欧州サッカー日本人「移籍組」&「残留組」の近況は? 現在行なわれているアメリカ遠征、10月の南米強豪国との連戦の位置づけは? "史上最強"との呼び声も高いサッカー日本代表の現在地を徹底解説する。

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■「残留組」の決断は日本代表には朗報!

カナダ・アメリカ・メキシコの3ヵ国共催となるサッカー北中米W杯開幕まで9ヵ月。〝史上最強〟との呼び声も高い第2次森保体制の集大成となるこの大会で、日本代表はこれまで突破できなかった「ベスト8の壁」をこじ開けられるのか?

まずは、代表チームの大半を占める「海外組」の新シーズンの状況をおさらいしたい。

「今の日本代表の軸と言えるのは、久保建英(レアル・ソシエダ)、三笘 薫(ブライトン)、遠藤 航(リバプール)の3人。この3人が移籍を選ばず、所属チームに求められて残留したことは、日本代表にとってポジティブな要素です」

こう語るのは〝戦術分析官〟としてYouTubeで人気を博し、クラブチームの監督も務めるレオ・ザ・フットボール(以下、レオザ)氏だ。

同様に、森保ジャパンの取材を続けるスポーツライターのミムラユウスケ氏もこの3選手の「移籍しない決断」のプラス面を語る。

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昨季は5ゴール0アシストだった久保。今季は国内の戦いに集中し、キャリアハイを目指す

W杯イヤー開幕! 9ヵ月後に活躍する森保ジャパン戦士は誰だ!?
昨季は10ゴールを挙げ、日本人として初めてプレミアリーグで2桁ゴールを記録した三笘

昨季は10ゴールを挙げ、日本人として初めてプレミアリーグで2桁ゴールを記録した三笘

「久保と三笘に関しては勝手知ったる環境でプレーができ、W杯に向けて前向きな選択でしょう。今季は欧州カップ戦にも出場しないので、連戦による疲労も軽減でき、日々のトレーニングに打ち込むことが可能です」(ミムラ氏)

W杯イヤー開幕! 9ヵ月後に活躍する森保ジャパン戦士は誰だ!?
昨季はクローザーとしての役割を全うし、チームのプレミアリーグ優勝に貢献した遠藤

昨季はクローザーとしての役割を全うし、チームのプレミアリーグ優勝に貢献した遠藤

キャプテンの遠藤 航に関してはリバプールでの出場時間の短さを懸念する声もある。

「昨季の出場時間はシュトゥットガルト時代の10%ほど。90分プレーするゲーム体力の維持が課題になります。そのことは遠藤本人もわかっているからこそ、今季開幕前のオフを早めに切り上げ、これまで以上のトレーニングを積んだようです」

レオザ氏は、「名門リバプールの控え」という特殊性を考慮すべきと語る。

「プレミアリーグでも欧州チャンピオンズリーグ(CL)でもタイトル争いをするクラブの控えは、ただの控えではない。遠藤は今の代表で最も欠くことのできない選手です」(レオザ氏)

ほかの主力では、鎌田大地(クリスタル・パレス)、南野拓実(モナコ)らも残留を選択した。

「南野は移籍直後だった前回のカタールW杯では、クラブでの出場機会減少が響き、数字は残せませんでした。

その点、今大会はすごくいい状態で臨めるはず。この夏のモナコは積極補強をしましたが、その中でキャプテンマークを巻くこともあるなど信頼も厚いです。

鎌田も昨季終盤にチーム内序列を一気に上げたことで、今季は開幕からいい状況で過ごせています」(ミムラ氏)

リーズのプレミアリーグ昇格に貢献した田中 碧もクラブにとって欠かせない存在だ。

「田中は必要な場所に顔を出しながらボールを的確に散らすことができる。田中がいないとビルドアップのクオリティが2段階は下がります。開幕早々のケガは、本人はもちろん、チームにとっても大きな痛手です」(レオザ氏)

プレミアリーグの複数クラブからオファーがあったと報じられたGKの鈴木彩艶も、イタリア・セリエAのパルマ残留を決断した。

「GKは途中でレギュラーポジションをつかむのが難しく、移籍して出場機会を失えば、1シーズン丸々チャンスがないことも。残留は賢明な判断です」(ミムラ氏)

■「移籍組」は新天地で何をつかむのか?

