8月に1軍復帰し、ブランクを感じさせない打棒でチームを引っ張る巨人・岡本
Aクラス入りをかけ、プライドがぶつかり合うシーズン最終盤の戦いを徹底解説!
※成績はすべて日本時間8月26日時点
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■ケガ人が復帰して上向きの竜と燕
阪神の優勝が刻一刻と近づくセ・リーグ。ここまでの独走を予想できた人は解説者でも少なかったはずだ。
「巨人としては、もし岡本和真の負傷離脱がなければ、もし戸郷翔征が本来の調子なら......と考えてしまうと思いますが、その『if』が実現していたとしても、阪神とは5ゲームほど差がついていたはず。
一方、2位以下のクライマックスシリーズ(CS)出場権争いは混沌としている。巨人とDeNAが2位を争い、その背中を広島と中日が追いかける状況だ。
「ここから2位の巨人がまず抜け出すでしょう」と予想する『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏。その最大の根拠と言えるのは〝4番〟岡本の復帰だ。
「やはり、岡本がいるといないとでは打線が大きく変わる。復帰後、打線の厚みはかなり増しています。そもそも今季の岡本は春先から調子が良く、キャリアハイを狙える状態だったわけで、今からどのレベルまで戻せるか。
あとは、疲労蓄積を考慮して登板を1回飛ばした山﨑伊織がここから先、シーズン最後まで持つかどうかが鍵を握ります」
一方、なかなか調子が上向かないのは3位のDeNA。やはり牧秀悟が左手の手術を受けて離脱した影響が大きい。
「ただでさえ、タイラー・オースティンの不在が響いていたところに、代えの利かない牧の離脱はあまりにも痛い。そもそもDeNAは守備や走塁などのディテールが甘く、これは長年積み重なったチームのカルチャーなので簡単には改善しません。
頼みの綱のアンソニー・ケイとアンドレ・ジャクソンも疲れが出てきたのか、前半戦のような相手を圧倒する投球ではなくなってきています」
後半戦の切り札と期待されていたアメリカ帰りの藤浪晋太郎はどうか?
「球の力自体はあるので、ボールが飛ばず、ストライクゾーンの広い日本ならば、ストライクが入りさえすれば勝負できる。
そのDeNAとAクラスをかけて争うのが4位の広島だ。
「昨年9月の大失速ほどではないですが、やはり暑い季節になると広島は厳しくなります。エースの森下暢仁が早くも14敗を喫するなど結果が出ず、チーム本塁打数リーグ最下位の打線も明らかに火力不足です」
DeNAと広島が打撃で苦しむのをよそに、打線の状態が上向いているのが5位の中日と6位のヤクルトだ。
「中日は細川成也が右太もも裏のケガから復帰して以降は状態が良く、7月の月間MVPを受賞するなど打線を牽引。その細川とクリーンナップを組む上林誠知とジェイソン・ボスラーを中心に、得点力は明らかに上がっています」
ヤクルトは7月末に本格復帰した村上宗隆の存在が大きい。出場わずか25試合で2桁本塁打に到達。2、3試合に1本ペースで量産中だ。
「村上だけでなく、長岡秀樹も3ヵ月ぶりに1軍復帰。山田哲人にも復調の兆しが見えます。本来、ヤクルト野手陣のポテンシャルはリーグ随一。さすがに5位と5ゲーム以上差がある最下位からCS争いに加わるのは厳しいでしょうが、他球団からすると今のヤクルトと試合をするのは嫌だと思います」
ヤクルトのAクラス入りはさすがに厳しくても、5位の中日が勢い的に3位に滑り込む可能性は十分にある。
「ルーキー捕手の石伊雄太はいいリードをしていますし、井上一樹監督の采配も悪くない。
CSに向けて、「対阪神」という意味でも、実は中日が台風の目になる可能性がある。セ・リーグ5球団で唯一、阪神に勝ち越しているのが中日なのだ。
「中日が3位に滑り込んだら、阪神は嫌でしょうね。甲子園で戦うとはいえ、中日とは当たりたくないのが本音ではないでしょうか。抑えの松山晋也もケガから復帰し、ここからさらに中日への注目は高まっていくと思います」
■優勝もCSもカギを握る楽天
