100日足らずで解散した高市首相。生活防衛と成長戦略の両立を図る「責任ある積極財政」を掲げたが国民はその効果を実感できていない
わずか94日――。
そこで、ついに伝家の宝刀「消費税の時限減税」を抜くも、国民にとっては「痛み止め」にしかならない可能性も。では本当に国民のための政策はなんなのか?
* * *
【「責任ある積極財政」ってなんのこと?】朝日新聞が1月17、18日に実施した全国世論調査では「高市政権の物価高に対する対応」について「評価する」は39%で、前回、昨年12月調査の46%から大きく低下した。一方で「評価しない」は前回の40%から今回は47%に上昇。現行の経済・財政政策に対する国民の懸念がにじみ出る結果となった。
こうした世論を受け、立憲民主党と公明党が立ち上げた中道改革連合は22日、「今秋からの恒久的な食料品の消費税ゼロ」を盛り込んだ公約を掲げ、困窮する低中所得層の取り込みを仕掛け始めた。
まずそもそも「積極財政」とは何か。
東京経済大学経済学部教授の佐藤一光氏は、政府による財政政策の4つの立場について「まず税と歳出のふたつの軸で考えるとわかりやすい」と説明する。
「例えば、安倍晋三政権時代は消費税を大幅に引き上げながら、子育て支援充実などで歳出を増やした。これはどちらかというと政府が所得格差を是正しようと市場などに介入する『大きな政府』に相当します。
対して、民間による自由競争を促し、経済成長を目指す『小さな政府』は日本維新の会や小泉純一郎政権などが掲げた、減税と歳出削減を組み合わせた財政手法です。
一方、別の軸で、景気が悪いときに歳出を増やしたり、減税(=歳入減)をしたりすることを『積極財政』、逆に景気が良くなったら増税(=歳入増)し、歳出削減をするのが『財政再建』です」
その上で佐藤氏は、高市政権の掲げる積極財政を「高圧経済論と現代サプライサイド経済学の組み合わせ」だと語る。
高圧経済論とは積極的な財政出動を組み合わせ、「経済を適度な過熱状態に維持する」ためにインフレや低失業率を許容する方策だ。
「一般的にはインフレ=景気が良いとされるので『財政再建をしよう』となる。しかし、高圧経済の考え方では少し景気が良くなっても財政再建モードに入りません。
例えば今、物価が上昇しているのが食料品ですが、価格が高いなら食料品の増産への投資が進み、長期的に生産力向上を見込めるという考え方です。
現在の足元のインフレ率は2~3%で、経済学的には許容範囲のはず。ところが、いざインフレになってみると国民から批判が殺到し、政府が慌てている状況です」
立憲民主党と公明党が立ち上げた中道改革連合も「給付付き税額控除の創設」を公約に盛り込む
一方、現代サプライサイド経済学的なアプローチに相当するのが、高市首相の掲げる「成長戦略投資」だ。
AIや半導体、エネルギー安全保障の整備といった技術や人的資本に、中長期的な視野で国家レベルの公共投資を行ない、供給力を底上げするというものだ。
「こうした分野は国家が数兆円規模の投資をすることで最大の効果が出る。ただし、投資先には『自然独占』が発生するので、国家がガバナンスを効かせる必要があります」
自然独占の具体例としては送電網がある。電力自由化で新電力会社が林立しても、送電線と配電網の維持は旧地域電力会社が独占している。
新規参入した各社が電柱や電線を新設するのは割に合わないから、旧電各社が国策として張り巡らせた既存の送電網をみんなで使えば、コストも抑えられるし、不採算な過疎地の送電網も政府の指導により維持できるというわけだ。
「生産力や供給力を底上げする」ことを目指し、このふたつを組み合わせたものが、高市首相が掲げる「責任ある積極財政」なのだという。
とはいえ、国家レベルの成長戦略投資が実を結ぶかどうか判明するのは数年後。また、高圧経済論にしてもインフレを放置しているように見えるため、 国民が望む「今効く政策」ではないのが実情だ。
【自維連立で迷走する「物価高対策」】だが、生活防衛策として政権が打ち出した実際の財政プランは場当たり的なものが目立つ。
例えば、ガソリン税の暫定税率廃止(1L当たり約25円の減税)や電気・ガス代補助(冬期限定で政府が電力・ガス会社を補助。3ヵ月で1世帯当たり7000円程度)、重点支援地方交付金、中小事業者支援などだ。
いわゆる「年収の壁対策」と、総選挙の公約として打ち出した「2年限定で食料品を消費税の対象から除外すること」も、付け焼き刃的な施策だと佐藤氏は言う。
