「いや、本当に苦しかったですね」。取材エリアに顔を出した大岩剛監督の開口一番の言葉が、決勝の試合内容を象徴していたかもしれない。


 結果は1-0での勝利。AFC U23アジアカップ決勝で日本はウズベキスタンを下してアジア王者に輝いた。ただ、前半からウズベキスタンに圧倒される展開となるなど、試合内容は厳しいものだった。グループステージから続いた戦いが、「アジア予選っぽい」試合だったのに対し、予選突破が決まった直後に迎えたこの試合の様相は大きく異なっていた。

「(ウズベキスタンは)今までの相手と全く違うサッカーをしてきて、本当に難しくなった理由かな、と」(MF藤田譲瑠チマ)

 日本を相手に引いて守りを固めるのではなく、タフに前から圧力をかけ、戦術的意図のある攻撃からゴールを狙う。「日本と似たところがあると思っていた」というのは試合前、試合後ともに選手・監督から聞かれた言葉だが、攻守の「似たような狙い」で上回られる展開だった。


 もちろん、サッカーではそうした思うようにいかない流れで勝ち切れるのも実力のうち。我慢の展開から戦い方を修正し、体力面で優位に立った終盤は日本がペースを掴み、交代出場のMF山田楓喜の“黄金の左”で勝ち切ってみせた。

「不恰好かもしれないですけど、決勝戦はこういうもんですから。自分も鹿島の時にこういう経験をしていますけれど、決勝戦の方がうまくいかないということがたくさんある」(大岩監督)

 ネガティブな試合内容に折れることなく、要所を締めて失点を許さず、終盤の攻勢に繋げられた。藤田が「チームとしてもうまく耐え抜くことができましたし、少ないチャンスを決め切ることもできた」と言うように、この試合に関してはこの流れで勝ち切ったことを誇っていいだろう。ただ、山田のファインゴールや小久保玲央ブライアンのスーパーセーブという個人能力で引き寄せた勝利だったのも一面の事実で、チームとしてはパリ五輪への「宿題」をもらったような試合だったことも確かだ。


 日本のことをリスペクトし、あるいは日本の強さを恐れて守備的な試合を展開してくる「アジア予選っぽい」試合は確かに難しい。ただ、五輪本番のスタンダードはそうした戦いではなく、それこそ決勝のウズベキスタンのように激しく殴りかかってくるチームとの試合が主流になる。

 この決勝の映像は必ず分析されるし、参考にもされるだろう。日本相手にはタフなプレス、マンツーマンでの対応が有効だと思われれば、必ず相手はやって来る。逆に言えば、「ああいった守備に対する自分らの策っていうのも、今後見つけてかなきゃいけない」(MF山本理仁)のも間違いないわけだ。いずれにしても、この決勝の前半のようなフワッとした試合の入り方をして、相手に圧倒される流れになってしまっては五輪本番では勝機もない。
自分たちのやりたいことを明確化して共有しておくのはもちろん重要だが、そうはいかないときの二の矢も必須だろう。

 アジア予選と世界大会の間には明確なギャップがある。カタールW杯へ向かう途中の森保ジャパンも苦しめられたジレンマだが、改めて「アジアを勝ち抜けるためのチーム」から「世界で勝つためのチーム」へブラッシュアップしていく必要があるのは明らかだ。

 とはいえ、五輪本番までに集まれる機会は6月のインターナショナルマッチウィークのみ。ここでオーバーエイジ選手と今回招集できなかった海外組、そしてJリーグを含めた「世界向き」のタレントの滑り込み発掘を行い、五輪本番仕様のチームへ仕上げるほかない。五輪の大会登録選手はわずか18名で、Jリーグの1クラブから選べる選手数も最大3名から2名に減少するという問題もある。
そしてもちろん、海外組について強制的に招集する権限は日本になく、すべてはクラブとの交渉次第。大岩監督は世界で勝つための18名を揃えるため、ここから複雑なパズルに挑むこととなる。

取材・文=川端暁彦