"夏場の勝率7割5分超"のソフトバンクに日本ハムは食らいつけ...の画像はこちら >>

(左)4月終了時の最下位は29年ぶりだったソフトバンク・小久保監督。驚異的な巻き返しで首位に躍り出た。
(右)就任4年目で悲願のリーグ優勝、日本一を目指す日本ハム・新庄監督。9月に首位を再奪取できるか

新庄体制4年目の今季、パ・リーグのペナントレースを引っ張ってきた日本ハムか――。一時最下位に沈むも、5月以降は驚異的なペースで白星を重ねるソフトバンクか――。勝負の1ヵ月を前に徹底展望する!

※成績は 8月19日時点

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■前半戦のパを盛り上げた日本ハム

プロ野球ペナントレースも残すところ約1ヵ月。パの2強、ソフトバンクと日本ハムの争いも大詰めを迎える。

「両チームとも戦力はリーグトップクラスですが、日本ハムは一発攻勢ができる長打力と盤石な先発陣が魅力。一方のソフトバンクは総合力でリードしている状況です」

こう語るのは、現役投手を指導するピッチングデザイナーで、『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏だ。4月4日から一度も首位を譲ることなくソフトバンクが優勝した昨季と違い、今季は日本ハムがペナントレースを引っ張ってきた。ここまでの両チームの戦いぶりを深掘りしていこう。

「前半戦のパを盛り上げたのは日本ハムです。4月までは勝率5割をやや上回るペースだったものの、5~7月は毎月きっちり14勝8敗の勝率.636ペースで勝利を重ねました。この間、チーム防御率は1点台後半~2点台半ばを維持し、打線に関しては7月に月間チーム打率.280と最高潮に達しました」

特に投手陣の成長が目覚ましく、チーム防御率は昨季の2.94から2点台前半に改善。完投数は20試合を超え、パ他球団の4倍以上だ。

"夏場の勝率7割5分超"のソフトバンクに日本ハムは食らいつけるのか!? パ・リーグ2強レース徹底展望
ここまで12勝、145.2イニング登板、146奪三振といずれもリーグトップの日本ハム・伊藤

ここまで12勝、145.2イニング登板、146奪三振といずれもリーグトップの日本ハム・伊藤

「チーム全体で物足りなかった球速が伸び、スプリットをはじめとした変化球も良くなった。エースの伊藤大海、北山亘基や達 孝太、技巧派の加藤貴之と山﨑福也などバランスもいい。彼らを軸にしつつ、中10日間隔で若手投手にも積極的にチャンスを与えています」

一方の打線は、本塁打王争いでトップを走るフランミル・レイエスを筆頭にパンチ力のある打者が増えた。

「今季は新庄剛志監督体制4年目。就任後に郡司裕也、アリエル・マルティネス、吉田賢吾ら捕手の強打者を次々に獲得しました。彼らと清宮幸太郎、野村佑希らを競争させ、あらゆるポジションや打順を任せることにより、選手層が厚くなりました」

"夏場の勝率7割5分超"のソフトバンクに日本ハムは食らいつけるのか!? パ・リーグ2強レース徹底展望
破壊力満点の打棒でリーグトップの23本塁打、69打点を記録する日本ハム・レイエス

破壊力満点の打棒でリーグトップの23本塁打、69打点を記録する日本ハム・レイエス

だが、好調だった7月までとは一転、8月に入って失速。投手陣は防御率2点台前半と踏ん張るものの、月間チーム打率は.230まで急落した。

お股ニキ氏は前半戦から日本ハムの戦いぶりについて、「もったいない取りこぼしが多い」と指摘していたが、夏場に入ってその傾向が顕著になってきたという。

「完投能力を高めたのは素晴らしいこと。ただ、完投を意識するあまり、9回で逆転された試合もあります」

野手陣も、分厚くなった選手層をうまく生かし切れていないケースが多いという。

「せっかく多様な選手がいるのに、『今日は守備型、今日は一発型』とメンバーを決め打ちしすぎ。守備固めが早すぎて裏目に出たこともあります。

また、本当に怖い打者はレイエスくらいで、そのレイエスも足が遅いため、併殺を狙われやすく、出塁しても各駅停車。新庄監督は意外と知名度のあるベテランを重用する傾向もあり、もっと勝負に徹する野球を目指してもいいと思います」

そこには、新庄監督の「ファンが求める野球」へのこだわりが透けて見えるという。

「先発完投へのこだわりもそうですし、今季序盤は犠打をしない打線も話題になりました。ただ、犠打をしないことが目的になったら本末転倒。チーム本塁打数はソフトバンクより20本以上多いのに得点数では負けていることからも、どちらのチームが勝利に徹する野球ができているかは明らかです」

■最下位から大逆襲! 勝利に徹する鷹

一方、今季のソフトバンクといえば、開幕直後の絶不調が印象的だ。3、4月は9勝15敗2分けで勝率.375。12年ぶりの単独最下位も経験した。

ところが、5月以降は勝率7割超と勝ちまくり、7月には引き分けを挟んで9連勝を飾って今季初の首位に。以降も順調に白星を重ねているが、4月までとそれ以降で具体的に何が変わったのか?