「ガソリンの暫定税率の廃止は維新、年収の壁対策は国民民主党との合意の中でやらざるをえない方向に追い込まれたものです。減税ではあるものの、これは『積極財政』というより『小さな政府』に近い。供給力がアップする仕組みになっていないからです」
また、食料品の消費税減税の時限的実施に関しても佐藤氏はこう分析する。
「足元の痛み止めに過ぎず、治療ではありません。
衆院選の公約を発表した日本維新の会・藤田文武共同代表。連立する自民党の「責任ある積極財政」を支持し、一時的な消費税減税を容認しつつ、維新の財政スタンスを「責任ある歳出改革」と説明した
自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」で講師を務めた駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏も、ガソリン暫定税率廃止と電気・ガス代の補助について疑問を呈する。
「電気・ガス事業者への補助金はこれまで何回もやってきました。事業者への補助金ではなく、国民に直接給付で対処するほうが望ましい」
加えて井上氏は、重点支援地方交付金にも懸念を示す。
「政府は食料品などの物価高対策として自治体向けに2兆円を計上。推奨支援メニューの例として『おこめ券』や『地域クーポン』の配布を挙げましたが、これが一番問題。
米が値上がりしたとき、普段パンを食べているような人までお米を買ってしまい、米の需要の上昇も招きかねません」
【給付付き税額控除の破壊力は?】では、「国民に最も効きそうなプラン」は何か。それが高市政権発足時にも注目を集めた「所得税・住民税の定額減税(給付付き税額控除)」だ。
これは所得税から一定額を控除(減税)し、控除しきれない金額(税額が少ない・非課税の場合)は現金で給付する仕組みのこと。
佐藤氏も井上氏も、この給付付き税額控除について「最も国民に効く」と太鼓判を押す。
「財政は配ることと取ることの組み合わせ。それが拡大すればするほど機能が強化されていきます。課題は高所得層には増税になるので合意が図れるかどうかです。
財源としては複雑な構造になっている所得控除などを整理統合していくと、おおよそ30兆~40兆円ぐらいの財源が捻出できるでしょう。イギリスは、各控除を整理統合し給付に替える『ユニバーサルクレジット』を実施し、効果が出ています」(佐藤氏)
イギリスの同制度では、求職者手当、住宅給付、就労税額控除、児童税額控除、所得補助などをまとめ、18歳以上の低所得者や失業者、低賃金労働者に給付している。
「日本で給付付き税額控除を計算すると、国民1人当たり毎月3万円を配ることができます。段階的な増額も可能でしょう。
ただし、毎年1万円ずつ増額させていったらインフレになるので、配る量を増やし続けるということではない。ある水準まで増やせば、貧困問題は一定程度解消されるし、国民全体の消費の総量も上がる。それを経済の上昇トレンドにしていくのが理想でしょう」
財務省内には赤字国債の圧縮などのため、政府の大規模財政出動に対する忌避感を示す声は根強い
井上氏も次のように語る。
「高市首相の財政政策の中では、物価高対応子育て応援手当(子供1人当たり2万円給付)と給付付き税額控除は良いと思う。もし日本で給付付き税額控除を実施するのであれば、対象を絞るのではなく、全世帯対象のほうが効果は高いと思います」
なお、給付付き税額控除の創設は中道改革連合の公約にも盛り込まれた。時限か恒久かで論争のある消費税減税と違い、与野党双方がこのプランを重視していることになる。
しかし、その制度設計に難色を示すのが、与党内の「小さな政府」支持派だ。
「自民、維新の一部に異論があるようです。維新の個別政策集では『連立合意事項』として給付付き税額控除に触れていますが、『コア・マニフェスト』では明示していません。
また高市首相が消費税減税を公約に入れたことなどから、国内債券市場で超長期債の利回りが急上昇し、財務省の一部からも懸念の声が上がったとか。
現金給付は大規模財政出動のイメージを広げかねない。首相肝いりのプランでも、選挙で打ち出すのは難しいのではないでしょうか」(全国紙経済部記者)
実現すれば、物価高にあえぐ国民の特効薬になるかもしれない給付付き税額控除。この制度が実施される日は来るのだろうか。
写真/時事通信社





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