今季から鹿島の指揮を執る鬼木監督(中央)。川崎を4度のリーグ優勝に導いた手腕で、常勝軍団の復活を目指す
全節で行なわれるJ1リーグだが、今季は26節を終えた段階で首位から7位までが勝ち点4差の中でひしめき合う、近年まれに見る大混戦模様となっている。
試合ごとに順位が目まぐるしく入れ替わる状況はしばらく続きそうだが、今後も優勝争いを繰り広げるとみられているのは、2連覇中の王者ヴィッセル神戸をはじめ、京都サンガFC、鹿島アントラーズ、柏レイソル、FC町田ゼルビア、サンフレッチェ広島、浦和レッズの7チームだ。
ここまで上位がだんご状態になった要因のひとつは、開幕前から負傷者が続出した神戸が出遅れたことにある。また、本来は上位にいてもおかしくない横浜F・マリノス、名古屋グランパス、あるいはFC東京が、ここまで予想に反して下位に低迷していることも、混戦の要因と言える。
逆に、これまで残留争いの常連だった京都が第26節時点で首位に立ち、クラブ史上初めてJ1に参入したファジアーノ岡山が10位に食い込むなど、下馬評を覆したチームの活躍も目立っている。
ファンにとっては実にスリリングなシーズンとなっているが、今後の最大の注目ポイントは、最終節まで続きそうな優勝争いの行方だ。果たして、上位7チームの中で神戸の3連覇を阻むチームは現れるのか。今回は、その可能性が高いとみられる3チームに注目したい。
「打倒・神戸」の筆頭は、2016年を最後にリーグタイトルから遠ざかっている〝常勝軍団〟の鹿島だろう。
今季の鹿島は、クラブのOBで、昨季まで川崎フロンターレを指揮していた鬼木 達監督を招聘。強い鹿島を復活させるべく、川崎を17年から21年までの5年間で4度のリーグ優勝に導くなど、優勝の味をよく知る指揮官にすべてを託した。
川崎時代の鬼木監督は、前任者の風間八宏氏(現南葛SC監督兼テクニカルダイレクター)が構築した超攻撃的サッカーをそのままに、守備を強化したことで黄金時代を築いたが、鹿島では現実路線のチームづくりを推進。堅守をベースとしたスタイルで、序盤から優勝争いを演じている。
加えて、昨季にリーグ21得点を記録したストライカーのレオ・セアラをセレッソ大阪から獲得すると、その期待に応えて開幕からゴールを量産。26節終了時点でリーグトップの14得点を記録するなど、課題の得点力不足も解消された。
そして、シーズン中の6月にはDFラインに小川諒也(←シント=トロイデン)と千田海人(←ヴェルディ)を獲得し、8月にも22年の横浜FM優勝の原動力となったエウベルを補強。優勝争いをしながらも、今後を見据えた戦力強化も怠っていない。
後半36分のゴールで1-0で勝利した第25節のFC東京戦に象徴されるように、調子が悪い試合でもワンチャンスをものにする試合も増えてきたことを考えると、〝強い鹿島〟は確実に戻りつつある。これまで2度の3連敗を喫している点は気になるが、鹿島が有力な優勝候補であることは間違いなさそうだ。
初めてJ1に昇格した昨季に旋風を巻き起こし、3位となった町田も注目すべき優勝候補のひとつだ。
就任3年目を迎えた黒田 剛監督は、昨季まで積み上げた強度の高い守備を継続させつつ、今季は攻撃面ではボールの保持を意識した新しいスタイルを目指した。
その影響により、戦術が浸透するまでに時間がかかったことと、開幕から負傷者が多かったこともあって、スタートダッシュに失敗。ところが、6月に入ると昨季までの堅守が復活し、第20節から怒濤の7連勝を継続。とりわけ第22節からは無失点試合が続いており、本来の姿をすっかり取り戻した印象だ。
資金力のある町田は、相馬勇紀、中山雄太、谷 晃生ら日本代表選手のほか、韓国代表ストライカーのオ・セフンら豊富なタレントを擁する。
そこに、今季は西村拓真(←横浜FM)、前 寛之(←福岡)、岡村大八(←札幌)ら即戦力が加わり、8月にはガンバ大阪からMFネタ・ラヴィも獲得。2チーム分の戦力が整っており、優勝を目指すに十分な陣容となっている。
9月から初挑戦のACLE(アジアチャンピオンズリーグエリート)が始まるので過密日程が不安材料ではあるが、それでも「打倒・神戸」にふさわしいチームと言えるだろう。
もうひとつ、優勝争いを占う意味で注目に値するチームが、昨季まで2季連続で残留争いに巻き込まれた柏だ。
今季の柏は、かつて徳島をJ1昇格に、浦和でも天皇杯優勝やACL決勝進出に導くなど、Jリーグでの実績が豊富なスペイン人リカルド・ロドリゲス新監督が就任。
すると、指揮官の代名詞とも言えるボールを支配する攻撃的サッカーで開幕から快進撃を見せ、ここまで26試合を戦ってリーグ最少の5敗しか喫しておらず、戦前の予想を覆して優勝争いに加わっている。
堅守とハードワークをベースとするほかの多くのチームと違い、柏は珍しくボール保持にこだわった攻撃サッカーを実践。
その結果、ボール支配率では頭ひとつ抜けた59.4%を記録、2位アルビレックス新潟の53.9%を大きく上回る数字を残し、1試合平均パス数でもリーグトップの609.8本をマーク。目指すサッカーが如実にスタッツにも表れている。
しかも、シーズン序盤に目立っていたシュートの決定率の低さも改善され、試合を重ねるごとに複数得点を記録する試合も増加。鹿島と町田に並ぶ失点数でも、リーグ3番目の少なさを誇っている。つまり、攻撃的に戦いながらも、しっかり攻守のバランスが保たれているのだ。
この状態が続けば、11年以来2度目となるリーグ優勝も決して夢ではないはず。見て楽しいサッカーを実践しているということも含め、後半戦の柏は必見だ。
取材・文/中山 淳 写真/アフロ