10月4日に投開票が行なわれる自民党総裁選。5人の候補者はそれぞれ自身の政策や新総裁当選への意気込みを語っているが......どの陣営にも予定調和感が漂う。

7月の参院選に大敗し、国会内で劣勢に立つ自民党がバラバラになれば党勢はさらに弱くなる。ゆえにカドが立つことは言えない。そう恐れているのだ。ひよひよな空気の自民党内に渦巻く勢力争いの現状を追った!

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■丸くなった小泉&高市。それぞれの思惑

「総花的で当たり障りのない議論ばかりです。5人ともすっかり〝丸く〟なってしまい、演説会での論戦も本当に退屈なものでした」(自民党関係者)

自民党総裁選がどうにも盛り上がらない。ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう言う。

「5候補の論戦で、よく出てくるワードがあります。それは党内で、あるいは野党と『協議したい』というセリフ。

政策を訴えるよりも、まずは総理総裁になりたい。そのためには党内分裂につながったり、野党との連立交渉の障害になるようなトガった政策は封印し、広い支持を集める必要がある。そんな候補たちの思惑が『協議』というワードに表れているんです」

丸くなった代表格が小泉進次郎農林水産相と高市早苗元総務相のふたりだ。

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前回の総裁選では「雇用規制改革」や「選択的夫婦別姓」の導入など、物議を醸す政策の実現に意欲を燃やした小泉進次郎氏だったが......

まずは小泉氏。昨年の総裁選で主要公約に掲げた選択的夫婦別姓導入について、こんな言い回しであっさりと封印してしまった。

「何に政治のエネルギーを使ってゆくべきか、優先順位は大事だ」(9月24日、日本記者クラブ主催の公開討論会)

党内は夫婦別姓賛成派、反対派で割れている。導入にこだわれば反対派の支持を失い、総裁選で敗退するリスクが増すと考えているのだろう。 

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高市早苗氏は、首相就任の際の早期解散を否定。経済成長や物価高対策を最優先の課題に述べるなど、今のところ穏当な発言が続いている

高市早苗氏は、首相就任の際の早期解散を否定。経済成長や物価高対策を最優先の課題に述べるなど、今のところ穏当な発言が続いている

高市氏も似たり寄ったりだ。

高市氏の党内ポジションは強硬保守で、その象徴が終戦記念日の靖国神社参拝だった。昨年の総裁選でも「首相になっても靖国参拝は続ける」と力んでいた。

ところが、今回はなぜかトーンダウン。メディアから今後の参拝の可能性を問われると「国策に殉じられた方のご慰霊のあり方、平和の祈念のあり方は、しっかり考えていかないといけない」(9月19日、出馬会見)と真正面からの回答は避けた。

ついでに言えば、高市氏は同じ会見で、「私の立ち位置は穏健保守」と、自らポジションの〝修正〟も宣言している。

首相が靖国参拝するとなれば、中国、韓国が反発し、外交問題化は必至だろう。

そのため党内からは、高市氏に慎重な対応を求める声がくすぶっていた。全国紙の政治部デスクがこう解説する。

「昨年の総裁選決選投票で石破首相の得票数は議員189、地方26の計215票だった。小泉氏、高市氏が賛否の分かれる政策を封印し、あえて最大公約数的な政策を打ち出しているのは、この大量の石破票を取り込みたいからなんです。

特に高市氏は切実で、高市支持の中心だった旧安倍派議員が大量に落選し、ピーク時の100人前後から50人ほどに激減している。かつて高市氏を熱く支持していた強硬な保守派の自民党員も今や参政党や保守党にかなり流出しました。穏健保守に手を伸ばさないと、小泉氏には太刀打ちできないという危機感があるんです」

■林 芳正官房長官が急浮上している理由

残り3候補の戦いぶりにも穏健保守層に軸足を置き、幅広い支持を得たいという思惑がにじむ。

多くの党員が共感する「世代交代」をキーワードに、支持拡大を狙うのが茂木敏充前幹事長と小林鷹之元経済安全保障担当相だ。ただし、そのベクトルは違う。茂木氏は世代交代の〝仲介者〟、そして小林氏は〝当事者〟として、というものだ。

茂木氏は5候補中、最高齢の69歳。新首相としては年を取りすぎている。そのハンディを意識したのか、総裁選では「次のバトンを次世代に渡す。

目標は(次期総裁の任期となる)2年」(9月10日、出馬会見)と強調している。

「このセリフは『私のすべてをこの国にささげる』というフレーズに続いて飛び出たもの。次世代の捨て石覚悟で、2年間のワンポイントリリーフを務めるというアピールはそれなりに好評でしたが、いかんせん、党内の支持率が4~5%と伸びる気配がない。手詰まりという印象です」(前出・全国紙政治部デスク)

一方の小林氏は「自らの当選こそが世代交代そのもの」という位置づけだ。

「自民党を再起動させる。原動力になるのは若い力。世代交代が必要だ」(9月16日、出馬会見)

ただ、この世代交代アピールには別の含意があるという指摘もある。自民党国会議員秘書がこうささやく。

「若手ホープといわれた小林氏も50歳になり、若さでは44歳の小泉氏と比べると見劣りする。それでも世代交代の旗手としてのアピールに熱心なのは、自陣営が当選5回以下の若手中心なのに比べ、小泉陣営は長老やベテランの議員が目立っているということを伝える狙いがあるのでは? 