一方、移籍を選んだ選手たちにも、新天地で好スタートを切ったケースは多い。

「移籍組で一番いいのはドイツ・ブンデスリーガのザンクトパウリに移籍した藤田譲瑠チマです。移籍金はクラブ史上最高額の350万ユーロ(約6億円)という期待の高さどおり、守備では求められるプレーを的確にこなしており、攻撃でもさらに良さを出せるはず。まだまだ伸びしろだらけです」(ミムラ氏)

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ブンデスリーガ初参戦の藤田。開幕からスタメンに定着し、すでに攻守で存在感を発揮している

ブンデスリーガ初参戦の藤田。開幕からスタメンに定着し、すでに攻守で存在感を発揮している

堂安 律は同一リーグのフランクフルトに移籍した。

「コーナーキックを任され、前線の選手で最も長くプレータイムを得ている点も含め、監督からの期待は大きい。

加入後公式戦3試合4ゴール(8月30日時点)という結果も含め、いい移籍をしました」

W杯イヤー開幕! 9ヵ月後に活躍する森保ジャパン戦士は誰だ!?
今季からフランクフルトに移籍した堂安。公式戦3試合で4ゴール1アシストと大爆発

今季からフランクフルトに移籍した堂安。公式戦3試合で4ゴール1アシストと大爆発

伊東純也はフランスリーグから、ベルギーリーグの古巣ゲンクに移籍した。

「年齢的にまったく新しい環境で何か爆発的な伸びを期待するよりも、現状を維持しつつ、新しい気づきの中でいかに成長できるかを考える必要がある。いいキャリアの選択をしていますね」(レオザ氏)

このオフは守備的選手の移籍も多かった。今やディフェンスリーダーの板倉 滉(アヤックス)もそのひとりだ。

「板倉はCL初出場ですが、大きな重圧の中でのプレーはさらなる成長につながるはず。板倉以外でもCLを経験する選手が増えた点は、日本代表が世界と戦う上で確実にプラスになります」(ミムラ氏)

渡辺 剛は同じオランダのフェイエノールトを選択した。

「開幕からいいパフォーマンスをしています。確実にステップアップしており、いい環境を選びました」

現状、移籍した決断で明暗が分かれているのは、サイドバックを争う菅原由勢(ブレーメン)と橋岡大樹(スラヴィア・プラハ)だ。

「菅原が移籍したブレーメンはファンの距離は近いのにそれほどプレッシャーもなく、監督が選手を成長させる手腕に定評がある点も魅力です。一方の橋岡はCL出場を見越した移籍だったものの、まだ出番が少ない。今夏の移籍組で最も苦しんでいる選手かもしれません」

菅原が抜けたイングランド2部のサウサンプトンには、トルコリーグにレンタル移籍していた松木玖生が復帰した。

「松木は森保ジャパンのラストピースになりうる存在。守備での強度、攻撃への切り替えなど、試合に対するポジティブな関与率が高い。日韓W杯での稲本潤一さんのような存在になれる選手と期待しています」(レオザ氏)

■「秋の強化試合」の課題とは?

現在、W杯開催国アメリカを舞台に、メキシコとアメリカとの強化試合に臨んでいる日本代表。まだ本大会での組分けが決まっていないとはいえ、本番に近い環境でプレーできるのは大きな利点だ。

「過酷なアウェー環境、米国内での3時間の時差移動など、本大会のシミュレーションができる貴重な機会です」(ミムラ氏)

ミムラ氏がアウェー環境を重視するのは、2014年のブラジルW杯での苦い記憶があるからだ。

「私が過去に取材したW杯の日本代表戦で最もアウェーの空気を感じたのは、ブラジル大会のコロンビア戦。『この雰囲気は正直厳しい』と試合前から感じました。

逆に、前回カタール大会のドイツ戦は、ドイツサポーターの応援が非常に少なかったことも日本の勝利に影響したはず。メキシコ戦では中南米特有の過激な応援の中でのやりづらさを事前に経験してほしいです」

今回の招集メンバーを見渡すと、DFとボランチでケガ人が目立つ。

「森保監督は、前線では勢いのある選手を抜擢するのに、守備ではなかなか序列を変えない。ただ、ケガ人が多い今の状況は序列を崩す絶好のチャンス。E-1選手権でのアピールが実って選ばれた荒木隼人(広島)らにはぜひ奮起してほしいです」(レオザ氏)

守備陣で誰がアピールするか、という点ではミムラ氏も同意見だ。

「板倉と渡辺が軸になるのは間違いない。

渡辺は個の強さよりも、周囲との連係や統率力を発揮して良さが出るタイプ。GKをはじめ、チームメイトと擦り合わせる機会にしてほしいです」(ミムラ氏)

