部下を指導、育成する立場になったとき、誰もが頭を抱えるのが、「アメとムチの使い分け」や「叱り方」といった、立場が下の人対して「厳しいこと」をいかに言うか、といったことだ。

ハラスメントと言われるのを恐れるあまり、部下に言うべきことを言えないのは、「優しい上司」ではなく、単に「部下に迎合している上司」である。

誠実な指導者ほど葛藤を抱える今の時代、どのように指導すればいいのか。

◾️五度の日本一を成し遂げたプロ野球の名将の指導論とは

『活の入れ方』(工藤公康、九重龍二、藤平信一著、幻冬舎刊)では、元プロ野球選手、福岡ソフトバンクホークスの監督としては5度の日本一に導いた工藤公康氏、元大関の千代大海の九重龍二氏、心身統一合氣道会会長の藤平信一氏が、人材育成の指導論を語り合う。

工藤氏は情報が溢れる社会で、選手が貪欲になりくい環境下でも、選手を鍛えて勝つ集団をつくってきた。なぜ、そんなことが可能だったのか。選手は自分が良くなりたいし、使ってもらいたい、チームに必要な存在でありたいと思っている。なので、それを前提にして「私は君がチームに必要な存在だと思っている。

君は〇〇な能力があるんだから。もっとこういうところを高めてみたら」と、一人一人と話す。そのうえで、「君はどう思う?」「今、どんなことで悩んでいる?」と聞くことも大事にしているという。

「あれをしちゃダメ」「こうしちゃダメ」と強制すると、メンタルが落ち込んでしまう。「頑張れ」と励ましても負担に思われる。なので、本人が自分で「〇〇したい」と言うように仕向けるしかない。

しかも「ちゃんと気にかけているよ」「必要としているよ」ということも、さりげなく伝えて、モチベーションを高める。一人の選手に対して、3段階、4段階でフォローする。今の若者は聞いてほしいタイプが多いので、会話とフォローを大事にしていると工藤氏は述べる。

また、近年「選手ファースト」という言葉をよく聞くようになった。選手ファーストだからと、言うべきことも言わずにいる指導者は、選手ファーストではなく、指導者の責任放棄と言える。工藤氏は「選手をよく見る」ことで、選手ファーストを徹底している。

しかるべき状況で、正しく導けるように、まずは余計な先入観や既成概念を捨て、選手を観察し、あるがままを見る。選手が自分で考え、行動する様子をしっかりと観察し、何かあれば手を差し伸べる。これがあるべき選手ファーストなのだ。

リーダーとして多くの人材を育ててきた3人の指導論は、部下指導に悩むリーダーに多くのヒントを与えてくれるはずだ。

(T・N/新刊JP編集部)