小泉氏はいくら若くても長老議員らの神輿に過ぎない。その点、自分は正真正銘、若手世代の代表だ。選ぶなら進次郎じゃなくオレだ! そう問わず語りに主張しているように見えます」

最後の5人目、林 芳正官房長官はどうか? 実は今、林支持が広がっている。

総裁選直前の票読みリストなるものが、自民党内に出回っており、それによると、林氏が議員票で高市氏を抜いて、小泉氏に続く2位に浮上しているのだ。

その票数は小泉110~120票、高市40~50票、そして林60~70票というもの。党員票次第では小泉、林両候補による決選投票になってもおかしくない票数だ。浮上の理由を前出の自民秘書が説明する。

「林氏の実務能力はピカイチです。どんなポストでもそつなくこなしてしまう。ただ、地味で知名度に欠け、支持がイマイチだった。

それが今回の総裁選で5人がみんな丸くなって、穏健保守を自称するようになって変わった。支持欲しさに持論を封印する小泉氏や高市氏にはどうしても票目当てのあざとさがつきまとう。

その点、林氏は根っからの穏健保守なので総裁選での主張に作為が感じられない。ならば当面の自民のかじ取りは林氏でいいのでは、という声が大きくなっているんです」

■皮肉屋・麻生太郎

候補者5人が穏健保守ポジション横並びで、これといった熱量も感じられないとなると、総裁選のキーパーソンとしてクローズアップされるのが菅 義偉氏、岸田文雄氏、麻生太郎氏のキングメーカー(トップの選出やその退陣について大きな影響力を持つ人)の存在だ。この3人の首相経験者の動向次第で総裁選の勝敗は大きく動く。

3人のポジションをひと言で表現するなら、

●菅→黙って進次郎推し。

●岸田→小泉か林なら、どっちでもオーケー。

●麻生→キャスチングボートを握りたい(政治用語。ふたつの大きな勢力が拮抗しているとき、それ以外の勢力がいずれかの陣営につくことで、政局の動向を左右する状況になった場合、その勢力は「キャスチングボートを握っている」といわれる)。

といったところ。

菅元首相の動きについて、前出の鈴木氏が言う。

「菅氏は表に出ず、バックヤードから進次郎氏を首相にすべく動いているという感じ。加藤勝信財務相が小泉選対の本部長に就任したのも、菅氏が仕掛けたことです。菅政権で官房長官を務めるなど、加藤氏にとって菅氏は政界の〝師匠〟。菅氏の意向とあれば、断れません」

小泉出陣式には加藤効果もあってか、代理出席を含めて92人の国会議員が集結したという。小泉総裁誕生となれば、菅氏はキングメーカーの座を盤石とするはずだ。

では岸田前首相はどうか?

「岸田派は小泉、林両候補を推している。

つまり、岸田氏は小泉、林のどちらが総理総裁になっても安泰ということ。総裁選の推移を静かに見守っている状態です」(前出・政治部デスク)

興味深いのは麻生氏の動向だ。麻生氏は総裁選出馬の報告に来た小泉氏にこう話したという。

「俺だったら、おまえの年で火中の栗は拾わねえな」

激励とも皮肉とも取れる物言いだ。

「麻生氏は応援したいときでも皮肉な物言いになりがちな人。このセリフの真意はシンプルに『ガンバレ』と解釈するのが妥当だと思います。

なお麻生氏は、昨年の総裁選で全面支援した高市氏には『明るく元気にやれ』と声をかけただけ。なんだか淡泊な物言いに、今回は高市氏との距離を感じさせるとの声もあります」(政治部デスク)

ただ、麻生元首相が自派閥43人の議員に、「総裁選は小泉支持」の号令をかけた様子は今のところない。

「麻生派は自前の総裁候補がいない。だから、党主流派になるためには勝ち馬を見極め、決選投票で派閥票をオールインするしかない。それもできれば、『麻生派の票が乗ったおかげで当選が確実になった』という形にしたい。つまり、麻生氏の狙いはキャスチングボートを握ること。

小泉氏への皮肉っぽいガンバレ発言は今のところ、『おまえが先頭だ。このままゴールしそうなら、麻生派票を乗せて勝ちを確実にしてやる』というエールだったと解するべきでしょう」(政治部デスク)

5人の候補と3人のキングメーカーの思惑が複雑に交錯する熱狂なき自民総裁選はどんな結末になるのか。

写真/共同通信社

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