「4月は単純に戦力がそろっていなかった。近藤健介、柳田悠岐、栗原陵矢ら故障者が続出。投手陣も抑えのロベルト・オスナが絶不調でした」

この低空飛行を抜け出す起爆剤となったのが、柳町 達や野村 勇ら、能力は高いのになかなかチャンスを得られなかった選手たちの奮闘だ。

"夏場の勝率7割5分超"のソフトバンクに日本ハムは食らいつけるのか!? パ・リーグ2強レース徹底展望
交流戦では12球団トップの打率、出塁率をマークしてMVPに輝いたソフトバンク・柳町

交流戦では12球団トップの打率、出塁率をマークしてMVPに輝いたソフトバンク・柳町

「柳町は一時首位打者に立つ活躍を見せ、交流戦ではMVPに。野村は4月にほとんど出番がなかったのに、その後の活躍ですでに2桁本塁打をマーク。

彼らを積極的に起用してから勝つようになりました。ソフトバンクから流出した選手が他球団で活躍しても、まだこれだけの人材がいる。資金力も含め、球団としての底力を感じます」

先発投手陣ではリバン・モイネロ、有原航平、大関友久の3本柱が安定感抜群で、早くも全員2桁勝利に到達した。

"夏場の勝率7割5分超"のソフトバンクに日本ハムは食らいつけるのか!? パ・リーグ2強レース徹底展望
リーグトップの防御率1.13、勝率.833、16QSを記録するソフトバンク・モイネロ。抜群の安定感を誇る

リーグトップの防御率1.13、勝率.833、16QSを記録するソフトバンク・モイネロ。抜群の安定感を誇る

「さらに、上沢直之も悪くはないし、私が『先発でいい』とずっと提言していた松本晴もここにきてローテ投手らしく、球の強度だけでなく守備などの課題を克服しています。さらに、大津亮介の状態も上がってきた。カーター・スチュワート・ジュニアの不在を感じさせない、十分なラインナップです」

日本ハムにはないソフトバンクの強みといえば、強力なブルペン陣だ。

「中継ぎは藤井皓哉、松本裕樹、杉山一樹の〝樹木トリオ〟が鉄壁のピッチング。3人ともスピードとフォークが桁違いで、松本裕はスライダーもいい。6回までリードしていれば勝ったも同然です」

そして、7月8日以降は近藤がスタメンに復帰。さらなる勢いを生んでいる。

「近藤は8月の月間OPSが圧巻の1.286。

チーム打率も8月は.280の勢いで他チームを圧倒しており、〝夏場〟の7、8月の勝率が.750超えと勢いは止まりません」

そんなソフトバンク打線の好調ぶりを支えるのは、今季から1軍で本格導入した打撃練習マシン「トラジェクトアーク」の存在だ。

「昨季も2軍でテスト運用していたようですが、1軍でも試合を重ねるごとに使い方がわかってきたのでしょう。試合前に対戦投手をシミュレーションできるので、試合序盤からすでに数打席経験したような状態で臨めます」

このトラジェクトアークを有効活用できた試合が7月の日本ハム戦だったという。

「左腕の山﨑を想定した練習で、育成出身の左打者である山本恵大の内容が良く、スタメンに抜擢。試合でも活躍しました。昨季まで『左投手には右打者』という起用が多かったソフトバンクの小久保裕紀監督ですが、今季はずいぶん柔軟性のある起用をしているのが印象的です」

こうした最新機器の充実ぶりだけでなく、ソフトバンクは「野球の基本」がしっかりしているという。

「守備は12球団随一の鉄壁ぶり。外野からの送球でのカットマンの入り方など細かい動きも的確で、ホームでぎりぎりアウトになるかならないか、といったシーンも多い。ソフトバンクを見ていると『微差は大差を生む』という言葉を実感します」

■明暗を分けた〝捕手の差〟

この2球団の因縁は昨季までさかのぼる。ペナントレースはソフトバンクが独走優勝だったとはいえ、直接対決では12勝12敗1分けとまったくの互角。しかも、シーズン終盤にはソフトバンクの本拠地、みずほPayPayドーム福岡で日本ハムが4連勝を飾ったのだ。

しかし、今季は8月段階で日本ハムが負け越し。昨季より戦力的に厚みを増したはずなのになぜなのか?

