「ウクライナには世界で最高峰の『肥沃な黒土』が広がっているんです!」と語る藤井一至氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との3回目です。
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ひろゆき(以下、ひろ) ウクライナで戦争が起きたとき、食料危機が叫ばれましたよね。なぜウクライナが戦場になると世界がこれほど困るのか。藤井先生の専門分野である「土」の観点からお聞きしたいんです。
藤井一至(以下、藤井) ウクライナには「チェルノーゼム」と呼ばれる、世界で最高峰の肥沃な黒土が広がっています。ウクライナが「欧州のパンかご」と言われるほど圧倒的な農業生産力を誇っているのは、この土があるからなんですよ。
ひろ 素朴な疑問なんですけど、その肥沃な土を大量に掘り出して、世界中に輸出するってことはできないんですか?
藤井 実はそれ、実際にやろうとした歴史があるんです。諸説ありますが、ナチスドイツの時代にヒトラーがウクライナの土を鉄道でドイツに運ばせようとしたエピソードが残っています。また、2015年頃にも「グローバルランドラッシュ」といって、ビジネスマンが畑を買いあさったり、土そのものを持ち出して商売しようとする動きが世界規模で起きました。そのため、ウクライナはそれを禁止する政策を取りました。
ひろ 禁止しなきゃいけないほど、みんなが欲しがっていた。でも実際にウクライナの土を持っていった先でも、黒土の肥沃さはそのまま維持されるものなんですか?
藤井 それが、維持されないんです。例えばウクライナの土をそのまま日本に持ってきたとしましょう。最初はよくても、日本は雨が多いから土の中のカルシウムがどんどん流れ出てしまうんです。一方のウクライナは乾燥しているから、カルシウムが土の中にずっと残っている。日本でホウレンソウを育てようと思ったら石灰をまかないといけないのはそれが理由です。日本の黒い土とウクライナの黒い土は、見た目は似ていてもカルシウムの含有量が全然違うんですよ。
ひろ じゃあ、わざわざ重たい土を運んでくるより、最初から日本の土に石灰をまいたほうがコスト的には圧倒的に安いですね。
藤井 はい。チェルノーゼムの本当の価値は、土そのものの成分だけでなく、ウクライナという乾燥した気候・環境とセットになって初めて成立するものなんです。だから土を動かすより、その土地で農産物を生産するほうがずっと現実的で、今の世界の農業はそういう方向で動いています。
ひろ つまり、肥沃な土がある場所を手に入れるしかないということですね。
藤井 そうです。そして世界で肥沃な土がある地域は、ウクライナのチェルノーゼム地域、北米のプレーリー地域、南米のパンパ地域、インドと中国の一部地域で、全部合わせても地球の陸地面積の11%しかありません。このわずか11%で世界人口の約8割、60億人分の食料を作っているんです。
ひろ それは偏りすぎですね。
藤井 だから食料危機の本質というのは、単純に食料が足りないということではなくて、「肥沃な土が極端に偏在している」ことにある。そして、この中でもウクライナの土が特別なのは、「そのままで作物を作りやすい」からです。少し肥料をやって品種改良した種をまけば高い生産性が出る。自分の国で土壌改良をゼロからやり直すよりも楽で効率がいい。だから世界中がここに頼る。結果として、ウクライナで農業ができなくなると、世界中で食べるものがなくなりパニックになるんです。
ひろ では、チェルノーゼム地域をもっと農地にすれば食料問題は解決するんじゃないですか。
藤井 そこに致命的な弱点があるんです。
ひろ そんな最近なんですか。
藤井 カナダもアメリカもそうです。第1次世界大戦でヨーロッパの小麦が足りなくなったときに、アメリカの大草原を全部畑に変えてトウモロコシや小麦を作れば稼げると気づいた。それが今に至るアメリカの豊かさの源泉ですが、まだ100年ちょっとしかたっていない。それまでは水がないただの大草原だったんです。
ひろ 万里の長城の外側にも黒土地帯が広がっているって聞いたことがあるんですけど、秦の始皇帝はなんでそこまで守らなかったんですかね。あっちのほうが肥沃だったはずなのに。
藤井 やっぱり水がなかったからです。万里の長城の多くは、黄土高原と黒土地帯の境界線にできているんです。
ひろ ということは、気候が変わると今まで使えなかった土地が突然、最強の農地になることもありえるんじゃないですか。
藤井 まさにそれが今起きていて、地球温暖化によってロシアでは農業ができるエリアが北に向かってどんどん広がっているんです。ロシアの食料生産がさらに増加する可能性もあります。
ひろ 温暖化のせいで凍っていた土が解けて農業に使えるようになっていると。温暖化が続く限りロシアは戦争を続ける体力があるということですか。
藤井 そうかもしれません。日本にいると地球温暖化は海水面の上昇、干魃(かんばつ)の増加という悪いイメージですよね。でもシベリアの永久凍土からマンモスが出てくると、現地の人たちは「高級ハンコになるマンモスの角が高値で売れるから大きなビジネスになる」と喜んでいるかもしれない。農業も「昔よりジャガイモがよく育ってうれしい」と。もっと生活に根ざした感覚を持っていると思います。
ひろ もともとマイナス数十℃になる村で暮らしていた人たちからすれば、暖かくなって作物が育つようになるんだから、「温暖化ウエルカム」ですよね。温暖化が進めば進むほど、ロシアの農業ポテンシャルは上がり続ける。チェルノーゼムが「100年前まで水がなくて使えなかった」ように、今は使えない土地でも将来の最強農地になるかもしれない。
藤井 そうなんです。土の価値の地図は技術と気候によって変わり続けます。だからこそ今の肥沃な農地だけでなく、将来農地になりえる土地も含めて考える必要があります。
ひろ エネルギーと同じで、食料も国家の存亡に直結するから、みんな必死になる。でも、肥沃な土を自国に運んでも環境が異なるから生産性は上がらない。だから、その土地を奪うか、囲い込むしかない。
藤井 まさにそういうことです。食料危機の本質は「肥沃な土が極端に偏在している」ことと「それを巡る争奪戦」にある。土で世界を見ると、少し違った視点になります。
ひろ 土の話が、まさか世界の戦争や地政学のど真ん中の話につながるとは思いませんでした。まったく想像していなかったので、めちゃくちゃ面白かったです。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
■藤井一至(Kazumichi FUJII)
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾
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