W杯イヤー開幕! 9ヵ月後に活躍する森保ジャパン戦士は誰だ!?
ブンデスリーガ初年度の昨季、インパクトを残した佐野。今季は欧州のカップ戦にも挑戦する

ブンデスリーガ初年度の昨季、インパクトを残した佐野。今季は欧州のカップ戦にも挑戦する

田中、守田英正(スポルディング)ら経験のある選手をケガで招集できなかったボランチでは、佐野海舟(マインツ)への期待が大きい。

「佐野と遠藤の組み合わせは、ボールを刈り取る能力では世界屈指。このコンビを監督として起用できる森保監督は幸運です」(レオザ氏)

「押し込まれる時間帯が増える本大会も見据え、守備で力を発揮しやすい選手をベースにした組み合わせを試せる絶好の機会です」(ミムラ氏)

その先には、パラグアイ、ブラジルとの南米勢2連戦が10月に控えている。

「アメリカ戦では個の力がどこまで通用するかを試してほしい。逆にメキシコ戦も含め、中南米勢は臨機応変に戦い方を変えてくる相手。

5年前にメキシコと対戦した際は試合途中の相手の修正に対応できず、森保監督も『ここは耐える場面だよ』と訴えるばかり。耐えるのではなく、ピッチの状況を受けていかに修正できるか。自分たちの修正力、対応力を試すいいチャンスと言えます」

■W杯本大会のカギは「デュエル」

強化試合も大切だが、そろそろ本大会に向けて手の内を隠す必要はないのか?

「コーチ陣を取材していても、聞こえてくるのは『まずはチームとしてのベストを目指す』といった声で、手の内を隠そうなんて一切考えていない印象です。ならば、ベストの戦い方を模索し、どんどん厳しい状況を経験してほしいですね」(ミムラ氏)

ただし、レオザ氏はこの点に強く警鐘を鳴らす。

「日本代表はチームとしての原理原則がなく、選手個々のキャラクターで局面、局面に対応しがち。

つまり、相手からすると選手個人を分析すればよく、対策が立てやすい。だからこそ、何を見せて何を隠すかが重要になります。

カタールW杯では、大会直前に鎌田の意見を取り入れて戦い方を変えたことが功を奏しましたが、同じような〝ガチャ的サッカー〟ではなく、自分たちから能動的に変化できるサッカーを目指してほしいです」(レオザ氏)

そのためには、11月以降のマッチメークも鍵を握る。

「ブラジルのような強豪国との試合も大事ですが、むしろ、カタールW杯で敗れたコスタリカのような、日本代表が主導権を握れるものの、崩し切れない相手とのマッチメークをしていきたい。強化試合以外の非公開の練習試合なども重要になります」

そんな代表チームでキーマンとなるのは誰なのか?

「堂安、佐野、藤田の『デュエル3人衆』です。今大会はカナダ以外、灼熱のアメリカ、高地のメキシコという厳しい環境での試合が多くなる。となれば、デュエルで勝ち切れるか、球際で戦えるか、という点が重要です。

ブンデスリーガで主軸として戦う堂安、佐野、藤田らは1対1で戦う意識が高い。実際、堂安は開幕戦でのデュエル勝利数がリーグ1位に。最終的には佐野、藤田にもリーグトップ5に入ってもらうほどの活躍を期待したいです」(ミムラ氏)

日本が誇るデュエル王といえば、遠藤もいる。レオザ氏はその遠藤を今大会のキーマンに挙げる。

「今の代表の不安材料は、本来守備のリーダーであるべき冨安健洋(無所属)の不在。

もしケガの回復が間に合わない場合、遠藤のセンターバック起用は本気で考えたい選択肢です」(レオザ氏)

リバプールでも試合終盤に〝クローザー〟としてセンターバックで起用されて活躍するケースは多い。

「遠藤はメンタリティが桁違いです。仕事ができる男は肝の据わり方が違う。空中戦にも強いですし、誰よりもチームを鼓舞できます。監督が叱るよりも、一緒に汗をかく主将が叱るほうが効果はありますから」

〝史上最強〟との呼び声も高い森保ジャパンは、どのような準備をしてW杯本番を迎えるのか? 大いなる結果を期待したい。

取材・文/オグマナオト 写真/時事通信社 アフロ

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