトミー・ジョン手術を受け、そもそも中継ぎの駒が少ない。にもかかわらず、昨季も安定した投球を見せた本田仁海が今季は1軍未出場。ストレートの球質に課題はあるものの、球の強度はあって変化球もひと通り投げられる。

ほかにもロッテの東妻勇輔、ソフトバンクの田浦文丸、楽天の津留﨑大成や弓削隼人、小孫竜二らは環境を整えてどうなるか見たい投手です」

一方、先発陣にテコ入れが必要なのは、開幕の出遅れから巻き返しを狙うソフトバンク。お股ニキ氏は、同じく先発の立て直しが急務ながらも出番がない投手を多く抱えるパ・リーグ最下位のロッテに注目する。

「石川 歩、美馬 学、二木康太、岩下大輝、河村説人ら、実績のある先発投手が今季1軍未登板。起用法次第でまだまだ活躍できそうです」

セ・リーグ最下位のヤクルトでは、ふたりの先発投手に注目する。ひとりは2年目右腕の松本健吾だ。

「昨季、『プロ初登板で2桁奪三振&無四球完封勝利』を史上初めて達成。2年目なのでトレードはないでしょうが、今季は1軍で出番なし。菅野智之(オリオールズ)を連想させるいい投手です」

もうひとりはプロ12年目、34歳の高梨裕稔だ。

「高梨は先日、国内FA権を取得。

勝ち星には恵まれないものの、ローテの一角として奮闘しています。MLBではFA有資格者を流出前にトレード要員として放出する考え方が一般的ですが、日本でもそのような事例が出てきていいのではないでしょうか」

さらに、お股ニキ氏は「MLB志向の強い投手のトレード移籍があってもいい」と提言する。

「西武はAクラスを狙えるので流出させないでしょうが、髙橋光成や平良海馬は近い将来、ポスティング移籍が考えられるだけに、MLB的にトレード要員とする手もあります。同じく西武の松本航は過去に2桁勝利を挙げた実績があり、野手の層がまだ物足りない西武としてはその交換要員としても考えられます」

前例は少ないが、外国人選手のトレードの可能性は?

「昨季59試合登板のハビー・ゲラ(阪神)は今季、1軍登板がほとんどありません。阪神は控え野手が手薄なだけに、野手が豊富な日本ハムとの交換トレードは検討の余地がありそうです」

■悩めるベテランも復活の契機に!

各球団の補強ポイントを徹底分析! プロ野球・夏のトレード予想「くすぶっている逸材」は誰だ!?
松本 剛(日本ハム/外野手) 新庄体制1年目に抜擢され、自身初の首位打者も獲得。今季は開幕から低調な打撃が続く

松本 剛(日本ハム/外野手) 新庄体制1年目に抜擢され、自身初の首位打者も獲得。今季は開幕から低調な打撃が続く

野手でお股ニキ氏がまず名前を挙げたのは、日本ハムの松本 剛。3年前に首位打者を獲得した男が今季は打率1割台と低迷している。

「いい場面で起用されてもチャンスを生かしきれず、センターの守備も含めて脚力の低下を感じます。ただ、ネームバリュー的には相当な選手とのトレードが見込める存在です。

放出される可能性が低いことは承知しつつ、日本ハムが本気で優勝を狙うなら、最後のピースを獲得するためにこれくらいの大ナタを振るう手はあります。

外野の選手層が厳しい巨人は先ほど挙げたように中継ぎを務められる投手も多いため、大型トレードが実現する可能性も大いにあります」

日本ハムでは出番が少ない淺間大基や中島卓也らベテラン勢の動向にも注目する。

「内野のバックアップが手薄なDeNAはかつて大和を阪神から獲得したイメージで、ユーティリティの中島を欲しいはず。

外野手なら淺間のほか、先ほども名前を出した今川もトレード要員として考えられます。それほど日本ハムの野手の層は厚いです」

移籍した選手が他球団で活躍するケースが多いソフトバンクには、まだまだ注目の若手野手がいる。

「24歳の石塚綜一郎、22歳の井上朋也は共にポテンシャルのある右打者。水谷 瞬や吉田(共に現役ドラフトでソフトバンクから日本ハムに移籍)のようにチャンスを得れば、活躍しそうなにおいがあります」

ヤクルトからは入団7年目の外野手、濱田太貴を挙げる。

「代打起用が中心で結果を出せていませんが、持っているものは悪くないです」

各球団の補強ポイントを徹底分析! プロ野球・夏のトレード予想「くすぶっている逸材」は誰だ!?
安田尚憲(ロッテ/内野手) 昨季は開幕直後に患った腰痛の影響で本塁打ゼロ。今季もまだ柵越えなしだが、復活できるか

安田尚憲(ロッテ/内野手) 昨季は開幕直後に患った腰痛の影響で本塁打ゼロ。今季もまだ柵越えなしだが、復活できるか

大砲候補では鵜飼航丞(中日)や渡部健人(西武)らの名前も挙がる中、安田尚憲、山口航輝のロッテ勢にも奮起を期待する。

「ロッテはチーム打率、得点数がリーグ最下位。打力向上は急務ですが、逆に言えば安田や山口ら長年期待されてきた長距離砲をうまく使いこなせていないということ。山口は岡本不在の巨人にハマる人材だと思います」

今回挙げた選手たちは、何かきっかけがあれば飛躍しそうなメンバーばかり。トレードの有無にかかわらず、後半戦の動向をチェックしたい。

文/オグマナオト 写真/時事通信社

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