お股ニキ氏は、その要因のひとつに、今季からソフトバンクの主戦捕手を務める海野隆司の存在を挙げる。

"夏場の勝率7割5分超"のソフトバンクに日本ハムは食らいつけるのか!? パ・リーグ2強レース徹底展望
今季は主戦捕手として活躍するソフトバンク・海野。盤石の投手陣を巧みにリードする

今季は主戦捕手として活躍するソフトバンク・海野。盤石の投手陣を巧みにリードする

「昨季の日本ハムの勝ちパターンは、ここぞという場面での本塁打攻勢でした。海野はその反省を生かし、例えばレイエスに対しては四球になってもいいからフォークを徹底して投げさせるなど、一発を打たせないリードができている。

日本ハムとしては、昨季まで主戦捕手を務めた甲斐拓也(現巨人)のリードを研究し尽くしていたものの、海野のリードはまだ解析し切れていないのでしょう」

開幕当初は〝甲斐の穴〟を不安視されがちだったのが一転、海野がその穴を埋めて余りある成長を見せている。

「甲斐より海野のほうが配球やフレーミングはいいです。球界全体で見ても、坂本誠志郎(阪神)や若月健矢(オリックス)と遜色のないレベル。開幕当初、ブロッキングや打撃面は少し頼りない印象があったものの、徐々に経験を積んで改善してきました。

逆に日本ハムは交流戦明けから主戦捕手を務める田宮裕涼の配球がまだ物足りない。〝捕手の差〟が両チームの差になっているとも言えます」

"夏場の勝率7割5分超"のソフトバンクに日本ハムは食らいつけるのか!? パ・リーグ2強レース徹底展望
2年連続開幕マスクの日本ハム・田宮。5月に2軍降格も、徐々にバットの調子が上向きに

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このほかにも、今季は例年以上に勝負に徹するソフトバンクの姿が印象的だという。象徴的だったのは、8月9日からの日本ハムとの直接対決3連戦だ。

「ゲーム差1で首位に立っていたソフトバンクはローテを調整して有原、モイネロ、大関の先発3本柱をぶつけて3連勝。

ゲーム差を4まで広げました。ソフトバンクが日本ハムを倒すべき相手として認め、必要な策を講じたと言えます。

一方の日本ハムはローテどおりに臨み、モイネロに伊藤をぶつけて0-1の惜敗。伊藤はここまで12勝、145.2イニング登板、146奪三振といずれもリーグトップの好成績ですが、モイネロも球界を代表するスーパーエースなので、あえてそこにぶつけなくてもよかったのかもしれません」

■残り1ヵ月! 勝負の9月の行方

では、残り1ヵ月強のペナントレースをどう戦えばいいのか? 注目点はこの2チームの直接対決が9月はわずか3試合という点。しかも、飛び飛びで1試合ずつ行なわれる変則日程なのだ。

「対戦日が9日、18日、30日と飛び飛びであることを考えると、ソフトバンクはまたローテを再編して、モイネロをぶつけてくる可能性もあります。CS本拠地開催のためにも、是が非でも優勝したいでしょうからね」

対する日本ハムは、ローテどおりなのか、それとも変えてくるのか。ただ、9月の日本ハムにとっては、ソフトバンク戦以外も重要になるという。

「パ・リーグで唯一負け越しているソフトバンク戦があと3試合しかないことを好機ととらえ、ほかの4球団との試合でいかに勝利を重ねられるかでしょう。今季ここまで繰り返してきた『もったいない試合』はもう許されない状況と言えます」

一方、ソフトバンクが今季唯一負け越しているのが楽天だ。その苦手な楽天との試合を9月に6試合も残しているが、どうなりそうか?

「楽天の藤井 聖のように、ソフトバンク打線は球速が遅くとも、チェンジアップを駆使するような技巧派タイプが意外と苦手。楽天としても、オリックスとのAクラス入りをかけた負けられない状況なので、必死に向かってくる可能性が高い。まったく侮れない相手です」

あとはチームとしての勢いが出てくるか。短期決戦であるCSに向けて、重要な要素だろう。

「現状のモメンタム(勢い)は完全にソフトバンクですが、今がピークと考えると、今後その勢いが若干落ちる可能性はあります。対する日本ハムは8月にやや落とした勢いを9月に取り戻すことができれば、CSでは互角に戦える可能性も。

日本ハムもポテンシャルはあります。とはいえ、下克上精神で一発食らわせてやる、という意気込みでチーム全体が臨まないと、昨季のCSファイナルステージで3連敗を喫した状況と変わらないでしょう」

セ・リーグが阪神の独走で決まりそうなだけに、パ・リーグは最後までもつれる展開を期待したい。

文/オグマナオト 写真/時事通信社

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