一方のパ・リーグはソフトバンクと日本ハムの2強の優勝争いがさらに激しさを増している。8月の直接対決ではソフトバンクが本拠地のみずほPayPayドームで3連勝したかと思えば、日本ハムもホームのエスコンフィールドに迎え撃って3連勝。意地と意地のぶつかり合いが続く。
「日本ハムとソフトバンクの試合はレベルが高く、毎試合がMLBのプレーオフのようなヒリヒリする戦いで面白い。それと比べてしまうと、ほかの4球団はチーム力でかなり差があります」
一時は4ゲーム差までリードを広げたソフトバンクが一気に抜け出すかと思いきや、8月中旬まで続いた無双状態にいったん陰りが見えてきた。
「近藤健介は8月のOPSが一時1.1を超えるほど絶好調でしたが、打てば打つほど走塁の機会も増えて疲れてしまうもの。最近はDH専任ではなく、右翼の守備に就く機会も増え、さらに疲れがたまってしまったのかも。
この上位2チームと10ゲーム以上差をつけられた3位以下の争いはどうなるのか? 現状では3位オリックスが一歩リードする状況だ。

4月には月間打率4割超を記録し、現在も3割をキープするオリックス・太田
「オリックスはシーズン序盤ほどではないですが、打線がやはりいい。太田 椋と中川圭太は首位打者も狙える位置につけ、杉本裕太郎もここぞのパンチ力はまだある。
ただ、守備では派手な捕球を見せたり、好返球をしたりと華やかさのあるプレーが目立つものの、個々の守備範囲は決して広くない。投手力も含めたディフェンス面で評価すると3位という順位は妥当です」
オリックスの課題はチーム防御率リーグ5位の投手陣だ。
「23年オフに山本由伸が抜けたことに加えて、21~23年の3連覇の代償で中継ぎ陣に故障が多い。宮城大弥や九里亜蓮ら個人の資質でなんとか勝っている状況です。もし、投手陣がリーグ3連覇当時の水準を保っていたら優勝争いをしていたでしょうね」
そのオリックスを脅かす存在は現状のBクラス球団にいるのだろうか? 貧打に悩む5位の西武、そして最下位のロッテはゲーム差的にも正直厳しそうだ。
「西武はいくら今井達也、隅田知一郎の二枚看板がいいといっても勢いはずっと続かないし、リーグ最下位のチーム打率では勝てません。野手で台頭したのは新人の渡部聖弥と新外国人タイラー・ネビン、公私で精彩を欠く源田壮亮に代わって奮闘する滝澤夏央くらい。
同様にロッテも、山口航輝が4打席連発を放ってひとり気を吐いたくらいで、明るい話題が見当たらない。この2球団を見ると、野球はやはり毎日出場する野手が大事ということを痛感します」
そんな中、オリックスを追う1番手が4位の楽天だ。

シーズン序盤から好調を維持し、現在首位打者争いでリーグ2位の楽天・村林
「近年は先発陣がピリッとせず、投手陣の陣容はかなり厳しい。今季は実績のある早川隆久も2軍生活が続いており、抑えの則本昂大をここにきて先発転向させるほど苦しい台所事情です。
ただ、首位打者を争う村林一輝、私がドラフト時から注目していた2年目の中島大輔を筆頭に打線の調子は悪くないので、どれだけ効率良く得点を重ねられるかが重要です」
興味深いのは、この楽天とパの上位2球団、ソフトバンクと日本ハムとの相性が対照的であること。ソフトバンクが今季、唯一勝ち越せていないのが楽天であり、一方の日本ハムは最も貯金を稼いでいる〝お得意さま〟だ。
「日本ハム打線は楽天に多い球速の遅い軟投派を苦にせず本塁打を量産するのに対し、ソフトバンク打線は意外と遅い球に手を焼いている印象があります。ソフトバンクからすると、この苦手な楽天戦を9月にまだ6試合も残しているのがどう出るか。
一方、日本ハムはお得意さまの楽天戦があと2試合しかありませんが、ここで手堅く白星を重ねて勢いをつけたいところです」
9月の楽天がどんな戦いぶりを見せるかによって、優勝戦線にもCS戦線にも影響が出そうな気配だ。
「ソフトバンクと日本ハムが強いのは昨季からわかり切っていたのに、9月の一番盛り上がる時期に直接対決が少なすぎます。NPBにはもっと〝スケジュールの妙〟を考えてもらいたいもの。日本ハムとしては直接対決で叩く機会が少ないため、楽天にソフトバンクを倒してもらう必要があります」
残り1ヵ月のプロ野球ペナントレース。〝熱パ〟はまだまだ続きそうだ。
文/オグマナオト 写真/時事通信社