ホワイトハウスのXから
"トランプ自動車関税"の通信簿が、今、突きつけられる――。ネット上で"ピストン赤澤"と呼ばれる赤澤亮正経済再生担当大臣が、トランプ政権との交渉で差し出したのは、国家予算級の「5500億ドル=約80兆円」。
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石破茂首相の退陣表明を受け、日米間のいわゆる"トランプ関税交渉"が再び脚光を浴びている。交渉の焦点は、日本経済の屋台骨である自動車産業。まさに国の命運を左右するテーマだ。その最前線に立ち、キーマンとして注目を集めたのが、経済再生担当大臣・赤澤亮正氏である。
赤澤氏はこれまで10度にわたり訪米を重ね、その精力的な姿勢からネット上では"ピストン赤澤"の異名を取る。自身のSNSでは、米国のラトニック商務長官を「ラトちゃん」、ベッセント財務長官を「ベッちゃん」と呼ぶなど、異例の"フレンドリー外交"を展開。2025年4月のワシントンでの交渉後には、「私は格下も格下ですので、大統領に会っていただいたことに感謝している」と発言し、野党や一部メディアから「国益を損なう卑屈な姿勢」との批判を浴びた。

赤澤亮正経済再生担当大臣のXから
さらに、トランプ大統領から「MAGA帽子」を渡され、笑顔で披露した姿も物議を醸した。赤澤氏は9月の記者会見で「この発言は交渉戦術の一環だった」と釈明。
だが、その評価は割れている。
自動車ジャーナリストの桃田健史氏は、一定の評価をしつつも、冷静な視点を崩さない。
「粘り強さは高く評価できます。ただし、それは赤澤大臣というより、懸命に実務にあたった事務方に対してです。米側が"10回目の交渉"とユーモアを交えて強調したのが印象的でしたが、アメリカ側が折れたというよりは、農産物関連の日本向け輸入や約80兆円投資など、さまざまな案件の合わせ技を日本側がのまされた印象です」
自動車評論家の国沢光宏氏も、赤澤氏の交渉力には厳しい評価を下す。
「悪い人ではないと思います。会えばきっといい人でしょう。人柄は80点、ただし交渉に関しては10点じゃないですか」
赤澤氏の交渉スタイルについても、国沢氏は辛口だ。
「感情の起伏が激しく、ポーカーフェイスとは真逆。交渉が順調なときは饒舌になるが、そうでないときは沈黙。
何より国沢氏が懸念するのは、日本から米国への約80兆円規模の投資だ。
「80兆円というのは国家予算に匹敵します。トランプ氏はそれを自由に使えると言っているが、赤澤氏は"日本のために使う"と説明している。すでに齟齬があります。アメリカメディアと意見交換しましたが、やはりトランプ氏がすべてを決めており、ラトニック商務長官やベッセント財務長官は進言できる立場ではない。いざ80兆円の使い道で対立したとき、日本政府はその溝をしっかり埋められるかが問われますよね」
一方、桃田氏は関税引き下げの"数字の裏"に注目している。
「今回の合意では、追加関税を含めて15%。それまでの交渉では、既存の2.5%に25%を加えた27.5%だったので、ざっくり半減した計算です。ただし、現行の2.5%と比べれば6倍。材料費が高騰する中、原価低減は難しいチャレンジになる。特に部品メーカーは、二次下請け以下では経営の重荷になるのは確実です」

赤澤亮正経済再生担当大臣のXから
交渉の成果として語られる関税緩和。
いずれにせよ、トランプ氏が署名した大統領令により、日本車への関税は27.5%から15%へ引き下げられる見通しで、赤澤氏は「9月16日までに正式発効する」と自信を見せるが、桃田氏はその裏にある"代償"に注目する。
「自動車関税15%と引き換えにディールした約80兆円のアメリカへの投資が最大の課題。米側は製造業で雇用を創出する狙いだとしているが、半導体やSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)関連の投資も十分あり得る。継続的に数兆円規模の投資が可能な業界は自動車産業が筆頭。カナダやメキシコに拠点を持つ日系メーカーにとっても、今後の米国輸出の行方は重要なポイントです」
最後に国沢氏は、交渉の"その後"に強い懸念を示す。
「日本の自動車メーカーからは、米国に工場を作る話など、国から何も聞いていないという声もあります。つまり、まだ何も始まっていないんです。相手はトランプ氏ですから、ちゃぶ台をひっくり返される可能性もゼロではない。決して楽観できる状況ではない」
交渉は一区切りを迎えたように見えるが、実際には"スタートラインに立っただけ"という声は多い。80兆円という巨額の投資が、日本の国益にかなうものとなるのか──赤澤大臣の真価が問われるのは、むしろこれからだ。